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日本で一番悪い奴ら・・・・・評価額1700円
2016年07月03日 (日) | 編集 |
バレない悪事は蜜の味。

2002年に明るみに出た、いわゆる「稲葉事件」の顛末。
四半世紀の長きに渡って北海道の裏社会と癒着しながら、道警のエースと呼ばれた悪徳刑事の半生を描く、実話ベースの異色のピカレスク大河ドラマだ。
強い正義感を持っているものの、刑事としての実力が伴わず、うだつの上がらない毎日を送っていた主人公は、裏社会と結託し銃器事件を捏造して成績を上げるという、禁断の果実に手を出してしまう。
事件を起こした稲葉圭昭本人の告白本を、「任侠ヘルパー」の池上純哉が脚色。
監督は、こちらも実際の事件を基にした「凶悪」の白石和彌が務める。
先日公開された「64 ロクヨン」では、生真面目な警察広報マン役だった綾野剛が、今度は道を踏み外した悪徳刑事の転落人生を演じ、彼のエキセントリックな怪演も見ものだ。

1976年。
大学四年の諸星要一(綾野剛)は、有望な柔道選手として教官の勧めるままに北海道警入り。
柔道部の全国優勝に貢献したものの、刑事としては捜査もダメ、事務仕事もダメの落ちこぼれ。
ある時、敏腕刑事の村井(ピエール瀧)から、刑事として認められるには点数を稼ぐことだと教えられ、そのノウハウを叩き込まれる。
村井のやり方とは、裏社会に飛び込んで”S”と呼ばれるスパイを作り、彼らの情報を使って検挙率を上げること。
裏社会に名前を売った諸星は、暴力団幹部の黒岩(中村獅童)、薬の運び屋の太郎(YOUNG DIAS)、パキスタン人の盗難車ディーラーのラシード(植野行雄)の3人をSに仕立て上げると、彼らと癒着しながら着実に点数を稼いで行く。
諸星は銃器対策室に配属されると、Sに金を渡し銃を調達させて、自分で摘発するように装うことで瞬く間に押収数を増やしてゆく。
やがてエースと呼ばれるようになった諸星の元に、数百丁もの銃を一気に押収するチャンスが訪れるのだが・・・・


いゃ〜面白かった!
個人的には「凶悪」より数段好きだな、これ。
チャカ押収に血道を上げる北海道警の悪徳刑事の話だが、これ組織で働く人が陥りがちなダメなところ、日本型組織そのもののダメなところのショーケースの様。
同じように裏社会と刑事の癒着を描いた作品といえば、最近ではジョニー・デップの演技が話題となった「ブラック・スキャンダル」があるが、軽快なテンポとユーモアで悪漢の成り上がりを一気呵成に見せてゆくノリは、どちらかと言えばスコセッシの「ウルフ・オブ・ウォールストリート」に近い。
あの映画のパワフルなテリングに、70年代東映プログラムピクチュアの和風猥雑なテイストを盛り込んだという感じだろうか。
主人公の諸星要一は、道警の柔道部から優勝請負人として請われて警官になるも、ぶっちゃけ純粋培養された典型的なスポーツエリートだ。
柔道は強いかも知れないが、その他のことはまるで出来ず、全国優勝という目的を達した後には、現場の刑事として苦難の日々。
同僚には無能扱いされ、捜査に同行させてもらえず、調書一つまともに書けない。

幸か不幸かそんな諸星に、人生を変えるメンターが現れてしまう。
落ちこぼれの諸星に目をかけた敏腕刑事の村井は、刑事の評価は「点数が全て」だと言う。
犯人の検挙だけでなく、例えば拳銃の押収一つとっても、単に所持者不明のまま銃だけ押収するのと、犯人付きでは稼げる点数が全く違う。
警察の業務評価に点数制があることは知っていたが、ここまで細かく分類されているとは驚き。
何点稼いだかで組織内での自分の評価が変わってくるのだから、皆それぞれに点数稼ぎに必死になるわけだ。
そして村井の教えるノウハウは、S(スパイ)を作ることで裏社会と癒着して、情報を引き出すということなのだ。
元々真面目な体育会系だけあって、諸星はデキる先輩の言うことをピュアに信じてしまい、かなり強引なやり方で3人のS作りに成功する。
そして彼らを通じて銃を密売させ、それを自分が解決するという勝利の方程式を編み出すのである。
時はソ連崩壊によって、北海道にロシア経由の銃器流入が警戒されていた時代。
さらにその後の自民党の金丸副総裁銃撃事件、警察庁の国松長官銃撃事件、オウム真理教事件などを受けて、国レベルで銃器対策に大きな力が入れられていたことも、諸星にとっては追い風になったのかも知れない。

驚くべきことに、彼は自分のやっていることをひた隠しにしているかと思いきや、職場でかなりオープンにしていて、道警の上層部も黙認している。
それどころか道警自体が、諸星の作り上げた裏のルートを積極的に活用しているのである。
刑事一人ひとりが点数に縛られているのと同時に、道警という組織も全国の警察の中で自分たちの点数稼ぎに汲々としているのだ。
ロシアと国境を接する北海道には、ロシア経由の銃器が流れやすい、だから彼らにとっても銃器を押収することが一番手っ取り早い点数稼ぎの手段となる。
本来ブレーキになるはずの組織が公認してしまえば、もはや諸星の暴走は止まらない。
エースと呼ばれる様になり、組織内での発言力もどんどん高まってゆくのだが、自分で銃を買ってそれを押収しているのだから、いつか金が尽きるのは自明の理。
この壁を打破するために、諸星はついに薬物の密売という、絶対に触れてはいけない領域に手を出してしまう。
ミイラ取りがミイラになるとはまさにこのことで、とりあえず銃を買って自分で押収というプロセスでは、金と銃が身内でループするだけだが、薬の密売となると意味が全く違ってくる。
「公共の安全を守る」ために銃を摘発していたはずの諸星は、自らが危険を公共にバラまくただの犯罪者になってしまうのである。

ここで面白いのは、諸星のメンタルは常に警察組織に寄り添っていること。
薬を売ってでも銃を押収することは、自分のためだけでなく、道警という組織の正義のためであると本気で信じているのだ。
もちろんこれは、潜在的な罪悪感を隠すためのエクスキューズでもあるのだろうが、本人はそう意識していないところが、いかにも日本人だなあと思わせられる。
同時に、道警の方でも一度諸星のやり方が上手くいかなくなると、トカゲの尻尾切りの様に全てを押し付け、彼を増長させた上層部がなんの責任も取らないところとか、とても日本の官僚組織らしい。
この物語は警察という特殊な組織の中の、特殊な個人による特殊な事例かもしれない。
しかし、ちょっと見方を変えれば日本社会のあるあるネタが、カリカチュアされてたっぷりと詰まっている。
なんらかの形で組織に属している人は、この映画の登場人物が、身近な誰かに見えてくるのではないか。
どの組織にも諸星の様な人物はいるし、日和見主義の上司たちの様な人物もいる。
実際にその後の北海道警を含め、全国の警察の不祥事は続いているのだから、これは日本型組織の根深い問題なのだろう。

話を元に戻すと、内実を伴わない点数稼ぎのためだけの無理なシステムは、いつか必ず破綻するもの。
諸星の場合、終わりの始まりはやはり薬物密売だ。
やりたい放題、怒涛の勢いで成り上がる主人公にある種の痛快さを感じている観客も、ここで一線を超えたことを認識する。
そして元々ブレーキが無いのだから、一度坂道を転がり始めるともはやノンストップで破滅に向かって突き進むしか道はないのである。
最終的には、ピカレスク・ヒーローの豪快な転落人生に我々小市民は溜飲を下げる訳で、エンターテイメントのまとめ方として見事な仕上がり。
綾野剛はやっぱり単純な二枚目役より、本作や「リップヴァンウィンクルの花嫁」のトリックスターの様な、ちょっと怪しげな人物像の方がスクリーンで映える。
諸星のSになる三人や、無責任な道警上層部もカリカチュアの効いた美味しいキャラクターだった。
ただ、全体的に女性キャラクターがやや類型的な扱いなのは気になった。
そんなところまで70年代してなくていいので、もうちょっと現代的にしっかり描いて欲しかったところだ。

今回は諸星無双ということで、彼の勤務地の一つでもある旭川の地酒、高砂酒造の「国士無双 純米大吟醸」をチョイス。
明治時代に福島から移り住んだ小檜山鉄三郎が創業した蔵。
国士無双は的な淡麗辛口、雑味無くスッキリとした北国の酒で、キリリと冷やして飲むと今の季節にピッタリ。
爽やか吟醸香に、米の深い旨みが引き立つ。

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