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ショートレビュー「リアリティのダンス・・・・・評価額1650円」
2014年08月02日 (土) | 編集 |
ああ、幻の故郷よ!

鬼才アレハンドロ・ホドロフスキー、実に23年ぶりの新作映画。
1990年の「The Rainbow Thief」以降資金的に恵まれず、もっぱらコミック原作者として活動していたホドロフスキーは、先日公開された、幻の映画「DUNE」の舞台裏を巡るドキュメンタリー、「ホドロフスキーのDUNE」の撮影でプロデューサーのミッシェル・セドゥと再会し、再びタッグを組む事が決まったという。
本当に久々の映像作品ではあるが、虚構と現実が入り混じる外連味たっぷりのホドロフスキー節は健在。
今回は冒頭でいきなり作者本人が登場し、これが自らの歴史に関する自伝的物語であることを強く印象付ける。
※ラストに触れています。

銀幕に映し出されるホドロフスキーの幻影の故郷は、細長いチリの北部に位置する海沿いの街トコピージャ。
軍事政権下の子供時代、彼はこの田舎街でウクライナ系ユダヤ人商人の父ハイメと母サラの元に育つ。
マイノリティの移民であるハイメは、名誉欲が強く、息子のアレハンドロにも英雄的な男に育つ様にと厳しくあたるのだが、麻酔なしで歯の治療をさせるなど、かなりサディスティックな人物に造形されている。
対照的に、なぜか全ての台詞がオペラ調の歌唱になっているサラは、息子を自分の父の生まれ変わりと信じ、父に似せるために金髪巻き毛のカツラを被らせ、溺愛する。
私の知る限り、総じてラテンアメリカの男はお母さんを聖母マリア並みに崇拝していて、超がつくほどのマザコンが多いが、ホドロフスキー作品の母親像も非常に特徴的。
本作と世界観やキャラクターに共通する要素の多い「サンタ・サングレ/聖なる血」は、サディストの父に両腕を斬り落とされた母に、主人公が操られて連続殺人を犯す物語だったが、息子と母の近親相姦すら思わせる強烈な絆の深さは本作のアレハンドロとサラも同様だ。

映画の前半は、トコピージャでのアレハンドロとエキセントリックな両親の関係を軸にした、奇妙ではあるが日常の風景。
しかし、少年にとってプチ独裁者だった父は、やがて妻子を捨てて摩訶不思議な大冒険へ旅立つのである。
共産党員であった彼は、クーデターでチリを掌握した本物の独裁者、イバニェス大統領を暗殺するために、首都サンティアゴを目指すのだ。
映画の後半の大部分を占めるハイメの奇妙な旅は、ある種の貴種流離譚の様でもあり、遠い故郷ではアレハンドロ少年と聖母サラが英雄の帰還を待っている。
前半部分はある程度ホドロフスキーの少年時代のリアリティをベースにしていそうだが、遠い過去はもはや、物語の進行と共に虚構とダンスを踊り、映画的神話と融合してゆく。

物語のラストで、アレハンドロ少年は船でトコピージャを離れる。
この後彼はサンティアゴからメキシコを経てパリへと移り、やがてカルトな演劇、映画で世界の注目を集める様になる訳だが、その全ての原点を今一度見つめ直し、少年時代から心の奥底に抱えてきた傷を、自らを癒したのが本作と言えるだろう。
作者のトラウマと家族の愛が入り混じり、記憶の中の懐かしい人々との束の間の邂逅は、今はもうこの世にはいない魂へのレクイエムの様だ。
しかし、映画の中での現実が全て色あせた過去へと姿を変え、この此岸の地から“あの頃”と“今”のホドロフスキーが去ってゆく哀愁に満ちたラストカットは、なんと言うか、私にはホドロフスキーからこの世への辞別の挨拶に思えてならなかった。

映画で世界を変えようとした鬼才も、もう85歳。
年齢的にいっても、これはやはり23年ぶりにして、集大成のつもりなのかも知れない。
まあクリント・イーストウッドとか大林宣彦とか、語りたい事が多過ぎるのか、遺作ぽい作品を何本も作ってる人もいるから、願わくばホドロフスキーもそうであって欲しいけど。

今回は、ホドロフスキーの故郷チリのビール、「ソット ネグラ スタウト」をチョイス。
世界有数のワインどころとして知られるチリだが、ビールの種類も結構豊富。
この銘柄も最近国内でも見かけるようになったが、炒った大麦と一緒に醸して造り、瓶内二次醗酵するダークな一杯。
非常に香ばしく、苦味と共に様々な風味が楽しめる。
さすが異色の才能を生んだ国だけあって、良い意味でクセはあるが、飲みやすいスタウトだ。

それにしても、嘗ては知る人ぞ知る存在だったはずのホドロフスキーがこれほど日本で持てはやされるとは、なんだか隔世の感がある。
23年もの間作品が無かったのだから、普通なら逆に忘れ去られてもおかしくないと思うのだが、一体この間に何が起こったのだろうね??
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