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ショートレビュー「恋人たち・・・・・評価額1700円」
2015年12月17日 (木) | 編集 |
それでも、明日はやって来る。

「ぐるりのこと。」の橋口亮輔監督、7年ぶりの最新作は、厳しい日常を生きる三人の男女を主人公としたオムニバス的な構造の人間ドラマ。
妻を通り魔殺人で失い、橋梁点検の仕事をしながら裁判を模索する青年、アツシ。
アツシの担当弁護士で、親友に密かな恋心を抱く同性愛者でもある、四ノ宮。
自分に無関心な夫、相性の悪い姑と暮らす主婦の瞳子。
境遇は全く違えど、皆どこにでもいる市井の人々。
直接的にはほとんど絡まない3つの物語の主人公は、共に「一番幸せだった頃」が過去になってしまった人たちだ。

ある人物の独白から始まるドラマは、三者三様の展開を見せる。
妻を救えなかった罪悪感に苛まれるアツシは、精神的ショックから仕事が出来なくなり、経済的に困窮。
刑法39条「心神喪失者の行為は、罰しない。心神耗弱者の行為は、その刑を減軽する」。
この規定によって、通り魔が刑罰を受けないという理不尽な現実に抗うために、ようやく橋梁点検の仕事につき、犯人に対して損害賠償訴訟を起こそうとしているが、その準備は遅々として進まない。
アツシの訴訟を安請け合いしたエリート弁護士の四ノ宮は、思わぬ事故に遭い入院。
同性愛者の彼は、学生時代からの親友に密かに想いを寄せているが、ある時彼の子供に性的ないたずらをしたと誤解されてしまう。
一方、弁当工場で働く瞳子は夫と姑と3人暮らしだが、夫は自分を性のはけ口としか見ておらず、姑とはどうにもウマが合わない。
彼女は、誰にも関心を持たれない平凡すぎる自分の対極にいる、洗練されたプリンセスに憧れを募らせ、突然現れた怪しげな男の誘いにのり、閉塞した日常からの脱出を決意するのだ。
彼、彼女らの葛藤は、それぞれに共感できる部分と出来ない部分がある。
長所も欠点も、リアルな人間たちのリアルな人生を強く印象付け、観客の誰もが物語のどこかに自分自身の姿を見るだろう。

なぜ自分にだけ不幸が降りかかるのか、どうしたら人に自分の気持ちを分かってもらえるのか、自分の本当の居場所はどこなのか。
ただ幸せを求めて、喪失を埋め合わせようと、閉塞を打ち破ろうと、抗えば抗うほどに現実に打ちのめされる。
通り魔への訴訟はご破算となり、長年の秘めたる恋はやぶれ、人生をかけようとした男はジャンキーの詐欺師。
黒田、という隻腕の登場人物がいる。
嘗て左翼過激派として活動し、自らの腕を爆弾で吹き飛ばしてしまった彼は、同僚のアツシの爆発しそうな葛藤を受け止め、不器用ながらも誠実な言葉を返してくれる。
人間、誰でも心に大小の爆弾を抱えていて、この映画はある意味自分自身を映す鏡であり、同時に内なる黒田との対話でもある。
どん底に落ちた三人の葛藤の締め括りは、冒頭の対となるそれぞれの独白だ。
彼らの人生にご都合主義の奇跡は訪れないが、ほのかなユーモアが物語が暗くなり過ぎるのを救い、今ある世界の暗闇に僅かな光を見出すラストは余韻が長く残る。

橋梁点検のため、首都高下の河川を行くアツシの目に映るのは、ビルと道路で切り取られた小さな、小さな四角い青空。
それでも、そこに確かに青空はあるのだ。
3つの物語で、タイトルの「恋人たち」とは誰か。
生きる事の意味を、じっくりと考えさせてくれる重厚な秀作だ。

今回は庶民の酒「ハイボール」をチョイス。
グラスにたっぷりの氷を入れ、ウィスキーを注ぐ。
できればグラス、ウィスキー、ソーダとも冷やしておきたい。
溶けた分の氷を足して、ウィスキー1に対してソーダ3を加え、炭酸が抜けないようマドラーで一回だけスッと混ぜる。
お好みでレモンピールで香りをつけると、よりスッキリした印象になる。
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