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イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密・・・・・評価額1750円
2015年03月19日 (木) | 編集 |
彼が本当に作りたかったモノとは。

第二次世界大戦下、解読する事は不可能と考えられていたドイツ軍の暗号マシン、エニグマの謎に挑んだ英国の天才数学者、アラン・チューリングを描く歴史ドラマ。
何百万もの兵士たちが、血と硝煙に塗れて戦いに明け暮れていた頃、実は世界の運命は人類を超える能力を持った、たった一人の男によって握られていた。
今日では、コンピューターの誕生に、重要な足跡を残した男として知られるチューリングは、一体秘密の実験施設で何を作り上げたのか。
戦後も半世紀に渡って国家機密として封印された、孤独な天才の数奇な人生の真実は、極めてスリリングで、あまりにも哀しい物語だ。
脚本家としてのデビュー作となった本作で、いきなりオスカーを獲得したグレアム・ムーアーの脚色がまことに秀逸。
監督はノルウェー出身で、これが英語圏進出第一作となるモルテン・ティルドゥムが務める。
※核心に触れています。

1951年、マンチェスター。
数学者のアラン・チューリング教授(ベネディクト・カンバーバッチ)の家が何者かに荒らされ、警察が捜査に当たるが、チューリングは何も盗まれていないと言う。
非協力的な態度と謎めいた経歴から、担当のノック刑事(ロリー・キニア)からソ連のスパイではないかと疑がわれたチューリングは、取調べを受ける事になる。
ノック刑事と対峙したチューリングは、戦争中にブレッチリー・パークで働いていた頃の事を語りだす。
1939年9月、イギリスがドイツに宣戦布告すると、新進気鋭の数学者だったチューリングは、ドイツの暗号マシン、エニグマの解読チームに配属される。
ドイツ軍の全ての指令はエニグマによって暗号化され、連合軍はいまだその解読に成功していなかった。
他のメンバーが旧来の解読手法を試みる中、彼はマシンに対抗できるのはマシンだけだと主張し、膨大な計算能力を持つ巨大な暗号解読機の開発に着手するのだが・・・


人類の歴史は暗号の歴史と言っても過言ではなかろう。
人間が一定の数集まれば、そこに秘密が生まれ、秘密を隠しつつ確実に伝えるために暗号が発明された。
既に古代エジプト文明では、特殊なヒエログリフを使った暗号文が使われていたというし、ギリシャ文明になると革紐に文字の断片を書き、それを特定の太さの棒に巻きつけると文章が浮かび上がるスキュタレーが考案される。
その後も暗号は、時に軍事や政治の秘密を守るために、時にはゲームの一種として発展し、現在研究されている量子暗号に至るまで、数千年に渡って暗号の考案者と解読者のいたちごっこが続いているのである。
もちろん、全世界がネットワークで繋がる21世紀では、国家から個人レベルまで、暗号化による情報保護が、社会を維持するのに不可欠な要素となっているのは、言うまでもない事だろう。

そして暗号史の中でも、ひときわ有名なのがドイツ軍が運用した暗号マシン、エニグマだ。
ヨーロッパの戦いを描く戦争映画では、しばしば重要なキーアイテムとなり、2001年にはそのものズバリ「エニグマ」という作品も作られている。
もっとも、エニグマ自体は第二次大戦時に突然出てきた物ではない。
原型機は第一次世界大戦が終わった1918年に発明され、ナチス以前の1925年には早くもドイツ軍に正式採用された。
エニグマ対策も早くから試みられており、初期型に関しては隣国のポーランド当局が解読に成功している。
本作でも、チューリングらが手にするエニグマはポーランドから送られた物とされていて、実際ポーランドの蓄積した情報が無ければ、エニグマを解読するには更に数年かかったと言われているのだから、現実は映画の様に全てがイギリス人による功績ではないのだ。
だが、ドイツ軍はその後も改良を加え、第二次世界大戦が始まる頃には10人が24時間働き続けても、設定パターンの組合せを調べ終わるのに2000万年かかるという怪物マシンになっているのである。

そしてこの怪物を倒す為に雇われたのが、怪物並みの頭脳を持つ男、アラン・チューリングという訳だ。
ドイツ軍は毎日午前0時にエニグマの設定をリセットするので、解読に使える時間は翌日の暗号文が傍受され始める午前6時から0時までの毎日約18時間。
彼は最初から人力に頼った解読は不可能と考えていて、マシンを破るためのマシン、エニグマの設定パターンを全て調べ上げる事の出来る、超パワフルな自動暗号解読機を作ろうとする。
本作を観る前は、このマシンを作り上げるまでの、「プロジェクトX」的なサクセスストーリーなのかと思っていたが、そうではない。
いやもちろん、映画の大筋はチューリング率いる解読チームとエニグマの静かなる戦いであり、その時点で存在していない物の力なり魅力なりを、他人に理解してもらう事がいかに難しいかという、物作りの葛藤も描かれている。
しかし、物語が進むにつれて、チューリングがなぜエニグマに挑んだのか、彼が本当に作りたかったモノは何なのかが、徐々に浮き彫りになってくるのだ。

映画は、1951年のマンチェスターを起点に、戦時中のブレッチェリー・パークでの苦闘の日々、そしてチューリングが寄宿学校の生徒だった十代の頃、三つの時系列を行き来しながら並行に語って行く。
物語の面白さを生み出しているのは戦時中のパートだが、テーマの核心が隠されているのは十代の頃の記憶と50年代の“今”である。
アラン・チューリングという人物は、とにかく空気が読めない人として描写されており、言ってる事はいちいち合理的で正しいのだけど、その言葉が他人を傷つけたり、不要な軋轢を作り出すということがどうにも理解出来ない様なのだ。
彼の思考や行動を見ていると、どこか「ソーシャル・ネットワーク」のマーク・ザッカーバーグを思い出すが、二人ともアスペルガー症候群の気があるのかも知れない。
そしてもう一つ、チューリングが隠し持つ秘密は、彼が同性愛者だという事である。
今でこそ性的マイノリティーに寛大なイギリスだが、当時は重大なタブーであり、世間にバレれば社会的な地位も名誉も失うだけでなく、犯罪者として処罰されてしまう。
他人の気持ちを十分に感じられず、なおかつ同性しか愛せないチューリングが、周囲から孤立した存在になるのは時代を考えれば必然とも言える。

一般には、“Bombe”として知られている暗号解読機に、チューリングは“クリストファー”という名前をつけて擬人化している。
クリストファーとは、その生来の気質から、寄宿舎でイジメの対象になっていた思春期のチューリングの、唯一の親友にして初恋の人の名前。
だが、この恋が成就する事は無かった。
不治の病を患っていたクリストファーは、チューリングの愛の告白を聞く前にこの世を去ってしまうのだ。
以来、初恋に破れたチューリングは、本当の意味では誰の事も愛せず、誰からも愛されないまま人生を歩んできたのである。
そう、おそらくが彼が無意識のまま欲していた最終目標は、完全なる機械の友だちを作り、自らの手でクリストファーを蘇らせる事だったのだろう。

エニグマの秘密を解き明かしたBombeは、今日の我々が“人工知能”と呼ぶ機械を作り上げる通過点。
しかしながら、単一機能とはいえ人類の能力をはるかに上回るマシンの出現は、いわばオーパーツである。
ドイツ軍の暗号を全て読み解いたマシンが見せるのは、自分たち以外の誰も知り得ない未来だという事に気付いたチューリングと仲間たちは、あまりにも重過ぎる十字架を背負わされる。
誰を見殺しにするのか、誰を生かすのか、どこに偽情報を流すのか。
軍人でも諜報のプロでもない彼らは、ドイツ軍にエニグマが解読された事を気付かせないまま、数学的確率によってヨーロッパの戦場を神の様にコントロールする、悪魔の計算を終戦まで続けるしかないのである。
しかもその研究は国家機密として封印され、ある意味世界の運命を決める重責を背負いながら、その偉大な功績を世間の誰も知らないという不条理。

本作のタイトル「イミテーション・ゲーム」とは、1950年にチューリングが考案した、機械に思考があるかどうかを判定するテストの事。
人間と機械が、それぞれに隔離された状態でディスプレイ上の文章などで会話を交わし、人間が相手を機械だと分からなければ、その機械には知性があるという事になる。
歴史上数々のコンピューターが挑んできたこのテストで、史上初めての合格例が出たのは、チューリングが孤独と絶望のうちに自らの命を絶ってから61年後の2014年の事である。
これは、戦争がもたらした残酷な運命と、性的なマイノリティーへの理不尽な弾圧によって人生を狂わされながらも、初恋の幻影を追い続けた男の、あまりにも哀しく切ないラブストーリーだ。
もしも生まれる時代が数十年後だったら、チューリングは幸せになれたのかも知れないし、あの時代に彼がいなかったとしたら、今日の世界はまるで違っていたかも知れない。
確実なのは、我々は今チューリングの影響下にある社会に暮らしていて、それほど遠くない未来に、彼が夢見た“クリストファー”は姿を現わすだろうという事である。

今回は、英国人も大好きなアイルランドの代表的黒スタウト、「ギネス・エクストラ・スタウト」をチョイス。
250年以上に渡って、世界の飲んべえを魅了してきたクリーミーな泡が特徴だが、この泡を缶ビールで実現するため、缶の中に入っているフローティング・ウィジェットという小さなプラスチックのボールは、英国人が考える20世紀の最も重要な発明品の一つなのだそうな。
エニグマを倒す巨大暗号解読機から、ビールを美味しく飲むためのアイディア商品まで、人間の創造力というのは本当に無尽蔵だ。
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