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裏切りのサーカス・・・・・評価額1700円
2012年04月26日 (木) | 編集 |
スマイリーは笑わない。

東西冷戦たけなわの70年代を背景に、英国情報部“サーカス”に紛れ込んだ東側のスパイ“もぐら”の摘発を命じられた老スパイ、スマイリーの活躍を描く、第一級のスパイスリラー。
あの「007」と同じイギリスの情報機関、MI6に所属していた経歴をもつ、ジョン・ル・カレの傑作スパイ小説「ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ」を原作としているが、独特の雰囲気は損なわれておらず、ファンは胸を撫で下ろしている事だろう。
ル・カレ自身も本作のエグゼクティブ・プロデューサーに名を連ねており、言わば原作者お墨付きの映像化である。
監督は、スウェーデン発の異色のヴァンパイア映画「ぼくのエリ 200歳の少女」で、世界的な注目を浴びたトーマス・アルフレッドソン
初めての英語版作品に挑み、見事に結果を出した。
※ラストに触れています。

英国情報部のチーフ、コントロール(ジョン・ハート)は、長年悩まされている東側の潜入スパイ“もぐら”を捕えるため、その正体を知るハンガリーの将軍の亡命計画を画策する。
しかし、作戦が失敗した事で、コントロールは腹心のスマイリー(ゲイリー・オールドマン)と共に、情報部を追われる。
その後コントロールは謎の死を遂げ、外務省のオリバー・レイコン(サイモン・マクバーリー)に呼び出されたスマイリーは、“もぐら”の捜査を極秘裏に引き継ぐ事を要請される。
容疑者は、いずれも情報部の幹部、パーシー・アレリン(トビー・ジョーンズ)、ビル・ヘイドン(コリン・ファース)、ロイ・ブランド(キーラン・ハインズ)、トビー・エスタへイス(デヴィッド・デンシック)の四人。
コントロールは、それぞにティンカー(鋳掛け屋)=アレリン、テイラー(仕立屋)=ヘイドン)、ソルジャー(兵士)=ブランド、プアマン(貧乏人)=エスタヘイスとコードネームを付けていた。
スマイリーは、信頼出来る部下のピーター・ギラム(ベネディクト・カンバーバッチ)らと捜査を開始するが・・・


スパイ物と言っても、「007」や「ミッション・インポッシブル」の様な、派手なアクションは一切無い。
本作のベースとなっているのは、ル・カレが現役だった頃に実際に起こった、MI6幹部による二重スパイ事件、所謂“キム・フィルビー事件”だ。
元本職の作者が実際の事件をヒントに描いたのだから、貫かれるのは徹底的なリアリズム。
冷戦時代の冷たく陰鬱な空気が充満し、主人公のスマイリーを含めて見るからに怪しげな海千山千の登場人部たちの騙し合いを楽しむ“諜報映画”である。
与えられる情報をそのまんま受け流す様な観方をすると、あっという間に置いていかれてしまうので、良質な推理小説を読む時の様に、観客にも緊張感と集中力が要求される。
ブリジット・オコナーピーター・ストローハンの脚本は、複雑な物語を一旦バラバラにし、パズルの様に再構成する事で先の読めないスリラーとして纏め上げ、それを受けたトーマス・アルフレッドソン監督は、鮮やかな映像センスで“世界の裏側”に生きる男たちをメランコリックに描き出す。

物語の発端となるのは、ハンガリーの将軍が、“もぐら”の正体を明かす見返りに亡命を希望しているという情報だ。
亡命計画を巡り、マーク・ストロング演じる英国情報部のジム・プリドーが、現地の情報源と接触するブタペストのカフェのシーンから、物語に引き込まれる。
このシーンを、周囲の状況を気にするプリドーの目線を中心に構成し、静寂の中で緊迫感を盛り上げる手法は、ブライアン・デ・パルマ監督の「アンタッチャブル」の伝説的なシカゴ駅のシークエンスを思わせ秀逸だ。
実は、この亡命話自体がソ連の大物スパイ“カーラ”の計略で、作戦はあえなく失敗し、責任を問われたコントロールとスマイリーは情報部を去る。
その後釜に座ったのが、ティンカー、テイラー、ソルジャー、プアマンのコードネームで呼ばれる四人で、彼らはコントロール亡き後、“ウィッチクラフト作戦"の名の元に、謎のソ連の情報ソースに接近している。
スマイリーは、彼らのうち誰かが、ウィッチクラフトを隠れ蓑に機密情報をカーラに流している“もぐら”だと考えるのだが、なかなか尻尾を掴めない。
映画は、“もぐら”を追うスマイリーたちの捜査を縦軸に、幾つかの横軸を絡ませる形で展開してゆく。

一つ目の横軸は、英国情報部のスカルプハンター(実働部隊)のリッキー・ターの物語だ。
彼は、ひょんな事から“もぐら”の正体を知るKGBの女、イリーナに恋してしまい、彼女をイギリスに亡命させようとする。
だが、事態を察知したKGBによって彼女は連れ去られ、二重スパイの疑いを掛けられたターはKGBからも英国情報部からも追われる羽目になり、イリーナの救出を条件にスマイリーに協力を申し出る。
もう一つは、ハンガリーでの作戦で死んだと思われた、ジム・プリドーの物語
KGBのカーラに拷問されたプリドーは、解放されるも心と体に傷を負い、スパイを廃業して小学校の教師となっている。
彼は、スマイリー以外でカーラを見知る唯一の人物であり、“もぐら”の容疑者の一人のある人物とも特別な関係にあるキーパーソンだ。
二つの大きな横軸は一瞬交錯し、しばしば観客をミスリードしながら、物語を重層化する。
そして、本作における隠し味、いや見えない横軸を形作るのが、姿なきソ連の大物スパイのカーラ、そしてやはり表には出てこないスマイリーの妻だ。
この二人とスマイリーは、言わば愛憎半ばする感情で結ばれた変則的な三角関係にあり、スマイリーの行動原理の根幹には二人への複雑な葛藤があるという事実を、妻からスマイリーに贈られたライターが象徴すのである。

主人公のスマイリーを演じるのは、英国を代表する名優ゲイリー・オールドマン
ここでは、内なる敵であるカーラに対して抱く奇妙な感情と、不実を働く妻への想いに心掻き乱されながらも、繊細な内面をポーカーフェイスに隠し、深い洞察力によって、幾つもの小さな手がかりから事件の真相を暴き出す老スパイを味わい深く演じている。
例え国を救ったとしても、決して日の目を見る事は無い、非情なる諜報の世界で生きる男の覚悟を、静かな情念の炎として感じさせる演技力はさすがだ。
彼の周囲を、ジョン・ハート、コリン・ファース、マーク・ストロング、ベネディクト・カンバーバッチら、クセのある名優たちが固め、眉間に苦悩の皺を寄せながら、燻し銀の演技合戦を繰り広げる。
スパイでありながら、叶わぬ恋に身を焦がす、リッキー・ター役のトム・ハーディも良い。
彼の想い人であるイリーナ役のスヴェトラーナ・コドチェンコワは、この男臭い世界の中の殆ど唯一の紅一点だ。

やがて、難解なパズルを解いたスマイリーが、遂に真実にたどり着いた時、シャンソンの名曲「ラ・メール」の調と共に浮かび上がるのは、男たちのあまりにも切なく哀しい、秘められた愛の姿である。
要所要所に差し挟まれるパーティーのシーンの意味も、ようやく明らかとなり、裏切りと愛憎の物語に決着をつけるのは、涙の形に撃ち抜かれた弾痕だ。
マンガチックな秘密兵器と派手なアクションに彩られたブロックバスターとは対照的だが、これぞ正に大人の為の本格スパイスリラー
情報量を考えれば信じられない位にコンパクトに纏められた、充実の127分を過ごした後には、素晴らしい物語に対峙した時にだけ味わえる、心地良い疲れを感じるだろう。

今回は、スパイの故郷英国から、シングル・モルト・スコッチ「ザ・グレンリヴェット18年」をチョイス。
バニラ、洋梨など複雑なアロマと、はちみつの様ななめらかで深みのある味わいがじんわりと広がってゆく。
一時だけここが日本である事を忘れ、非常な世界に生きるMI6のスパイ気分で、一人飲みを楽しみたい酒だ。
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