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天使の分け前・・・・・評価額1600円
2013年05月23日 (木) | 編集 |
俺たちは、天使じゃないけど。

「マイ・ネーム・イズ・ジョー」「麦の穂をゆらす風」などの名匠ケン・ローチ監督による、英国映画らしい痛快かつ毒気のあるヒューマン・コメディ。
どことなく岡村隆史似の札付きの不良が、父親になった事を契機に人生をやり直そうとするが、過去の因縁や世間の不寛容が立ちはだかる。
彼は生まれ持った才能を発揮して、裁判所から命じられた社会奉仕活動で出会った仲間たちと共に、時価100万ポンド(約1億5000万円)超の幻のウィスキーに、人生一発逆転の大勝負を賭けるのだ。
※ラストに触れています。

喧嘩ばかりしている不良のロビー(ポール・ブラニガン)は、恋人レオニー(シヴォーン・ライリー)が出産を迎えることから、カタギの人生を歩む決意をする。
しかし前科者に世間の目は冷たく、手に職を持たないロビーには生計を立てる術も無い。
そんな時、裁判所から命じられた社会奉仕活動で、ウィスキー愛好家でもある指導者のハリー(ジョン・ヘンショウ)と出会い、仲間たちと共に蒸留所を見学に行く事になる。
生まれて初めて飲むウィスキーに魅了されたロビーは、独学でウィスキーの知識を身につけてゆく。
そして、ハリーと出かけたテイスティング会で、見事な舌を披露したロビーに、ウィスキーコレクターのタデウス(ロジャー・アラム)が声をかけてくるのだが・・・


タイトルの「天使の分け前(Angel's share)」とは、ウィスキーを樽の中で熟成させる間、自然蒸発によって毎年2%ずつ減ってゆく現象を、粋に表現した言葉。
熟成で生まれる独特の香りや味という奇跡に感謝し、その一部は報酬として天使にお返ししますという訳だ
予告編の印象では、不良がひょんな事から人生の師と出会い、それまで気づかなかった天賦の才を花開かせ、ウィスキーのテイスティングでサクセスする話かと思っていたが、なるほどさすがはケン・ローチ。
そんなストレートな感動物を鼻で笑う、社会派風味のプチ・ルパン三世的な、痛快泥棒コメディを作り上げた。

元々ウィスキーとはスコットランドの古語、ゲール語で「命の水」を意味する「uisce beatha」がなまったもの。
ハリーとの出会いによって、神秘的な名前を持つ琥珀色の液体に開眼したロビーは、自らも積極的に学んで舌と鼻を鍛えてゆく。
ウィスキーの世界で身を立てたい、そんな想いを抱いた頃、彼は偶然ある幻のウィスキーのオークションが開かれる事を知る。
それは酒好きなら名前は知っていても、実際に飲んだ者はほとんどいない、実在のウィスキー、モルト・ミル
1908年にピーター・マッキーによって、ラガヴーリン蒸留所の敷地内で創業されたモルト・ミル蒸留所は、二度の世界大戦や大恐慌を乗り越えたものの、1960年には操業を停止。
存続していた期間が半世紀と短く、蒸留所としても小規模だった上に、殆どがブレンデッド・ウィスキーに使用されたため、ピュアな状態で現存しているモルト・ミルは世界で僅か数本とも。
超稀少なウィスキー故に、もしも映画の様に一樽まるごと出てきたら、とんでもない金額がつけられるのは必至なのだ。
モルト・ミルの存在を知ったロビーは、社会奉仕活動で出会った三人の不良仲間とウィスキー・クラブをでっち上げる。
そして、オークション会場となる北部ハイランド地方の蒸留所に潜入すると、前夜のうちに樽の中味を盗み出し、オークションで落札出来なかった好事家に売り付ける計画を実行するのである。

本作の舞台となるのは、「マイ・ネーム・イズ・ジョー」や「やさしくキスをして」でもロケーションが行われたローチのフェイバリット・シティのグラスゴー
スコットランド最大の都市の中でも、主人公が住むのはパディ・コンシダイン監督の「思秋期」でも象徴的に描かれていた、低所得者向けの公営住宅街が広がるエリアだ。
グラスゴーは失業者の比率がスコットランドで最も高く、一度ネガティブスパイラルに陥った住人が、生まれ育った街を出てゆくのは容易な事ではない。
親の代から続くストリートギャングの対立によって、親が敵なら息子もまた敵という理不尽な理由で、物心ついた頃から訳もわからず喧嘩をふっかけられ、やがて暴力と犯罪の連鎖に染まってゆく。
そんな環境ではまともな教育を受ける事も難しく、導いてくれる様な大人もおらず、結果定職にも付けないまま、貧困は世代を超えて受け継がれ、階級社会は固定化される。
ロビーは、たまたま社会奉仕活動でハリーという良き指導者と出会う事が出来、自らの中に眠る才覚に気づいた事で、スパイラルに立ち向かう決意をするのだ。
過去に様々な社会問題を描いて来たローチは、悪人が心を入れ替え、善人となってサクセスする綺麗事の“良い話”ではなく、不良が世知辛い社会の秩序に抗い、不良の流儀で自分の人生にきっちりと落とし前をつける物語によって、現代イギリスに一石を投じるのである。

だが、酒好きとして唯一引っかかるのが、ロビーがボトル4本分を抜き取った後、減った分を誤魔化すために樽の中身に他の酒をブレンドしてしまう事だ。
ウィスキーを愛し、ウィスキーの世界で生きようとする人が、果たしてそんな事を出来るだろうかという疑問は残る。
もっとも、ロビーのウィスキー愛好歴はまだ浅く、好事家の感覚とは異なり貧困から脱出する手段に過ぎないのかも知れない。
またブレンドされた樽の落札者が、試飲してもその事に気づかない舌バカである事が露顕する描写は、本物を理解する能力も無いのに、ただ高価な物をありがたがる金満主義への痛烈な批判にもなっている。
盗み出したモルト・ミルの一本が、本当にそれが飲まれるべき相手の元へ、「天使の分け前」として密かに届けられるオチによって、物語として一応の筋は通っていると言えるだろう。
悪たれロビーとおバカな仲間たちの旅立ちを見送る、老匠ローチの厳しくも優しい眼差しに、考えさせられながらも、ほっこり爽やかな後味を感じられる良作である。

さすがに飲んだ事も見た事も無いモルト・ミルは無理なので、劇中エジンバラのテイスティング会で登場した「ラガヴーリン 16年」をチョイス。
ラガヴーリンはモルト・ミルを併合し、その蒸留釜を受け継いだ蒸留所であり、その味わいの一部は受け継がれているだろう、たぶん。
映画では「 実にエレガントなアイラ島のプリンス」と評されていたが、塩の染み込んだピートの効いたアイラモルトの独特の香りは、好きな人は病み付きになるが、結構好みが別れると思う。
正露丸のにおいとか、病院のにおいとか感じてしまい、受け付けない人は結構多い。
いずれにしても庶民が気軽に楽しめるのはこの位のお値段だよねえ・・・。
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