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ショートレビュー「ハッシュパピー バスタブ島の少女・・・・・評価額1600円」
2013年05月11日 (土) | 編集 |
楽園からの旅立ち。

「ハッシュパピー バスタブ島の少女」という柔らかい邦題よりも、「Beasts of the Southern Wild」という原題の方がしっくりくるパワフルな作品だ。
主人公の少女、ハッシュパピーとワイルドなオヤジ、ウィンクが暮すのは、大河の河口にある小さな島、バスタブ。
ここでは人々がヒッピーコミューンの様な集落を作って、自由気ままに生活している。
海にある巨大な堤防の彼方には大都市が存在するが、どうやらバスタブの住人たちは向こう側の暮らしを嫌悪しているらしい。
一見すると、これは人々の暮らしが二極化した異世界の話なのかとも思えるが、話が進むとそういう訳でもない事がわかってくる。
本作は言わば、6歳の少女の目を通して見た“ありのままの世界の姿”であり、リアルとファンタジーの境界線上に存在するシネマティック・ワールドだ。
理想郷に暮らす少女は、ここで世界の終末と再生への旅立ちを経験するのである。

アメリカ南部、ルイジアナで撮影された本作からは、スタジオジブリのアニメーション、特に宮崎駿作品の強い影響を見て取れる。
劇中ではっきりとは言及されないものの、ハリケーンカトリーナの様な大嵐がもたらす洪水によって、バスタブでの暮らしはあっけなく破綻してしまう。
潮水に陸が侵食され、死の世界となったバスタブは、都会の人々によって強引に閉鎖されてしまうのだ。
更に追い打ちをかけるように、ハッシュパピーの唯一の家族であるウィンクが倒れ、余命幾ばくも無い事が明らかとなる。
崩壊する世界の中で、ハッシュパピーは記憶の中の母親を求めて子供達と共に海へと向かい、まるで竜宮城の様な店で幻想の母と邂逅し、遂には破壊と混乱の象徴たる太古の巨大な獣たちと出会うのだ。
この辺りの現実と死の香り漂う幻想が溶け合った冒険のイメージは、やはり大洪水によって現世と常世が融合する「崖の上のポニョ」を思わせるし、都会の人々と自然と共生するバスタブの人々の価値観の違いは、宮崎アニメの多くに見られるモチーフである。

しかし、一見ジブリアニメの様な装いであっても、本作はワイルドな原題通りに描写には全く容赦がない。
大洪水から始まる破壊は、バスタブという理想郷だけでなく、ついにハッシュパピーからウィンクをも奪い去る。
だが「崖の上のポニョ」の宗介とポニョと同じように、内的なファンタジー世界での冒険によって、ある種のビジョンクエストを経験したハッシュパピーは、既に大人への階段を登り出しているのだ。
海の彼方の常世へと、父の亡骸を送り出した彼女は、自らの足で陸を踏みしめ、力強く歩み出すのである。
本作で鮮やかなデビューを飾ったベン・ザイトリン監督だが、彼がダン・ローマーとの共同作業で紡ぎ出した躍動感溢れるテーマ曲も素晴らしい。
主人公の名前の“Hushpuppy”とは、元々アメリカ南部の郷土料理であるトウモロコシのパンの事で、この地域に何世代もの間受け継がれてきた、命の食べ物だ。
これは、混乱する世界の中でも、めげずに生き抜く生命の力強さを描いた寓話的作品であり、少女が主人公でも、観るべきは大人たちなのである。

今回は映画のロケ地、「ルイジアナ」の名を持つカクテルを。
ドライ・ジン15ml、レモン・ジュース60ml、砂糖適量をシェイクして、氷を入れたタンブラーに注ぎ、最後にソーダを注いで完成。
レモンの風味が爽やかで、高温多湿な日本の夏にもピッタリだ。
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ショートレビュー「舟を編む・・・・・評価額1600円」
2013年05月11日 (土) | 編集 |
言葉の大海の、静かなる冒険者たち。

普段何気なく使っている辞書を作るのに、これほどの時間がかかっていたとは!
本作に描かれるのは、全く新しい辞書「大渡海」の編纂に挑む人々の、15年間に渡る創造の物語だ。
15年でも驚きなのに、劇中で言及される三省堂の「大辞林」に至っては、実に28年かかったという。
あの辞書は1988年初版だから、高度成長期の1960年からバブル真っ只中まで延々と作業していたという事か。
生半可な覚悟では向き合えない、正に一生をかけた職人の仕事である。
これは映画の世界の職人たちが、世の中の縁の下の力持ち的存在である、辞書作りの職人たちへとエールを贈り、まるで作品自体が辞書の様に、丁寧に拘りを持って作り込まれた愛すべき佳作だ。

本作には、まだ存在しない物を創造する喜びと厳しさ、モノ作りの醍醐味が詰まっている。
主人公の馬締光也は、昭和の下宿屋然としたレトロなアパートに、無数の本に埋れて暮らす本オタクだ。
友達はおらず、言葉を交わすのも大家のおばちゃんとトラ猫のとらさんだけという、内向的でコミュニケーション能力ゼロな性格故に、営業マンとしては無能扱いされ、出版社の中でも日の当たらない辞書編集へと移動する事になる。
劇中で馬締が辞書作りという天職と出会う1995年は、ウィンドウズ95が発売されネット時代の幕が開いた年であり、彼が身を置く出版の世界でも、来るべき変化を予感し紙の辞書はいつか潰えるのではないかと説く人もいる。
しかし、馬締は言うのである。
「時代とか関係ないです。僕は大渡海を作りたいです」と。
たとえ紙の辞書がいつか消えてしまうとしても、やりたい事、作りたいモノに誠実に向き合い、自分らしく生きてゆく人々の人生は観ていて気持ちが良い。
馬締と共に辞書を作る仲間たちも個性豊かで、特にオダギリジョー演じるチャラい先輩は絶品だ。
まあ、超マジメ人間の元にかぐや姫が舞い降りるのは、現実にはファンタジーだろうけど、許しましょう(笑

惜しむらくは、全編が均一なタッチで淡々と紡がれてゆくので、物語的、映像的な抑揚に乏しい事。
15年に渡る辞書作りの間には、企画中止の危機があったり、馬締の恋があったり、監修者の先生の病気があったり、結構な事件が起こるのだが、元々主人公がポーカーフェイスなので彼の内的葛藤があまり画面に顕在化しないのである。
更に外的葛藤に関しても、おそらくは狙ってあっさりと描いているが故に、物語の根幹を揺さぶるほどには響かないのだ。
どこか一箇所でも物静か過ぎる主人公のパッションの爆発、映画的なピークがあれば、もう一歩突き抜けた作品になった様に思うのだが。
もっとも、まるで丁寧に作られた辞書を読んでいる様な本作のタッチこそ、作り手がやりたかった事なのかもしれない。
何れにせよ、辞書大好き人間としては、一字一句に込められた魂に、今までより一層愛着を感じるようになった。

今回は、「大渡海」編集部の皆に「ヱビスビール」を捧げよう。
123年の歴史を誇る、日本のプレミアムビールを代表する銘柄であり、日本のビール職人の伝統を伝える芳醇な一杯。
ここにも、モノ作りの真髄がある。
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