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ショートレビュー「海よりもまだ深く・・・・・評価額1650円」
2016年05月30日 (月) | 編集 |
夢見た未来じゃないけれど。

是枝裕和監督には、幾つ「家族」を語る視点があるのだろう。
デビュー作の「幻の光」以来、ほぼ一貫して描かれてきた、ミニマムな社会としての幾つもの家族の形と彼らが抱える様々な葛藤。
監督自身は嘗て「(独身だったのが)結婚して子供が生まれ、家の中で自分のポジションが息子から父親へと変化し、それに伴い家族の見え方も変化していった」と語っていたが、今回は阿倍寛が好演する作家崩れの探偵・良多を通して、“なりたい自分になることの難しさ”が描かれる。
本作と同じく、阿倍寛と樹木希林が親子役で共演した「歩いても 歩いても」とは主人公のキャラクター名も同じで、いわば人生の別バージョンの様な味わいだ。
舞台となるのは、是枝監督が実際に28歳まで暮らしていたという清瀬市の旭が丘団地で、近年の日本映画でジャンル化している団地ものの一編でもある。
ある意味主人公は、是枝監督にとっての別バージョンの自分なのかもしれない。

一発屋作家で今は探偵として食つないでいる良多は、相当なダメ人間だ。
別れた元妻には未練たらたらで、探偵のスキルを使ってストーカー。
稼いだ報酬はギャンブルにつぎ込み、実家の団地を訪ねては金目のものを物色し、挙句の果てには仕事にかこつけて高校生を脅して金を巻き上げる。
高校生に「あんたみたいな大人にはなりたくない」と言われていたけど、そう思われてもしかたがない、呆れるほどダメダメな人生を送っている。
そんな苦しい生活の中で唯一の楽しみは、元妻と暮らす一人息子との面会の時間だ。
物語は、探偵業に精をだす良多の日常と、嘗て家族だった者たちと共に過ごす非日常の二重構造。
両方のシチュエーションが組み合わされることによって、過去に囚われ前に進めない良多のジレンマが描き出されるという訳。

相変わらず、是枝監督の役者を生かす手腕は見事。
阿倍寛や樹木希林が素晴らしいのは当たり前だが、同僚探偵役の池松壮亮が良い。
この人は上手いのだけど、いつも同じ様なキャラクターの印象があったが、本作は新しい一面を見せてもらった。
良多を含めた登場人物たちは皆かなり特徴的なキャラクターだが、物語に動的な盛り上げは皆無。
事件らしい事件は何も起こらず、ただただ日々の暮らしのシチュエーションの中で登場人物の心の機微が繊細に描かれるだけ。
それなのに、全く目が離せないのは是枝テリングの真骨頂だ。
緻密な心理描写、台詞構成のうまさはもはや名人芸の域に達しているのではないか。
阿倍寛と樹木希林の愛情と皮肉たっぷりの絡みなど、「いつか使ってやろう」と思わされる名台詞だらけだ。


高い評価を受けた「そして父になる」「海街diary」の近作二本は、問題を抱えた家族の再生の物語だったが、本作ではひょんなことから台風の夜に集った元家族たちが、それぞれの人生を先に進めるため、家族の残骸を緩やかに解体してゆく。
たぶん、なりたかった自分になれた人は、決して多くはなく、皆夢見た未来に近づくために、何かを犠牲にして歩いている。
その事を知っているからこそ、大人の観客はダメダメな良多にどこか自分に重なるものを見出して、どっぷり感情移入出来るのだろう。
ちょいビターな後味を噛み締め、小さな一歩を踏み出すラストもとても気持ち良い。

ただ、徹底的な会話劇で、それ自体は素晴らしいのだが、せっかくクライマックスを台風の夜に設定しているのだから、ここは台詞によらない視覚的演出があっても良かったかなあという気はする。
相米慎二の「台風クラブ」、細田守の「おおかみこどもの雨と雪」を例に出すまでもなく、嵐の夜はそのシチュエーションだけで十分ドラマチックなのだから。

是枝作品の味わいは、やはり上質の日本酒に通じる。
清瀬のお隣、東村山の豊島屋酒造の「屋守 純米 中取り 直汲み生」をチョイス。
槽場での直汲みによって、酒中に残るほのかな微炭酸が柔らかな吟醸香が広がってゆく。
純米酒らしい米の旨みとコクのバランスも良い。
淡麗甘口、この時期にしか味わえない、素晴らしき東京の地酒だ。

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