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MUD-マッド-・・・・・評価額1700円
2014年01月24日 (金) | 編集 |
14歳、まだ愛を知らず。

ある日突然世界の終わりを予感し、庭に巨大なシェルターを作り始める男を描いた異色の心理サスペンス、「テイク・シェルター」の成功で注目された俊英、ジェフ・二コルズの最新作。
アメリカ南部を流れるミシシッピ川を舞台に、少年が中州の森に潜伏する謎の男“MUD(マッド=泥)”と出会い、不思議な縁によって惹かれあう。
少年はひと夏の間、逃亡者であるマッドとその恋人、マッドの育ての親、離婚の危機にある自らの両親ら大人たちとの関わりを通して、“愛”という不可思議な感情の秘密を知ってゆくのである。
瑞々しい思春期の成長物語と、大人たちの多様な愛のドラマ、そしてニューシネマ的なアウトローの逃亡劇が生み出すサスペンスがバランスよく融合し、娯楽映画として上々の仕上がりだ。
おそらく今のハリウッドで一番南部の田舎が似合う男、タイトルロールを演じるマシュー・マコノヒーが素晴らしい。

14歳のエリス(タイ・シェリダン)は、アーカンソー州の川に浮か古びたボートハウスに両親と暮らしている。
ある朝、彼は親友のネックボーン(ジェイコブ・ロフランド)と共に、ミシシッピ川の中州に向かう。
中州の森の木の上に、大洪水の時に流出したボートが引っかかっているのをネックボーンが見つけたので、二人の秘密の場所にするつもりだったのだ。
ところが、ボートには思わぬ先客がいた。
マッド(マシュー・マコノヒー)と名乗った男は、恋人のジュニパー(リース・ウィザースプーン)をここで待っているという。
何者かに追われて身を隠しているらしいマッドは、少年たちに食べ物を持ってきてくれと頼む。
最初は怪しんでいた二人も、次第にこの奇妙な男に惹かれてゆくのだが、街にはマッドを追って怪しげな男たちも現れて、不穏な空気が漂いはじめる・・・


「スタンド・バイ・ミー」的な青春の通過儀礼を描いた寓話であり、同時にマーク・トウェインの小説を彷彿とさせるアメリカ南部の“川の文化”に関する作品でもある。
エリスとネックボーンと迷信深く、かつ勇敢なマッドの関係に、トム・ソーヤとハックルベリー・フィン、逃亡奴隷のジムを連想した人は多いのではないか。
またこれは、山ではなく低地のヒルビリーを描いた、もう一つの「ウィンターズ・ボーン」とも言えるだろう。
舞台となるアーカンソー州は、あの映画でジェニファー・ローレンスが苦闘していたミズーリ州の南隣で、オザーク山地が州を跨いで繋がっている。
エリスの家の対岸のボートハウスに住むマッドの育ての親トムは、ブランケンシップというスコットランド系に多い姓を持つ。
つまりマッドもまた、世代を超える貧困にあえぐ遅れて来たスコットランド系移民の子孫、ヒルビリーの出身なのである。

実質的な主人公であるエリスの一家、親友のネックボーンも同様に経済的には恵まれていない。
両親のいないネックボーンは、川で貝の潜水漁をしているおじと小さなトレーラーハウスで暮らしているが、日々の暮らしに精一杯。
一方、古いボートハウスに暮らすエリスの家族は、崩壊の危機にある。
こちらも川で魚を獲って細々と食いつないでいるものの、経済的に先の見えない状況に母親は陸に上がって暮らす事を決意し、川の生活にこだわる父親とは毎日喧嘩ばかり。
今まさに初恋の炎が燃え上がろうとしているエリスには、愛し合って結婚したはずなのに、別離を口にする両親の心は理解できないのだ。
そんな時に、臆面もなく一人の女への一途な純愛を口にし、彼女を辱めた男を撃ち殺して追われているマッドの存在は、エリスには愛の純粋さの象徴の様に感じられるのである。

しかし、彼はまだ“愛”というシンプルな言葉に隠された本当の意味、人が人を想う気持ちの複雑さを知らない。
ニコルズは、マッドとの関わりを軸にして、ひと夏の間エリスに幾つもの愛の形を体験させてゆく。
「一生を船で過ごすのは嫌だ」と言う母親は、少年から見れば川で生計を立て川を愛する父と自分を捨てようとしている様に思える。
憧れていた上級生には、ファーストキスを捧げるものの、後から彼女から自分は真剣な恋愛対象ではなかったという残酷な事実を告げられる。
女性の愛に不審を募らせるエリスには、困難を承知でマッドと共に逃亡しようとするジュニパーは、言わば理想を体現する最後の砦。
ところが彼女もまたマッドを裏切り、彼がそれを受け入れて二人の間を終わりにしようとする時、エリスは遂に複雑怪奇な愛という感情の深層に足を踏み入れざるをえない。
本作に描かれるのは、男女の愛だけではない。
将来を巡る葛藤を繰り返す両親、ネックボーンを心配する叔父、マッドを叱り付けるトム、そして息子の仇としてマッドを付けねらうファミリーも、彼らなりの愛に突き動かされて行動している。

ゆったりとした流れを湛える大河ミシシッピは、文字通りそこに暮らす人々の人生の流れそのものだ。
ずっと中州に留まったまま、人は生きてゆく事は出来ないのである。
物語の始まりの時点で、最も原初的な愛しか知らなかったエリスは、自分自身の経験、そして大人たちの様々な愛の形を目撃する事で、その奥深さを知り、最後にはお互いを想い、愛するがゆえに別かれる、という選択肢を認められる程には成長しているのだ。
同時に、泥の色の大河に投げ込まれた、少年の「愛とは一体何なんだ?」というピュアな問いは、彼と向き合った大人たちの人生にも小さな波紋を生じさせ、皆それぞれに少しずつ生き方を変えてゆく。

タイトルロールのマコノヒーだけでなく、全てのキャスティングが絶妙に決まっている。
エリスを演じるタイ・シェリダンのナイーブな存在感、ネックボーンのジェイコブ・ロフランドの凜とした面構え。
珍しくはすっぱなファムファタールを好演している、リース・ウィザースプーンも新境地だ。
トム役のサム・シェパードと、マッドを追い詰めるファミリーを率いるジョー・ドン・ベイカーの二人の危険な“父”に至るまで、殆どキャラクターは皆当て書きなのではないかというくらいに、他の俳優を想像できないハマリっぷり。
サム・シェパード以外の人がクライマックスのアレをやったら、下手すりゃギャグになってしまうだろう。
しかしジェフ・ニコルズ、長編三作目にしてこれ程の作品を作り上げるとは、やはり恐るべき才能である。

今回は南部の物語という事でバーボンを。
ケンタッキー州クラーモント産の、コストパフォーマンス抜群の庶民の酒「ジムビーム ホワイト」をチョイス。
マイルドなテイストで飲みやすく、そのままストレートやロックでも、カクテルベースにしても美味しい。
ジムビームは先日160億ドルという巨額買収でサントリーの傘下に入ったが、どうやら日本限定のバーボンなども出してくる模様。
こちらの動きも楽しみだ。
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