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ルーム ROOM・・・・・評価額1650円
2016年04月13日 (水) | 編集 |
「部屋」から「世界」へ。

17歳の時に誘拐された少女が、7年間の監禁生活の間に生まれ育った息子と共に決死の脱出を試み、奇跡的に生還を果たす。
実にサスペンスフルな展開だが、本当のドラマはその後に始まる。
小さな「部屋」しか知らず、未知なる「世界」に戸惑う息子と、世間の好奇の目にさらされながら、奪われた人生を取り戻そうとする母。
偽りの世界から、本当の世界に足を踏み入れた母子は、新たな生きる希望を見出すことが出来るのか。
エマ・ドナヒューの小説「部屋」を原作者が自ら脚色し、監督は「FRANK-フランク-」が記憶に新しいレニー・アブラハムソンが務める。
「ショート・ターム」のブリー・ラーソンが、複雑な葛藤を抱えた母を見事に演じ切り、オスカーも納得の素晴らしさだ。

5歳の誕生日を迎えたジャック(ジェイコブ・トレンブレイ)は、大好きなママのジョイ(ブリー・ラーソン)と一緒に小さな「部屋」で暮らしている。
毎日運動をしたり、ケーキを作ったり、夜になると訪ねてくるオールド・ニック(ショーン・ブリジャース)にもらったオモチャで遊んだり。
ジャックにとって「世界」とはこの部屋だけのことで、扉の外のことは何も知らない。
ある日、ジョイはジャックに今まで隠してきた秘密を打ち明ける。
彼女は17歳だった7年前にニックに誘拐され、ずっと監禁されてきたこと。
この部屋の外には、本当の「世界」が広がっていること。
突然の話に混乱するジャックをなんとか説き伏せ、二人はニックを騙して脱出を図る。
遂に自由の身になり、祖母のナンシー(ジョアン・アレン)の待つ実家に帰るジョイとジャックだったが、それは予期せぬ困難のはじまりだった・・・


誘拐・監禁という非常に生々しい犯罪を題材としながら、子ども目線にしたことで寓話性の高いドラマになった。
ドラマ的にやや優しすぎるという意見もあるようだが、このスタンスを見れば作り手も重々分かっていて、それでも絶望よりも希望を描くことを選んだのだろう。

個人的にはブラッドベリの小説「びっくり箱」+映画の「ものすごくうるさくて、ありえないほど近い」という印象。
「びっくり箱」は、厳格な母親に家の中が「世界」で、外には恐ろしい「死」があると教え込まれ、社会から隔絶されて育てられた少年エドウィンの物語。
母親の病死によって、初めて家の外に出たエドウィンは未知の「死」、即ち本当の「世界」を満喫しながら「死ぬというのは、なんてすてきなことだろう!」と叫ぶのだ。
おそらくはシャマランの「ビレッジ」や、ヨルゴス・ランティモスの「籠の中の乙女」の元ネタにもなっただろう古典である。
一方、「ものすごくうるさくて、ありえないほど近い」は、3.11の悲劇で父親を失った少年オスカーが、父の残した「鍵」と「ブラック」と書かれた紙を手掛かりに、「鍵があけるもの」を探して、ニューヨーク中のブラックさんを訪ね歩く物語。
発達障害のあるオスカーにとって、この世界は「ものすごくうるさい」が、冒険を通して彼は自分が「ありえないほど近い」愛に守られている事を知る。

本作の場合、17歳で誘拐されたジョイはともかく、監禁中に生まれ育ったジャックは外の世界を全く知らない。
部屋に窓は無く、唯一の明り取りである天窓から見えるのは空だけ。
息子の運命を不憫に思ったジョイは、部屋こそが世界の全てで、テレビに映っているものは全てニセモノ、扉の外には宇宙空間が広がっていると嘘をついている。
ジャックが精神的にも肉体的にも、外界への免疫を全く持たない時点で、本作は「びっくり箱」的であり、初めて外の世界へ出た彼が目にする未知の諸々が、強すぎる刺激をもって目と耳に飛び込んで来る描写は、発達障害のオスカーにとっての「ものすごくうるさい」世界を思わせる。
同時に、過酷な経験をしたジャックとジョイを、周りの人たちの優しい愛が包んでいるのもあの映画を連想させる要因だろう。


この作品がまことに秀逸なのは、やはり帰還した後をフィーチャーしていることだ。

犯罪からの脱出を描いた物語は多いが、その後の被害者を描いた作品は少なく、実際の事件報道でも、被害者の人権保護との絡みから、実態が伝えられることはめったにない。
映画は前半1時間が監禁の日々、後半1時間は脱出後という分かりやすい構成だが、7年の長きにわたり監禁されていた母子にとっては、監禁状態が日常で、解放後の日々の方が非日常なのだ。
端的に言えば、本作は7年間「部屋」での超緊密な関係しか知らなかった母子が、「世界」とどう折り合いをつけ、お互いの新しい距離をいかにして受け入れるかの物語である。

狭い空間で四六時中顔を合わせていた監禁生活は、ジョイとジャックの関係を必然的に非常に近しいものにしている。
息子はママの生きる希望であり、息子にとってママはこの世の全てなのだ。
2人は一緒に眠り、一緒にお風呂に入り、5歳になってもジャックは赤ん坊のようにママのおっぱいを求め、ジョイもその行動に応えるのである。
だが、広大な外の世界へ足を踏み入れた時から、2人の関係は変わらざるを得ない。
今までのようなほとんど一体化した生活から、それぞれ個人としての生活への移行。
特に「孤独」を経験をしたことの無いジャックに、1人になって考えたいというママの気持ちを理解するのは難しい。

ジョイもまた、自由になって初めて、自分の身に起こったことの現実を突きつけられる。
彼女の両親にとって、ジャックは孫であるのと同時に、娘との時間を奪った憎き誘拐犯の息子でもある。
祖母のナンシーはそれでもジャックを愛し、癒すべき孫として受け入れるが、今は離れて暮らす祖父は、どうしても誘拐犯の血を引く孫の顔を直視することができない。
また生活を立て直す資金を稼ぐため、覚悟を決めて出演したインタビュー番組では、予想もしなかった厳しい言葉をインタビュアーから投げかけられ、ジョイは母として激しく動揺する。
そして、諸々の葛藤の結果として起こるある出来事。

原作者のエマ・ドナヒューは、実際に起こった誘拐・監禁事件をモチーフとして小説を執筆しており、似た様な事件は世界中で発覚している。
実際は誰にも知られないままになっているケースの方が遥かに多いだろうし、脱出できた人はある意味幸運な一握りなのかも知れない。
だが、自由になれた幸せを祝えるのは一瞬で、そこから本当の意味で世界へ復帰するための過酷な闘いが始まる。
未知の世界を知ってゆくジャックと、人生を取り戻そうとするジョイ。
それでも「プラスチックの様に柔軟な」子供の心は、母よりも早くこの世界に適合してゆく。
ジャックは生まれてから一度も髪を切った事がなく、まるで女の子のような風貌をしている。
これは旧約聖書に登場する無双の強さを誇ったサムソンが、頭に剃刀を当てられた事で力を失ったという話から、ジャックが自分の髪にも力が宿っていると信じているから。
そんなジャックは、心にさらなる傷を負ったママのために、大切な髪の毛を捧げるのである。
ジョイにとってジャックは、何度も救われた無双のヒーロー。
嘗ての「部屋」での生活のように一体でなかったとしても、彼がいる「世界」は彼女にとって必ず生きるに値するのである。

ちなみに祖父母を演じるウィリアム・H・メイシーとジョアン・アレンは、ゲイリー・ロス監督の傑作ファンタジー「カラー・オブ・ハート」で、白黒テレビの中にだけ存在するアメリカの理想郷、プレザントヴィルに住む理想の夫婦を演じている。
映画の中のプレザントヴィルは、やがて白黒の人々とカラーを受け入れた人々に二分されるのだけど、本作におけるTVの位置付けを考えると、この2人が残酷な運命によって引き裂かれた夫婦役なのは、何気に作り手の仕掛けたブラックジョークなのかもしれない。

今回は「ルーム」から「ホープ」へ。
「希望」という名を持つホープ・ファミリー・ワインズの「カンダー メルロー」をチョイス。
複数の優れた産地をブレンドしたメルロー。
フルーティで柔らかい口当たりに、適度なスパイシーさ。
しっかりしたボディの、飲みごたえのある一本だ。
CPが高いのも嬉しい。

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