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鍵泥棒のメソッド・・・・・1700円
2012年09月19日 (水) | 編集 |
幸せの鍵はどこ?

「運命じゃない人」「アフタースクール」の凝りに凝った作劇で映画ファンを唸らせた内田けんじ監督の第三作、「鍵泥棒のメソッド」で描かれるのは自殺志願の売れない役者と凄腕の殺し屋の人生が入れ替わった事から巻き起こる大騒動。
堺雅人香川照之という二人の怪優の演技合戦に、広末涼子演じる婚活中の女性編集者、殺しの依頼主であるヤクザも絡み、あらぬ方向に転がり出した物語は完全に予測不能のままノンストップで突っ走る。
128分の上映時間に、ハラハラ、ドキドキのスリルとトボけた笑い、そして爽やかな感動が満載された快作コメディだ。

人生どん詰まりの貧乏俳優、桜井武史(堺雅人)は銭湯で転んで気絶した羽振りの良い男、コンドウ(香川照之)のロッカーの鍵を出来心から自分の物と入れ替える。
かくして桜井として病院に運ばれたコンドウの記憶が戻らないのを良い事に、桜井はコンドウに成りすまして高級マンションでリッチな生活を満喫。
しかし、実はコンドウは裏社会で有名な殺し屋で、桜井をコンドウと思い込んだヤクザの工藤(荒川良々)から、ある女(森口瑤子)を殺して欲しいという依頼を無理やり受けさせられてしまう。
一方、ホンモノのコンドウは、偶然に知り合った婚活中の女性編集長・水嶋香苗(広末涼子)と親しくなり、彼女の助けを借りて少しづつ桜井としての人生を歩み出していたが・・・


現代日本で、最も構成力の高い脚本家の名を聞かれれば、私は迷わず内田けんじの名をあげる。
時系列と視点をシャッフルし、スクリーンを通して観客に知的なコンゲームを挑んだ前二作で、「くっそー騙された!」と爽やかな敗北感と共に地団駄を踏んだ人は多いだろう。
緻密に組み立てられたプロット、裏の裏まで設定された登場人物の心理描写は、まるで良くできた探偵小説のページをめくる様なワクワク感に満ちていた。
今回ももちろん抜群の脚本の面白さは健在だが、今までの作品とは少々ベクトルが異なる。
御馴染みの時系列のロジックも視点のシフトも封印され、物語のドンデン返しの驚きも無く、脚本の構造そのものは限りなく普通の映画になった。
代わりに今回力が入っているのは、キャラクター造形の面白さだ。

男二人、女一人のトリオ映画ではあるが、物語のコアとなるのは香川照之演じるコンドウで、構造的には彼を挟んで桜井との物語、香苗との物語が並行して進行する。
全ての発端は、コンドウがたまたま立寄った銭湯で、石鹸に滑って転ぶというコントみたいな出来事によって、記憶を失った事から始まる。
この男が裏社会の人間である事を知らない桜井が、鍵をすり替えてコンドウに成りすまし、ことの成り行きで殺しの依頼を受けてしまうのが桜井サイドの物語。
そして自分の事を俳優の桜井だと思い込んだコンドウが、偶然に知り合った香苗の助けを借りながら、生来の生真面目さを発揮して少しづつ桜井の人生を好転させ、お互いに惹かれ合ってゆくのが香苗サイドの物語。
彼らは全員どこか世間とズレた変な人であり、同時にお互を誤解している。
コンドウはそもそも自分が誰なのかわからず、桜井はコンドウの正体を知らずに成りすまし、香苗はコンドウを桜井だと思い込んでいる。
この誤解のトライアングルが事件を呼び、やがてコンドウの記憶の復活によって、二つの物語が収束点に向かって動き出すのである。

内田監督は、得意とする物語のトリックを捨て、その代わりに登場人物の行動原理と心の機微を繊細に描く。
それはあたかも、タイトルにも引っ掛けられているメソッド演技の役作りの過程で、俳優が心に生じる役柄への疑問に一つ一つ答えを出してゆくプロセスにも似る。
病的なまでに几帳面で真面目なコンドウが、俳優の仕事にハマってゆくのはなぜか、お調子者でズボラな桜井が、さっさと逃げ出さずにターゲットの女を守ろうとするのはなぜか、香苗が記憶を失ってドン底のコンドウに恋したのはなぜか。
対照的なデキる男とダメな男、どこか似たもの同士の男と女、本来接点の無い三人が、運命の悪戯によって出会った事で、人生に不思議な化学反応が起こる物語は、出来の良い脚本に触発された俳優たちの名演技によって更なる躍動感を獲得する。
堺雅人と広末涼子もいつにも増して良いのだが、特に素晴らしいのはこのところ映画館の全スクリーンを制覇する勢いで映画に出まくる香川照之だ。
本来のコンドウの時と、桜井として生きている時の性根の同質と表面のギャップをいっぺんに感じさせる見事な演技はさすがの芸達者。
ネタバレになるので自重するが、彼の意外な“秘密”が本作では唯一の作劇上のトリックらしいトリックだった。
ヤクザ役の荒川良々や、殺しのターゲットになる森口瑤子ら脇役のキャスティングも絶妙で、彼らの丁々発止のかけ合いは芝居の楽しさを堪能させてくれる。

また内田監督の作品は、彼が敬愛すると語るビリー・ワイルダー監督作品や「寅さん」シリーズなどと同様に、人間、特にちょっとダメな男に優しい。
この作品で言えば、35歳にしてゴミ溜めの様な汚部屋に住み、ろくな仕事も無く、かといって一生懸命努力する事もない桜井の様なキャラクターにも、ちゃんと救いを用意しているのである。
まあ人によっては、ユルイと感じるかもしれないが、この人の映画独特の観終わった時の爽快感は、自ら造形したキャラクター、即ち人間に対する愛情によるところが大きいと思う。
映画が一つの世界だとすれば、優しい創造主に見守られ、手のひらの上で右往左往する内田作品の登場人物は幸せだ。
そしてその世界を覗く観客も、本作では物語に騙される快感を失った代わりに、今度は登場人物に感情移入し、心の底から彼らを応援するという別種の快感、そしてその結果としての深い感動を手に入れるのである。

今回は、異なった個性の三人の主人公の映画という事で、三色のカラフルなカクテル「パッションキラー」をチョイス。
サントリーMIDORIとコアントロー・パッソア、テキーラブランコを10mlずつ、スプーンの背を利用して、静かにショットグラスに注ぎ入れる。
グリーン、ピンク、透明の三色の層が見た目にも楽しい一杯だ。
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