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ヒミズ・・・・・評価額1750円
2012年01月05日 (木) | 編集 |
これが、ポスト3.11のリアル。

「ヒミズ」は、昨年「冷たい熱帯魚」「恋の罪」という、人間のダークサイドを描いたパワフルな2作品で気を吐いた、園子温監督による最新作。
原作は古谷実の同名漫画で、今までオリジナル脚本に拘ってきた園監督にとって、はじめての原作物である。
3.11後の世界で、ごく普通の大人になりたいと願う中学生男女のビターな青春物語からは、前2作の様な過激なセックスと血飛沫は影を潜め、代わりにあるのは時代と正面から向き合った切実な葛藤と、未来への幽かな希望だ。

中学三年生の住田祐一(染谷将太)は、池の畔でボート屋を営む母親(渡辺真起子)と二人暮らし。
彼の夢は、普通の生活をする平凡な大人になることで、子供に無闇に大きな夢を見せようとする大人たちには反発を感じている。
一方、住田を崇拝する茶沢景子(二階堂ふみ)の夢は、愛する人と支え合いながら共に人生を歩む事。
だが、住田の母親が突然愛人と出奔し、更に別れた父親(光石研)が闇金から巨額の借金をしている事が明らかとなり、住田は中学生にして生活を守るために働かざるをえなくなる。
そして父親の理不尽な暴力に耐えかねた住田は、ある事件を起こしてしまうのだが・・・


原作は未読。
だが園子温監督は、「2001年に書かれた原作のスピリットを尊重しつつ、2011年のリアルを描いた」という趣旨の事を語っていたので、映画はあくまでも“今”に立脚した独立した作品という理解で良いのだろう。
冒頭、いきなり津波で破壊された被災地の風景と、その荒涼たる世界で彷徨う登場人物たちが映し出される事に驚く。
何でも、この映画の準備中に東日本大震災が起こり、急遽脚本を大幅にリライトして撮影に挑んだそうである。
3.11を理由として企画の凍結、内容の変更を行った作品は、伝え聞くだけでも何本もあるのだが、本作はそれらの中で実際に作品として結実した最初の一本かもしれない。

タイトルの「ヒミズ」とは、日本列島の固有種である小型モグラの一種。
浅い土中や落ち葉の下に潜み、夜になると餌を探して地上を徘徊する事もあるが、決して太陽の下には出て来ない、文字通りの“日みず”な生き物だ。
誰にも注目されず、気付かれる事すらなく、ひっそりと生きて死んでゆく。
主人公の住田祐一は、そんなヒミズの様に平凡に生きたいと思っている中学生。
だが、本人の意思とは裏腹に、彼には熱心な崇拝者が多数存在する。
その筆頭である同級生の茶沢景子は、祐一の印象的な発言を全て書き出して部屋中に貼り付けているほどの信者で、殆どストーカーの様に彼に付きまとう。
またボート小屋の周辺には、ブルーシートの家に住むホームレスの大人たちが住み着いており、彼らはどうやら震災と津波によって全てを失ってしまった人々の様である。
この大人たちもまた祐一を褒め称え、時に自らを犠牲にしても彼の支えになろうとする。
何故、凡人の宣言をしている祐一が、そんなに持ち上げられるのか。
それは、彼が“普通の日常”がもはや存在しないポスト3.11の世界で、未来への希望を体現する存在だからに他ならない。

丁度震災を挟んで作られた、園子温の前作「恋の罪」と「ヒミズ」は、3.11のビフォアーアフターとして捉えると非常に興味深い。
すっかり映画監督業が板についたが、彼は元々“ジーパンを履いた朔太郎”と呼ばれた詩人であり、その表現は文学的な暗喩性を特徴に持つ。
「恋の罪」は、カフカの「城」をモチーフとしたセクシャルな心理サスペンス。
主人公が、決して入ることの出来ない「城」に翻弄される物語は、キリスト教社会では人間が決して触れられない存在、イコール神の比喩と論じられる事が多いが、日本で作られた「恋の罪」の場合は、むしろ人間存在という掴みどころの無いものの象徴として引用されていた様に思う。
そして「恋の罪」が、閉塞した日常に立脚し、非日常へと堕ちて行く構造を持っているとすれば、荒涼とした被災地の風景にフランソワ・ヴィヨンの詩が響き渡る「ヒミズ」は、もはや日常が存在しない世界から、必死で日常を求める映画と言えるだろう。
どちらの映画でも、物語の最後に主人公が疾走する。
だが「恋の罪」で、水野美紀演じる女刑事がゴミ収集車を追って走ってゆく先が、自らの内面という閉じた非日常なのに対して、本作において祐一と景子が「頑張れ!住田!!」という魂の叫びと共に走り出すのは、未来という開かれた日常に向けてなのである。

地震、津波、そして今も続く原発事故によって、国土が放射能で汚染され、広大なエリアが今後何十年も人の住めない無人地帯となるという現実は、3.11を経験する前であればぶっちゃけSF的与太話であったはずだ。
実は我々は、あの日以来ずっと非日常の世界に生きており、3.11以前の日常はもう何処にも存在しない。
そんな物語の立脚点が崩壊してしまった世界においては、「普通の大人になりたい」という夢とも言えない未来を語るにも、大きな犠牲と葛藤が必要となる。
その事を表現者の覚悟を持って、圧倒的な映画力で観せてくれた本作は、まさしくポスト3.11時代の幕開けに相応しい衝撃的な傑作である。
黙示録の時代を生きる中学生カップルを演じた染谷将太と二階堂ふみは、本作の素晴らしい演技で、ヴェネチア国際映画祭の新人賞にあたるマルチェロ・マストロヤンニ賞をダブル受賞。
彼らもまた、日本の未来であることは間違いない。

今回は被災地の宮城県から一ノ蔵の純米吟醸「蔵の華」をチョイス。
繊細な吟醸香が鼻腔に広がり、まろやかでスッキリとした純米吟醸らしいフルーティな味わいが、新年の華やぐ気分を盛り上げてくれる。
3.11では東北地方の多くの酒蔵もダメージを受けたが、たくましくも復興へ向けて動き出している。
酒飲みとしては、安全性に留意しつつもなるべく東北の酒を呑んで、支援したいと思う。
この国のパンドラの箱は開いてしまったが、希望だけはまだ残っているのだから。

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