2015年03月29日 (日) | 編集 |
太陽と月を探して。
今年が二回目となる東京アニメアワードフェスティバルの長編コンペ部門に出品され、優秀賞を受賞した素晴らしいフランスのファンタジーアニメーション。
本国ではこの春公開予定の大作だが、洋アニの墓場、日本での正式公開は例によって現時点で未定の模様。
しかし、これほどの作品が公開されないのはあまりに勿体無いので、大スクリーンでの再会の期待を込めて、ご紹介したい。
舞台は惑星の周りを太陽と月が周回する、天動説の不思議な世界。
様々な種族が平和に繁栄するこの世界では、太陽と月は壮大なスケールを持つ二頭の巨大な神獣に繋ぎとめられ、彼らがゆっくりと大地を歩いてゆくことで昼と夜が巡っている。
太陽と月には異常が無いように見張る守護者がいて、彼らは神獣と共に暮らし、年老いると代替わりするのだが、後継者は実際に交代するよりもだいぶ以前に内定し、それぞれが守護者となるのに必要なスキルを身につけるべく訓練をつんでゆく。
ところが今回の交代では、太陽の守護者は予定通り強靭な肉体を誇るソーホンに決定するも、月の守護者に全く予想外のひ弱なミューンが選ばれてしまう。
そしてこの継承の混乱に乗じ、惑星の支配を狙う何者かによって太陽が盗まれ、暗闇に閉ざされた世界では月までもが輝きを失って死んでゆく。
責任を感じたミューンとソーホンは、ひょんな事から行動を共にする事になった蝋の体を持つ少女・グリムと共に、太陽を取り戻し月を再生する大冒険に出るのである。
タイトルロールのミューンの造形は牧神のイメージなのだそうだが、デザイン的にはどことなく「ダーク・クリスタル」のゲルフリン族を思わせ、妖精的な雰囲気だ。
彼は実は特別な力を秘めているが、自分を気弱で凡庸な存在と思い込んでいるために、その力を発揮できないでいる。
一方、マッチョで岩石の様な体を持つソーホンは、自信家でプレイボーイと分りやすい好対照。
盗まれた太陽の奪還という目的は同じでも、それぞれが抱いている葛藤が別種なので、キャラクターとしての成長ポイントも異なり、物語が単調に陥るのを防いでいる。
そして二人のチョイダメ男たちの間に入り、むしろストーリーの展開を主導するのは快活で聡明な少女・グリム。
このハーマイオニー的なキャラクターは、デザインもかわいくて魅力的なヒロインなのだが、秀逸なのがその全身が蝋で出来ていて、特定の温度以下では凍りつき、以上では溶けて死んでしまうという設定。
この昼と夜の狭間にだけ生きられる、ある意味で非常に儚い生命の存在が、ミューンとソーホンの“男の子”としての成長を後押しし、冒険を大いに盛り上げるのだ。
「カンフー・パンダ」や「アズールとアスマール」などのアニメーターとして知られるアレクサンドル・ヘボヤン監督と、本作の脚本家でもある共同監督のブノワ・フィリッポンは、「ダーク・クリスタル」から「スター・ウォーズ」そして「太陽の王子ホルスの大冒険」や「ハウルの動く城」といった日本のアニメーションまで、様々な作品から映画的な記憶を抽出しながら、非常に洗練された新たな世界観を再構築している。
おそらく本作を観る観客は、キャラクターのデザインや設定などのディテールに幾つもの既視感を抱くはずだが、それらが組み合わさった作品全体ではむしろ強い未見性を感じるだろう。
異世界を舞台としたハイファンタジーは、観客に「この世界に行ってみたい」と思わせたらもう半分成功したようなものだが、本作はその点において満点に近く、ユニークで美しい世界観を楽しむだけでも十分に観る価値がある。
基本豊かな立体感を持つ3DCGで作られている映像が、ミューンが夢の世界に入ると、そこだけ味わいある手描きアニメーションになるのも面白い表現だ。
「Mune, le gardien de la lune(ミューン、月の守護者)」は、ある世界の神話的ターニングポイントを物語る壮麗なエピックファンタジーであり、まだ可能性を開花させていない若者たちの成長を描いた寓話的冒険物語でもあり、なにより老若男女だれもが楽しめる素晴らしい娯楽映画だ。
全世界で大ヒットした傑作「ヒックとドラゴン2」が、日本ではDVDスルーなのが話題になっているが、世界には他にも優れたアニメーションが沢山ある。
残念ながら大半の日本人は、“アニメ”は知っていても“アニメーション”は知らない。
こんなところまでガラパゴス化して欲しくは無いのだけれど、本作とは是非とも劇場で再会したいものである。
今回は月の守人の物語なので「ブルー・ムーン」をチョイス。
ドライ・ジン30ml、クレーム・ド・バイオレット15ml、レモンジュース15mlをシェイクしてグラスに注ぐ。
幻想的な紫が美しく、ビターなジンにレモンの酸味の組み合わせがクールさを演出する。
本来ブルー・ムーンとは、暦の関係で3ヶ月間に4度の満月がある場合、その3番目の満月の事。
めったに無い事なので、歴史的には凶兆とされてきたが、現代ではむしろ吉兆で見ると幸せになれるのだそうな。
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今年が二回目となる東京アニメアワードフェスティバルの長編コンペ部門に出品され、優秀賞を受賞した素晴らしいフランスのファンタジーアニメーション。
本国ではこの春公開予定の大作だが、洋アニの墓場、日本での正式公開は例によって現時点で未定の模様。
しかし、これほどの作品が公開されないのはあまりに勿体無いので、大スクリーンでの再会の期待を込めて、ご紹介したい。
舞台は惑星の周りを太陽と月が周回する、天動説の不思議な世界。
様々な種族が平和に繁栄するこの世界では、太陽と月は壮大なスケールを持つ二頭の巨大な神獣に繋ぎとめられ、彼らがゆっくりと大地を歩いてゆくことで昼と夜が巡っている。
太陽と月には異常が無いように見張る守護者がいて、彼らは神獣と共に暮らし、年老いると代替わりするのだが、後継者は実際に交代するよりもだいぶ以前に内定し、それぞれが守護者となるのに必要なスキルを身につけるべく訓練をつんでゆく。
ところが今回の交代では、太陽の守護者は予定通り強靭な肉体を誇るソーホンに決定するも、月の守護者に全く予想外のひ弱なミューンが選ばれてしまう。
そしてこの継承の混乱に乗じ、惑星の支配を狙う何者かによって太陽が盗まれ、暗闇に閉ざされた世界では月までもが輝きを失って死んでゆく。
責任を感じたミューンとソーホンは、ひょんな事から行動を共にする事になった蝋の体を持つ少女・グリムと共に、太陽を取り戻し月を再生する大冒険に出るのである。
タイトルロールのミューンの造形は牧神のイメージなのだそうだが、デザイン的にはどことなく「ダーク・クリスタル」のゲルフリン族を思わせ、妖精的な雰囲気だ。
彼は実は特別な力を秘めているが、自分を気弱で凡庸な存在と思い込んでいるために、その力を発揮できないでいる。
一方、マッチョで岩石の様な体を持つソーホンは、自信家でプレイボーイと分りやすい好対照。
盗まれた太陽の奪還という目的は同じでも、それぞれが抱いている葛藤が別種なので、キャラクターとしての成長ポイントも異なり、物語が単調に陥るのを防いでいる。
そして二人のチョイダメ男たちの間に入り、むしろストーリーの展開を主導するのは快活で聡明な少女・グリム。
このハーマイオニー的なキャラクターは、デザインもかわいくて魅力的なヒロインなのだが、秀逸なのがその全身が蝋で出来ていて、特定の温度以下では凍りつき、以上では溶けて死んでしまうという設定。
この昼と夜の狭間にだけ生きられる、ある意味で非常に儚い生命の存在が、ミューンとソーホンの“男の子”としての成長を後押しし、冒険を大いに盛り上げるのだ。
「カンフー・パンダ」や「アズールとアスマール」などのアニメーターとして知られるアレクサンドル・ヘボヤン監督と、本作の脚本家でもある共同監督のブノワ・フィリッポンは、「ダーク・クリスタル」から「スター・ウォーズ」そして「太陽の王子ホルスの大冒険」や「ハウルの動く城」といった日本のアニメーションまで、様々な作品から映画的な記憶を抽出しながら、非常に洗練された新たな世界観を再構築している。
おそらく本作を観る観客は、キャラクターのデザインや設定などのディテールに幾つもの既視感を抱くはずだが、それらが組み合わさった作品全体ではむしろ強い未見性を感じるだろう。
異世界を舞台としたハイファンタジーは、観客に「この世界に行ってみたい」と思わせたらもう半分成功したようなものだが、本作はその点において満点に近く、ユニークで美しい世界観を楽しむだけでも十分に観る価値がある。
基本豊かな立体感を持つ3DCGで作られている映像が、ミューンが夢の世界に入ると、そこだけ味わいある手描きアニメーションになるのも面白い表現だ。
「Mune, le gardien de la lune(ミューン、月の守護者)」は、ある世界の神話的ターニングポイントを物語る壮麗なエピックファンタジーであり、まだ可能性を開花させていない若者たちの成長を描いた寓話的冒険物語でもあり、なにより老若男女だれもが楽しめる素晴らしい娯楽映画だ。
全世界で大ヒットした傑作「ヒックとドラゴン2」が、日本ではDVDスルーなのが話題になっているが、世界には他にも優れたアニメーションが沢山ある。
残念ながら大半の日本人は、“アニメ”は知っていても“アニメーション”は知らない。
こんなところまでガラパゴス化して欲しくは無いのだけれど、本作とは是非とも劇場で再会したいものである。
今回は月の守人の物語なので「ブルー・ムーン」をチョイス。
ドライ・ジン30ml、クレーム・ド・バイオレット15ml、レモンジュース15mlをシェイクしてグラスに注ぐ。
幻想的な紫が美しく、ビターなジンにレモンの酸味の組み合わせがクールさを演出する。
本来ブルー・ムーンとは、暦の関係で3ヶ月間に4度の満月がある場合、その3番目の満月の事。
めったに無い事なので、歴史的には凶兆とされてきたが、現代ではむしろ吉兆で見ると幸せになれるのだそうな。

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