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スティーブ・ジョブズ・・・・・評価額1700円
2016年02月20日 (土) | 編集 |
創造主の心の中味。

天才が天才を描いた本作、なるほどさすがの仕上がりである。
2011年に死去したAppleの共同創業者にして、ピクサー・アニメーション・スタジオの生みの親、スティーブ・ジョブズを描く異色の伝記映画。
彼の物語は2013年にもジョシュア・マイケル・スターン監督、アシュトン・カッチャー主演の同タイトルで映画化されているが、同じ人物を描くのでもアプローチは全く異なる。
数々の伝説で彩られ、世界を変えた男として知られるジョブズの56年の生涯は、わずか2時間の映画にそのまま閉じ込めるにはあまりにも情報量が多すぎて無理。
そこで物語全体をキッチリと文字通りの三幕に分け、ある種の寓話劇としたアーロン・ソーキンのユニークな作劇が光る。
ダニー・ボイルの外連味たっぷりの演出、単純なそっくりショー以上の内面を感じさせるマイケル・ファスベンダーの好演もクールだ。
※ラストに触れています。

1984年のクパチーノ。
全てを注ぎ込んだMacintoshの発表会を直前に控え、スティーブ・ジョブズ(マイケル・ファスベンダー)は怒っていた。
マシンの不具合が解消せず、コンピューターに「Hello!」と声で挨拶させるプランが狂ってしまったからだ。
マーケティング担当のジョアンナ・ホフマン(ケイト・ウィンスレット)は「音声機能は宣伝してないから省こう」と言うが、ジョブズは絶対に譲らず、担当のアンディ・ハーツフェルド(マイケル・スタールバーグ)に開場までの40分でマシンを改良する事を命じる。
そんな時に、元恋人のクリスアン(キャサリン・ウォーターストン)が、娘のリサを連れて現れる。
ジョブズがリサの父親である事を認知せず、「米国人男性の28%が父親である可能性がある」とマスコミに暴言を吐いた事に抗議しに来たのだ。
激しく言い争う二人に、まだ5歳のリサは心を痛める。
音声機能にもなんとか目処がつき、いよいよMacintoshを発表する直前、ジョブズは舞台の袖で自らペプシから引き抜いた新CEOのジョン・スカリー(ジェフ・ダニエルズ)と会話を交わすのだが、その内容は・・・・


実在の人物を描く、伝記映画は難しい。
アシュトン・カッチャーの激似っぷりが話題となった2013年版の映画は、つまらなくはないけれど中途半端で心に残らない作品だった。
Appleヲタならもう知ってる馴染みの話ばかりで、かと言って人間ジョブズの内面に深く切り込む訳でもなく、満遍なく事実関係の流れを追おうとして漠然としてしまうという、この種の映画にありがちな罠に陥ったのだ。
筋立てに構造的な工夫がほとんど見られず、結果的にただただ傲慢なジョブズとAppleの内紛劇だけになってしまった。

そもそも伝記になるほどの人物は往々にしてエピソードが多く、全体像を時系列に沿って一本の映画に収めるのは難しいので、物語の切り口とロジックが重要になってくる。
例えばスピルバーグの「リンカーン」は、大統領が政治生命をかけた、合衆国憲法修正十三条が可決されるまでの、人生最後の3ヶ月に焦点を絞った。
激しい政治的駆け引きと苦悩を通じて、知られざるリンカーン像が見えてくるという訳だ。
本作と同じく、アーロン・ソーキンが脚本を手がけた「ソーシャル・ネットワーク」は、裁判劇を中心に置いて過去を俯瞰する手法で、SNS時代の寵児マーク・ザッカーバーグが“本当に欲したもの”を浮かび上がらせた。
今回ソーキンは、1984年のMacintosh、88年のNeXT Cube、98年のiMacという、ジョブズの人生の転機となった3つの新製品の発表会のビハインド・ザ・シーンに、物語を全てを集約させるという斬新なロジックを用いている。
三幕の舞台という極めて演劇的、象徴的なシチュエーションを通して、稀代の変人ジョブズの人物像に迫ろうという野心的な試みだ。
一応、ウォルター・アイザックソンのオフィシャル伝記本が原作という事になっているのだが、あくまでもエピソードの素材という以外に繋がりは感じらず、事実上のオリジナル脚本と捉えるべきだろう。

発表会には色々な人がやって来る。
ジョブズの“ビジネス上の妻”ジョアンナ・ホフマン、盟友のスティーブ・ウォズ二アック、プログラマーのアンディ・ハーツフェルド、元ペプシのCEOでジョブズ自身が招聘したジョン・スカリー、元カノのクリスアン。
彼らとの丁々発止のやり取りや、フラッシュバックとして巧みに組み合わされる回想によって、ジョブズのジェットコースターの様な人生が、ギュッと凝縮されて浮かび上がるのである。
ジョアンナは、暴走する怪物であるジョブズを、なんとか社会常識の範囲内に留め置こうとし、根っからの技術屋であるウォズは、この傲慢な男から、実際にコンピューターを作り会社のために金を稼ぐエンジニアへのリスペクトを引き出そうとする。
アンディは、ジョブズの技術的ムチャぶりにいつも振り回されつつも、心の奥底でお互いに信頼を得ている様だ。
Apple信者にとっては馴染みの“悪役”であるスカリーは、ジョブズとはいわばコインの表と裏の関係であり、お互いがアンチテーゼ。
時系列をクロスさせた激しい口論のシーンは、ボイルの面目躍如な凝った演出で見応えがあり、この二人の共存は、最初っから無理だったのだと思わせる。
そしてやや依存体質の元カノのクリスアンにとってのジョブズは、父親としての自覚がなく、責任よりも自由を選び、家族を飢えさせても平気な典型的ダメ男。
登場人物の中で、女性だけがジョブズを未成熟な家庭人として見る視点を持っている。

しかしこの作品が面白いのは、ビジネスシーンを描きながらも、物語の軸をジョブズと娘リサとの不思議な父娘関係に置いていること。
この辺り、ちょっと「マネー・ボール」のブラピと娘を思わせ、いかにもアーロン・ソーキンらしい。
米国人の母とシリア人移民の父との間に生まれ、両親が結婚出来なかったために赤ん坊の頃に養子に出さるという、複雑な出生への葛藤を抱えるジョブズは、リサという鏡を通して嘗ての自分を見ているのである。
血の繋がりによる絆を、経験的に信じられないジョブズが、いかにして娘を愛せるのか。
第一幕の怒りで始まるジョブズの感情は、第二幕、第三幕と進むうちに、徐々に穏やかになってくる。
これは第一幕でリサを頑なに否定する大人気ないジョブズ、第二幕でそれなりに良い関係を築いているジョブズ、そして第三幕では逆に娘に拒絶されて狼狽えるジョブズの姿とリンクし、いかにも不安定な父娘の関係が一幕毎に少しずつ変化してゆく事で、変人ジョブズのささやかな人間的成長が見て取れるのだ。
ジョブズとリサはお互いの葛藤を通して刺激しあっており、それぞれの時代でのリサとのエピソードが、後にジョブズが生み出す幾つものアイディアの元となる伏線も上手い。
まあiPod誕生に繋がる最後のエピソードは、話の持って生き方としてやや出来過ぎな感もあるが、様々なプロダクトの生みの親という面だけで語られがちなジョブズにもまた別の一面があり、かなりダメな父親としての彼を物語のコアとするアイディアは、なかなか上手くいっているのではないか。
映画の中でも度々出てくる「現実歪曲空間(Reality distortion field)」とは、ジョブズが言うと現実的でないことまで現実の様に人々が信じ込んでしまう、彼のカリスマ性と圧倒的な口の上手さを表現した造語だが、本作の作り手はスクリーンを彼らなりの現実歪曲空間とし、演劇的に構成した物語のジョブズ像を観客の心に定着させる事に成功している。

ただ登場人物や背景説明が殆ど無く、ダニエル・コトキやガイ・カワサキの様に、画面には出てこないのにセリフのみで言及される重要な関係者も多い。
AppleⅡやLisaなど、幾つものコンピューターの名前も同様である。
ジョブズ学を全く知らないと登場人物の関係が分からず、膨大な会話の内容もチンプンカンプンという事になりかねないので、Apple信者意外はある程度予習して観た方が楽しめると思う。
映画はジョブズがAppleに復帰し、iMacを発表するところで終わっているが、できれば同じスタッフ・キャストで続きが観たい。
もちろん今度はiPod、iPhone、iPadの発表会で。

ジョブズと言えば、90年代はよくスタンフォード大のあるパロアルトをプラプラしていて、私も何度か見かけた事がある。
同じくパロアルトでよく目撃したのが、ここに店を持っていたフランシス・コッポラ。
今回は強引な地元繋がりと父娘ものということで、コッポラ・ワイナリーの「ソフィア ブラン・ド・ブラン」をチョイス。
愛娘のソフィア・コッポラの名を冠したラインナップの中の、爽やかな白スパークリング。
このシリーズは、ボトルやラベルのデザインも凄くフェミニンでかわいいのだけど、炭酸の刺激は弱めで、フルーティーな香りがとても華やか。
ちなみにブラン・ド・ブランは、ソフィアがスパイク・ジョーンズと結婚した時の記念に作ったものなんだとか。
別れちゃったけどね。

ところで、第一幕で伝説的な1984年のスーパーボウルの時のCMが流れるシーンがあるのだけど、監督のリドリー・スコットにはクレジットで感謝が捧げられていた。
何気に彼の「オデッセイ」で腹に一物あるNASA長官を演じてたジェフ・ダニエルズが、こっちでは陰謀巡らすスカリー役なのが可笑しい。

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