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ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日・・・・・評価額1800円
2013年02月05日 (火) | 編集 |
割り切れない、宇宙の理。

太平洋のど真ん中を、トラと共に救命ボートで227日間に渡って漂流・・・。
一人のインド人少年の極限のサバイバルを描いた、ヤン・マーテル原作のベストセラー小説「パイの物語」の完全映画化。
普通に考えれば、あっと言う間にトラのランチになってしまいそうだが、少年はなぜ絶望的な状況で生き延びる事が出来たのか?神秘の海で、彼は何を見たのか?
一作毎に異なるジャンル、異なるテーマに挑戦する台湾出身の名匠、アン・リー監督が今回取り組むのは、単なる海洋アドベンチャーではない。
これは言わば「ツリー・オブ・ライフ」ミーツ「ビッグ・フィッシュ」だ。
聡明な少年の目を通した、壮大で哲学的な神性を求める冒険であり、同時にリー監督にとっては野心的な物語論となった。
※完全ネタバレ注意。

インドのボンディシェリで動物園を経営していたパテル家は、動物たちを北米に売却しカナダに移民する事を決意。
ところが太平洋上で嵐に遭遇し船は沈没、一家の末っ子パイ(スラージ・シャマル)だけが数頭の動物たちと救命ボートで脱出する。
小さな方舟に乗り合わせたのは少年とオラウータンとシマウマとハイエナ、そして獰猛なベンガルトラのリチャード・パーカーだ。
だが、やがて動物たちは殺し合い、遂にボートには人間とトラだけが残される。
このままでは自分もエサになってしまうと考えたパイは、なんとかリチャード・パーカーを飼い慣らそうと考えるのだが・・・・


極めてロジカルに構成された物語は、神話的な暗喩劇である。
本作は、カナダ人の作家が、成人したパイから聞き取った物語という形式で語られ、少年の冒険が始まるまでに、およそ30分に渡って彼のルーツ、人となりや育った環境などが事細かに描写される。
穏やかな南インドの風土を背景に纏った、この冒頭部分が決定的に重要だ。
パイの本名はピシン・モリトール・パテルで、意味は「(パリの)モリトールのプール」である。
水泳の名人だった父の親友にちなんで、水の様に心の綺麗な人間になる様にと名付けられた。
ところがピシンの発音が英語の「小便」と似ていた事から学校で虐められ、彼は自らにパイ(π)というニックネームを付けるのだ。
パイは3.14から続く無理数で永遠に割り切れない。
そして彼は物心ついた頃から、ずっと心にを求め続けている。
インドのごく一般的な家庭環境からヒンズーの神々に囲まれて育ち、成長期にはまずキリストの受難を知り、ついでアッラーに祈りを捧げる。
つまりこれは、水の様に透明な心を持った少年が神、即ち世界の理を求め、決して割り切れない解を求めて冒険の旅に出る物語なのだ。

幼いパイに、母親がヒンズーの逸話を語るシーンがある。
赤ん坊の頃のクリシュナ神が、友達に土を食べたと濡れ衣を着せられ、養母のヤショダが子供の姿をした万物の神の口を開けさせると、そこには悠久の宇宙が全て、ヤショダ自身をも含め、存在していたという話だ。
同じ様に、物語の後半でリチャード・パーカーと共に大洋の深淵を覗き込んだパイは、そこに時空を超えた森羅万象の全てを見る。
本作において、時として雷を放ちながら荒れ狂い、愛する者たちを奪い去り、時として極限の静寂と共に、生への希望を与える天と海は、そのまま不可思議な神のメタファーなのである。
故に3Dによって迫力満点に描写される本作の自然は、ナショナルジオグラフィック風のリアリズムというよりは、むしろ宗教画の様に華麗にして荘厳で、見る者を驚嘆させて畏怖の念を感じさせる物だ。

これが神の宇宙に投げ出された人間の物語であるならば、それは必然的に人が自分自身が何者かを発見する旅ともなり、ボートに乗り合わせた動物たちにも意味がある。
これは後述する驚きの仕掛けにも関連するが、シマウマ、オラウータン、ハイエナ、トラはそれぞれ人間の精神の異なる側面の象徴となっている。
極限状況の中、シマウマ、オラウータンがハイエナの欲望の前に相次いで倒されるが、そのハイエナもリチャード・パーカーによって呆気なく命を奪われる。
状況が悪化すればするほどに強まる、この気高く美しいベンガルトラの存在感は、人間の持つ本能的な獣性の象徴と言って良いだろう。
数学的な名前を持つパイが、物言わぬリチャード・パーカーと何時しか心を通じ、彼との共存を果たすまでの興味深い冒険の描写は、自らの内面に疼く野生の攻撃性を知恵と理性によってコントロールするプロセスでもあるのだ。

そして、遠大な心の旅路の途中、ブッダやイエスと同じ様にパイもまた悪魔の誘惑を受ける。
ボートは、ミーアキャットの大群が暮らす奇妙な浮島にたどり着くのだが、夜になると食虫植物の様に生物を喰らうこの肉食の島は、邪悪な意思によって支配された偽りの楽園だ。
私は、この島のシークエンスを観て、H・P・ラヴクラフトの「狂気の山脈にて」を思い出した。
南極大陸の深淵に、古のものによって作られた狂気山脈には、本作のミーアキャットの様に、アルビノのペンギンの群れが暮らしており「テケリ・リ!」と叫ぶ。
彼らの奥には、ジョゴスと呼ばれる太古に封じられた不定形の存在があり、やはり「テケリ・リ!」という神秘の言葉を放つのである。
ペンギンたちは、言わば思考無き盲信者たちの様にその場に寄り添っているのだ。

この「テケリ・リ!」とは、元々ラヴクラフトに大きな影響を与えたエドガー・アラン・ポーの小説、「ナンタケット島出身のアーサー・ゴードン・ピムの物語」からの引用で、実はこの本にはリチャード・パーカーという人物が登場する。
彼は作中で海難事故に遭い、難破船で漂流する四人の男の一人で、食料が無くなった事から、くじ引きで選ばれて他の三人に喰われてしまうという、何とも悲劇的な最後を遂げるのだ。
これら奇妙な符号は、おそらく本作の原作者のヤン・マーテルが、先人たちの仕事に密やかなオマージュを捧げた痕跡であり、リチャード・パーカーというトラの名はポーの小説の反転なのである。

さて、誘惑に打ち勝ったパイは、リチャード・パーカーと共に漂流を続け、遂にメキシコに流れ着くのだが、本作の核心はここからだ。
船会社のある日本からやって来た調査員に対して、パイは自分の冒険譚を語って聞かせるのだが、余りにも突飛な話を日本人は信じようとしない。
彼らが求めるのは“物語”ではなく、トラも肉食の島も登場しない、“信じられる話”なのである。
そこでパイは、もう一つの話をする。
ボートに乗ったのは、パイと母親、船のコックと負傷した船員の四人の人間で、やがてお互いに殺し合い、最後に残ったのが自分だと。
ここでは四頭の動物たちはそれぞれに人間に置き換えられ、リチャード・パーカーがパイ自身である。
ここでパイは問いかける。
どちらが事実だとしても船は原因不明のまま沈み、家族は全員死んで、自分は苦しみをたっぷりと味わった。
結果が同じならば、どちらがよりよき物語、語られるべき物語なのか?
答えは明らかだ。
なぜなら神を求め続けた少年は、227日間の内なる神との対話を通じて人間とは何かを知ったが、片方の物語に神はおり、片方にはいないからだ。
「人生とは手放す事だ」と成人したパイは言うが、ただ生きるだけでも手に入るものは増えてゆき、無理数のパイが永遠に割り切れない様に、この世界の理を求める冒険は命ある限り続いてゆく。
リチャード・パーカーが振り向かなかったのは、パイが既に未来に向かおうとしていたからである。
ジャングルに消えた親友と共に、それまでのパイ自身もまた、彼の物語の一部になったのだ。

「ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日」は、アン・リーのベストにして映画史に残る傑作である。
脚本のデヴィッド・マギーは、ヤン・マーテルによる人生の神学的考察を忠実に、しかし巧みに取捨選択し、一部を映画的に膨らませつつ仕上げ、アン・リーはそれをスペクタクルな映像で彩り、映画作家としての自らの物語論として昇華した。
また圧倒的な存在感を持つベンガルトラのリチャード・パーカーとその他の動物たちは、大半の登場シーンでリズム&ヒューズ社によるCGで作られているが、おそらく殆どの観客は彼らが現実の存在でないなど想像すらしないだろう。
ネコ族の細やかな仕草までリアルに再現したデジタルキャラクターは、圧巻の出来だった。
それにしても、カナダ人作家の小説をアメリカ人が脚色し、台湾人の監督がインド人を主人公に映画化するとは、まるでこの映画自体が創造の方舟の様ではないか。

今回は、もう一人の主役とも言えるリチャード・パーカーにちなんで「ティフィン・タイガー」をチョイス。
紅茶のお酒であるドイツのティフィン・ティー・リキュールを使ったカクテルで、別名「ティフィン・オレンジ」とも呼ぶ。
氷を入れたタンブラーにティフィン30mlとオレンジジュース90mlを注ぎ、ステアする。
ベンガルトラの様な鮮やかな黄色が印象的で、危険そうな名前とは逆にとても優しく穏やかな味わいである。
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