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キャプテン・フィリップス・・・・・評価額1700円
2013年12月06日 (金) | 編集 |
生きる為の、極限の四日間。

2009年、ソマリア沖で実際に起こった海賊事件の顛末を、ポール・グリーングラス監督が映画化した骨太のサスペンス映画。
事件当時海賊の人質となったリチャード・フィリップス船長が、ステファン・タルレイと共著した回顧録「A Captain's Duty」を、社会派ドラマを得意とし「ニュースの天才」などで監督としても知られるビリー・レイが脚色している。
134分の上映時間は、前半が海賊襲撃によるパニック編、後半が救命艇に立て籠る海賊vsアメリカ海軍の手に汗握るレスキュー編と綺麗に二等分。
前後それぞれが一つの映画の様にキッチリと構成され、一粒で二度おいしい。
元々ジャーナリスト出身のグリーングラスの演出も、十八番のハンディカメラを駆使し臨場感たっぷりで、存分に持ち味を発揮している。
※ラストに触れています。

リチャード・フィリップス(トム・ハンクス)は、長年世界の海を駆け巡って来た生粋の船乗り。
新たな任務はマークス・アラバマ号の船長として、アデン湾からケニアのモンバサに向う航海の予定だった。
だが、航路となるソマリア沖は、海賊が出没する世界で最も危険な海だ。
フィリップスの不安は的中し、船は海賊に襲撃され、彼も人質にとられる。
だが、隠れていた船員たちが反撃、海賊の一人アブディワリ・ムセ(バーカット・アブディ)を捕える事に成功。
船員と海賊の交渉の結果、互いの人質を交換し、海賊たちは救命艇で船を離れる事に合意する。
だが、身代金がほしい海賊たちはフィリップスを解放せず、彼を乗せたまま救命艇を海に落下させる。
ソマリアに向かう小さな救命艇の中には、四人の海賊と人質のフィリップス。
事件の発生を受け、アメリカ海軍はフィリップス救出の為に、艦隊を差し向けるが・・・・


大陸の東端に張り出し、アフリカの角と呼ばれるソマリア沖の海域は、30年に及ぶ内戦による無政府状態の結果、海賊が跋扈する無法の海と化してしまい、毎年多くの船が襲われている。
海上自衛隊を含む多国籍海軍の艦隊が護衛や取り締まりを行っているものの、小さなボートを駆って広大な海の上で活動する全ての海賊を把握するのは難しく、隙間を突かれて襲撃される船は今も後を絶たない。
多くの場合、海賊に乗っ取られた船はソマリアの港へと回航され、海賊と保険会社が船や人質の開放について交渉するが、中には船側の抵抗にあい、目論見が失敗する場合もある。
本作のベースになっているのもその一つで、今から4年前の2009年に、アメリカ船籍のコンテナ船、マークス・アラバマ号がシージャックされた事件だ。

ポール・グリーングラスのスタンスもいつもの通り。
映画に強いメッセージを込めるのではなく、その時起こった事、人々の選択を、サスペンスフルに、しかし淡々と描き、それをどう捉えるかは観客一人一人に委ねるというものだ。
そのために、グリーングラスは物語のバランスを崩さない範囲で、可能な限りのインフォメーションを作品に盛り込み、物事の対照性を形作っている。
それは前記したような前半と後半の対比もそうだし、巨大な貨物船と小さなボート、大国と小国、襲う者と襲われる者など多岐にわたる。
マークス・アラバマ号へと海賊のボートが迫る中、フィリップスとアブディワリ・ムセがお互いの姿を双眼鏡で眺めるシーンは極めて象徴的だ。
これら全編にわたる対照性で物事を比較する事によって、観客は本作を一級のサスペンス映画として楽しみつつも、フィリップスや海賊たちと同じ救命艇に乗り合わせた様な臨場感を感じ、この事件をどう捉えたらいいのか、自分ならどの様な選択をしただろうかと自問自答するのだ。

映画の冒頭、マークス・アラバマ号の出航準備の対照として、海賊側の事情も描かれる。
彼らは最初から海賊だった訳ではなく、元は平凡な漁民たち。
だが外国の大型漁船が根こそぎ魚を獲っていった結果、漁場は枯渇し彼らの貧弱な道具では十分な漁獲量は見込めない。
更には内戦中に各地に勃興した軍閥や武装組織によって村々が搾取される構図の中で、やむなく海賊行為に手を染めているのだ。
たとえ保険会社から何百万ドルせしめたとしても、その殆どは軍閥の“ボス”に吸い上げられ、末端の海賊たちにはほとんど残らない。
だから、海賊が“ソマリア沿岸警備隊”を自称し、マークス・アラバマ号から“税”を徴収するのだという主張は、彼らの立場になればある程度正当化できるのである。

とは言え、映画は海賊に対して感情移入を誘っている訳ではない。
いわゆるハリウッドのお約束的な、登場人物のヒューマニズムをことさら強調する様な要素は本作には皆無だ。
この世界の厳しい現実として、海賊側の事情も客観的に描かれはするが、彼らを過度に人間的に造形して、主人公と心を通じ合ったりはしない。
あくまでも船長目線で、起こった事だけを描き、それ以外の要素は補完的インフォメーションに留めるという原則は、最後まで貫かれている。
海賊行為は海賊行為であって、彼らにどんな事情があろうと、それは被害者にとってはどうでもいい事なのである。
唯一、フィリップスは年少の海賊には同情的な言動をしているが、これは同じ年頃の子を持つ親心と見るべきだろう。

映画は、事実と同じように、救命艇の海賊たち三人が特殊部隊SEALSによって射殺、フィリップスは無事救出され、交渉の為に米軍艦艇にいたアブディワリ・ムセは逮捕という結末を迎える。
身代金を得たらその金でアメリカに行くんだ、と無邪気に語ってたアブディワリ・ムセは、夢とは異なる形でアメリカへと送られ、今後30年塀の中だ。
この事件だけを見れば、持たざる者たちが、持てる者から奪おうとしたが、失敗して破滅したという単純な事象に過ぎないかもしれない。
だが、世界は固定化されてはいないのである。
映画の冒頭、空港へ向かうフィリップスが妻と交わす会話に出てくる「これからはサバイバルの時代だ」という言葉がキーだ。
彼は、グローバル経済という激烈な競争社会に生きる息子の行く末を案じ、僕たちの時代は良かったけど、彼らは大変だという意味で使うのだが、まさか直後に自分自身がサバイバルするとは夢にも思っていなかっただろう。
フィリップスはサバイバルに勝ち抜き、海賊たちは敗れた。
しかし、今持てる者が未来永劫そうだとは限らない。
実際、ホンモノのフィリップスは、当時の船員たちに自分たちを危険に晒したと訴訟を起こされているらしいし、人生一寸先はわからないものだ。
私たちとソマリアの海賊たちの境遇が入れ替わる時だって、いつの日にかやって来るかもしれないのである。

フィリップスを演じるトム・ハンクスが、圧倒的に素晴らしい。
特に後半の密室劇で、ギリギリの緊張感に疲弊してゆく様、そしてクライマックスとなるラスト10分の極限状態の演技は、まるで本物の事件現場に立ち会っているようなリアリティを感じさせ、全く見事だ。
そして全員がオーディションで選ばれ、これが映画デビューという、海賊キャストの存在感。
どう見てもホンモノじゃないの?というくらいの彼らの熱演が、この作品に一層のリアリティと深みを与えている事は間違いないだろう。
細部に至るまで、誠実に作られた秀作である。

今回は、シージャックされなければ、フィリップス船長が辿り着いていたはずの目的地、ケニアのビール「タスカー」をチョイス。
日本でもアフリカ系レストランでお馴染みのケニアNo.1銘柄だが、暑い国のビールの例に漏れず、麦芽の風味を効かせつつ、ドライでとても飲みやすい。
いかにもアフリカらしい象のラベルもかわいいが、アフリカ料理だけでなく、意外と和食にも合うのだ。

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