fc2ブログ
酒を呑んで映画を観る時間が一番幸せ・・・と思うので、酒と映画をテーマに日記を書いていきます。 映画の評価額は幾らまでなら納得して出せるかで、レイトショー価格1200円から+-が基準で、1800円が満点です。ネット配信オンリーの作品は★5つが満点。
■ お知らせ
※基本的にネタバレありです。ご注意ください。
※当ブログはリンクフリーです。内容の無断転載はお断りいたします。
※ブログ環境の相性によっては、TB・コメントのお返事が出来ない事があります。ご了承ください
エロ・グロ・出会い系のTB及びコメントは、削除の上直ちにブログ管理会社に通報させていただきます。 また記事と無関係なTBもお断りいたします。 また、関係があってもアフェリエイト、アダルトへの誘導など不適切と判断したTBは削除いたします。

■TITLE INDEX
タイトルインディックスを作りました。こちらからご利用ください。
■ ツイッターアカウント
noraneko285でつぶやいてます。ブログで書いてない映画の話なども。
■ FILMARKSアカウント
noraneko285ツイッターでつぶやいた全作品をアーカイブしています。
ショートレビュー「サーミの血・・・・・評価額1650円」
2017年09月22日 (金) | 編集 |
変えられる自分と、決して変われない自分。

スウェーデン、フィンランド、ノルウェー、ロシアにまたがる極北の地、ラップランドに暮らす北欧先住民族サーミ人の少女、エレ・マリャの物語。
サーミの血を引くアマンダ・シェーネル監督は、自分の一族の長老たちの中の、サーミを嫌うサーミの存在から本作の発想を得たという。
素晴らしい好演を見せるエレ・マリャ役のレーネ=セシリア・スパルロクと、妹役のミーア=エリーカ・スパルロクの姉妹は、実際にノルウェー北部でトナカイを放牧して暮らしているそうだ。
 
全く差別の無い人間社会は地球上に存在せず、今では人権思想の先進地帯である北欧にも、恥ずべき歴史がある。
嘗てはラップ人と呼ばれた放牧民サーミは、映画の舞台となる1930年代のスウェーデンでは、劣った人種として差別され、寄宿学校ではサーミ語も禁止、進学の道も閉ざされている。
サーミの子供たちは、都会から来た学者に“生きた標本”として扱われ、教師には「あなたたちの脳は文明に適応できない。街に出れば絶滅してしまうから、故郷で伝統を継ぎなさい」と諭される。
無垢なる子供時代を過ぎ、自分が被差別階層で、このままでは未来が無いと気付いた時、人はどうするのか。
ある者は、諦めて差別と好奇の目を甘んじて受けるだろう。
またある者は、怒りを胸に支配階層に対してプロテストし、社会を変えようとするのかも知れない。
もう一つ、自らの民族的アイデンティティを捨て、支配階層の中で別人として生きる道もある。
サーミの人種的な特徴は、ゲルマン系スウェーデン人とそれほど明確な違いはないのだ。

生来のエレ・マリャという名前を捨て、クリスティーナと名乗る老女を描く現在のシークエンスで、彼女が10代だった1930年代の過去がサンドイッチされる構造。
ある意味、最も辛く過酷な人生を選択した少女時代と、年輪を重ねた現在との対比が、鈍い痛みとなり観客の胸に突き刺さる。
エレ・マリャは自分がサーミであることを嫌い、金髪碧眼の典型的ゲルマン系の教師、クリスティーナに憧れている。
教師からもらったフィンランドの詩人、エディス・セーデルグランの「どこにもない国」を読んだ彼女は、教師の名を真似てクリスティーナと名乗り、差別と伝統の鎖に縛られたサーミではなく、自由な人生を生きようとするのだ。
だが、たとえ名前を変え、新たな家族を作り、教師になるという夢を叶えても、自らの中にあるサーミの血と誇りはくすぶり続ける。
運命に抗い、何者かに成りたかったエレ・マリャは、自らの存在を抹殺することで道を切り開くが、その代償として大切なものを失い、民族を裏切った者として一生罪悪感を抱えて生きざるを得ない。

終盤、姉とは対照的にサーミとして生きて死んだ妹に、絞り出すように謝罪するクリスティーナは、物語のラストでようやく子供時代を過ごした故郷へと足を踏み入れるが、そこはもう彼女の知っているサーミの地ではないのである。
本作の舞台は遠い北欧の国だが、描かれているのは、日本のいわゆる通名の問題や部落差別、あるいは民族的な境遇が似たアイヌの歴史にも通じる内容で、決して過去の話では無い普遍的テーマを内包している。
私はこの映画を観て、韓国系の友人から聞いた話を思い出した。
現在の北朝鮮の出身だった彼女の祖父は、戦前日本名を名乗り、東京で政府の官僚として活躍したエリートだった。
しかしその反面、同郷の人々との交流は極力避けていて、戦後亡くなるまで親戚も含めて殆ど絶縁状態だったそうだ。
差別は、人から何を奪うのか。
たとえ今は差別が無くなった、弱まった、表には出なくなったとしても、本作の主人公の様に過去の差別によって大き過ぎる傷を負った人たちは、今も血を流しながら生きていることに、改めて気付かされた。
まだサーミだった頃のエレ・マリャが歌う伝統歌唱、ヨイクの調べが心に染み渡る。
丁寧に作られた見応えある拘りの力作だが、できればアマンダ・シェーネル監督には、エレ・マリャとは違う道を選んだ、妹のその後を描く物語も観せてほしい。
二つの視点を持つことで、初めて見えてくる“サーミの今”もあるのではないだろうか。

スウェーデンは寒い国らしく、非常に豊かなアルコール文化を持つが、今回は祝いの席などに欠かせない代表的な蒸留酒、「スコーネ アクアビット」をチョイス。
18世紀ごろに完成したとされるアクアビットは、ウィスキーと同じくラテン語の命の水(aqua vitae)を語源とし、ジャガイモを原料として蒸留した後、キャラウェイやアニスなどで香り付けした酒。
この香り付けは銘柄ごとに違いがあり、個性豊かなアクアビットが出来上がる。
スコーネはキャラウェイの香りとマイルドな口当たりが特徴で、冷凍庫でキンキンに冷やし、ビールをチェイサーにしていただくのが現地流。
まあ、日本人は悪酔いするわな(笑

ランキングバナー記事が気に入ったらクリックしてね




スポンサーサイト