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0.5ミリ・・・・・評価額1700円
2014年11月27日 (木) | 編集 |
この世界は、人生のモザイク。

流浪の押しかけヘルパー、山岸サワの人生の冒険を描く、上映時間実に197分に及ぶ大長編。
監督・脚本は安藤桃子、主演は妹の安藤サクラ、父親の奥田瑛二がエグゼクティブ・プロデューサーを務め、劇中に出てくる美味しそうな料理の数々は母親の安藤和津が担当と、安藤家総動員のファミリー・ムービーでもある。
はたして「0.5ミリ」という奇妙なタイトルの意味するところは何か?
老人介護というシリアスな題材を描きながら、ユーモラスで魅力的なキャラクターたちが織り成す人間ドラマは実にパワフルでウィットに富み、普通の映画2本分の長さを全く飽きさせないのだから大したものだ。

介護ヘルパーの山岸サワ(安藤サクラ)は、ある日派遣先の片岡家で、介護対象の昭三(織本順吉)の娘・雪子(木内みどり)から、「冥途の土産に、一晩お爺ちゃんと寝てほしい」という依頼を受ける。
もちろん、会社の規定ではそのような事は禁止されているが、昭三は殆ど寝たきりで、身動きもままならない。
サワは添い寝するだけ、という条件で了承するも、予期せぬ大事件に巻き込まれてしまう。
規定違反がバレて会社はもちろんクビになり、寮も追い出された上に、財布まで無くしたサワは、カラオケボックスでトラブっていた老人・康夫(井上竜夫)を、頼まれもしないのに無理やり助け、一晩のねぐらを確保する。
これに味を占めたサワは、街で老人たちを観察し、何か問題を抱えた老人の押しかけヘルパーになろうとするのだが・・・・


映画は変則的な四部構成となっている。
第一部は、ヘルパーのサワが、老人との添い寝という規則違反の仕事を引き受けてしまった事で、予想外の事件に巻き込まれ、職を失って流浪のホームレス人生を始めるイントロ部分。
ここは後述する様に、最終第四部と対の構造となる。
金なし、家なし、仕事なしの彼女が見つけた生きる道が、訳あり老人の弱みに付け込んで脅し、無理やり家に上がりこむという押しかけヘルパー。
ぶっちゃけ、やってる事は結構えげつないのだけど、強引でありながら基本思いやりと優しさがベースにあるサワの行動によって、老人たちはいつしか癒され、自らの終の生き方を変えてゆく。

物語上の役割という点では、サワは所謂“狂言回し”に近いが、老人たちとの暮らしが、やがて秘めたる静かな葛藤を抱えたサワ自身の生き方にも、大きな影響を与えてゆくのである。
押しかけヘルパーの対価は、つまり飯とねぐらという訳なのだが、彼女は一人の老人と出会い、別れる度に、まるで昔話の「わらしべ長者」の様に、何か一つのアイテムを譲られるのだ。
第一部で寮を追い出された上に、電車に上着を忘れ一文無しとなってしまったサワは、若干ボケが入った老人の康夫と偶然出会い、一晩カラオケボックスで盛り上がる。
そして翌朝の別れ際に、康夫は上着がなくて寒そうにしている彼女に、自分のコートをそっと着せる。
彼女は失ったものを、一晩の共有体験によって取り戻すのだ。

第二部で、彼女のターゲットとなるのは、元自動車修理工の茂。
彼には遠く離れて暮らす娘がいるが、子供の世話にはなりたくないと、意地をはって一人暮らししている。
しかし孤独から来るストレスに苛まれ、他人の自転車を盗んだり、壊したりして気分を紛らわせている現場をサワに抑えられ、家に上がり込まれる羽目になるのだ。
ところが、アホの坂田師匠が素晴らしい好演を見せる茂を狙っているのは、彼女だけではない。
昭和なボロ屋に暮らす一見パッとしない茂だが、実はコツコツとためた一財産を持っており、投資詐欺グループに狙われている。
無防備に相手を信用してしまっている茂を見かねて、サワは訪ねてきた詐欺犯相手に大立ち回りを演じてみせるのだ。
茂が求めていたのは、他者と自分の“人生の重なり”
詐欺犯との重なりは孤独が作り出した偽りの絆だったが、サワとの間に本物の重なりを感じた茂は、彼女に自分の宝物を譲って、終の住処へと去ってゆく。
それは昭和を代表する名車、いすゞ117クーペ、しかも希少な初期のハンドメイドモデル。
たぶん車の価値など知らなそうなサワは、茂が丹精込めて整備したエンジンの鼓動を感じながら、再び流浪の旅にでる。

そして第三部で彼女が転がり込むのは、エロ写真集を万引きしようとした、元教師の義男先生の邸宅だ。
男やもめの茂とは違って、義男は認知症を患って寝たきりの妻と二人暮らし。
定期的に通ってくる正規のヘルパーを雇う余裕もあるが、地位も名誉もあるプライドの高い男ゆえに、もはや自分が社会に必要とされない存在であることを認められず、勉強会で教えていると嘘を行っては、出勤するフリをしている。
彼もまた、新たなる重なりを求め、サワとの暮らしに微かな喜びを見出してゆくのである。
だがやがて義男もまた認知症を発症し、嘗て海軍の軍人であった頃の記憶のループに陥ってしまうと、サワの居場所はまたも失われてしまう。
このエピソードで、サワが義男からもらう物は何か?
それは実にワンカット7分に及ぶ独白で語られる、戦争に纏わる義男の記憶そのものであり、彼女自身がおそらくは無意識に考え始めた、自分自身の生き方を見つめる新たな視点である。
サワはなぜヘルパーという仕事を続け、見ず知らずの老人たちと暮らしているのか。
その先に一体何があるのか。

最終の第四部。
サワが転がり込む先は、老人の家ではない。
物語の冒頭部分で、自らもその崩壊の一因となった片岡家の一人息子、マコトと再会したサワは、彼が父親と二人で暮らしている廃墟のような家に居候する。
マコトの父の健は、まだ老人というほどの歳ではないが、造船所で働いていると嘘をいっては、資源ごみを拾い集めてのその日暮らし。
僅かな収入は飲んでしまい、長年会っていなかったマコトは一言も言葉を発せず、意思の疎通もない。
マコトや健もまた、重なりを失った、あるいは重なりを拒否した人々なのである。
そして片岡家に隠されていたある秘密を知った時、サワは本物の自分をとりもどす決意をしたマコトと共に、次なる人生の旅路に踏み出してゆく。

物語を通じて、狂言回しであるサワ自身の葛藤は具体的には語られない。
しかし彼女は、197分の間に確かに感じ取るのである。
この世界に命を授かった無数の人々の人生は、それぞれにほんの少しずつ触れ合い、折り重なって、モザイクの様にこの社会を、いや世界を形作っている。
一人ひとりの重なりはたった0.5ミリくらいかもしれないが、そのほんの僅かな絆がなければ、人は生きてゆけないのである。
だから彼女は、自分よりもずっと長い時間を生きて、沢山の人と重なってきた老人たちをリスペクトし、彼らの秘められた思いを受け取り、ある意味で居場所を探すもう一人の自分であるマコトと共に、未来へと旅立つ。
「死ぬまで生きよう、どうせだもん。」という本作のコピーに込められた、生きること、生き抜くことの意味を探して。

主人公のサワを演じる安藤サクラが素晴らしく、キャリアベストと言って良い好演。
さすが姉さんは実の妹の生かし方をよく知っているし、妹も姉の映画に魂を与えている。
坂田師匠や津川雅彦ら、老優たちの人生の年輪を感じさせる演技も味わい深い。
上映時間の長大さを感じさせない大力作、パワフルな人間ドラマだ。

本作の舞台は高知県で、監督も高知在住。
今回は高知を代表する地酒、「酔鯨 純米大吟醸 山田錦」をチョイス。
銘柄は自ら「鯨海酔侯」と名乗った幕末の土佐藩主、山内豊信に因んだもの。
米の味わいを堪能できる、土佐の辛口の王様、もとい殿様。
フルーティな吟醸香も爽やかだ。
これからの季節は海鮮鍋料理などと共に、冷でいただきたい。

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