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桐島、部活やめるってよ・・・・・評価額1700円
2012年07月11日 (水) | 編集 |
桐島とは、何者だったのか?

成績優秀、スポーツ万能、誰もが憧れ一目置く学園のヒーローで、バレー部キャプテンの桐島が、ある日突然姿を消す。
そして齎された、「桐島、部活やめるってよ」という何気ない一言が、若者たちの葛藤が渦巻く学園生活に、ゆっくりと波紋を広げてゆく青春群像劇。
原作は、早稲田大学在学中に第22回すばる新人賞を受賞した、朝井リョウのデビュー小説で、彼は初の平成生まれの受賞者としても話題を呼んだ。
神木隆之介ら若きアンサンブルが、青春の熱をリアリティたっぷりに感じさせ、「パーマネント野ばら」吉田大八監督は、彼らの日常に潜む漠然とした不穏を極めて映画的な構成で炙り出した。

とある高校の金曜日。
映画部の前田涼也(神木隆之介)は、教師のお仕着せの脚本ではなく、自分の作りたい作品を撮ろうと、ゾンビ映画の撮影を開始。
バトミントン部や吹奏楽部の女子たちは部活に励み、帰宅部の生徒は校舎の裏でバスケに興じる、いつもと変わらない日常の風景。
ところが学園一の人気者で、成績も優秀なバレー部のキャプテン、桐島の姿が見えない。
やがて、彼が部活をやめたという噂が飛び交い、生徒たちの間に動揺が広がり始める・・・


タイトルロールの“桐島”は、基本的に画面に登場しない。
存在だけを感じさせ終始物語の帰趨を支配する、作劇用語で言うところの所謂マクガフィンだ。
映画は、彼が部活をやめるという噂が飛び出した“金曜日”を起点に、同じ時間を幾つもの視点で描く事で、高校生たちの日常の裏側に潜む深層心理を描き出してゆく。
部活への情熱、片想いの恋、そして様々なコンプレックスを抱えた十代の日常は、それぞれの内面で設定された、学園という社会での立ち位置の、危うい均衡の上に成り立っている。
彼らにとっての価値観の頂点、言わば“なりたくてもなれない自分”の理想型が、学園のカリスマである桐島だ。
絶対だと思われていたピラミッドの頂点、重石を失った世界は解体と再生に向かって動き始めるのである。

人間は、孤独に存在する事は出来ない動物だ。
たとえ自分が桐島とは無関係と思っていても、蜘蛛の糸のように複雑に絡み合った人間関係の変化は巡り巡って影響を与え、その小さな社会の構成員は誰も逃れる事は出来ない。
エースが不在となったバレー部は、桐島の穴を埋めようと必死になり、それまで日陰の存在だった同ポジションの小泉がはじめて脚光を浴びるが、彼は逆に桐島との差を感じ、自己嫌悪に陥ってしまう。
桐島が部活を終えるまで、校舎裏でバスケに興じて時間を潰していた友人で帰宅部の竜汰たちは、その行為の目的を喪失し退散、竜汰に恋してサックスの練習を装ってずっと見つめていたブラスバンド部の沢島亜矢は、結果的に想い人との接点を失ってしまう。
男子学生の羨望を集める美少女グループにも変化が訪れる。
桐島の彼女である梨沙は、彼が自分に何の相談もなく部活を辞めた事に傷つき、彼の中の自分の価値に疑念を抱く。
バトミントン部に所属する東原かすみと宮部実果、竜汰の彼女である沙奈との間には、桐島退部後の小泉への態度を切っ掛けに不協和音が響き始める。
そして、桐島本人との接点が一番薄いにも関わらず、本作の事実上の主役のポジションを占めるのが、映画部の前田涼也だ。
バトミントン部のかすみには仄かな恋心を抱いている彼は、顧問の教師に押し付けられた脚本に嫌気がさし、本当に撮りたい映画を作ると宣言し、エド・ウッドみたいなゾンビ映画を撮り始めるのだ(笑
撮影場所を求めて、学園のあちこちに出没するゾンビチームは、桐島に振り回される他の生徒たちに思わぬ形で影響を与えてゆく。

吉田大八と喜安浩平の脚本は、どこか黒澤明の「羅生門」を思わせる。
原作は各章を別々の主人公に語らせている様だが、映画は桐島が忽然と消える金曜日から始まる5日間を、アンサンブルのそれぞれの視点で反復しながら描いてゆく。
例えば、涼也にとっての金曜日、かすみにとっての金曜日、亜矢にとっての金曜日といった具合だ。
同じ日の同じ学校という限られた時空にあっても、それぞれに訪れるドラマは違うし桐島の退部への感じ方も異なる。
若者たちの心に落ちた「桐島、部活やめるってよ」という一言は、彼らの心に大小それぞれの波紋を起こし、やがてそれらはぶつかり合い、絡み合い、学園という池を覆い尽くし、彼らの心に秘められたもやもやとした閉塞感を臨界へと導いてゆく。
語り部的なキャラクターを配さず、常に一定の距離感を保つカメラは、たくさんの登場人物を等身大の鏡として観客に自己の内面と対峙させる。
涼也は、かすみは、竜汰は、亜矢は、嘗ての私であり、大人の観客にとっては懐かしい、リアルタイムの十代には少々ビターな、観客一人ひとりの分身でもあるはずだ。

この映画の登場人物たちは、皆不完全な若者で、皆希望がある。
だがそれが本当に実現可能なものなのか、そのためには何をすれば良いのかがまだ漠然とした彼らの中では、青春の冷静と熱情が溶け合わずに存在しているのだ。
運命のクライマックスは火曜日の屋上。
桐島の不在によって広がった、それぞれの中の葛藤が頂点に達した瞬間、その二つが一瞬だけ混じり合い、更には涼也の8ミリカメラを通すことで、氷とマグマが出会った様な激しい爆発を起こすのである。
ブラスバンド部の演奏が徐々に盛り上がる中、涼也ら映画部のゾンビたちと桐島の影を追うバレー部の面々、かすみたち女子グループが入り乱れるて繰り広げられる、カオスな夕暮れの情景は正に映画的カタルシスに溢れた圧巻の仕上がりだ。
ある程度の出番のあるメインキャストだけでも十人以上、更に野球部の先輩やブラスバンド部の後輩ら、アンサンブルの隅々まで心の機微を描き出した脚本と、吉田大八監督の繊細な演出はお見事の一言。
神木隆之介、橋本愛、大後寿々花、東出昌大、落合モトキ、山本美月、清水くるみ、松岡茉優ら、書き切れないほどの若いキャストたちの熱演も観応え十分。
暑い夏に相応しい、クールな中に熱血を秘めた青春映画の快作である。

本作のロケは、吉田監督の前作「パーマネント野ばら」に続いて、ほぼ全編高知県で撮影されたという。
高知と言えば酒豪の郷であり、数多くの蔵元が存在する酒飲み天国の一つ。
今回は、あの坂本龍馬で有名な桂浜の蔵として知られる酔鯨酒造から「純米吟醸 備前雄町」をチョイス。
まろやかにして濃厚、そしてキリリと辛い。
高校生たちにはちょい早いが、オヤジたちがスクリーンから吹き付ける青春の熱風を冷ますにはぴったりの一本だ。
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