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密偵・・・・・評価額1650円
2017年11月19日 (日) | 編集 |
裏切り者が、なすべきこと。

1920年代、日本統治下の朝鮮と上海租界を舞台に、ソン・ガンホ演じる刑事のイ・ジョンチュルと、独立運動組織・義烈団を描く異色のスパイ映画だ。
朝鮮人でありながら、日本の警察に属する主人公は、日本の支配に一矢報いようとする義烈団へのシンパシーと、刑事としての職務の板挟みとなる。
自己保身か、自己犠牲か、英雄とは真逆の位置に立つ男は、図らずも直面することになる人生の岐路にどちらの道を選ぶのか。
監督はアーノルド・シュワルツェネッガーの復帰作、「ラストスタンド」でハリウッド進出も果たしたキム・ジウン。
ユン・ユ、ハン・ジミン、イ・ビョンホンら主役級の実力者がガッチリと脇を固める。
世界観の作り込みも素晴らしく、時代感のある美術や衣装は、名手キム・ジヨンのカメラによって細部に至るまで写し取られ、ゴージャスなビジュアルとしてスクリーンに結実。
韓国映画界の底力を実感できる秀作である。

京城の警察に所属するイ・ジョンチョル(ソン・ガンホ)は、上司のヒガシ(鶴見辰吾)から、上海を拠点に独立運動を展開している義烈団を監視しろとの命を受ける。
ジョンチョルは、義烈団の京城でのリーダーと目され、写真館を営むキム・ウジン(ユン・ユ)に近づき、懇意となる。
ウジンから上海での”仕事”に誘われたジョンチョルは、組織の全貌を掴むチャンスと考えて上海行きを決めるが、実はそれは義烈団の団長チョン・チェサン(イ・ビョンホン)が、ジョンチョルを組織に引き込むための餌だった。
次第に義烈団の面々に惹かれてゆくジョンチョルだったが、義烈団は京城でことを起こすために、上海から列車で爆弾を朝鮮に持ち込もうとしていた。
誰が敵で誰が味方なのか、本当の密偵は誰なのか、義烈団と警察が腹を探り合う。
同僚のハシモト(オム・テグ)の目が光る中、列車に乗り込んだジョンチョルに決断の時が迫る・・・


本作はフィクションだが、義烈団そのものは実在した組織で、朝鮮総督府への爆弾攻撃や、日本軍幹部への狙撃事件などを起こしている。
本作の直接の元ネタになっているのは、おそらく2013年に公開された、当時の英国情報部が作成した義烈団に関しての報告書。
それによると、青島に住むドイツ人が作成した爆弾160個のうち100個が、義烈団により朝鮮に持ち込まれたとあり、基本プロットはこの報告書に上海天長節爆弾事件を始めとする、朝鮮独立派の組織が日本側の官司を狙って起こした幾つかの事件を組み合わせた感じだ。

ここ数年の韓国映画には、日本統治時代の独立運動を描く”愛国的”な作品が目立ったが、これは多分に朴槿惠政権下で起こった、いわゆるチェ・スンシルゲートの影響がある模様。
映画会社を傘下に持つ財閥各社が、影の大統領に支配された保守政権のご機嫌とりに走った結果というわけだ。
この波に乗って作られた作品は、かなり無理のある作品が多く、例えばホ・ジノ監督の「ラスト・プリンセス 大韓帝国最後の皇女」など、朝鮮王族が日本でレジスタンスしちゃったり、朝鮮戦争ものの「オペレーション・クロマイト」では、本来アメリカ人だったはずの人物を韓国人に改変していたり、トンデモ設定だらけでほとんど歴史ファンタジー化してしまっていた。
本作はその種の作品とは一線を画し、最初からフィクションであることを前提に、史実との乖離も比較的少なく、なかなかの仕上がり。

ユニークなのは主人公のジョンチュルを、朝鮮人でありながら日本の警察に勤務し、日々独立派を取り締まるという、アイデンティティに迷った"裏切り者"に設定したこと。
とは言っても別に悪人というわけではなく、併合後10年以上を経た日本統治下の社会を生き抜くために、長いものに巻かれてる人物に過ぎない。
彼にとって義烈団などの独立運動組織は、その理想は理解するものの、帝国主義の時代に到底不可能な夢を追っているだけにしか思えないのだ。
ソン・ガンホがキャスティングされている時点で、キャラクター造形の方向性は想像がつくが、基本的にジョンチュルは情に厚く、頼られると断れない。
だから実際に信念を持った義烈団のメンバーと接すると、その心情は簡単に揺れ動く。

アイデンティティの葛藤を抱えたジョンチュルが義烈団を探る工作と、ミイラ取りをミイラにとばかり、逆に彼を二重スパイとして組織に引き込む工作とが絶妙に絡み合う。
基本”裏切り者が正しい道に戻る”話なので、最終的に行き着く所に驚きはないのだが、他にも組織に送り込まれた密偵がいる状況で、駆け引きはどんどん複雑化してゆく。
キム・ジウン監督は、緻密に構成された物語を、ベテランらしく正攻法かつ骨太の演出できっちりと魅せる。
特筆すべきは、上海から朝鮮に向かう列車上のシークエンスで、義烈団のメンバー、彼らを追う警察、そして板挟みのジョンチュルという、三つ巴のサスペンス。
本当の裏切り者は誰か、敵味方とも疑心暗鬼の状況で、熾烈な騙し合いの推移に手に汗握り、ハラハラドキドキ。
爆弾運搬を担う義烈団のリーダーがユン・ユなので、密室の列車内を行き来しての展開は、ちょっと「新感染 ファイナル・エクスプレス」を連想した。

前記した「ラスト・プリンセス」やチェ・ドンフン監督の「暗殺」など、朝鮮独立運動を描いた作品は、悪の日本人を愛国者たちが成敗する話かと思わせておいて、実はどの作品もかなり自虐的。
日本の支配という枠組みの中で、分断された朝鮮人同士が殺し合い、自滅してゆく話しになっている。
朝鮮半島は常に中国をはじめとした外部勢力の影響を受け、内部の理念対立が伝統的に激しい。
今でも韓国のメディアなどに「韓国人は身内同士で争ってばかり」という論調の記事をよく見るが、そんな民族的メンタルが映画にも確実に影響を与えていて、実は日本人が観てもあまり悪役にされている感は少ないのだ。

ところが、本作には珍しく鶴見辰吾演じる日本人の悪漢がいる。
裏切り者がなすべきことを見つけ、人生をやり直す展開には、やはり動機となる明確な敵対者が必要だからだ。
このキャラクターがまた、わざとらしい悪役でなく、ジョンチュルの上司として、あくまでも冷静に仕事として酷いことをする、典型的な官僚に造形されているのも良い。
敵役の突き放したキャラクター造形が、映画が過度にエモーショナルになるのを避け、主人公の心に灯った暗く冷たい炎を感じさせるのである。

日本円にして15億円をかけたこの作品を成功させたことで、キム・ジウン監督は念願の押井守原作、沖浦啓之監督のアニメーション映画、「人狼 JIN-ROH」の実写リメイクのプロジェクトに入ったそうだ。
日英同盟が独伊枢軸に敗戦したという架空の”戦後”を舞台に、いくつもの勢力が入り乱れる超分断社会を描く「人狼 JIN-ROH」は、なるほど韓国で映画化するのにピッタリな題材。
いかにしてキム・ジウンが料理するのか、楽しみに待ちたい。

今回は、大陸の列車で飲みたい「青島ビール」をチョイス。
青島は1898年にドイツの租借地となり、ドイツ人投資家が1903年に醸造所を開設しビール生産をスタート。
その後第一次世界大戦後には日本資本に買収されたり、第二次世界大戦後には共産党に国営化されたり、改革解放で民営化されたり、激動の中国史の中でしぶとく生き残ってきた中国最古のビール銘柄の一つ。
血統はドイツだが、味わいとしてはむしろアメリカンビールに近く、しっかりしたビールらしさを残しながら、非常にマイルドかつクリア。
スムーズな喉越しと清涼感のある口当たりは、中華料理の脂っこさを中和し、何杯でも飲めてしまう。

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