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ポエトリー アグネスの詩・・・・・評価額1750円
2012年02月14日 (火) | 編集 |
残酷な現実に彷徨う老女が、最後に辿り着いた「詩」とは。

「グリーンフィッシュ」「ペパーミント・キャンディー」「オアシス」「シークレット・サンシャイン」、そして「ポエトリー アグネスの詩」
42歳の時に遅咲きのデビューを果たして以来、15年間で撮った監督作品は、本作を含めても僅か五本。
しかし、その何もが映画史に燦然と輝く傑作という、正に現代韓国映画を代表する名匠、イ・チャンドン監督の最新作は、慎ましくも人生を楽しんでいた一人の初老の女性が、突如として降りかかった悲劇に葛藤しながらも現実と対峙し、一遍の詩を紡ぎ出す迄の魂の旅路を描く物語。
嘗て300本以上の映画に出演し、数々の映画賞に輝いた大女優、ユン・ジョンヒが16年ぶりにスクリーンに復帰し、素晴らしい演技を見せている。

66歳のミジャ(ユン・ジョンヒ)は、田舎の古いアパートで、孫のチョンウク(イ・デビッド)と二人暮らし。
娘は釜山に出稼ぎ中で、生活保護とパート収入が頼りの生活は苦しいが、それなりに人生を楽しんでいる。
ある日、ミジャは街の文化教室で詩作の教室を受講したことから、詩の題材を探し始める。
ところが、チョンウクと仲良しグループの男子学生たちが、数ヶ月に渡って同級生の女子生徒・アグネスを強姦し続け、彼女を自殺に追い込んだ事を知る。
他の生徒の親たちは、アグネスの母に示談金を払って事件を隠蔽しようとするが、ミジャにはそんな大金の当てはない。
そんな時、ミジャは病院でアルツハイマー病の宣告を受ける・・・


物語の背景となるのは、日本以上のスピードで少子高齢化が進み、学級崩壊が深刻化し、若年層の性暴力事件が社会問題となっている韓国の今
イ・チャンドンは、実際に起こった中学生による集団強姦事件にインスピレーションを得て、本作の脚本を執筆したそうだが、元民主化運動家にして学校の教師として教鞭を振るった経験を持つ、彼自身のキャリアを色濃く感じさせる内容である。

主人公のミジャは、初老の年齢になった今も、可愛らしいものが好きで、見た目もお洒落なおばあさんだが、彼女が直面する現実は過酷だ。
一人娘は遠く釜山に働きに出たまま戻らず、送金も途絶えがち。
生活保護と介護へルパーの僅かな稼ぎで細々と古アパートに暮らし、思春期の孫を育てているが、ある時から物忘れの症状が出始める。
病院で精密検査を勧められた日、たまたま文化教室の詩作コースのポスターを見て、子供の頃に教師から「詩人になれる」と言われた事を思い出し、受講してみる事に。
詩作教室の講師は、ミジャら生徒に語りかける。
「あなたはリンゴを見たことがありあすか?いいえ、あなたたちはリンゴを見たことはありません」と。
ただ漠然と目の前にあるだけでは、そのものの本質を見ている事にはならない。
森羅万象の全ては、伝えようとする声を持っている、その声を聞く事ができて、はじめて心を打つ詩が生まれるというのだ。
ミジャは、美しいものを詩にしたためようと、教室の講師の言葉に習って身の回りの自然を目を凝らして眺めてみるが、実際には何が自分の人生で本当に美しいものなのかわからず、言葉が浮かんで来ない。
ほどなくして彼女は、詩作の美しさとは対極にある、残忍な事件に直面する事になる。
アグネスという女子中学生が、男子生徒から数ヶ月に渡って繰り返し強姦された事を苦に自殺し、その犯行グループの一人が愛する孫のチョンウクだというのだ。
彼女は、リンゴどころか一番身近な家族すら見えていなかったのである。
貧しくも平凡な人生を送ってきたミジャは、余りにも残酷な現実に、最初正面から向き合うことが出来ない。

自分の孫が非道な犯罪を犯したと知っても、問い詰めるでもなく、叱るでもなく、淡々とそれまでの日常を繰り返し、追い打ちをかけるかの様にアルツハイマー病の宣告を受けても、きちんと病気と向き合おうとはしない。
他の加害生徒の親たちと、いかに子供達のやった事を隠蔽し、全てを無かった事にするかを密談している時でも、彼女は彼らの言葉が聞えないかの様に一人部屋を出て行き、花を愛でるのである。
嫌なこと、汚いものとは関わりたくない。
ミジャは、詩の朗読会のメンバーで、何時も卑猥な下ネタに走る刑事に、「詩はこの世の美しさを追求するものなのに、あなたは詩を冒涜している」と責める様に言う。
だが、美しさとは何か。
人間のどす黒い裏側を眺めるのが日常である刑事は、彼なりに世界の美しさを追求し、詩作を続けているのである。
見た目の「キレイ、カワイイ」を美しさだと思っているミジャには、まだ世界の本質は姿を隠したまま、言葉を与えてくれない。

そんなミジャが少しづつ変わり始めるのは、死んだアグネスの生を辿りはじめてからだ。
教会に置かれた祭壇で、涼しげに微笑む少女の遺影を見たミジャは、思わずその遺影を持ち帰る。
あるいは、示談に応じない彼女の母を説得するために、農村のアグネスの家を訪ねた時、ミジャは命の美しさに満ちたその土地に圧倒され、場違いな派手な服を着てきてしまった自分を恥じ、母親の顔を見て何も言えなくなってしまう。
そして何時しか彼女が訪れるのは、アグネスが命を絶った橋の上だ。
アグネスを想い、彼女の言葉を求めて彷徨うミジャは、やがてアグネスの心を追体験する事で現実と向き合いはじめるのである。

ミジャが、ヘルパーとして介護している老人に迫られ、最初は拒絶するが、後に身を許すのは何故か。
チョンウクと囲む食卓に、アグネスの遺影を飾って伝えようとした事は何か。
示談金を用意する事が出来た彼女が、孫に対しても重い決断をしたのはどうしてなのか。
韓国の法律では、婦女暴行犯が未成年の場合、告発されなければ警察は動けない。
示談が成立して皆が口をつぐめば、アグネスの生も死も無かった事にされ、少年たちは永遠に責任を感じないまま。
物語の終わりで、ミジャは突然画面から“消滅”し、まるでアグネスが残した魂と一体となったかの様に、一遍の透明な詩となってこの美しき世界の中に溶け込んで行く。
果たしてこの映画をどの様に解釈するのか、観客一人ひとりが見ている、世界の本質が問われそうである。
果たして、私たちにはリンゴが見えているのだろうか?

今回は、かわいいおばあちゃんと乾杯したいリンゴのお酒。
フランス産のシードル「ラ・ブーシュ・オン・クール シードル・ブリュット」をチョイス。
シードルとはリンゴ果汁を発酵させて作るお酒で、多くが発泡性である。
ラ・ブーシュ・オン・クールとは、「おちょぼ口をして」という意味で、やや辛口でフルーティ、非常にスッキリとした味わいが楽しめる一本だ。
アルコール度数も比較的低く、ポリフェノールたっぷりなので、健康志向の人にもオススメ。
よく冷やして飲みたい。

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