2016年09月28日 (水) | 編集 |
プロフェッショナルの矜持。
2009年1月15日、マンハッタン島の西側を流れる極寒のハドソン川に、鳥との衝突によって両エンジンの推力を失ったUSエアウェイズ1549便のエアバスA320が不時着水した。
過去に起こった同様の事故では、ほとんどのケースで多くの犠牲者が出ており、乗員乗客155名全員の生還劇は本作の邦題にもなっている「ハドソン川の奇跡」として、全世界のマスコミで大きく報道されたのは記憶に新しい。
この事故で一躍全米の英雄となったのが、“完璧な着水”を成功させたチェズレイ・サレンバーガー機長だ。
元アメリカ空軍のパイロットで、実に40年に渡るキャリアを持つ機長は、冷静沈着なキャラクターもあって、プロフェッショナルの鏡として時代の寵児となる。
しかし、世間の関心が集中する中、彼自身はどういう心境だったのか。
原題はサレンバーガー機長の愛称「Sully」。
本作は、あの事故によって図らずも英雄に祭り上げられた、機長の内面を紐解く物語になっている。
自分の決断が本当に正しかったのか、彼の葛藤の軸になるのは「空港に引き返せなかったのか?」という疑問。
事故調査を担当する国家運輸安全委員会(NTSB)は、コンピューターシミュレーションと、パイロットによるフライトシミュレーターで検証を行い、そのどちらでも空港に引き返し無事に着陸することが可能だったと主張。
実際にコックピットにいた機長は、その結果に納得できないのだが、もしかしたら自分が間違っていたのかもという疑念にかられ、飛行機を市街地に墜落させる悪夢に苛まれる。
この事故の顛末はナショナル・ジオグラフィックTVのドキュメンタリー・シリーズ、「メーデー!」の「ハドソン川の奇跡」の回で詳しく解説されていたが、そちらではシミュレーションの件は事故調査の初期に浮かんだ小さな疑問という扱いだった。
調査にかかる膨大な時間を含めた事故全体でなく、機長のプロフェッショナルとしての仕事の責任にフォーカスした作品だから、ここが軸になり得る。
ただ、ドラマ性を高めるためだろうが、作劇上NTSBを機長を貶めようとする“悪役”に近い扱いにした事には疑問が残る。
彼らは彼らで事故のあらゆる要因を追求し、空の旅の安全性を向上させるプロフェッショナルであり、パイロットの過失の可能性を考え、追求するのは当たり前のこと。
最後にフォローはあるものの、彼らをやり込めることに物語のカタルシスに感じさせるのではなく、ここはもう少し引いた視点で描いても良かったと思う。
まあ、結末は分かっているし、色々あってもプロフェッショナルとして責任を全うし、正しい行いをした者は報われる。
今まで、様々な切り口で「正義とは?英雄とは?」を描いてきたイーストウッド作品としては非常にストレート。
言いたい事がシンプルだから、尺も96分と近年の作品群の中ではダントツに短い。
イーストウッドの前作、「アメリカン・スナイパー」は死をもたらす英雄と、彼自身の死を描いたレクイエムだったが、こちらは人々を救った英雄が報われる話となり、2本で完全な対照を形作る。
アメリカの未来にエールを贈る様な、気持ちの良い作品だ。
ナショナル・ジオグラフィックTVのドキュメンタリー版「ハドソン川の奇跡」と、おそらく同じ事件から着想しているであろう、ロバート・ゼメキス監督の「フライト」と合わせて観るとより面白い。
今回は舞台となる「ニューヨーク」の名を冠したカクテルを。 ライまたはバーボンウィスキー45ml、ライムジュース15ml、グレナデン・シロップ1/2tsp、砂糖1tspをシェイクしてグラスに注ぎ、オレンジピールを絞りかけて完成。
濃厚なウィスキーとライムは実によく合い、甘酸っぱくて微かにほろ苦い。 苦難を乗り越えて前に進む、大人のカクテルだ。
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2009年1月15日、マンハッタン島の西側を流れる極寒のハドソン川に、鳥との衝突によって両エンジンの推力を失ったUSエアウェイズ1549便のエアバスA320が不時着水した。
過去に起こった同様の事故では、ほとんどのケースで多くの犠牲者が出ており、乗員乗客155名全員の生還劇は本作の邦題にもなっている「ハドソン川の奇跡」として、全世界のマスコミで大きく報道されたのは記憶に新しい。
この事故で一躍全米の英雄となったのが、“完璧な着水”を成功させたチェズレイ・サレンバーガー機長だ。
元アメリカ空軍のパイロットで、実に40年に渡るキャリアを持つ機長は、冷静沈着なキャラクターもあって、プロフェッショナルの鏡として時代の寵児となる。
しかし、世間の関心が集中する中、彼自身はどういう心境だったのか。
原題はサレンバーガー機長の愛称「Sully」。
本作は、あの事故によって図らずも英雄に祭り上げられた、機長の内面を紐解く物語になっている。
自分の決断が本当に正しかったのか、彼の葛藤の軸になるのは「空港に引き返せなかったのか?」という疑問。
事故調査を担当する国家運輸安全委員会(NTSB)は、コンピューターシミュレーションと、パイロットによるフライトシミュレーターで検証を行い、そのどちらでも空港に引き返し無事に着陸することが可能だったと主張。
実際にコックピットにいた機長は、その結果に納得できないのだが、もしかしたら自分が間違っていたのかもという疑念にかられ、飛行機を市街地に墜落させる悪夢に苛まれる。
この事故の顛末はナショナル・ジオグラフィックTVのドキュメンタリー・シリーズ、「メーデー!」の「ハドソン川の奇跡」の回で詳しく解説されていたが、そちらではシミュレーションの件は事故調査の初期に浮かんだ小さな疑問という扱いだった。
調査にかかる膨大な時間を含めた事故全体でなく、機長のプロフェッショナルとしての仕事の責任にフォーカスした作品だから、ここが軸になり得る。
ただ、ドラマ性を高めるためだろうが、作劇上NTSBを機長を貶めようとする“悪役”に近い扱いにした事には疑問が残る。
彼らは彼らで事故のあらゆる要因を追求し、空の旅の安全性を向上させるプロフェッショナルであり、パイロットの過失の可能性を考え、追求するのは当たり前のこと。
最後にフォローはあるものの、彼らをやり込めることに物語のカタルシスに感じさせるのではなく、ここはもう少し引いた視点で描いても良かったと思う。
まあ、結末は分かっているし、色々あってもプロフェッショナルとして責任を全うし、正しい行いをした者は報われる。
今まで、様々な切り口で「正義とは?英雄とは?」を描いてきたイーストウッド作品としては非常にストレート。
言いたい事がシンプルだから、尺も96分と近年の作品群の中ではダントツに短い。
イーストウッドの前作、「アメリカン・スナイパー」は死をもたらす英雄と、彼自身の死を描いたレクイエムだったが、こちらは人々を救った英雄が報われる話となり、2本で完全な対照を形作る。
アメリカの未来にエールを贈る様な、気持ちの良い作品だ。
ナショナル・ジオグラフィックTVのドキュメンタリー版「ハドソン川の奇跡」と、おそらく同じ事件から着想しているであろう、ロバート・ゼメキス監督の「フライト」と合わせて観るとより面白い。
今回は舞台となる「ニューヨーク」の名を冠したカクテルを。 ライまたはバーボンウィスキー45ml、ライムジュース15ml、グレナデン・シロップ1/2tsp、砂糖1tspをシェイクしてグラスに注ぎ、オレンジピールを絞りかけて完成。
濃厚なウィスキーとライムは実によく合い、甘酸っぱくて微かにほろ苦い。 苦難を乗り越えて前に進む、大人のカクテルだ。

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