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ダンケルク・・・・・評価額1750円
2017年09月12日 (火) | 編集 |
“We shall never surrender.”

鬼才クリストファー・ノーランの最新作は、10本目の監督作品にして自身初となる、実話ベースの異色の戦争ドラマだ。
第二次世界大戦初期、ドイツ軍の怒涛の侵攻により、フランスのダンケルク港に、英仏両軍40万人の将兵が追い詰められる。
総攻撃が迫る中、チャーチルは孤立無援の彼らを救出するために、軍民を総動員した”ダイナモ作戦”を発動。
空前絶後の大撤退作戦には無数の物語があったはずだが、本作では海岸に取り残された若い兵士たち、ダンケルクに向かう一艘の民間プレジャーボート、ドーバー海峡上空でドッグファイトを繰り広げる英軍戦闘機隊、時系列の異なる陸海空三つの視点で、緊迫した物語が展開する。
膨大な情報量に裏打ちされた、106分のドラマは一気呵成。
ダンケルクの戦場に送り込まれた観客は、一人の兵士となって歴史が神話となる瞬間を目撃するのである。
※核心部分に触れています。

1940年5月末。
前年に始まった戦争は、ドイツ軍が破竹の勢いで欧州大陸を席巻。
ベネルクス三国、フランスを電撃戦で瞬く間に撃破し、残存フランス軍と駐留していたイギリス軍は北部ダンケルクに追い詰められる。
彼らを救出するために発動されたダイナモ作戦は、ドイツ軍の妨害を受け、困難を極めていた。
兵士のトミー(フィン・ホワイトヘッド)は、命からがら海岸へたどり着いたものの、そこで見たのは救出を待つ兵士たちの長蛇の列。
海岸で知り合ったギブソン(アナイリン・バーナード)と、沈む船から助けたアレックス(ハリー・スタイルズ)と共に、なんとか迎えの駆逐艦に乗り込むものの、Uボートの魚雷攻撃を受けて沈没し、海岸へと逆戻りしてしまう。
一方、兵士たちを救出するために、自分の所有する小型のプレジャーボート、ムーン・ストーン号でダンケルクへ向かっていたミスター・ドーソン(マーク・ライランス)は、転覆した船の上に兵士(キリアン・マーフィー)を見つけ、救助する。
だが、船がダンケルクへと向かっていることを知った兵士は暴れ出し、乗組員の少年ジョージ(バリー・コーガン)が大怪我を追ってしまう。
空では、ドイツ空軍をダンケルクから追い払おうと、英国空軍のスピットファイア戦闘機隊が奮戦。
メッサーシュミットとの交戦で、隊長機を失ったファリア(トム・ハーディー)とコリンズ(ジャック・ロウデン)は、救助に向かう船団を狙うドイツ軍の爆撃隊を発見するのだが・・・・


非常にノーランらしい作品で、従来の多くの戦争映画とは概念がかなり異なる。
戦争している相手はドイツ軍なのだが、本作の場合誰と戦っているのかは本質ではない。
だから陸上でドイツ兵の姿は全く登場しないし、空中戦でも視点は英軍パイロットに限定され、ドイツ軍パイロットは描写されない。
さらに冒頭の字幕でも、“ドイツ”ではなく単に“Enemy(敵)”と表記される徹底ぶり。
具体的に、ナチス・ドイツという分かりやすい“悪役”を思わせるイメージは、あえて隠されている。
本作における戦争は、抗うことが難しい強大な災厄として描かれるが、重要なのはそれが人間自らの“罪”と“業”が作り出したものだということなのだ。
戦争は人間に内包されていて、その意味において本作は、「ダークナイト」でジョーカーという象徴的絶対悪に対し、市民一人ひとりが信念を持って立ち上がった展開の延長線上にある。

戦争映画における映像革命となった「プライベート・ライアン」以降、戦場をモチーフとした映画は、基本的に戦闘の悲惨さを徹底的に、時には過剰なまでにリアルに描き、人間の愚かしさと残酷さの中に、仄かな希望を描くことがスタンダード。
イーストウッドの「硫黄島」二部作も、記憶に新しいメル・ギブソンの「ハクソー・リッジ」も基本的な考え方は同じだ。
ところが、人間の愚かさは抑えられているものの、本作がフィーチャーするのは、戦闘そのものよりも、戦争の惨禍からの“救出”なのである。
これは戦争映画というよりも、むしろディザスター映画の構造に近い。
違いは自然の振る舞いではなく、人間の行いに対して、人間が責任を負うという点で、ドラマ的に浮かび上がるのは悲劇性よりもある種のロマンチシズムとヒロイズムであり、人間の持つポジティブな面が前面に出ているのが特徴だ。

敵に囲まれた海岸から、英仏34万人の兵士を救出した(最後まで敵軍をくい止めた仏軍の一部は捕虜となった)、不可能と思われた大撤退作戦の経験から、イギリスには「ダンケルク・スピリット」と言う新たな言葉が生まれた。
端的に言えば「大いなる苦難の時、皆が一丸となって団結し、決して諦めない」という不屈の精神を表した言葉だ。
「ダークナイト」三部作「インターステラー」でも分かるように、基本的にノーランは厳しい現実が人間たちの信念を持った行動によって覆され、語り継がれるべき神話となる瞬間を描きたい人なのだと思う。
こうした過去の作品を見ても、行動原理としてのダンケルク・スピリットは、生粋の英国人であるノーランの思想の根源にある部分だろう。
ゆえに、本作もまたダンケルクの史実を忠実に描いた作品というよりも、史実をモチーフにした寓話であり、現代イギリスの神話と言える。

ノーランは、この新たなる戦争神話を成立させるため、それぞれに象徴的な意味を持ち、異なる時系列で語られる三つの物語を用意する。
「The Mole(防波堤)」のパートは、ダンケルク海岸で救出を待つトミーら陸軍兵士たちの一週間を描く物語だ。
当時ダンケルクの港は既に破壊されていたが、英海軍は残されていた防波堤を使って、兵士を救助船に乗りこませていた。
しかし、爆撃やUボートの雷撃など、敵軍の執拗な攻撃によって、船はしばし撃沈される。
無名の若手俳優たちによって演じられる兵士たちは、自分の意思とは関係なく戦場に送り込まれ、何度も生死の間をさまよい、遂には生き残るために究極の選択を迫られるのである。
このパートのキャラクターは、基本的に救出される者たちで受身の存在だが、行動と結果は因果応報の原則に基づいていて、悪しき行いをした者はその報いを受けなければならない。

「The Sea(海)」のパートで描かれるのは、ダイナモ作戦に呼応して、英国からダンケルクへ向かう民間の小型プレジャーボート、ムーン・ストーン号の一日。
名優マーク・ライランス演じる、船長のミスター・ドーソンは、若者たちを戦場へと送り込んだ大人世代の象徴で、自分たちの世代が起こした戦争の責任を取るために若者たちの救出に赴く。
彼のバックグラウンドは全く描かれないが、背後から来る戦闘機をエンジン音だけで自軍のスピットファイアと聞き分ける描写からも、軍歴があることが匂わされる。
おそらくは第一次世界大戦の従軍経験者で、だからこそ途中で救出するキリアン・マーフィー演じる兵士の癒せない“痛み”も理解している。
ここでは「防波堤」パート以上に、戦争の理不尽さが強調されているが、どのような状況でも個の信念と責任において、なすべきことをなす崇高さはそれ以上に重要なのである。

「The Air(空)」のパートは、ダイナモ作戦を援護すべく出撃した、スピットファイア戦闘機隊のパイロット、ファリアとコリンズの一時間を描く物語。
彼らもミスター・ドーソン一行と同じく救出者であり、救助船を攻撃しようとするドイツ空軍と、ドーバー海峡上空で空中戦を繰り広げる。
戦闘機パイロットたちは、本作の三つの物語の登場人物の中で、最も高いスキルを要求されるプロフェッショナルだが、それは報われない戦でもある。
撃墜され、ムーン・ストーン号に拾われたコリンズが、英国に帰還した時に、陸軍兵に「空軍は何してた!」と罵声を浴びせられる描写があるが、あれは実際にダイナモ作戦に参加した多くのパイロットが経験したことだという。
霧で見通しが悪かったのに加え、ダンケルクに向かう敵を阻止していた戦闘機隊の奮戦は、救出を待つ兵士たちからは遠すぎて見えなかったからだ。
しかしここでも、彼らは自らの使命を遂行することに疑いは持たないのである。

一週間、一日、そして一時間と、異なる時系列で描かれる、救出される者、する者の物語は次第に複雑に絡み合い、様々な寓意を表しながらやがて集束に向かう。
生き残ったトミーは、帰還兵を熱烈に歓迎する母国の人々の反応に驚き、「逃げ帰ってきただけだ」というが、それは彼がダンケルクで起こったことの全貌を知らないからだ。
人々は、総力戦を繰り広げた軍のみならず、危険を顧みずに船を出したミスター・ドーソンのような民間人の活躍を含め、英国社会全体が団結しなし遂げたことの結果と、後にダンケルク・スピリットと呼ばれることになる精神性に熱狂しているのである。
結果的に、ダイナモ作戦が成功したことにより、来るべきドイツ軍のイギリス侵攻への防備を固め、その後の大陸への反転攻勢に必要な訓練された兵士たちを守り抜くことができた。
そして、トム・ハーディ演じるファリアは、正しく歴史を神話化する役回りだ。
帰りの燃料を諦めて戦い続け、最後はプロペラも止まり滑空しながら敵機を撃墜し、そのまま敵の待ち受ける海岸へ着陸するシーンは、それまでのリアリティたっぷりな戦争描写から一転して、まるで白日夢の様なファンタジックなイメージとなっている。
上空を通過するファリアのスピットファイアを、海岸の兵士たちが見送るシーンは、天翔ける英雄が降臨したかの様で、有名なチャーチルの“Never Surrender”演説と共に、本作をイギリスの神話へと昇華する。

「インセプション」の、夢の中の階層での時間スケールの変化を、異なる方向に進化させた作劇の妙、例によってノーCGで実物に拘ったフィルム撮影、徹底的に作りこまれた音響などの技術要素など、細部に至るまでノーラン節が炸裂。
特に今回は音への拘りが強く感じられ、カチカチと鳴り続け、命のタイムリミットを意識させる秒針の音、ハンス・ジマーの不安感を掻き立てるスコアなど、最初から最後まで音が心を削ってゆく。
ドイツ軍の急降下爆撃機、スツーカの“悪魔のサイレン”は今までも数々の映画で描かれてきたが、本作のそれは本当に地獄の底から響き渡るようで、とんでもなく恐ろしかった。
映像の向こう側には、実際に映っている以上の情報が詰め込まれていて、いつも通りの圧倒的な密度なのだが、上映時間が106分と短めなので、ノーラン作品としては意外と疲労度は低い。
なお、本作はIMAXフォーマットを前提としていて、通常上映ではかなりの情報量が抜け落ちるので、可能であればIMAXでの鑑賞がベスト。
追加料金の価値は十分ある。

今回は脱出の成功を祝し、ダンケルクからもそれほど遠くないシャンパーニュ「モエ・エ・シャンドン ブリュット アンペリアル NV」をチョイス。
シャンパーニュを代表する銘柄の、辛口のシャンパン。
シャルドネ、ピノ・ノワール、ピノ・ムニエの三種が紡ぎ出す豊かな果実香と、きめ細かな泡が作り出すしなやかな口当たりを楽しめる。
非常にバランスが良く、料理、シチュエーションを選ばないオールマイティーな一本。
ダンケルク・スピリットに乾杯!

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