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夢売るふたり・・・・・評価額1600円
2012年09月14日 (金) | 編集 |
女と男の心のスペクタクル。

火事で経営していた小料理屋を失い、結婚詐欺で再出発の資金を作ろうとする夫婦の物語を、「ゆれる」「ディア・ドクター」などオリジナル脚本による心理劇を得意とする西川美和監督が描く。
詐欺を繰り返すうちに、徐々にあぶり出される深層心理のダークサイドと、それまで気づく事の無かったお互いの本性。
誰もが認める良妻という仮面の下に、歪んだ情念を秘めた女の闇を松たか子が熱演。
不気味に緊迫した人間ドラマの中にも、滑稽さがあるのが実に人間臭い。

東京で小料理屋「いちざわ」を営む貫也(阿部サダヲ)と里子(松たか子)。
慎ましくも幸せな日々は、厨房から失火した火事によって灰燼に帰してしまう。
一からやり直せば良いと気丈に振る舞い、早速バイトに精を出す里子に対して、再就職先でもプライドと職人気質が邪魔をして上手くいかない貫也は、やる気を失って酒浸り。
ある夜、店の常連だった玲子(鈴木砂羽)と再会した貫也は、勢いから一夜を共にする。
火事に同情した玲子に愛人からの手切れ金を渡され、貫也は里子にそれを友人からの借金と偽って渡すのだが、簡単に浮気を見破られてしまう。
怒りに燃えながらも、里子は同情から簡単に男に金を出す女がいる事に気づき、夫婦で結婚詐欺をする事を思いつくのだが・・・


ちょっと似たタイトルのフランス映画とは、真逆のネガティブパワー炸裂する物語で、「告白」に続く松たか子のホラー演技が凄い。
貫也の浮気が発覚し、怒りを飲み込むかの様に食パンをバクバク口に詰め込むシーンの、無表情から透けて見える情念の濃さ。
この人は元々の演技力が高いだけに、“何か恐ろしい事を考えてる”芝居をすると本当にコワイのである。

金に困った夫婦が、夫の浮気を切っ掛けに結婚詐欺にのめり込んでゆくというのは、かなり戯画的な設定だといえる。
「夢売るふたり」というタイトルからしてかなりシニカルで、阿部サダヲの真面目に可笑しい芝居もあって、これは一体シリアスなドラマなのか、それともブラックコメディなのか、笑って良いのか悪いのか、戸惑うシーンもしばしば。
特殊なシチュエーションにキャラクターを置く事で、普段は見えない心の奥底をえぐり出し、崖のキワに追い詰めながら、落ちそうになると手を掴んで引っ張り戻す様な、西川監督の揺さぶる演出は相変わらず観応えタップリだ。

結婚願望の強そうな女を里子が選び、貫也がその生来の優しさで接近し、スッと心の隙間に入り込む。
少し頼りなさげな貫也に「私がいなきゃ、この人はダメなの」と思わされて、深い仲となると、金を巻き上げられて逃げられる。
騙される相手は、家族から結婚のプレッシャーをかけられているOL、サービス精神旺盛なソープ嬢、気の優しいウェイトリフティングの選手に、DV男に付きまとわれるデリヘル嬢、更にはハローワークの公務員まで多岐にわたる。
まあこの辺りのプロセスは、登場人物の行動原理がやや唐突に感じられたり、いかに妻の指導があっても、阿部サダヲに突然モテキが到来するとか不自然な部分もあるが、ある種の寓話と思えばこれもアリか。
里子の即興のシナリオで、貫也が電話越しに別れの名演技を見せるシーンなど爆笑ものだ。

そうして、女たちを騙しているうちに、次第に明らかになってくる貫也と里子の心のズレ
貫也は薄々わかっているのだが、里子にとって結婚詐欺は半分は金のため、そしてもう半分は復讐のためだ。
自分を裏切った夫、そして簡単に男になびく女たちへ、自らの中にも同質のものを感じるからこそ、里子はこの業のもたらす暗い喜びから逃れられない。
だが、貫也が次なるターゲットに木村多江演じる子持ちの滝子を選んだ時、まるでピタゴラスイッチの様に、連鎖する運命の悪戯によって、二人の人生再建計画はあっけなく崩壊するのである。
家庭を夢見るそれまでの女たちは、里子にとってどこか見下す存在であり、だからこそ騙しても罪悪感を感じない。
ところが、滝子は既に家庭を持ち、自分にはいない子供まで産んでいる。
滝子の家で馴染む貫也の姿を見た時、おそらく里子は強烈な敗北感と嫉妬を感じたのだろう。

そして、蜃気楼の如き二人の夢が潰えた物語の終わり。
この映画が、結婚詐欺という犯罪を描きながらも、例えば「へルタースケルター」の様に、中途半端なモラリズムの風を吹かさなかったのは良かった。
詐欺を発案する発端となった、玲子にだけ金を返したのは、他の女と違って唯一本当に浮気をされた相手に対する、里子の女としての意地だろうか。
再び全てを失い、刑務所の厨房で汗を拭う貫也と、粉雪舞う魚市場で働く里子、離れ離れの夫婦が共に目を留めるのは、薄暗い空を寄り添って飛ぶ二羽のカモメ。
二人は、それでも同じ空を見ているのである。

話の本筋とは関係ないが、ディテールでちょっと気になったのは店が火事になるところ。
私は昔米国でレストランをやっていた事があるのだけど、あちらの条例では厨房の火の上にはワンアクションで消火剤を散布する超強力なスプリンクラーが義務付けらていた。
この映画では消化器すら無かったみたいだけど、日本では厨房に消火設備がなくてもいいのだろうか。
そもそもあんな一瞬で火は大きくならないし、お品書きに燃え移るまでカウンター席の客が気づかないのも不自然だ。
まあ元々映画の構造自体がホントとウソのギリギリの境界で成立している話だけに、わざと嘘っぽくして、観客を手玉にとろうという意図なのかも知れないけど。

今回は、東京の地酒、澤乃井の「純米 大辛口」をチョイス。
名前の通りキリリと辛く、スッキリ爽やかな味わいのお酒だ。
燃える前のいちざわの様な小料理屋で、美味しい酒の肴と一緒に冷やで飲めば、厳しい残暑も少しは和らげてくれるだろう。
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