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2012年04月12日 (木) | 編集 |
ほんの小さな嘘から始まる、人生の落とし穴。

イランの鬼才アスガー・ファルハディ監督は、前作「彼女が消えた浜辺」に続いて、驚くべき作品を作り上げた。
物語の中心にいるのは、二組のごく普通の夫婦である。
一方の夫婦に生じた離婚の危機が、やがてもう片方を巻き込んで、泥沼の“おとなのけんか”に発展してゆく。
基本的には、世界のどこの国で起こっても不思議ではない普遍的な物語で、そこにイスラムへの信仰というイランならではのスパイスが加わり、ジワジワと効いてくる。
本年度の米アカデミー賞最優秀外国語映画賞を、イラン映画として史上初めて受賞した他、ベルリン国際映画祭金熊賞、セザール賞、ナショナル・ボード・オブ・レビューなど、全世界の映画賞を席巻したのも納得の、傑作人間ドラマである。
※ラストに触れています。

テヘランに住むシミン(レイラ・ハタミ)とナデル(ペイマン・モアディ)の夫婦は、現在離婚調停中。
理由は娘のテルメー(サリナ・ファルハディ)の教育を海外で受けさせようと、移住を計画してきたシミンに対して、アルツハイマーの父を抱えるナデルが、テヘランに留まると言い出した事。
夫婦の間で話し合いはつかず、業を煮やしたシミンは家を出て行ってしまう。
困ったナデルは、信心深い女性のラジエー(サレー・バヤト)をヘルパーとして雇うのだが、ある日ナデルが帰宅すると父親がベッドに縛られたまま意識を失っており、ラジエーの姿はどこにも見えない。
怒り心頭のナデルは、しばらくして平然と帰って来たラジエーを手荒く追い出す。
ところが、その夜にラジエーは流産し、ナデルは妊婦を暴行したとしてラジエーと夫のホジャット(シャハブ・ホセイニ)によって告訴されてしまう・・・


ファルファディの前作「彼女が消えた浜辺」は、極めてユニークな心理劇だった。
カスピ海沿岸の別荘にやって来た男女八人と子供三人。
楽しいはずのバカンスの予定は、やがて一行の中にいたエリという女性の失踪を切っ掛けにして、あらぬ方向に迷走し始める。
登場人物は一様に中流層に属するごく普通の人々だが、たった一つの善意の嘘が更なる嘘を呼び、普段は決して表に出ることのない、人間たちの深層意識が暴かれてゆくスリリングな展開に全く目が離せなかった。
本作の構造も基本的には前作を踏襲しているが、人間関係を二組の夫婦に絞り、ある種の法廷劇とすることで、語り口はよりシンプルかつ洗練された。

物語の発端は、シミンとナデル夫婦の子育てを巡る離婚騒動だ。
一人娘によりよい教育環境を与えるために、海外移住したい妻のシミンと、アルツハイマーを煩った父を抱え、慣れない環境へ踏み出す事を躊躇する夫のナデル。
どちらにも譲れない言い分があり、話し合いはずっと平行線のまま、裁判所にも夫婦で結論を出すようにと匙を投げられてしまう。
頑ななナデルに怒ったシミンは、家を出て実家に戻り、代わりに日中のヘルパーとして雇われたのがラジエーだ。
当たり前だが、イスラム教を国教とするイランにあっても、実際に宗教に対するスタンスは人それぞれ。
シミンとナデル夫婦は、それほど信心深い訳でもなさそうなのに対して、ラジエーが信仰に対して非常に敬虔であった事が、後の展開にジワリ、ジワリと効いてくる。

物語が大きく動くのは、ラジエーが父親を縛って無断外出していた事にナデルが激怒し、強引に家から追い出してからだ。
その夜、妊娠中だったラジエーが流産し、ナデルは彼女を突き飛ばしたとして告訴されてしまうのだが、今度はナデルもラジエーが父親を虐待したとして逆告訴する。
こうして、ナデルとシミン、ラジエーとホジャットという二組の夫婦が、それぞれの娘や関係者を巻き込んで、言った言わないの泥仕合を演じる事になる。
イランの司法制度はよくわからないが、おそらく映画で描かれているのは簡易裁判の様なものなのだろう。
弁護士を介在させずに、当事者同士が判事の前で直接主張をぶつけ合うのだから、わかり易い事はわかり易いが、ひたすら感情的なやりとりを繰り返す羽目になり、何時まで経っても結論は出ない。

この裁判の焦点は二つ。
一つ目は、果たしてナデルはラジエーが妊婦である事を知っていて、故意に突き飛ばしたのか。
もう一つは、何故ラジエーは父親を縛ってまで、無断外出をしたのかという疑問である。
ポイントとなるのは、告訴されているナデルとラジエーは、どちらもある理由から全ての真実を明かせないでいるという事。
ナデルは自分と家族の生活を守るために、ラジエーは深い信仰心のために、心に秘密を抱えているのだ。
それ故に、基本的には善意の行動が、ボタンの掛け違いの様に負の連鎖を呼び込んでしまうのだが、彼らの秘密は観客にとっても謎となり、本作は次第に人間の心を巡るミステリの様相を帯びてくる。
二組の夫婦の関係が拗れれば拗れるほどに、真実は尚更明かし難くなり、登場人物たちはいよいよどつぼに嵌ってゆき、何れにしても何らかの犠牲を払わなければ、事態の解決は不可能と言う所まで追い込まれてしまう。

そして、本作のあまりにもリアルなシチュエーションは、観客にも単なる傍観者たる事を許さない。
我々は何時しかスクリーンの内側に引き込まれ、まるで彼らの友人か親戚になったかの様な気分で、戸惑いながらも事態の行く末を見守っているのである。
ナデルは真実を告白するのか、ラジエーは果たして神を謀る事が出来るのか。
人々の葛藤は、123分の間張り詰めた緊張感を保ったまま人生の、いや人間の不可解を描き出し、結末に至って再び離婚調停の場へと回帰する。
離婚自体は認められたが、それは全ての葛藤の解決ではなく、今度は娘のテルメーが両親のどちらかを選ばねばならない。
ラジエー夫妻との訴訟で、それまで知らなかった両親の姿を目の当たりにしたテルメーは、果たしてどの様な決断を下すのか。
それは同時に、物語を体験した観客に投げかけられた問いでもあるのだ。

離婚劇から予期せぬ訴訟合戦へと巻き込まれるシミン役を、キアロスタミの「シーリーン」などで知られるレイラ・ハタミ、夫のナデルを「彼女が消えた浜辺」にも出演していたペイマン・モアディ、彼らと対立するラジエーとホジャット役を、サレー・バヤトとやはり「彼女が消えた浜辺」から続投のシャハブ・ホセイニが好演している。
そして本作で、大人たちの冷静な観察者となるテルメーを演じるのは、サリナ・ファルハディ
イランでは、ある種のファミリービジネスとして、家族みんなが映画界で活動している例が多いが、彼女も苗字でわかる様に監督の愛娘だ。
これがデビュー作とは思えない、年齢以上にどっしりとした落ち着いた演技をみせ、本作におけるキーパーソンの役割を見事に果しているのだから末は大女優か大監督か。

それにしても、物語から余計な要素を削ぎ落とし、最低限の素材に絞って心のパズルを組み立てる様な、ファルハディのロジカルな作劇は見事だ。
人間の心が透けて見えるギリギリのキャラクター造形の妙、普遍的な葛藤を描きながら、イランという国でしか作り得ないローカル性は、この作家の大きな武器と言えるだろう。
イスラム原理主義体制下にあるイランでは、当然ながら表現の自由には大きな制約があり、ファルファディも本作の撮影中に、イランから亡命した映画人たちの国内復帰を望む発言をし、制作許可を一時取り消されるなどの圧力を受けたという。
しかし、どんな抑圧的な体制下にあっても、結局人間は本質的には同じである事を本作は雄弁に物語っている。

思うに、ペルシャ湾情勢が風雲急を告げる今年、イランにとっては仇敵である米国の象徴たるハリウッドから、本作にアカデミー賞が贈られた意味は大きい。
イラン、あるいはイスラムという言葉に、何らかのステロタイプ的なネガティブイメージを持っている人は、是非ともこの映画を観るべきだ。
国家のあり様とは別次元に、映画に登場する個々のキャラクターは、どこにでもいる普通の人々であり、映画を観た誰もが、彼らの頭上に爆弾を降らせる事を躊躇するだろう。

今回は恐ろしくリアルな映画だったので、むしろ観賞後に夢を観たい。
東京全日空ホテルの、とてもロマンチックなカクテル「ペルシャの夜」をチョイス。
ドライジン25ml、ブルーキュラソー15ml、アップルジュース25ml、レモンジュース1tspをシェイクし、フルート型グラスに注いで、トニックウォーターで満たす。
さらにパルフェ・タムール2tspを加え、三日月にスライスしたレモンを添えて完成。
砂漠を照らす青い月光をイメージしたとても美しいカクテルで、フルーティで飲みやすい。

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