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哭声/コクソン・・・・・評価額1750円
2017年03月19日 (日) | 編集 |
惑わす者は誰か?

さすがはナ・ホンジンだ。
開けてみるまで、作品の中身が全く想像出来ない。
タイトルにはハングルと共に「哭声」という漢字が当てられているが、劇中のコクソンとは物語の舞台となる全羅南道 谷城(コクソン)郡という地名。
山深い片田舎で奇妙な連続殺人事件が起こり、人々は國村隼演じる謎の日本人が関わっていると噂する。
いかにも韓国的な祈祷師による悪霊払いなど、土着性を前面に出しながら、実はキリスト教が重要なモチーフとなる、「エクソシスト」以来最も恐ろしい正統派オカルト映画だ。
同時に、Jホラーを含むアジアの恐怖エッセンスを混ぜこぜにした、最恐のハイブリッドホラーでもあり、この組み合わせが映像として未見性を作り出しているだけでなく、先の読めない物語の意外性にも繋がっている。
全編にわたって不穏な湿気がまとわりつき、気づいた時には私たちは普段目に見ることの出来ない超常の世界に迷い、”惑わす者”の術中にどっぷりと嵌っているのである。
※核心部分に触れています。

谷城の山奥にやってきた、得体の知れない日本人(國村隼)。
目的も素性も謎のよそ者に関する噂が広がりを見せる中、村人が自分の家族を虐殺するという事件が連続して起こる。
どの事件にも共通するのは、体に爛れた湿疹が広がり、正気を失って言葉を発することもできない犯人たちの姿だった。
それぞれの事件のつながりも掴めず、警察の捜査は行き詰まる。
そんな時、事件を担当する村の警察官・ジョング(クァク・ドウォン)は、娘の体に犯人と同じ湿疹があるのに気づく。
事件の目撃者だという女・ムミョン(チョン・ウヒ)に、犯人は山の日本人だと聞いたジョングは、彼を追い詰めてゆくのだが、娘の症状はますます悪化し奇妙な言動をするようになる。
恐怖が蔓延する村には混乱が広がり、ジョングは高名な祈祷師・イルグァン(ファン・ジョンミン)に助けを求めるのだが・・・


毎日新聞のインタビューによると、舞台となるコクソンにはナ・ホンジンの祖母の実家があり、彼自身も幼い頃によく行った場所だという。
この一帯は韓国でも最も開発が遅れ、手つかずの自然が残っており「神を感じさせるシーンを描くのにふさわしいと思った」のが、この地を選択した理由だとか。
迷信深い人々が暮らす山深い僻地、連続する動機不明の殺人事件、犯人たちの体に広がる奇妙な湿疹、得体の知れない謎の日本人、悪霊払いの祈祷師というモチーフは、全体に韓国的というか汎東アジア的な土着のムードを感じさせ、横溝正史の探偵小説をもう少しホラーよりにした様な趣だが、実はこれは観客を誘う巧みなミスリードなのである。

冒頭に出てくる「ルカによる福音書 第24章」が重要なヒントで、これが実は映画の世界観を表している。
第24章で描かれているのは、キリストの復活とそれを目の当たりにした人々の戸惑いだ。
十字架に架けられてから三日目、イエスは予言通り復活するのだが、弟子たちはそれが信じられず、なかなか目の前の人をイエスと認められない。
この章で問われているテーマは、イエスの言葉を「信じる」ということだが、ナ・ホンジンはこの映画のテーマを「混同」であると述べている。
では本作の登場人物たちは、一体何を信じ、何を混同しているのか。
まず、この映画の人物相関を簡単に整理してみよう。
主人公となるのは警察官のジョングで、彼には妻と義母、そして可愛い盛りの一人娘がいる。
村で事件が起こり始め、原因はつかめず、手がかりとなりそうなものは犯人の体に広がる湿疹のみ。
そんな時に、ジョングは事件を目撃したと話すムミョン(名無し)という女から、山に住むよそ者の日本人が犯人だという証言を得る。
元から村では日本人に対する超自然的な噂が広がっており、次第に疑念を募らせたジョングは彼を訪ねて問い詰める。
そして、娘の言動が常軌を逸し始め、体に事件を起こした犯人たちと同じ湿疹が見つかり、祈祷師によって娘を呪う悪霊がいると知らされると、ジョングはそれが日本人だと思い込んでしまうのだ。

つまり、この時点では呪いをかけているのは日本人、被害者は村人たちとジョングの娘、対抗するのがジョングと祈祷師というシンプルな構図であり、ムミョンの役割はまだはっきりしない。
しかし、祈祷師が娘を救うために悪霊である日本人に”殺”を打つ、中盤の山場である儀式のシークエンスあたりから、映画はその様相を急速に変えてくるのである。
この映画にはあえて説明を排しているために、その描写の意味がいく通りにも捉えられる部分がたくさんある。
ジョング目線で物語を追っている観客は、しばしば目の前で起こっていることの意味を、別の意味と混同してしまうように出来ているのだ。
韓国人とそっくりだけど微妙に異なり、何を考えているのか分からない日本人の存在は、「信じて、混同する」という作品のコンセプトを象徴する。
作者は、この映画で「アジアの原始宗教を描いて、聖書中心の世界観を覆そうと思った」と語っている。
「同じ映画を見ても、観客の宗教観によって、それぞれが違う解釈をする」とも。
先日公開されたマーティン・スコセッシ監督の「沈黙 ーサイレンス-」の記事で、日本人と米国人の宗教観の違いによる物語の解釈の相違について書いたが、本作の場合は最初から違った解釈が生まれるように仕向けられているのである。
だから、この映画の読み解きには、本当は正解も不正解も無い。

だが、「聖書中心の世界観を覆そうと思った」という作者の言葉通りならば、本作は基本的に「ルカによる福音書 第24章」の反転と捉えて良いのではないかと思う。
そう考えると、一度殺された後で手に聖痕を持つ悪魔として復活する日本人は、キリストになれなかった者。
悪魔崇拝者で、悪魔を召喚するために村に呪いを広めていたのは彼で、最終的に「霊に肉や骨はないが、私にはあるのだ」の言葉通りに、死んだ彼自身の肉体を依代にして悪魔は召喚された。
祈祷師も悪魔崇拝者で、一見二人がバトルしているように見える中盤の儀式は、実はお互いの存在を知った二人が、別々の対象を呪っている。
祈祷師のターゲットは、助けると見せかけてジョングの娘を、日本人はトラックの運転席にいた瀕死の男、パク・チュンべにそれぞれ悪魔を召喚しようとしていたのだ。
パク・チュンべは最初日本人でなく祈祷師によって呪われた男で、祈祷師の儀式の後に家族を殺して逃亡。
日本人がこの男を偶然見つけたことによって、彼は”同士”の存在に気付き、同じ時刻に儀式を始める。
ところが祈祷師の儀式は、娘の苦しむ姿に耐えられなくなったジョングによって、日本人の儀式はムミョンによって阻止されてしまう。

ムミョンの正体に関しては、イエスよって七つの悪霊を追い出してもらい、彼の死と復活を見届けるマグダラのマリアの反転であり、この映画の登場人物の中で唯一最初から霊的な存在と解釈したい。
おそらく彼女はコクソンの土地神的な存在で、日本人と祈祷師が呪いを広めるのを阻止しようとしている。
だから、日本人は敵である彼女から逃げ、途中事故によって死亡、祈祷師も彼女の力によって鼻血が止まらなくなり、恐れをなして一旦は諦めようとするのだ。
しかし、ここで事態を混同して信ずる者を見誤ったジョングによって、彼女の目論見は水泡に帰してしまう。
最初の事件現場にもムミョンが悪霊に対して仕掛けた罠が残っていたことから、おそらく全ての事件で同じことが繰り返されていたのだろう。
人は、基本的に自分が信じたいことを信じるもので、だからこそ惑わす者たちにとっては陥し入れやすく、守護する者にとっては守りにくい。
ムミョンがジョングに言う「鶏が三回鳴くまで」も、キリストへの絶対的な忠誠を誓っていたペトロが、師に「あなたは鶏が鳴く前に三度私を知らないと言うだろう」と言われ、予言通りに裏切ってしまったという話の反転だ。
ただ、この映画は「誰」あるいは「何」を反転と位置付けるかによって、全く解釈が違ってきてしまうので、上記はあくまでも私的な読み解きで、二度三度観るうちに変わってくる可能性もあるだろう。

「哭声 コクソン」は、汎東アジア的な精神世界とキリスト教的な世界観を融合させ、正統派でありながら、驚くべき未見性に満ちたオカルトホラー映画の大傑作だ。
この映画の描く世界に一番近いのは、おそらく諸星大二郎の民俗学ホラー漫画だと思う。
キーパーソンとなる日本人を演じる國村隼が、評判通りの怪演で強烈な印象を残す。
疾風怒濤の「チェイサー」とは対照的に、156分の間ジワジワとはらわたを締め付けられ、脂汗が滲み出るような焦燥感は、他の映画では体験したことの無いもので、ナ・ホンジンは映画史に残る新たな代表作を作り上げた。
”惑わす者”は本当は誰なのか、誰を信じて、誰を信じないのか。
観客もジョングと共に疑心暗鬼に陥り迷い続けるラスト20分、究極の決断の結果はあの「ミスト」にも匹敵するインパクトだった。

今回は、赤唐辛子を使うカクテル「デビル」をチョイス。
ブランデー40ml、グリーン・ペパーミント20mlを氷を入れたシェイカーでシェイクして、グラスに注ぐ。
軽くレッド・ペッパーをふりかけて完成。
レッド・ペッパーを使わないレシピもある。
ペパーミントの清涼感が広がり、レッドペッパーの辛味がピリッとくる、刺激的なカクテルだ。

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