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プロミスト・ランド・・・・・評価額1650円
2014年08月29日 (金) | 編集 |
何を、約束されたのか?

監督ガス・ヴァン・サント、主演・共同脚本マット・デイモンという、名作「グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち」のコンビが再びタッグを組んだヒューマンドラマ。
シェールガス革命に沸くアメリカの片田舎を舞台に、町を丸ごと買収するために送り込まれたエネルギー開発会社の社員が、賛成派・反対派の住民との交流を通じて、自らの人生を見つめなおしてゆく。
人はなぜ、生まれ育った土地に愛着を感じるのか?生きる上で本当に大切なものは何か?
様々な自己矛盾を抱え込んだ主人公の成長ものとして優れた作品であり、同時に物語を通して、観る者の価値観を鋭く問われる作品だ。
※ラストに触れています。

大手エネルギー開発会社グローバルの社員、スティーブ(マット・デイモン)は、シェールガスを埋蔵する地域を丸ごと買収するのが仕事。
自らも農村出身で、“田舎のメンタル”を熟知している事もあって、順調に出世を重ねている。
同僚のスー(フランシス・マクドーマンド)と訪れたマッキンリーもまた、町は寂れ、住人たちは貧困にあえいでいて、簡単に説得できそうに思えた。
しかし公聴会で、輝かしい経歴を持つ元科学者のフランク(ハル・ホルブルック)の述べた反対意見に多くの住民が同調。
開発の可否は、三週間後に住民投票にかけられる事になってしまう。
スティーブは、何とか住民に溶け込み、賛成票を広げようとするのだが、環境団体のダスティン(ジョン・クラシンスキー)も町に乗り込んできて、徐々に旗色は悪くなってゆく・・・


社会派の問題を巧みにパーソナルなヒューマンドラマの枠組みに包み込み、娯楽映画として非常に観やすく作られている。
地下数千メートルの古い堆積地層に含まれるシェールガスは、北アメリカ大陸の全域に存在する事が分っていたものの、大量に取り出す術が無かった。
だが、21世紀に入ってから、化学物質を加えた高圧の水で地層に亀裂を生じさせる水圧破砕法による抽出が可能となった事で、アメリカは一躍世界有数の天然ガス大国に躍り出る。
シェールガスによるエネルギー革命は、米国の原発依存率を低下させ廃炉が相次ぐ一方、地下水の汚染や、地層の破壊による小規模地震の頻発など新たな問題も作り出しているのは本作に描かれたとおり。
とはいえ、これはよくある環境か開発かの二者択一の話ではない。
いや、一応開発に反対する環境保護主義者も出てくるけど、この映画は開発会社vs環境団体という単純な構図では終わらない。
終盤物語に驚きの一捻りを加えてくるのだけど、これには唸らされた。

主人公のスティーブは、農村部の出身。
それ故にアメリカの田舎が抱える問題を、自分自身の痛みとしてよく知っている。
大規模な農業は補助金塗れで、農村の経済は農家によって支えられている訳ではない。
スティーブの故郷は、近郊にあった機械メーカーのキャタピラーの工場が閉鎖された結果、廃墟同然に廃れてしまったのだ。
一次産業の農村の未来を握っていたのは、実は二次産業の工場だったのである。
だから彼は、自分たちをマッキンリーにとってのキャタピラーだと思っている。
グローバルは何も無い土地に金を落とし、産業を興し、住民たちに農業以外の未来を与える救世主だと。
ただし、それはマッキンリーの人々に、大きすぎるリスクを負わせる可能性がある事を、スティーブは知らない。
いや実際はうすうす気付いてはいるが、その事を自らの中で封じ込めているのである。

タイトルの「プロミスト・ランド(Promised Land )」には様々な意味が込められている様に思う。
元々は、旧約聖書の中で神がイスラエルの民に与えると約束した土地の事。
しかし今この地上に暮らす殆どの人々にとっては、今自分が住んでいる、あるいは先祖代々一族が住んでいる所こそがプロミスト・ランドだろう。
マッキンリーの人々にとっては、そこが神に定められた故郷なのだ。
もしもシェールガスの開発によって土地が汚染され、住む事が出来なくなったとしたら、彼らは神から授かった約束の土地を追われる事になる。
一方のスティーブは、経済的な破綻によって既に故郷を失った人間だ。
だからこそ、彼は金こそが“約束”を守ると信じ込んでいるのである。

結局のところ、一人ひとりの選択の問題なのだ。
もしも開発をしなかったとしたら、果たしてどうやって生計を維持する?
逆に開発をしたとして、深刻な環境破壊が実際に起こったらどうする?
本作がすばらしいのは、単に環境か開発か、金の問題に矮小化せずに、人間が生きる上での大地との根源的な関わりを物語のコアに持ってきた事だ。
まあ金によって、その土地を捨てて、自由な人生を生きるというチョイスもあるだろうが、基本的土地に留まる事を前提とするなら、プロミスト・ランドを生かすのも殺すのも、そこに生きる人間次第。
もちろん人間の活動には、少なからず環境破壊は避けられない。
だからこそ、豊かさなのか、命なのか、何を判断基準にするのか、本作の物語を通して、スティーブやマッキンリーの住人と共に、観客もまた生き方のプライオリティを問われているのである。
映画の冒頭からラストまで、マッキンリーの町を鳥瞰した空撮映像が度々出てくるが、これは言わばこの美しい大地に暮らす人々の営みを見守る、神の視点だろう。
人々が大いなる意思によって約束された土地に住んでいるのだとしたら、人々もまたその土地を守るために内なる神に約束をしなければならない。

ワンポイントのイッシューを取り上げながら、その根本となる人間の心の問題に踏み込んだ事で、本作は普遍的な示唆に富む作品となった。
映画ではシェールガスがモチーフとなっているが、この映画に描かれる葛藤は、エネルギー問題から安全保障、社会福祉まで、実に幅広い事象に当てまめる事が可能である。
都市の為に犠牲となる田舎とか、補助金無しで立ち行かない農業などの背景も、そのまま日本社会の問題に置き換えられるし、観ていてどうしてもマッキンリーが福島に、シェールガスが原発に思えてならなかった。
アメリカだけでなく、日本でも世界でも、プロミスト・ランドを失った無数の人たちがいる。
文明を維持するには一定の資源は必要だし、地球から何かをいただくというのは、他の何かとのトレードオフに他ならない。
それでも、もしも選択を迫られたら「生きてゆく上で、一番大切なのはなんですか?」と自分の胸にもう一度聞いてみよう。
そして、どこまでを許容するのか、心の声に従おう。
そんな事を考えさせる、実に教育的、啓蒙的な作品でありながら、人間味たっぷりの共感できる主人公を軸とし、彼に感情移入させる事で、全く説教臭さや偽善性を感じさせないのは見事だ。
シェールガスの開発ラッシュに沸く米国では、残念ながら大きな成功は収められなかった様だが、これはむしろ日本でこそ、より切実なリアリティを感じさせる秀作である。

今回は、キリン「ハートランドビール」をチョイス。
都営地下鉄で御馴染みの、東京都のシンボルマークなどで知られるデザイナー、レイ吉村による美しいグリーンのボトルには、シカゴにあったという大樹がエンボスで描かれており、国産ビールには珍しく、瓶と樽でしか販売されていない。
ポップの効いたクセのない軽めのピルスナーで、映画の後味と同様に爽やかで瑞々しい。
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