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2016年12月30日 (金) | 編集 |
2016年は、端的に言えば「日本映画奇跡の年」だった。
例年なら1、2本あれば良いというレベルの傑作が、ほとんど月替わりで現れる、しかもメジャーからインディーズ、内容もアニメ、怪獣、ホラーからハードな人間ドラマまで、まんべんなく揃っているのだから凄い。
あまりに良作が多すぎるのでハードルが上がり、例年なら確実に入れている幾つかの作品はこのリストから漏れてしまった。
願わくば、この傾向が来年も続くと良いのだけど。
海外へ目を向けると、世界中でポピュリズムの嵐が荒れ狂った年らしく、世界各国から政治的・風刺的な秀作が多くやって来た。
それでは、今年の「忘れられない映画たち」を、ブログでの紹介順に。
例によって順位はなし。
「ブリッジ・オブ・スパイ」冷戦たけなわの50年代末、スパイの引き渡しを巡る米露交渉を任されてしまった弁護士の物語。前半は、アメリカで逮捕されたソ連スパイの裁判劇。後半は、東ベルリンを舞台にしたソ連とアメリカの捕虜交換を巡る、丁々発止の交渉劇。非常に端正な映画で、ハリウッドの超一流の仕事を堪能できる。
「消えた声が、その名を呼ぶ」第一次大戦中のトルコ軍によるアルメニア人虐殺をモチーフにした壮大な叙事詩。突然憲兵に連行された主人公は、声を失いながらも虐殺を生き残り、行方不明となった家族を探して砂漠から海へ、新大陸の大平原へと長い長い旅に出る。荒野の放浪者の物語は、中東史から現代アメリカ史へと繋がっている。
「サウルの息子」今まで作られた、どのホロコースト映画とも異なる異色作。ユダヤ人でありながら、絶滅収容所の労役を担う“ゾンダーコマンド”が主人公。長まわしのカメラは、殆どウエストショット以上で主人公に張り付き、被写界深度の浅いスタンダードの狭い画面は、観客の意識を主人公に同一化させ、この世の地獄を体験させるのである。
「ザ・ウォーク」極限の縁を歩く、ワイヤーの上のアーティストの夢と狂気の物語。今はもう存在しない、WTCの二つの塔の間を渡った男に、人々はいつしか憧憬を抱き、彼の企てる「クーデター」の共犯者となってゆく。今では死と破壊の象徴となったWTCは、この映画では若々しくとても美しい。人生と芸術に関する、ロマンチックでスペクタクルな物語だ。
「キャロル」社会が今より同性愛に不寛容だった50年代のニューヨークを舞台に、エレガントな大人の女性キャロルと、まだ初々しい蕾のテレーズの愛を描く。偽りの人生への圧力が二人の愛を翻弄する中、ついに彼女たちは魂の牢獄から自らを解き放つ。同じ時代のニューヨーク移民社会を描く「ブルックリン」も心に残る佳作だった。
「オデッセイ」火星にたった一人で取り残された男と、彼を救出しようとする人々を描くSFドラマ。植物学者の主人公が、残された物を使って生きるための環境とNASAとの通信手段を作り上げるプロセスは、宇宙版「ロビンソン・クルーソー」の様。物語を盛り上げる70年代ディスコサウンドの使い方が絶妙で、全編に渡ってスリリングでファニー!
「リップヴァンウィンクルの花嫁」残酷で切なく美しい、3時間の大作。厳しい現実によって人生どん底にまで追い詰められた主人公は、奇妙な便利屋の導きによって、不思議な世界へと足を踏み入れる。人はどうしたら幸せになれるのか?幸せはどこにあるのか?主人公の再生のドラマに、3.11以降の“ニッポンのリアル”を濃縮した、独創のシネマティックワールドだ。
「オマールの壁」分離壁で囲まれたパレスチナ自治区に暮らす、ある青年の物語。イスラエル兵射殺事件で検挙された青年は、一生を刑務所で送るか、スパイになるかを迫られる。敵味方、登場人物の誰がどんな嘘をついているのか分からない。巨大な分離壁は、閉塞した世界の象徴だ。衝撃的なラストには、全く言葉が出ない。
「父を探して」ある日列車に乗って去って行った父を探して、旅に出る少年を描くブラジル発の長編アニメーション。子どもの落書きを思わせるカラフルな絵はとても可愛らしいのだけど、少年の辿る旅路は、絵柄からは想像もつかない高度な社会風刺となっている。少年の遠大な冒険は、そのままブラジルという国の歴史でもある。
「レヴェナント:蘇えりし者」アメリカ創成期を舞台とした、壮大な映像神話。圧倒的な存在感で世界を支配するのは、シネスコ画面いっぱいに広がる大自然。互いに敵対するいくつものエスニックグループが入り乱れ、見えざる手によって主人公の運命に絡み合う。限りなく厳しい自然の中で生きることの意味を求める、神話的流離譚だ。
「ズートピア」全世界的にポピュリズが猛威を振るった2016年に、ディズニーが送り出したパワフルな政治風刺劇。多種多様な動物たちが暮らすズートピアは、現代アメリカのカリカチュアであり、描こうとしているモチーフはズバリ「差別」だ。しかも表層的な部分だけでなく、かなり踏み込んで描いているのには唸った。好調ディズニー・ピクサーは「アーロと少年」「ファインディング・ドリー」も素晴らしいクオリティ。
「アイアムアヒーロー」安っぽさゼロ、ハリウッド映画とタイマン張れるゾンビホラーの大快作だ。予告編はコメディタッチを予感させるものだったが、本編はR15+指定なのを良いことに、人体破壊の限りを尽くす凶悪っぷり。ダサかっこいい主人公vs迫り来るゾキュン軍団の大バトルは息つく暇もない。
「シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ」人知を超越した強大な力を一部の人間が持つことを、果たして人類は容認できるのか。力は国家に帰属させるのか、それとも個人に委ねられるべきなのか。二つの正義の対決は、アメリカが建国以来抱えてきた重要なイッシューだ。「アベンジャーズ」「ウィンター・ソルジャー」と共にMCUのベスト。
「ちはやふる 上の句&下の句」競技かるたに明け暮れる高校生たちの青春を「上の句」「下の句」と題した二部作で描く。和のスポコン+控えめなラブストーリーに、思春期のワクワクドキドキが加速する。二部作の話のたたみ方も見事で、まさにお手本のような熱血青春映画。本当の完結編となるという、「ちはやふる」第三部が今から待ちきれない。
「殿、利息でござる!」江戸時代、百姓たちが藩にお金を貸して利息をとったという、実話ベースの物語。印象深いのは、古の日本人たちの驚くべき公共性、パブリックな意識の高さ。利息は全て村人に分配されるので、出資を申し出た者には一銭も戻らない。ユーモラスではあるがコメディではなく、現在の社会にも十分通じるお金を巡る真面目な寓話だ。
「神様メール」どこかモンティパイソンを思わせるシュールでシニカル、それでいて詩的なファンタジー。癇癪持ちでサディストの神様に虐げられた娘が反乱を起こす。キリストの妹は、全ての人類に余命を告知するメールを送信すると、新・新約聖書を作るために人間界への旅に出のだが、やがて彼女の行動は世界の”リセット”に繋がってゆく。
「ヒメアノ〜ル」日本映画史に類を見ない大怪作。お話はごく単純、でも簡単には語れない。前半の気持ち悪いラブコメが、ある瞬間に世界が反転、日常の裏側にあった闇が前面に出てくる。ヒメアノールとは小さなトカゲのことだそうだが、無害な動物を暴走するシリアルキラーに変異させたのは何か。怪物に共感は出来ないが、なんとも言えない憐れみを感じさせる。
「エクス・マキナ」歴史上、数々の名作SFがモチーフとしてきた人間とAIの関係を描く。人間から生まれ、人間を超える知性を、支配することは許されるのか。AIはその地位に甘んじるのだろうか。思考する機械という、ありえなかった存在が現実になろうとする時代。絵空事というには、このテーマはあまりにもリアルすぎる。
「帰ってきたヒトラー」死の直前に現代のドイツにタイムスリップしたヒトラーと、仕事をクビになったTVディレクターがコンビを組み、ユーチューバーとして大人気となる。観た当時よりも、後から重みを増した映画だ。まさかのブレクジットにトランプの当選と、現実が映画に追いついてしまった。私たちはもう、この映画を笑えない。
「日本で一番悪い奴ら」四半世紀の長きに渡って北海道の裏社会と癒着しながら、道警のエースと呼ばれた悪徳刑事の半生を描く、実話ベースの異色のピカレスク大河ドラマだ。やりたい放題、怒涛の勢いで成り上り、今度はノンストップで破滅に向かって突っ走る主人公を通して、日本型組織のあるあるネタがカリカチュアされて見えてくる。
「シング・ストリート 未来へのうた」80年代のダブリンを舞台に、年上の彼女にアピールするべくバンドを始めた高校生の物語。社会は大不況、家では両親の不和という幾重の葛藤の中で、少年は恋と音楽に突き進む。やがて彼は、小さな閉塞した世界を超えて、無限の可能性が待つ未来へと歩み出すのだ。
「死霊館 エンフィールド事件」10年代オカルトホラーのベスト。霊現象に関わった、あるいは“ギフト”として能力を与えられた者それぞれの葛藤に、一貫した答えが与えられている。絶望を抱えた人間を救えるのは、結局信頼と愛に支えらえれた行動なのである。今年は「イット・フォローズ」「ライト/オフ」「ドント・ブリーズ」など、ワンアイディアを生かし切ったホラーの秀作が目立ったが、王道の一本はやはりこれだ。
「シン・ゴジラ」これは怪獣出現というシチュエーションで、日本という国家の中枢で何が起こるのかの徹底的なシミュレーション。本作が3.11にインスパイアされているのは明らかで、我々=日本=現実はあの時失敗したが、「本来はこうあるべきだった、こう出来たはずだった」という理想形を、ゴジラという虚構との対立を通して見せてくれるのが本作であり、未曾有の危機を背景に、この国の人間のあり方を希望的に描いた物語なのである。
「ソング・オブ・ザ・シー 海のうた」灯台守りの子として、孤島で暮らす幼い兄妹の大冒険とそれぞれの成長物語。世界観を形作るアイルランドの精神世界が、自然に子供達の流離譚に組み込まれている。キャラクターや美術は丸と環をベースにデザインされ、それが背景となる神話の世界観を表してるのだが、アニミズム色が強いアイルランド神話は日本人には馴染みやすい。
「君の名は。」色々な意味で今年を代表する大ヒット作。これも「シン・ゴジラ」同様、3.11の現実に抗った先にある希望を描いているが、アプローチは真逆。シミュレーションに徹し、巨大なチームとしての日本を描いた「シン・ゴジラ」に対して、本作は徹底的に個人のエモーションに寄り添い、誰かを想う人の心が、宇宙の法則をも変えてしまう世界を描く。2016年夏は、「シン・ゴジラ」と「君の名は。」によって映画史に永遠に刻まれるだろう。
「レッドタートル ある島の物語」隔絶された理想郷で展開する、生命のサイクルの物語。台詞なしで描かれる、リリカルな異種婚姻譚の魅力に抗うのは難しい。物語はそのまま主人公の心情と見ることもできるし、愛に関するこの世界の縮図と捉えることもできるだろう。モチーフ的に「ソング・オブ・ザ・シー」に通じるものがあるのが面白い。
「聲の形」幼さゆえに取り返しのつかない罪を犯した少年が、命の意味に向き合い、世界を取り戻すまでの物語。聾唖の少女への虐めから始まる物語は、相当に痛くて苦しい。登場人物の誰もが傷つき、大なり小なり罪を抱えて生きてる。観客も、登場人物と共に苦しみながらも、彼らの一員となった感覚で、自らも葛藤せざるをえないのである。
「怒り」凄惨な殺人事件の1年後、忽然と現れた3人の男と共に、全く異なる三つの愛と罪の物語が描かれる。人を信じることの難しさと尊さ、そして恐ろしさ。二つの物語には許し、あるいは癒しがもたらされるが、唯一沖縄の物語にだけは、なんの救いも無いまま。ラストカットの誰にも届かない魂の叫びは、この世界の不条理と残酷さを象徴している。
「SCOOP!」芸能スキャンダル専門のパパラッチと新人記者の、快作バディムービー。メディアのあり方などの社会的テーマも内包するモダンな人間ドラマと、見たいもんを見せてやる的などこか昭和なプロクラムピクチュアの猥雑さ。都会の裏側に蠢く人間たちのいかにもありそうなリアリティと、いい意味で予想を裏切る虚構性のバランスも良かった。
「PK ピーケー」様々宗教が混在する、インドの今を映し出すユニークな風刺劇。とある重要なモノを失くしてしまった主人公は、人々が宗教に縋るのを見て、自分も神に祈ってみる。ところが探し物は一向に出て来ず、独特の感性を持つ主人公の神への問いかけが、徐々に周りの人々を動かしてゆく。2時間半を超える長尺を全く飽きさせない、作劇の見事さが光る。
「何者」就職活動の苦闘の中で、自分が”何者”なのかを模索する5人の大学生を通し、等身大の若者たちのリアルを描く。彼らのSNSに渦巻く焦り、妬み、恋、不安。青春の終章にある若者たちが、学生という守られた存在から、社会の中で独立した何者かになってゆく物語は、生みの苦しみ。希望はあるが、精神的に相当にキツイ映画だ。
「永い言い訳」不倫相手の密会中、交通事故で妻を失った小説家の主人公が、同じ事故で亡くなった妻の親友の家族との交流を通して、自らの人生を見つめ直す。妻はもう死んでいるのだから、主人公の「罪」は永遠に償えない。虚勢を張った男の弱さを赤裸々に描きながら、心の奥底にある後悔と愛情を丁寧に掘り起こす繊細な心理劇だ。
「とうもろこしの島」2年前のTIFF上映作がようやく公開。舞台は、独立を巡りグルジアと戦争状態にある旧ソ連のアブハジア。対立する両陣営の間を流れるエングリ川の中州に、一人の老人が孫娘と共に現れ、小屋を建てトウモロコシを植え、開拓を始める。シネスコ画面いっぱいに広がる大自然が圧倒的で、対照的に愚かな争いは矮小化されるしかない。
「ヒトラーの忘れもの」こちらは去年のTIFF上映作。デンマークはナチスが埋めた220万個もの地雷処理に、投降したドイツ軍人を徴用。その多くが少年兵で、徴用された半数が死傷したという事実の映画化。人は憎しみと言う燃料さえあれば、誰でも子供すら殺すモンスターに成り得る。真摯に作られた大変な力作だ。
「この世界の片隅に」ムービー・オブ・ザ・イヤー、そして私的21世紀ベスト・ワン。太平洋戦争中、18歳で広島から呉に嫁いだすずさんの物語。どこにでもある普通の暮らしが、戦争という暴力によって少しずつ崩れ、誰もが何かを失ってゆく時代の情景となって、緻密な考証に裏打ちされた美しくリリカルなアニメーションで描かれる。本作はこの時代に生きた人々の想いを現在へと繋げる記憶の器だ。作り手の想いが余すところなくスクリーンに結実した珠玉の傑作である。
「湯を沸かすほど熱い愛」余命宣告された主人公が、残された時間でバラバラだった家族の抱える問題を総解決。家族だけでなく、関わった人々全てに愛を注ぐスーパーお母ちゃんの物語。なぜ彼女はそれ程までに人を愛すのか。秘められていた家族の真実の姿が明らかになる終盤には、主人公の苦しくも熱い想いに涙腺決壊。
「アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場」究極の選択を迫られた人々を通して、21世紀の戦争を描く問題作。テロリストを殺害するために、無垢な少女を巻き添えにすることが許されるのか。現場から遠く離れた会議室で、延々と繰り返される議論。これが遺作となった、アラン・リックマンの最後の台詞が、鋭く突き刺さる大力作だ。
「ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストリー」ファンが予想もつかなかった、まさかの物語。間違いなくお馴染みの世界観だが、そこで繰り広げられるのは、ハードなスパイ映画で、壮絶な戦争映画。見せ場を畳み掛ける終盤15分は、映画史上屈指の名クライマックス。ここに夢一杯の宇宙冒険物語は無いが、希望は確かにあるのだ。
以上、絞りに絞ってようやく選んだ38本。
日本映画が16本もあるのがその要因だけど、例年の調子で選んでいたら、50本くらいにはなってしまっただろう。
さて、来年はどんな映画に出会えるのか。
それでは皆さん、良いお年を。
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例年なら1、2本あれば良いというレベルの傑作が、ほとんど月替わりで現れる、しかもメジャーからインディーズ、内容もアニメ、怪獣、ホラーからハードな人間ドラマまで、まんべんなく揃っているのだから凄い。
あまりに良作が多すぎるのでハードルが上がり、例年なら確実に入れている幾つかの作品はこのリストから漏れてしまった。
願わくば、この傾向が来年も続くと良いのだけど。
海外へ目を向けると、世界中でポピュリズムの嵐が荒れ狂った年らしく、世界各国から政治的・風刺的な秀作が多くやって来た。
それでは、今年の「忘れられない映画たち」を、ブログでの紹介順に。
例によって順位はなし。
「ブリッジ・オブ・スパイ」冷戦たけなわの50年代末、スパイの引き渡しを巡る米露交渉を任されてしまった弁護士の物語。前半は、アメリカで逮捕されたソ連スパイの裁判劇。後半は、東ベルリンを舞台にしたソ連とアメリカの捕虜交換を巡る、丁々発止の交渉劇。非常に端正な映画で、ハリウッドの超一流の仕事を堪能できる。
「消えた声が、その名を呼ぶ」第一次大戦中のトルコ軍によるアルメニア人虐殺をモチーフにした壮大な叙事詩。突然憲兵に連行された主人公は、声を失いながらも虐殺を生き残り、行方不明となった家族を探して砂漠から海へ、新大陸の大平原へと長い長い旅に出る。荒野の放浪者の物語は、中東史から現代アメリカ史へと繋がっている。
「サウルの息子」今まで作られた、どのホロコースト映画とも異なる異色作。ユダヤ人でありながら、絶滅収容所の労役を担う“ゾンダーコマンド”が主人公。長まわしのカメラは、殆どウエストショット以上で主人公に張り付き、被写界深度の浅いスタンダードの狭い画面は、観客の意識を主人公に同一化させ、この世の地獄を体験させるのである。
「ザ・ウォーク」極限の縁を歩く、ワイヤーの上のアーティストの夢と狂気の物語。今はもう存在しない、WTCの二つの塔の間を渡った男に、人々はいつしか憧憬を抱き、彼の企てる「クーデター」の共犯者となってゆく。今では死と破壊の象徴となったWTCは、この映画では若々しくとても美しい。人生と芸術に関する、ロマンチックでスペクタクルな物語だ。
「キャロル」社会が今より同性愛に不寛容だった50年代のニューヨークを舞台に、エレガントな大人の女性キャロルと、まだ初々しい蕾のテレーズの愛を描く。偽りの人生への圧力が二人の愛を翻弄する中、ついに彼女たちは魂の牢獄から自らを解き放つ。同じ時代のニューヨーク移民社会を描く「ブルックリン」も心に残る佳作だった。
「オデッセイ」火星にたった一人で取り残された男と、彼を救出しようとする人々を描くSFドラマ。植物学者の主人公が、残された物を使って生きるための環境とNASAとの通信手段を作り上げるプロセスは、宇宙版「ロビンソン・クルーソー」の様。物語を盛り上げる70年代ディスコサウンドの使い方が絶妙で、全編に渡ってスリリングでファニー!
「リップヴァンウィンクルの花嫁」残酷で切なく美しい、3時間の大作。厳しい現実によって人生どん底にまで追い詰められた主人公は、奇妙な便利屋の導きによって、不思議な世界へと足を踏み入れる。人はどうしたら幸せになれるのか?幸せはどこにあるのか?主人公の再生のドラマに、3.11以降の“ニッポンのリアル”を濃縮した、独創のシネマティックワールドだ。
「オマールの壁」分離壁で囲まれたパレスチナ自治区に暮らす、ある青年の物語。イスラエル兵射殺事件で検挙された青年は、一生を刑務所で送るか、スパイになるかを迫られる。敵味方、登場人物の誰がどんな嘘をついているのか分からない。巨大な分離壁は、閉塞した世界の象徴だ。衝撃的なラストには、全く言葉が出ない。
「父を探して」ある日列車に乗って去って行った父を探して、旅に出る少年を描くブラジル発の長編アニメーション。子どもの落書きを思わせるカラフルな絵はとても可愛らしいのだけど、少年の辿る旅路は、絵柄からは想像もつかない高度な社会風刺となっている。少年の遠大な冒険は、そのままブラジルという国の歴史でもある。
「レヴェナント:蘇えりし者」アメリカ創成期を舞台とした、壮大な映像神話。圧倒的な存在感で世界を支配するのは、シネスコ画面いっぱいに広がる大自然。互いに敵対するいくつものエスニックグループが入り乱れ、見えざる手によって主人公の運命に絡み合う。限りなく厳しい自然の中で生きることの意味を求める、神話的流離譚だ。
「ズートピア」全世界的にポピュリズが猛威を振るった2016年に、ディズニーが送り出したパワフルな政治風刺劇。多種多様な動物たちが暮らすズートピアは、現代アメリカのカリカチュアであり、描こうとしているモチーフはズバリ「差別」だ。しかも表層的な部分だけでなく、かなり踏み込んで描いているのには唸った。好調ディズニー・ピクサーは「アーロと少年」「ファインディング・ドリー」も素晴らしいクオリティ。
「アイアムアヒーロー」安っぽさゼロ、ハリウッド映画とタイマン張れるゾンビホラーの大快作だ。予告編はコメディタッチを予感させるものだったが、本編はR15+指定なのを良いことに、人体破壊の限りを尽くす凶悪っぷり。ダサかっこいい主人公vs迫り来るゾキュン軍団の大バトルは息つく暇もない。
「シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ」人知を超越した強大な力を一部の人間が持つことを、果たして人類は容認できるのか。力は国家に帰属させるのか、それとも個人に委ねられるべきなのか。二つの正義の対決は、アメリカが建国以来抱えてきた重要なイッシューだ。「アベンジャーズ」「ウィンター・ソルジャー」と共にMCUのベスト。
「ちはやふる 上の句&下の句」競技かるたに明け暮れる高校生たちの青春を「上の句」「下の句」と題した二部作で描く。和のスポコン+控えめなラブストーリーに、思春期のワクワクドキドキが加速する。二部作の話のたたみ方も見事で、まさにお手本のような熱血青春映画。本当の完結編となるという、「ちはやふる」第三部が今から待ちきれない。
「殿、利息でござる!」江戸時代、百姓たちが藩にお金を貸して利息をとったという、実話ベースの物語。印象深いのは、古の日本人たちの驚くべき公共性、パブリックな意識の高さ。利息は全て村人に分配されるので、出資を申し出た者には一銭も戻らない。ユーモラスではあるがコメディではなく、現在の社会にも十分通じるお金を巡る真面目な寓話だ。
「神様メール」どこかモンティパイソンを思わせるシュールでシニカル、それでいて詩的なファンタジー。癇癪持ちでサディストの神様に虐げられた娘が反乱を起こす。キリストの妹は、全ての人類に余命を告知するメールを送信すると、新・新約聖書を作るために人間界への旅に出のだが、やがて彼女の行動は世界の”リセット”に繋がってゆく。
「ヒメアノ〜ル」日本映画史に類を見ない大怪作。お話はごく単純、でも簡単には語れない。前半の気持ち悪いラブコメが、ある瞬間に世界が反転、日常の裏側にあった闇が前面に出てくる。ヒメアノールとは小さなトカゲのことだそうだが、無害な動物を暴走するシリアルキラーに変異させたのは何か。怪物に共感は出来ないが、なんとも言えない憐れみを感じさせる。
「エクス・マキナ」歴史上、数々の名作SFがモチーフとしてきた人間とAIの関係を描く。人間から生まれ、人間を超える知性を、支配することは許されるのか。AIはその地位に甘んじるのだろうか。思考する機械という、ありえなかった存在が現実になろうとする時代。絵空事というには、このテーマはあまりにもリアルすぎる。
「帰ってきたヒトラー」死の直前に現代のドイツにタイムスリップしたヒトラーと、仕事をクビになったTVディレクターがコンビを組み、ユーチューバーとして大人気となる。観た当時よりも、後から重みを増した映画だ。まさかのブレクジットにトランプの当選と、現実が映画に追いついてしまった。私たちはもう、この映画を笑えない。
「日本で一番悪い奴ら」四半世紀の長きに渡って北海道の裏社会と癒着しながら、道警のエースと呼ばれた悪徳刑事の半生を描く、実話ベースの異色のピカレスク大河ドラマだ。やりたい放題、怒涛の勢いで成り上り、今度はノンストップで破滅に向かって突っ走る主人公を通して、日本型組織のあるあるネタがカリカチュアされて見えてくる。
「シング・ストリート 未来へのうた」80年代のダブリンを舞台に、年上の彼女にアピールするべくバンドを始めた高校生の物語。社会は大不況、家では両親の不和という幾重の葛藤の中で、少年は恋と音楽に突き進む。やがて彼は、小さな閉塞した世界を超えて、無限の可能性が待つ未来へと歩み出すのだ。
「死霊館 エンフィールド事件」10年代オカルトホラーのベスト。霊現象に関わった、あるいは“ギフト”として能力を与えられた者それぞれの葛藤に、一貫した答えが与えられている。絶望を抱えた人間を救えるのは、結局信頼と愛に支えらえれた行動なのである。今年は「イット・フォローズ」「ライト/オフ」「ドント・ブリーズ」など、ワンアイディアを生かし切ったホラーの秀作が目立ったが、王道の一本はやはりこれだ。
「シン・ゴジラ」これは怪獣出現というシチュエーションで、日本という国家の中枢で何が起こるのかの徹底的なシミュレーション。本作が3.11にインスパイアされているのは明らかで、我々=日本=現実はあの時失敗したが、「本来はこうあるべきだった、こう出来たはずだった」という理想形を、ゴジラという虚構との対立を通して見せてくれるのが本作であり、未曾有の危機を背景に、この国の人間のあり方を希望的に描いた物語なのである。
「ソング・オブ・ザ・シー 海のうた」灯台守りの子として、孤島で暮らす幼い兄妹の大冒険とそれぞれの成長物語。世界観を形作るアイルランドの精神世界が、自然に子供達の流離譚に組み込まれている。キャラクターや美術は丸と環をベースにデザインされ、それが背景となる神話の世界観を表してるのだが、アニミズム色が強いアイルランド神話は日本人には馴染みやすい。
「君の名は。」色々な意味で今年を代表する大ヒット作。これも「シン・ゴジラ」同様、3.11の現実に抗った先にある希望を描いているが、アプローチは真逆。シミュレーションに徹し、巨大なチームとしての日本を描いた「シン・ゴジラ」に対して、本作は徹底的に個人のエモーションに寄り添い、誰かを想う人の心が、宇宙の法則をも変えてしまう世界を描く。2016年夏は、「シン・ゴジラ」と「君の名は。」によって映画史に永遠に刻まれるだろう。
「レッドタートル ある島の物語」隔絶された理想郷で展開する、生命のサイクルの物語。台詞なしで描かれる、リリカルな異種婚姻譚の魅力に抗うのは難しい。物語はそのまま主人公の心情と見ることもできるし、愛に関するこの世界の縮図と捉えることもできるだろう。モチーフ的に「ソング・オブ・ザ・シー」に通じるものがあるのが面白い。
「聲の形」幼さゆえに取り返しのつかない罪を犯した少年が、命の意味に向き合い、世界を取り戻すまでの物語。聾唖の少女への虐めから始まる物語は、相当に痛くて苦しい。登場人物の誰もが傷つき、大なり小なり罪を抱えて生きてる。観客も、登場人物と共に苦しみながらも、彼らの一員となった感覚で、自らも葛藤せざるをえないのである。
「怒り」凄惨な殺人事件の1年後、忽然と現れた3人の男と共に、全く異なる三つの愛と罪の物語が描かれる。人を信じることの難しさと尊さ、そして恐ろしさ。二つの物語には許し、あるいは癒しがもたらされるが、唯一沖縄の物語にだけは、なんの救いも無いまま。ラストカットの誰にも届かない魂の叫びは、この世界の不条理と残酷さを象徴している。
「SCOOP!」芸能スキャンダル専門のパパラッチと新人記者の、快作バディムービー。メディアのあり方などの社会的テーマも内包するモダンな人間ドラマと、見たいもんを見せてやる的などこか昭和なプロクラムピクチュアの猥雑さ。都会の裏側に蠢く人間たちのいかにもありそうなリアリティと、いい意味で予想を裏切る虚構性のバランスも良かった。
「PK ピーケー」様々宗教が混在する、インドの今を映し出すユニークな風刺劇。とある重要なモノを失くしてしまった主人公は、人々が宗教に縋るのを見て、自分も神に祈ってみる。ところが探し物は一向に出て来ず、独特の感性を持つ主人公の神への問いかけが、徐々に周りの人々を動かしてゆく。2時間半を超える長尺を全く飽きさせない、作劇の見事さが光る。
「何者」就職活動の苦闘の中で、自分が”何者”なのかを模索する5人の大学生を通し、等身大の若者たちのリアルを描く。彼らのSNSに渦巻く焦り、妬み、恋、不安。青春の終章にある若者たちが、学生という守られた存在から、社会の中で独立した何者かになってゆく物語は、生みの苦しみ。希望はあるが、精神的に相当にキツイ映画だ。
「永い言い訳」不倫相手の密会中、交通事故で妻を失った小説家の主人公が、同じ事故で亡くなった妻の親友の家族との交流を通して、自らの人生を見つめ直す。妻はもう死んでいるのだから、主人公の「罪」は永遠に償えない。虚勢を張った男の弱さを赤裸々に描きながら、心の奥底にある後悔と愛情を丁寧に掘り起こす繊細な心理劇だ。
「とうもろこしの島」2年前のTIFF上映作がようやく公開。舞台は、独立を巡りグルジアと戦争状態にある旧ソ連のアブハジア。対立する両陣営の間を流れるエングリ川の中州に、一人の老人が孫娘と共に現れ、小屋を建てトウモロコシを植え、開拓を始める。シネスコ画面いっぱいに広がる大自然が圧倒的で、対照的に愚かな争いは矮小化されるしかない。
「ヒトラーの忘れもの」こちらは去年のTIFF上映作。デンマークはナチスが埋めた220万個もの地雷処理に、投降したドイツ軍人を徴用。その多くが少年兵で、徴用された半数が死傷したという事実の映画化。人は憎しみと言う燃料さえあれば、誰でも子供すら殺すモンスターに成り得る。真摯に作られた大変な力作だ。
「この世界の片隅に」ムービー・オブ・ザ・イヤー、そして私的21世紀ベスト・ワン。太平洋戦争中、18歳で広島から呉に嫁いだすずさんの物語。どこにでもある普通の暮らしが、戦争という暴力によって少しずつ崩れ、誰もが何かを失ってゆく時代の情景となって、緻密な考証に裏打ちされた美しくリリカルなアニメーションで描かれる。本作はこの時代に生きた人々の想いを現在へと繋げる記憶の器だ。作り手の想いが余すところなくスクリーンに結実した珠玉の傑作である。
「湯を沸かすほど熱い愛」余命宣告された主人公が、残された時間でバラバラだった家族の抱える問題を総解決。家族だけでなく、関わった人々全てに愛を注ぐスーパーお母ちゃんの物語。なぜ彼女はそれ程までに人を愛すのか。秘められていた家族の真実の姿が明らかになる終盤には、主人公の苦しくも熱い想いに涙腺決壊。
「アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場」究極の選択を迫られた人々を通して、21世紀の戦争を描く問題作。テロリストを殺害するために、無垢な少女を巻き添えにすることが許されるのか。現場から遠く離れた会議室で、延々と繰り返される議論。これが遺作となった、アラン・リックマンの最後の台詞が、鋭く突き刺さる大力作だ。
「ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストリー」ファンが予想もつかなかった、まさかの物語。間違いなくお馴染みの世界観だが、そこで繰り広げられるのは、ハードなスパイ映画で、壮絶な戦争映画。見せ場を畳み掛ける終盤15分は、映画史上屈指の名クライマックス。ここに夢一杯の宇宙冒険物語は無いが、希望は確かにあるのだ。
以上、絞りに絞ってようやく選んだ38本。
日本映画が16本もあるのがその要因だけど、例年の調子で選んでいたら、50本くらいにはなってしまっただろう。
さて、来年はどんな映画に出会えるのか。
それでは皆さん、良いお年を。

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