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2016年06月07日 (火) | 編集 |
平凡な奴が、一番怖い。
日本映画史に類を見ない大怪作だ。
ダメ人間たちの恋愛模様と、その裏で進行するおぞましい犯罪の物語はごく単純、でも簡単には語れない。
原作は古谷実の同名コミック。
「ヒメアノ~ル」って何だろう?と思ったら、“小さなトカゲ”のことだとか。
古谷実は「ヒミズ」もモグラの名前だったし、主人公を動物に暗喩するのが好きなのかもしれない。
「銀の匙 Silver Spoon」や「ばしゃ馬さんとビッグマウス」の吉田恵輔監督は、極めてトリッキーな物語構造を使い、日常の裏に潜むこの世界のダークサイドを描き出す。
吉田監督といえば、過去にも中島健人や安田章大らジャニーズアイドルを起用して成功させてきたが、今回殺人鬼役に挑んだ森田剛の演技は圧巻だ。
※以下、核心部分に触れています。
地方から上京してビル清掃の仕事をしている岡田進(濱田岳)は、平凡過ぎる毎日に焦りを感じ、悶々とした日々を過ごしている。
ある日、職場の先輩である安藤(ムロツヨシ)から、カフェ店員のユカとの恋をとりもってくれるように頼まれた岡田は、偶然カフェに居合わせた同郷の森田正一(森田剛)と再会する。
ユカから森田が自分のストーカーである事を聞いた岡田は、一抹の不安を抱えながらも次第にユカと親しくなってゆき、安藤に隠れて付き合うように。
だが、そんな二人を見つめる冷たい目があった。
高校時代に凄惨なイジメを受けていた森田は、過去の秘められた事件を切っ掛けとして、恐るべきシリアルキラーへと変貌を遂げていたのだ。
森田はある計画を胸に、高校時代に同じ相手にイジメられていた、元同級生の和草(駒木根隆介)を東京に呼び出すのだが・・・
今年の日本映画からは、奇しくも本作で森田剛が怪演す森田正一と、「ディストラクション・ベイビーズ」で柳楽優弥が演じた芦原泰良という、恐ろしすぎる殺人鬼が二人生まれた。
ただ、この二本と二人、バイオレンスという共通項はあるものの、まるでベクトルが違う。
「ディストラクション・ベイビーズ」は、いわば日本版「ナチュラル・ボーン・キラーズ」だ。
主人公の芦原泰良は「楽しければええけん」と言いながら、誰彼かまわず喧嘩を売り、どつかれても、どつかれても、血まみれになりながらも襲いかかってゆく。
そこに理由は無いし、あっても理解できない。
芦原は、地方都市の日常に突然現れるモンスターであり、暴力を喰って生きる人間の姿をした“異種”だ。
その行為は不条理で凄惨だが、人でない者に人の倫理を問うのは間違いだと思わされる。
彼の中に葛藤はなく、人を殺すことにも特に理由はないのである。
この作品の劇中で、暴力を拡散するのはネット。
観客の視点も、いつしか「なんだか分からないけど、すごいもん」を欲して、日々ネットの動画サイトを漁る人々と同じになってゆくことで、逆説的に客観的な“今”が見えてくる。
同じシリアルキラーでも、芦原が生まれながらのモンスターだとしたら、名前も平凡な森田正一は、外的な要因で突然変異した哀しきゴジラだ。
無害なはずの小さなトカゲを、暴走する巨大怪獣に変異させたのは何か。
高校生の時に、同級生の河島から酷いイジメを受けていた森田は、ある時遂にキレて、同じようにイジメられていた和草を誘って、河島を殺して埋める。
平凡で気弱な少年だった森田は、以来人が変わって暴力的になり、欲望のままに犯し殺す快楽殺人犯となってしまうのである。
その凶暴さは共犯者の和草にもおよび、彼は事件以来ずっと森田によって脅され、支配されているのだ。
河島のイジメによって追い詰められた森田の本来の心は、暴力に暴力で応えることによって崩壊し、恐るべき嗜虐性を秘めた新しい人格によって乗っ取られてしまったのである。
本作の特徴は、森田も含め出てくる登場人物全員が、本質的には平凡なダメ人間ということだ。
シリアルキラーの森田も、決して腕っぷしが強いわけではなく、自分が確実に殺せる相手とタイミングを選んでいるだけのこと。
物語の後半、森田に狙われた岡田が、高校時代に河島と一緒になって森田を蔑んだことを恨まれているのだろうかと考えるシーンがある。
森田がイジメられ岡田がイジメられなかったのは、単なる偶然であって、必然ではない。
もしかしたら二人の立場は逆転していて、岡田の方がシリアルキラーになっていたかもしれない。
そのことを端的に表しているのが、非常に独特の物語構成である。
映画の前半は、岡田と安藤とユカの三角関係が、シュールでちょっと気持ち悪いラブコメ調に展開する。
ストーカーの森田は、ここではまだ三角関係に絡む変数としての脇の位置づけだ。
だが、ある瞬間から世界が反転し、ぬるま湯的な日常の裏側に隠れていた、恐るべき闇が前面に出てくる。
岡田がユカと結ばれるまでの前半部分は、文字通り異様に長いアヴァンタイトルであって、二人の関係を森田が知り「ヒメアノ~ル」のタイトルが現れた時点から、突然変異したトカゲの物語が始まるのである。
森田と岡田が同じコインの表と裏の関係であることは、森田の凄惨な殺人と岡田とユカのセックスをアクションを反復させながら同時進行で描くという、俗悪趣味ギリギリ、作り手の悪意たっぷりなシーンに象徴的だ。
もはや制御を失ったモンスターは、本能の赴くままに無関係の人々を犯しまわり、殺しまわりながらひたひたと岡田とユカに近づき、命を狙う。
コインの表と裏が交錯してからの終盤の展開は、サスペンスフルで手に汗握る。
だが、何人もの人間を無慈悲に殺しながら、モンスターは車の前に飛び出した、ただ一匹の犬を轢くことが出来ずに自滅するのである。
全てが終わった後に映し出される情景は、森田がイジメにあう前の高校生の頃。
学校で初めてできた友だち、岡田を連れて帰る家には、同じような白い犬がいる。
この犬は、森田にとって無垢なる時代の象徴なのだろう。
モンスターによって支配されてはいるが、森田の心の奥底には、まだあのころの自分が残っている。
だから、彼は人を殺しても犬は轢けなかったのである。
快楽殺人犯には、決して共感は出来ない。
どれだけ非道な暴力を描いても、本作はその一線だけは超えることは無い。
だけど、平凡な少年がなぜモスンターになってしまったのか、その痛みと悲しみを考えると、なんとも言えない切なさと憐れみを感じる。
「お母さん!麦茶二つー!」という森田の声が、物語を通して心にぽっかり空いた虚無の空間に吸い込まれてゆく。
哀しきゴジラにも、平凡だけど幸せだった頃が、確かにあったのだ。
今回はトカゲのラベルを持つカリフォルニア・ワイン、「リーピング リザード ソーヴィニヨン・ブラン」をチョイス。
ナパバレー産の複数の原料をブレンドして作られているCPの高い銘柄。
フルーティで複雑なアロマと、酸味も適度でまずまず力強いボディ。
辛口の白として使い勝手の良いワインだ。
実はトカゲはワイン文化と密接な関係があり、ワインラベルではポピュラーな存在。
害虫を食べてくれるトカゲが生息しているブドウ畑は、昔から自然環境が優れた良い畑と言われていて、トカゲはワイン農家にとって幸運のしるし。
だからトカゲのラベルを使う銘柄が、世界中に沢山あるという訳。
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日本映画史に類を見ない大怪作だ。
ダメ人間たちの恋愛模様と、その裏で進行するおぞましい犯罪の物語はごく単純、でも簡単には語れない。
原作は古谷実の同名コミック。
「ヒメアノ~ル」って何だろう?と思ったら、“小さなトカゲ”のことだとか。
古谷実は「ヒミズ」もモグラの名前だったし、主人公を動物に暗喩するのが好きなのかもしれない。
「銀の匙 Silver Spoon」や「ばしゃ馬さんとビッグマウス」の吉田恵輔監督は、極めてトリッキーな物語構造を使い、日常の裏に潜むこの世界のダークサイドを描き出す。
吉田監督といえば、過去にも中島健人や安田章大らジャニーズアイドルを起用して成功させてきたが、今回殺人鬼役に挑んだ森田剛の演技は圧巻だ。
※以下、核心部分に触れています。
地方から上京してビル清掃の仕事をしている岡田進(濱田岳)は、平凡過ぎる毎日に焦りを感じ、悶々とした日々を過ごしている。
ある日、職場の先輩である安藤(ムロツヨシ)から、カフェ店員のユカとの恋をとりもってくれるように頼まれた岡田は、偶然カフェに居合わせた同郷の森田正一(森田剛)と再会する。
ユカから森田が自分のストーカーである事を聞いた岡田は、一抹の不安を抱えながらも次第にユカと親しくなってゆき、安藤に隠れて付き合うように。
だが、そんな二人を見つめる冷たい目があった。
高校時代に凄惨なイジメを受けていた森田は、過去の秘められた事件を切っ掛けとして、恐るべきシリアルキラーへと変貌を遂げていたのだ。
森田はある計画を胸に、高校時代に同じ相手にイジメられていた、元同級生の和草(駒木根隆介)を東京に呼び出すのだが・・・
今年の日本映画からは、奇しくも本作で森田剛が怪演す森田正一と、「ディストラクション・ベイビーズ」で柳楽優弥が演じた芦原泰良という、恐ろしすぎる殺人鬼が二人生まれた。
ただ、この二本と二人、バイオレンスという共通項はあるものの、まるでベクトルが違う。
「ディストラクション・ベイビーズ」は、いわば日本版「ナチュラル・ボーン・キラーズ」だ。
主人公の芦原泰良は「楽しければええけん」と言いながら、誰彼かまわず喧嘩を売り、どつかれても、どつかれても、血まみれになりながらも襲いかかってゆく。
そこに理由は無いし、あっても理解できない。
芦原は、地方都市の日常に突然現れるモンスターであり、暴力を喰って生きる人間の姿をした“異種”だ。
その行為は不条理で凄惨だが、人でない者に人の倫理を問うのは間違いだと思わされる。
彼の中に葛藤はなく、人を殺すことにも特に理由はないのである。
この作品の劇中で、暴力を拡散するのはネット。
観客の視点も、いつしか「なんだか分からないけど、すごいもん」を欲して、日々ネットの動画サイトを漁る人々と同じになってゆくことで、逆説的に客観的な“今”が見えてくる。
同じシリアルキラーでも、芦原が生まれながらのモンスターだとしたら、名前も平凡な森田正一は、外的な要因で突然変異した哀しきゴジラだ。
無害なはずの小さなトカゲを、暴走する巨大怪獣に変異させたのは何か。
高校生の時に、同級生の河島から酷いイジメを受けていた森田は、ある時遂にキレて、同じようにイジメられていた和草を誘って、河島を殺して埋める。
平凡で気弱な少年だった森田は、以来人が変わって暴力的になり、欲望のままに犯し殺す快楽殺人犯となってしまうのである。
その凶暴さは共犯者の和草にもおよび、彼は事件以来ずっと森田によって脅され、支配されているのだ。
河島のイジメによって追い詰められた森田の本来の心は、暴力に暴力で応えることによって崩壊し、恐るべき嗜虐性を秘めた新しい人格によって乗っ取られてしまったのである。
本作の特徴は、森田も含め出てくる登場人物全員が、本質的には平凡なダメ人間ということだ。
シリアルキラーの森田も、決して腕っぷしが強いわけではなく、自分が確実に殺せる相手とタイミングを選んでいるだけのこと。
物語の後半、森田に狙われた岡田が、高校時代に河島と一緒になって森田を蔑んだことを恨まれているのだろうかと考えるシーンがある。
森田がイジメられ岡田がイジメられなかったのは、単なる偶然であって、必然ではない。
もしかしたら二人の立場は逆転していて、岡田の方がシリアルキラーになっていたかもしれない。
そのことを端的に表しているのが、非常に独特の物語構成である。
映画の前半は、岡田と安藤とユカの三角関係が、シュールでちょっと気持ち悪いラブコメ調に展開する。
ストーカーの森田は、ここではまだ三角関係に絡む変数としての脇の位置づけだ。
だが、ある瞬間から世界が反転し、ぬるま湯的な日常の裏側に隠れていた、恐るべき闇が前面に出てくる。
岡田がユカと結ばれるまでの前半部分は、文字通り異様に長いアヴァンタイトルであって、二人の関係を森田が知り「ヒメアノ~ル」のタイトルが現れた時点から、突然変異したトカゲの物語が始まるのである。
森田と岡田が同じコインの表と裏の関係であることは、森田の凄惨な殺人と岡田とユカのセックスをアクションを反復させながら同時進行で描くという、俗悪趣味ギリギリ、作り手の悪意たっぷりなシーンに象徴的だ。
もはや制御を失ったモンスターは、本能の赴くままに無関係の人々を犯しまわり、殺しまわりながらひたひたと岡田とユカに近づき、命を狙う。
コインの表と裏が交錯してからの終盤の展開は、サスペンスフルで手に汗握る。
だが、何人もの人間を無慈悲に殺しながら、モンスターは車の前に飛び出した、ただ一匹の犬を轢くことが出来ずに自滅するのである。
全てが終わった後に映し出される情景は、森田がイジメにあう前の高校生の頃。
学校で初めてできた友だち、岡田を連れて帰る家には、同じような白い犬がいる。
この犬は、森田にとって無垢なる時代の象徴なのだろう。
モンスターによって支配されてはいるが、森田の心の奥底には、まだあのころの自分が残っている。
だから、彼は人を殺しても犬は轢けなかったのである。
快楽殺人犯には、決して共感は出来ない。
どれだけ非道な暴力を描いても、本作はその一線だけは超えることは無い。
だけど、平凡な少年がなぜモスンターになってしまったのか、その痛みと悲しみを考えると、なんとも言えない切なさと憐れみを感じる。
「お母さん!麦茶二つー!」という森田の声が、物語を通して心にぽっかり空いた虚無の空間に吸い込まれてゆく。
哀しきゴジラにも、平凡だけど幸せだった頃が、確かにあったのだ。
今回はトカゲのラベルを持つカリフォルニア・ワイン、「リーピング リザード ソーヴィニヨン・ブラン」をチョイス。
ナパバレー産の複数の原料をブレンドして作られているCPの高い銘柄。
フルーティで複雑なアロマと、酸味も適度でまずまず力強いボディ。
辛口の白として使い勝手の良いワインだ。
実はトカゲはワイン文化と密接な関係があり、ワインラベルではポピュラーな存在。
害虫を食べてくれるトカゲが生息しているブドウ畑は、昔から自然環境が優れた良い畑と言われていて、トカゲはワイン農家にとって幸運のしるし。
だからトカゲのラベルを使う銘柄が、世界中に沢山あるという訳。

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