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ショートレビュー「ドント・ブリーズ・・・・・評価額1650円」
2016年12月23日 (金) | 編集 |
息を潜め気配を消せ。奴が、通り過ぎるまで。

リメイク版「死霊のはらわた」で脚光を浴びた、フェデ・アルバレス監督の最新作は、小粒だがピリリと辛い秀作ホラーだ。
女1人男2人の3人組の貧困層の若者たちが、盲目の老人が大金を家に隠しているという噂を聞きつけ強盗に入るも、実は老人の正体は圧倒的な戦闘力をもつ元軍人だった。
しかも彼は、若者たちを生きて帰せない、ある秘密を抱えているのである。
1人は秒殺され、残り2人の命も、わずかでも音立てれば消される風前の灯。
抜き足差し足、必死に家からの脱出を試みるが、ドアには何重もの鍵、窓には鉄格子。
侵入に使った小窓も直ちに塞がれ、若者たちは迷宮と化した家で、出口を探して逃げ回るしかない。

「アバター」のクライマックスで、サム・ワーシントンと死闘を繰り広げるクオリッチ大佐役で知られるスティーヴン・ラングは、ちょいサイコ入った軍人役が似合い過ぎ。
ど素人の若者たちvs歴戦の軍人の対決が一方的にならないのは、盲目という設定を上手く生かしてるから。
視覚以外の感覚が鋭敏に研ぎ澄まされているとは言え、老人には侵入者が何人いるのか分からない。
自分が殺した男だけなのか、それとも複数なのか、生き残った二人にとっては、彼の視覚情報の欠落が付け入る隙となる訳だ。
一方、迷路のような地下室で、完全に光を絶たれた状態では、若者たちになす術は無く、神出鬼没な老人に、徹底的にボコられるしかない。
盲目設定はある時は老人に有利に、ある時は若者たちに有利に働き、緊張感のある攻防戦が最後まで途切れないのである。

今年は、本作の様にワンアイディアを生かし切ったホラーが目立った。
特に、1月に公開された「イット・フォローズ」は、人から人へと感染し、確実に死をもたらす"それ"にとり憑かれたハイティーンの少女の物語で、本作とはジャンル映画の表と裏の様な好対照を形作る。
人の姿をしているが人ではなく、ただただひたすら真っ直ぐ歩いて追ってくる"それ"は、究極の不条理であり恐怖の具現化なのだが、この映画の舞台は本作と同じデトロイト
ひと昔前のアメリカンホラーといえば、南部の田舎の印象が強かったが、これには南北戦争以来東部や西部に比べると経済的に遅れ、人種差別が根強く、宗教保守派の多い南部に対するイメージが根底にあった。
対して21世紀では、経済破綻によって急速に人口が減少し、生活圏のすぐ隣に広大な廃墟が広がるデトロイトが、新たな恐怖が生まれる街に相応しい。
「イット・フォローズ」は、若者たちに蔓延する漠然とした不安を、”それ”という超常現象にメタファーさせた訳だが、本作では逆に恐怖の対象は極めて現実的だ。

今もこの街に暮らす者は、出て行きたくても仕事の当てもなく、引越しの資金にすらこと欠く白人貧困層、いわゆる"トランプを当選させた者たち"だ。
本作の主人公に当たるロッキーも、どん底の生活を送る親元を離れ、幼い妹と二人でカリフォルニア行きを夢見ているが、その手段は男友達との強盗稼業。
3人の仕事のターゲットとなる老人も、湾岸戦争で失明し、唯一の心の拠り所だった愛娘を交通事故で失い、家にあるという大金は、事故の示談金として金持ちの加害者が支払ったもの。
裕福な者は罪を犯しても刑務所に行かず、貧しい者は生きてゆくために罪を犯すしかない。
恐怖を生み出すのは、幽霊でも悪魔でもなく、ただただ追い詰められた人間。
格差を巡る合衆国の葛藤が、本作の真のテーマであり、単なる怖がらせを超えた深みである。
アルバレスによると、本作のヒットを受けて続編が決定しているそうで、あのラストからどう広げてゆくのか、非常に楽しみだ。

今回は大金を狙って始まる物語なのでカクテルの「ミリオン・ダラー」をチョイス。
ドライ・ジン45ml、スイート・ベルモット15ml、パイナップル・ジュース15ml、グレナデン・シロップ1tsp、卵白1個分を氷と共にシェイクしてグラスに注ぐ。
最後にカットしたパイナップルかレモンピールを飾って完成。
爽やかな香りを卵白がまろやかにまとめ上げる。
名前が名前だけになんとなくリッチな気分になれる一杯だ。

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