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私が、生きる肌・・・・・評価額1700円
2012年05月17日 (木) | 編集 |
復讐のスパイスは、狂気。

最愛の妻を亡くした天才形成外科医が、密かに創り上げた妻そっくりの女。
一体彼女は何者なのか。
「トーク・トゥーハー」などで知られるスペインの鬼才、ペドロ・アルモドバル監督がティエリ・ジョンケの小説、「蜘蛛の微笑」を映画化した異色の心理劇である。
倒錯的ラブストーリーであり、官能的なスリラーであり、同時にある種の怪奇SFでもあり、更にブラックな人間喜劇の趣もあるという、所謂ジャンル映画とは対極の位置にある摩訶不思議な一本だ。
「アタメ」以来、アルモドバルと21年ぶりのタッグを組んだアントニオ・バンデラスが、現代のフランケンシュタイン博士を怪演し、謎の女ベラを「この愛のために撃て」のエレナ・アヤナが大胆に演じる。
※完全ネタバレ。鑑賞前に読まないで!

事故で酷い火傷を負った妻を亡くして以来、形成外科医のロベル・レガル(アントニオ・バンデラス)は、決して傷付けられない完璧な人口皮膚の研究に打ち込んできた。
医師としてのモラルを捨てた彼の屋敷には、一人の被験者(エレナ・アヤナ)が監禁されており、ロベルは彼女の肌を全て人口皮膚へと張り替え、完璧な妻のレプリカを創り上げてしまう。
ロベルと、ベラ・クルスと名付けられた謎の被験者と、使用人のマリリア(マリサ・パレデス)の三人での奇妙な暮らし。
しかし、マリリアの息子、セカ(ロベルト・アラモ)が訪ねて来たことから、事態は思わぬ方向に・・・


物語の設定は、ジョルジュ・ブランジュ監督の古典怪奇映画、「顔のない眼」を思わせるが、捻ったタイトルのユニークさも通じるものがある。
原題は「LA PIEL QUE HABITO」、英題は「THE SKIN I LIVE IN」で、ほぼ直訳の邦題「私が、生きる肌」は何とも奇妙な響きだが、観終わるとなる程このタイトル以外は無いなと唸らされる。

映画の前半は、天才的な形成外科医であるロベル医師を中心に展開する。
彼の妻は、自動車火災で酷い火傷を負い、やがて醜く焼けただれた自分自身の姿を鏡で見て、悲観するあまり飛び降り自殺してしまう。
そして、母親の死を目の前で目撃した娘のノルマもまた、数年後に後を追うように世を去る。
以来ロベルは、もしそれが存在すれば妻を救えるはずだった、柔軟で強靭、熱にも強い究極の人口皮膚の研究に没頭しているのだ。
彼の屋敷には、訳ありの使用人であるマリリアと、実験台にされている一人の女性が住んでおり、ロベルは彼女の全身の皮膚を開発中の人口皮膚に張り替え、同時に整形手術を施すことで、亡き妻そっくりの姿に作り変えようとしている。
一体、このベラ・クルスという意味深な名を与えられ、監禁された女性の正体は?
全ての秘密を知るマリリアとロベルの関係とは?
観客の興味を惹きつける幾つもの謎を含んだまま、映画は彼ら三人の奇妙な共同生活を描いてゆく。

やがて、警察に追われているマリリアの不肖の息子で、ロベルとは幼馴染であるセカが訪ねてくると、物語は大きく動き出す。
ベラをレイプしようとしたセカを、ロベルが射殺してしまい、その事を切っ掛けにして、ロベルとベラの関係が医師と被験者から、嘗て悲劇によって失われた夫婦の再現に変わってゆくのである。
しかし、ここまではまだマッドサイエンティストと禁断の恋という、わりとありふれた話に過ぎない。
この映画が、誰も想像出来ない方向に転がり出すのは、途中で時系列がロベルが妻を失った12年前、娘を失った6年前の過去と現代を行き来し始めてからで、それによって物語の視点はフランケンシュタイン博士から博士の創造物である“怪物”へと急速に移ってゆくのだ。

母親の死を目撃した事で、心の病に伏したロベルの娘ノルマは、ある時レイプ未遂の被害にあった事で決定的に壊れてしまい、母親と同じ道を選ぶ。
そして、復讐鬼となったロベルの怒りは、娘を死に追いやったビセンテという青年へと向かい、ロベルは彼を拉致すると驚くべき方法で復讐を開始する。
そう、謎の女ベラの正体は、ロベルの手によって性転換手術を施され、全くの別人にされてしまった哀れなビセンテの成れの果て。
ロベルは憎きビセンテを使って、自身が失った愛を再現するという、パク・チャヌクもびっくりの究極の復讐を遂げたのである。
しかし、余りにも妻そっくりにしてしまった事で、ロベルの心には本人も予期しない綻びが生じる。

実際のところ、ロベルと妻は決して上手くいっていた夫婦ではなく、妻はセカとも不倫関係を結び、夫を裏切っていた。
ロベルがベラを創造したのは、娘のノルマの仇討ちであるのと同時に、不貞な妻の姿を模した女を支配する事で、亡き妻に対して復讐するためでもあるのだろう。
ところが、ベラまでもがセカにレイプされ、今度はロベルがセカを殺し彼女を奪還した事で、彼は図らずも自分の中の過去を修正してしまう。
セカと関係した妻は死んだがベラは取り戻せた、だから彼女との間に過去には遂に叶えられなかった理想の関係を結べると錯覚してしまうのである。

ポイントは、この段階では既に映画の視点はベラ、いや彼女の内面のビセンテに移っている事。
元々、ビセンテにすれば、パーティで出会ったノルマが精神を病んでいるなど露知らぬ事で、彼女が飲んでいると語った向精神薬もハイになるドラッグの類だと思って、合意の上で事に及ぼうとしただけ。
途中で抵抗して気絶してしまったノルマを残して帰ったが、相手の父親が自分をレイプ犯と思い込んでいる事自体が青天の霹靂で、復讐される覚えなど無いのだ。
一度は諦めと、長期間犯人と過ごした被害者が、やがて犯人に感情移入するというストックホルム症候群に陥り、ロベルに身を任せようとしたものの、ある事によってビセンテは再び自分を取り戻し、遂に自由への戦いを始める。
冷静に考えれば、ビセンテにとってロベルは自分の人生をメチャクチャにした気の狂った変態、ぶっちゃけ「ムカデ人間」の博士の同類に過ぎないのである。

実にアルモドバルらしいのは、ロベルが実はマリリアの息子であり、セカとは父親違いの兄弟で、彼ら三人がマリリアを挟んだ奇妙な愛憎によって結ばれていたり、失踪したビセンテを探す母親の姿が丁寧に描かれていたり、母と息子の関係性が隠し味になっている事だ。
これによって、何とも複雑でドロドロとした人間関係と葛藤が作り出され、誰が正しくて誰が悪いという単純な割り切りが出来なくなっている。
また生活感の無い監禁部屋のデザインやテレビモニターの使い方、限りなく全身タイツのベラのコスチューム、原色の目立つ独特の色彩設計など、映像の外連味も目を楽しませる。
そして、マッドサイエンティストの悲劇の物語が終わり、自我を取り戻したがビセンテが、自分自身の苦難の物語の始まりとなる映画のラストで発する一言は、人間たちの喜悲劇の第二幕を感じさせ、まことに味わい深い。
何しろ「私が、生きる肌」は狂気の創造物しか残っていないのだから。

今回はラテンの情念を感じる血のような赤を。
スペインのワインどころというとリオハとリベラ・デル・ドゥエロが有名だが、今回は後者のワイナリー、ドミニオ・ロマーノから「カミーノ・ロマーノ」の2008をチョイス。
パワフルなフルボディで果実の味わいと適度な酸味がエレガントにバランスしており、スペイン美女を思わせる。
若いワインだが、なかなか美味しい。
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