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さよなら渓谷・・・・・評価額1700円
2013年06月30日 (日) | 編集 |
それは愛なのか、それとも復讐なのか。

「悪人」「横道世之介」と、映画化が相次ぐ吉田修一の同名小説を元にした人間ドラマ。
緑豊かな田舎町で起こった一件の殺人事件から浮かび上がる、一組の“夫婦”の不思議な関係と15年前に起こったある出来事。
隠された秘密に迫る事件記者は、やがて女が心に秘めた狂おしい葛藤、そして男が誓った悲壮な覚悟を知ってしまう。
「ぼっちゃん」が記憶に新しい大森立嗣監督が、脂が乗った演出を見せれば、7年ぶりの映画単独主演となる真木よう子は、深い傷を負った女の心の機微を、繊細に表現し圧巻の名演。
彼女の内縁の夫を大西信満、二人の過去を追う事件記者を監督の実弟でもある大森南朋と鈴木杏が演じる。
※ラストと物語の核心に触れています。

東京郊外の山深い渓谷で子供が殺される事件が起こり、実母の立花美里(薬袋いづみ)が逮捕される。
一件落着かと思われたが、美里がアパートの隣人の尾崎俊介(大西信満)と不倫関係にあったと供述した事から、警察は俊介を殺人教唆の疑いで取り調べる。
最初は否定して俊介だが、内縁の妻のかなこ(真木よう子)が、美里との不倫を裏付ける証言をすると、一転して事件への関与を自供。
俊介に興味を抱いた週刊誌記者の渡辺(大森南朋)は、取材を進めるうちに彼が15年前にある事件を起こしていた事、そしてかなこの驚くべき正体を知ってしまう・・・


冒頭、真昼間から情事にふける俊介とかなこ。
曇りガラスの向こうからは、住宅地にはそぐわない喧騒が聞こえてくるが、その声が何なのかはまだわからない。
だが、アパートの玄関が開きカメラが引くと、敷地の外には無数の報道陣が取り巻いており、その中をパトカーが何台もやって来る。
内と外、静と動の鮮やかなトランスフォームのなんと映画的な事か!
大森立嗣監督はどんな題材を撮っても、映画のダイナミズムを存分に感じさせてくれる。

本作は、前半と後半で大きく語り口を変える。
物語の発端は、山の渓谷で起こった殺人事件だ。
殺された子供の母親が容疑者として逮捕されるが、彼女がアパートの隣人の尾崎俊介と不倫していたと供述。
しかも俊介の内縁の妻のかなこが、その事を裏付ける証言をした事から、警察は俊介を事件の黒幕として拘束するのである。
週刊誌記者の渡辺は、俊介の過去を取材するうちに、彼がとんでもない秘密を抱えている事を知ってしまう。
それは15年前に、名門大学の野球部で起こった女子高生集団レイプ事件。
選手として将来を嘱望されていた俊介は、この事件によって大学を追われるが、その後何とか社会復帰を果たし、就職もし、恋人もいた。
ところが、彼は突然全てを捨てて、この山深い田舎に移って来たのである。
それは一体なぜなのか?15年の間に何があったのか?
映画の前半は、俊介と同じく挫折した元スポーツ選手という経歴を持つ渡辺の視点で、ミステリータッチに展開する。

そして、渡辺らを驚愕させるのが、キーパーソンであるかなこの正体。
実は彼女こそ、15年前のレイプ事件の被害者なのである。
一体、かなことは何者なのか。
なぜ彼女は“妻”として、自分を犯した男と暮らしているのか?
再び俊介を犯罪者にしようとする、彼女の証言は真実なのか?
もし嘘なら、俊介はなぜ証言を認めたのか?

映画の後半は、運命の悪戯によって再会したかなこと俊介が、やがて極限の愛憎を抱えた奇妙なパートナーとなるまでの、情念渦巻く旅を描くロードムービーへと姿を変える。
二人の関係は、犯罪の被害者が加害者と長く時を過ごす事で、加害者に親しみを感じるストックホルム症候群とも少し違う。
レイプ事件の被害者故に、世間の偏見と不寛容に晒されたかなこは、自ら命を絶とうとするまでに追い詰められ、一方の俊介も、ごく普通の幸せを目前にしながら、過去の罪の意識から逃れられないでいる。
かなこは自分の肉体も心も人生もメチャメチャにした俊介を恨み、彼は自らの犯した罪の重みに苦しみ、贖罪の機会を欲している。
再び二人が出会った時、女は荒涼とした風景の中を、凍えながらいつまでも歩き続け、男は何も言わずに女のあとをずっとついて行く。
この旅のシークエンスはそのまま彼らの心象の世界でもある。
お互いを突き刺す二人の感情はいつしか領域を侵食する蔓植物の様に絡みつき、常識では考えられない心の化学反応を起こし、激しく求め合うのだ。

レイプの様な性犯罪の場合、加害者を第三者が糾弾する事は多いが、被害者の心に寄り添って考える人はあまりいないのではないかと思う。
なぜなら加害者の心理、自分が理性を押し殺し、欲望の箍をはずしたならば、どう行動するかという(if)の想像はそれほど難しくはない。
そしてもしも罪を犯した時、その事実をどう捉え、感じるかもある程度想像できるからこそ、殆どの人はその痛みを耐え難く感じ、日常へと踏み止まるのだろう。
本作の語り部である渡辺が、経歴のかぶる俊介から事件へとアプローチするのも、彼の事を理解しやすいからである。
だが、被害者の気持ちはどうだろう。
せいぜい「かわいそう」「運が悪かったね」と同情する位ではないか。
たとえ性犯罪でなくても、自分が凶悪な犯罪に巻き込まれ、一生消えない心の傷を負った時の事など、正直言って私は全く想像できないし、実際にこういった犯罪の被害者の気持ちがわかるなどとはとても言えない。

おそらくは原作由来だと思うが、本作のかなこに対するスタンスも、一定の距離を保ったままで、彼女の心の内面には決して入り込もうとはしない。
後半のかなこの視点で語られる過去の物語も、あくまでも記者の渡辺が聞き取った内容であって、彼女自身が何を思い、何を考えていたのかが明らかになる訳ではないのである。
かなこが「私たちは、幸せになるために一緒にいるわけじゃない」と思わず吐露した言葉の意味も、いく通りもの解釈が可能だ。
そしてこの映画は、分からないことに無理に結論を出さない。
もしも15年前に戻れるなら、事件を起こしてかなこと再会する未来(つまりは現実)と、事件を起こさないでかなことも関わり合の無い未来のどちらを選ぶか?という渡辺が俊介に投げかける究極の問いも、彼女の本心を知り得ないからこそ成立する。
はたして、人間は深すぎる傷を超えて、憎しみの対象を愛する事が出来るのだろうか。
それとも、つかの間の夫婦生活は、かなこによるある種の復讐だったのだろうか。
俊介のかなこへの気持ちもまた、愛だったのか、それとも贖罪の延長だったのか。
まことに、人間の心とは不可解なものである。

本作は、奥多摩と思しき地を舞台としたビターな人間ドラマ。
ロケ地にもほど近い青梅市の地酒、小澤酒造株式会社の「澤乃井 純米大辛口」をチョイス。
純米酒らしいまろやかなふくらみと華やぐ香り、そしてピリリと引き締まった辛口の味わいが、絶妙な味のバランスを形作る。
渓谷で涼やかな川の流れを見ながら、川魚でも肴にしていただきたいお酒だ。
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