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ショートレビュー「ふたりのアトリエ~ある彫刻家とモデル・・・・・評価額1650円」
2013年12月11日 (水) | 編集 |
芸術を巡る命の物語。

世界を戦争の嵐が吹き荒れる時代。
創作意欲を失った老彫刻家が、あるモデルとの出会いで再び心に火をつけられる。
フェルナンド・トルエバ監督作品という以外、殆ど予備知識無しで鑑賞したのだが、主人公の老彫刻家マーク・クロスのキャラクターは、どうやら20世紀前半のフランスを代表する彫刻家、アリスティド・マイヨールをイメージしている様だ。
名前をはじめ人物の詳細はかなり異なっているが、劇中で制作している作品はマイヨールの初期の代表作「地中海」そのもの。
だとすると、クロスの創作魂を復活させるモデルのメルセは、マイヨール最後のミューズであるディナ・ヴィエルニーなのだろうか。
まあ「地中海」の時のモデルは、まだヴィエルニーじゃないんだけど、その辺りは映画的な脚色という事だろう。
モノクロの中に豊かな季節の彩を感じさせる、ダニエル・ビラールのカメラが素晴らしい。
シンプルな空間設計で知られるマイヨールの美学、特に純白の石膏像を制作するまでのプロセスを表現するのに、むしろ色という要素を削り落としたのは正解に思える。

舞台となるのは第二次大戦下、スペインとの国境近くのフランスの片田舎だ。
世界的に知られた彫刻家だが、長い間インスピレーションを得ることが出来ず、創作活動をしていなかったクロスは、妻が町で見つけてきたメルセの若い肉体に魅了される。
メルセは隣接するスペインのカタルーニャ地方出身で、スペイン内戦でフランコ軍の支配から逃れて国境を越えて来てるという設定だ。
意欲も希望も失ったクロスの心情と、陰鬱な戦争の時代という物語の背景がうまくシンクロしている。
ドイツの占領に対して、連合軍の反攻が始まった頃に、クロスはメルセという最高のモチーフを得て、再び創作への熱い想いを取り戻す。
彫刻家の想像力が無生物の石や粘土に命を与える用に、運命的に現れたミューズによって老いた彫刻家は再び命を吹き込まれたのだ。
一方のメルセにとっても、クロスとの出会いは人生の転機となる。
田舎娘の彼女は、もともと芸術の素養など無いが、彫刻家の手から新たな美が生み出されてゆく秘密を目の当たりにし、自らもその一部として体験する事で、未知の世界へと惹き込まれてゆく。

ふたりは、負傷したレジスタンスのピエールを匿ったり、ドイツ軍人でクロスの旧友のヴェルナーの突然の訪問を受けたりしながらも、山のアトリエでいまだこの世に存在しない美を追求し続ける。
だが、作品が少しずつ完成に近づくと共に、戦争も終わりへと近づく。
それは、若者たちが自由で平和な大空へと飛び立てる時代の到来であり、メルセもまたクロスの元から旅立つ事を意味する。
おそらくは人生最高の作品の完成と同時に、愛したモデルが去った時、老いたる創作者はどう生きれば良いのか。
作品がアトリエから運び出され、メルセは一人自転車で都会を目指す。
クロスの人生を刻んだ、二つの愛と美の結晶が彼の元から旅立つ時、彼の下す選択が心に鋭く刺さり、そしてジワリと余韻を残す。
創作者にとって、命は一つではない。
彼の魂は、メルセや未来に作品を鑑賞する人々によって、永遠に継承されてゆくのである。
これは芸術と命の循環に関する、切なく、美しい作品だ。

今回は、メルセの出身地であるカタルーニャのカヴァ「ディボン ブリュット ロサド」をチョイス。
グルナッシュ種100%で作られるスパークリングは、きめ細かな泡が勢いよく立つ。
甘い香りと、適度な酸味をもつフレッシュな味わいもなかなか。
庶民的なお値段を考えればビックリするくらいのクオリティで、クリスマスのお供にもピッタリだ。

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ショートレビュー「もらとりあむタマ子・・・・・評価額1600円」
2013年12月11日 (水) | 編集 |
いつやるの?今じゃない!

とことん本気出さない女、タマ子の(ほぼ)何もせず(ほぼ)何も起こらない一年を描く人間ドラマ。
ぶっちゃけ、ドラマチックな展開は何も無く、ただただひたすら寝て食って漫画読んでるタマ子の日常と、周りの人たちとの関係が描かれるだけ。
それでも85分の尺を退屈する事なく過ごせてしまうのは、スクリーンの中のキャラクターにリアリティと説得力があるからだ。

これを平成の小津と言ってしまったら褒め過ぎだろうか。
だが、庶民の日常の風景を淡々と捉え、その中で起こるほんの小さな葛藤や、心情の変化を実に映画的に写し取る山下敦弘監督の映像センスは、ここに来て絶妙のバランスを見出したように思える。
前作の「苦役列車」では、まだエキセントリックな主人公のキャラクターという特殊性があったが、本作のタマ子はある意味超のつく凡人だ。
大学を卒業しても就職もせず、実家のスポーツ用品店に戻ってダラダラと自堕落な生活を送り、就活すらやる気のないパラサイトニート。
いや、唯一ちょっとやりたい事はあるのだが、それはタイトルロールを演じる前田敦子のセルフパロディとしてのある職業(笑

舞台となる甲府の四季の風景が効いている。
この街を舞台にした映画といえば、地方の産業空洞化や外国人移民が直面する問題を扱った富田克也監督の「サウダーヂ」が記憶に新しいが、同じ街を舞台にしていても、あくまでもパーソナルな本作に流れる空気はだいぶ異なる。
夏から始まった物語が秋、冬、春と巡り、再び夏がやってきても、結局タマ子は本質的に何も変わらない。
ただ、男やもめの父に訪れた新たな出会いとか、パシリに使ってる近所の中学生の恋と失恋とか、回りの人々の人生との関わりで、少しだけ背中を押されて、先に進んでみようかなとは思っている。
もっとも、モラトリアム期間が終わって実家を出たとしても、たぶん彼女のやる気のないキャラクターはあまり変わらない気がする。
まあ人生なんてドラマチックな変化はそうそう起こるものではないし、たとえ明日やるべき事があろうがなかろうが否応なしに時間は進み、世界も自分も少しずつ変わってゆくのである。

タイトルロールの前田敦子がビックリするくらい良い。
ドラマの「幽かな彼女」の教師役でも思ったが、この人は“気怠い雰囲気でやる気の無い役”を演じさせたら、今日本一かも知れない。
山下監督は「苦役列車」でも彼女を魅力的に撮っていたが、ショットによって可愛くもなるしブスにも見える愛すべきキャラクターを良くわかっている。
前田敦子の持つ雰囲気は、現代の綺麗どころというよりは、なんとなく昭和50年代頃の映画女優を思わせる。
彼女には是非この昭和な女路線で、大きな花を咲かせてもらいたい。

今回は、舞台となる甲府盆地の登美の丘ワイナリーの「甲州 2012」をチョイス。
国産ワインは中身は欧州産のブレンドが多いが、こちらは甲州種100%。
フワリとした優しい柑橘系の香りと、ドライでありながらしっかりとした複雑な果実味を持つ。
ホリディシーズンにふさわしい華やかなイメージの一本だ。

ところで、エンドクレジット後におまけがあるから急いで席を立たないように。
ある意味一番ビックリなシーンで、やっぱ大物だと思ったわ(笑

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