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オブリビオン・・・・・評価額1650円
2013年06月14日 (金) | 編集 |
忘却の、未来戦士。

トム・クルーズが、「トロン:レガシー」のジョセフ・コシンスキー監督とタッグを組んだSF大作。
スカヴと呼ばれるエイリアンに侵略され、人類は勝利したものの、荒廃した地球からの移住を余儀無くされる。
最後まで地球に残り、スカヴの残党の監視任務に就いているジャック・ハーパーは、ある日墜落した宇宙船から乗員の女性、ジュリアを救出した事から、自らと地球の運命に関わる重大な秘密を知ってしまう。
コシンスキー監督自身が手がけたコミックを原作とする物語は、過去のSF作品へのオマージュに溢れ、白を基調としたどこか70年代テイストのビジュアルデザインも美しい。
アイデンティティを巡る戦いも先を読ませずドラマチックに展開し、これは万人にオススメ出来る、なかなかにウェルメイドな一本である。
※完全ネタバレです。観る前に読まない事をオススメします。

地球が未知のエイリアン、スカヴの侵略を受けてから60年後。
人類は辛くも勝利したものの、核兵器の使用で地球の大半は汚染され、スカヴによって月が破壊されたために起こった天変地異によって、地上の文明は滅亡した。
残された人々は木星の衛星タイタンへの移住を決意、軌道上のステーション“テット”で暮らしながら、地球の海水から長旅の準備のために核融合燃料を製造中だ。
ジャック・ハーパー(トム・クルーズ)とヴィクトリア(アンドレア・ライズボロー)は、核融合プラントをスカヴの残党から守る監視任務のため、二人だけで最後まで地上にとどまっている。
ところがある日、墜落した旧式の宇宙船から、乗員のジュリア(オルガ・キュリレンコ)という女性を救出したジャックは驚く。
彼女こそ、ジャックの夢に繰り返し登場し、ミステリアスな微笑みを投げかける女性だったのだ。
一体彼女は何者で、どこからやって来たのか。
そして、誰もいないはずの地上で、ジャックを捕らえた謎の男ビーチ(モーガン・フリーマン)によって、遂に真実が明かされる・・・


ジョルジュ・メリエスが1902年に発表した、シーン構造を持つ最初の劇映画「月世界旅行」は、同時に史上初のSF映画でもあった。
ジョセフ・コシンスキー監督は、メリエス以来一世紀以上に渡って、映画史を彩ってきた古今東西のSF映画のモチーフを、解体した上でセンス良く組み合わせ、レトロモダンテイストのSF映画の快作を作り上げた。
こう言うと、「なんだパクリか」と思う人もいるだろうが、そもそも凡ゆる創作は先人の影響を何らかの形で受けている物であって、完全なスタンドアローンはあり得ない。
もちろん、出来上がった作品がパクリを超えて愛情あるオマージュに昇華されるには、センス・オブ・ワンダー溢れる創造性が不可欠で、これを欠いた作品は無残だ。
引き合いに出して申し訳ないが、例えば我が日本の「少林少女」は、数々の歴史的功夫映画の記憶を取り込みながらも、怒りを覚える程に劣化したコピー商品に堕落していた。

その点、コシンスキー自身が原作コミックから手がけた本作は、作り手の漲るSF愛がスクリーンに結実し、見事に成功した一本と言えるだろう。
トム・クルーズとアンドレア・ライズボロー演じるジャックとヴィクトリアのペアは、エイリアンの残党監視のために最後に地上に残された人類という事になっているが、彼らは機密保持のために、任務についた5年前から以前の記憶を消去されている。
ところが、ジャックの夢にはなぜか60年も前に消滅したニューヨークの風景、そして自分に向かって微笑む見知らぬ女性が繰り返し現れるのだ。
この辺りの情景は、地球に一人ぼっちで残されたロボットを描く「WALL・Eウォーリー」的でもあり、主人公の設定は「月に囚われた男」の様な、管理社会からの脱出を描いたディストピアSFを想起させる。
だが、このパーソナルな視点から、物語は謎が謎を呼ぶ形で展開し、宇宙船“オデッセイ号”の墜落事件、謎の美女ジュリアの登場、遂にはビーチ率いる人類のレジスタンス部隊との接触によって、世界観は急速に拡大するのである。

本作の大きなバックボーンになっているのは、SF映画史上の金字塔「2001年宇宙の旅」の反転ともいえる構造だ。
あの映画では、調査のために木星へ向かっていた宇宙船ディスカバリー号で、コンピュータのHALが反乱を起こし、コールドスリープ中の乗組員を殺害、難を逃れたボウマン船長がHALとの“星を継ぐもの”を選ぶ戦いに挑む。
最後に生き残った船長が、木星軌道上で巨大な謎の石板“モノリス”と出会って、人類を超越した“スターチャイルド”へと進化すまでを描く、壮大な宇宙の叙事詩である。

一方、本作が描くのは、もしもモノリス自体がHALと一体化し、人類を滅ぼすための存在となったとしたら、その後に何が起こるのか?という話だ。
木星に向かっていた宇宙船“オデッセイ号”はもちろん「2001年宇宙の旅」の原題「2001: A Space Odyssey」のもじり。
コールドスリープしていなかった二人、すなわちジャックとビクトリアは、モノリス=テットによって記憶を消去されたクローン人間として量産され、テットの攻撃から逃れて地上でレジスタンスする僅かに生き残った人類を、実際には存在しないエイリアン“スカヴ”として抹殺する任務を遂行させられているのである。
ジャックが自らの正体を知った時、彼はアイデンティティを賭けた戦いに身を投じる決意を固め、ここから映画は比較的コンパクトなシチュエーション物から、人類の存亡を巡るいかにもハリウッド的なSF冒険活劇へと大きく変貌するのだ。

それにしても、本作におけるコシンスキーの仕事は、ややぎこちなかった「トロン:レガシー」より遥かに良い。
前記した「2001年宇宙の旅」や「月に囚われた男」以外にも、人類のレジスタンス部隊のルックスや基地の描写、まん丸の戦闘ドローンとの峡谷での空中戦はもちろん「スターウォーズ:エピソードⅣ」だし、高所恐怖症なら悪夢に震えそうな、雲の上に突き出たジャックの家は「エピソードⅤ」のクラウドシティのミニチュア版だ。
ジャックが封印された過去に目覚めるのは「トータル・リコール」だし、テットを破壊するために敵陣深くに入り込むのは「インディペンデンス・デイ」を思い起こさせる。
126分間に散りばめられた豊富な映画的記憶は言わばSF全部入り、SF幕の内弁当だ。
しかしこれほど多くの要素をミックスしているにも関わらず、例えばタランティーノ映画の様にオマージュが突出する事なく、上手く統一された世界観に埋め込まれている。

また、過去の作品を新しい装いにまとめ上げるだけでなく、観客が世界に入りやすくするための細かな工夫を凝らしているのだ。
荒唐無稽に陥りがちなSF活劇を、劇中で印象的に使われるワイエスの絵画「クリスティーナの世界」や、レコードから流れるレッド・ツェッペリンの「ランブル・オン」、プロコル・ハルムの「青い影」と言った楽曲が、ぐっと現代の我々に近づける。
大草原を這って家を目指す女性を描いた「クリスティーナの世界」は、実在の女性をモデルした作品で、ポリオで歩行障害を持ちながらも、何にでも挑戦し自分でこなす彼女の逞しい生き様に感動したワイエスが描いた。
また「ランブル・オン」は、小説の「指輪物語」にインスパイアされた当てのない旅に出る男の歌で、どちらも本作のテーマを端的に示唆している。

「オブリビオン」は、非常に良くできた娯楽SFの秀作であるが、ではこれが本作がオマージュを捧げた「2001年宇宙の旅」や「スターウォーズ」に匹敵する映画史のエポックたり得たかというと、正直なところそこまでの高みには到達していなと思う。
既存の食材と調理法を駆使して、素晴らしい料理に仕上がっているが、全く新しい味わい=映画体験までにはなっていないのである。
とは言え、十分に楽しめる事は間違いなく、ジョセフ・コシンスキー監督の次回作も楽しみになった。
噂ではあのディズニーの「 ブラック・ホール」や「2300年未来への旅」のリメイク企画にも名前が上がっているらしいが、この路線ならピッタリかも。

今回は、廃墟のニューヨークが重要な舞台となっており、ヒロインはウクライナ出身のオルガ・キュリレンコ。
という訳でこの街の名を持つ、ウォッカベースのカクテル「ビッグ・アップル」を。
多目の氷を入れたタンブラーにウォッカを注ぎ、アップルジュースを適量加えて軽くステアし、最後にカットしたリンゴを飾って完成。
エンパイア・ステートビルの夜景でも眺めながら、ゆっくりと味わいたいロマンチックな一杯だ。

ところで、あのオチだとジュリアが暮らすジャックの理想郷には、そのうち記憶に目覚めたジャックのクローンがワラワラと押し寄せる事になるんではないか。
ちょっと今後の成り行きを心配してしまったが、一番可哀想なのは薄幸のヴィクトリアよ。

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