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スリー・ビルボード・・・・・評価額1750円
2018年02月08日 (木) | 編集 |
怒りを、燃やし尽くせ。

期待に違わぬ面白さ!

アメリカ中西部、ミズーリ州の片田舎で展開する、珠玉の人間ドラマだ。

何者かに娘を殺された母親が、遅々として進まぬ捜査に苛立ち、街外れに立つ三枚のビルボードに警察署長を批判する広告を出す。
この行動が波紋を呼び、やがて小さな街に予期せぬ嵐が巻き起こるのである。
ネタ集めのため本物のサイコパスを募集した脚本家が、創作に現実を侵食される怪作、「セブン・サイコパス」で知られる英国人劇作家のマーティン・マクドナーは、再び異国アメリカを舞台に、極めてユニークでパワフルな悲喜劇を作り上げた。
物語の軸となる3人の登場人物を演じる、フランシス・マクドーマンド、サム・ロックウェル、ウッディ・ハレルソンが素晴らしく、それぞれ演技賞物の名演を見せる。

※核心部分に触れています。

ミズーリ州エビング。
ミルドレッド・ヘイズ(フランシス・マクドーマンド)は、7カ月前に娘を何者かに殺された。
レイプされ、遺体は焼かれた凄惨な事件だが、手掛かりは乏しく犯人逮捕には至っていない。
ある日ミルドレッドは、街道に立つ三枚のビルボードに、地元警察署長のウィロビー(ウッディ・ハレルソン)を批判する広告を出す。
「レイプされて殺された」「犯人は逮捕されない」「どうして、ウィロビー署長?」
名指しされたウィロビーは困惑するばかり。
彼の部下で、日ごろからレイシストとして悪名高いディクソン巡査(サム・ロックゥエル)は怒りを滾らせ、広告を掲載した代理店のレッド(ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ)を脅迫し、ミルドレッドの友人のデニス(アマンダ・ウォーレン)を微罪で逮捕する。
娘の事件ではミルドレッドに同情していた街の人々も、人望厚く末期ガンに苦しむウィロビーを名指しした広告には批判的だが、彼女は全く意に介さず広告の取り下げに応じない。
そんな時、歯科医ともめ事を起こしたミルドレッドを尋問中に、ウィロビーが突然吐血する・・・


人間は愚かで、滑稽で、愛おしい。
田舎の小さな街で怒涛の展開を見せる本作は、いわば人間活劇だ。
マクドーマンド演じる主人公、ミルドレッド・ヘイズのファミリーネームは、ゲール語の「火の神の子(ÓhAodha)」が語源。
その名の通りに燃え上がる炎のような性格で、抑えられない感情に突き動かされた彼女が警察批判のアクションを起こし、それに対する他の登場人物のリアクションが複雑に影響しあい、全く先の読めないスリリングなドラマを作り出す。

舞台となるのが、ミズーリ州の架空の町、エビングに設定されていることにも意味がある。
何しろ原題は「Three Billboards Outside Ebbing, Missouri」と、思いっきり地名を強調しているし、ポスターなどに使われているロゴにはミズーリ州の地図まで入っている。
アメリカ合衆国本土のほぼ中央に位置するこの州は、合衆国を構成する50州の中で24番目に加入し、南北戦争では北部合衆国派と南部連合国派が激しく対立した結果、北部側に立った。
政治的には中道やや保守の有権者が多く、大統領選挙では1956年、2008年、2012年の三回を除く過去100年以上、ミズーリで勝った候補がそのまま大統領になっていて、選挙の全国趨勢を表すいわゆるベルウェザー州として知られている。
人口はほぼ50州のアベレージで、住人の人種も近年米国南部と西部で急増しているヒスパニック系が比較的少ない以外、伝統的な全米の人種構成に近い。
要するにこの州は合衆国のヘソであり、平均であり、縮図なのである。
英国人のマーティン・マクドナーは、暴力と怒りと不寛容が渦巻く現在アメリカ社会を俯瞰し、この架空の町にアメリカそのものを象徴させようと考えたのだろう。
エビングという町名が、「落下」や「衰退」を表すのも意味深だ。

物語の前半、ミルドレッドと、「セブン・サイコパス」でもマクドナー監督と組んだウッディ・ハレルソン演じるウィロビー署長、サム・ロックウェルのディクソン巡査が三つ巴の相関を形作る。
どんなに非難されても広告を取り下げない、ミルドレッドの頑なな態度の裏には、事件の直前に娘と喧嘩をしたことが、彼女が殺される遠因となったという認めたくない事実がある。
捕まらない犯人以外の誰かのせいにしないと、自分を責めるしかなくなるので、当事者の一人であるウィロビーに矛先を向けたのだ。
一見すると強面の信念の人にも見えるミルドレッドは、自らの内面の弱さに突き動かされているのである。
一方、自分に人望がないのを自覚していて、人格者のウィロビーに心酔しているディクソンにとって、ミルドレッドの行為は、ウィロビーのみならず自分に対する侮辱でもある。
彼もまた、警察という虎の威を借りる狐に過ぎないからこそ、警察批判が許せない弱い人間なのだ。
基本的に、ビルボードに広告を出したミルドレッドと、それに激しく反発するディクソンは、共に非共感キャラクターに造形されていて、二人の憎悪と怒りの応酬に、間に挟まった良い人で感情移入キャラクターのウィロビーが頭を悩ませるという構図。

真っ赤なビルボードに描かれたミルドレッドの広告は、確かにインパクトがあるが、実は映画の中ではビルボードを裏側から捉えたショットが多い。
最初に広告に気付くディクソンも、パトカーで巡回している時にビルボードの裏側から作業員を見つけ、振り返って言葉を読む。
警察批判の文言は、あくまでも物語の導入であり、核心は何も描かれていないその裏側にあるのである。
三つのビルボードの起こした小さな波紋が、ウィロビーを触媒にミルドレッドとディクソンの中で増幅され、閉塞した平凡な街は徐々に臨界点近づいてゆく。

そして、ガンで余命いくばくもないウィロビーが、驚くべき行動を起こして突然退場すると、沸々と滾っていた怒りが別の怒りを生み出し、さらには思い込みからくるボタンの掛け違いもあって、もはや文字通りに一度燃え上がらないかぎり治らなくなる。

怒りの感情で一杯いっぱいになってしまった人間が、いかにして心の均衡を取り戻すかのドラマは、中盤以降予想だにしない展開が続き最後までハラハラ。
二件の“炎上”後に、ようやく犯人探しのミステリーが絡んでくるかと思わせつつも、結局核心はそこにはないのだ。

同じくミズーリの田舎を舞台とした「ウィンターズ・ボーン」で、ヒルビリーの寡黙な男を好演したジョン・ホークス演じる、ミルドレッドの別れた夫と若い恋人のエピソード、レイシストにして実はマザコンという、ディクソンと母親のエピソードなども上手く絡み、ブラックなユーモアが良いスパイスとして効いている。
人間、とことんまで怒らないと解消出来ないこともあるし、傷ついて相手の立場を知って、初めて理解出来ることもある。
無原罪の人間は聖書の中にしかおらず、犯した罪はどんな形でも背負って行かねばならない。
テリングのスタイルは全く異なるが、人生のあらゆる面を肯定も否定もしない、厳しくも優しいスタンスは、昨年の「マンチェスター・バイ・ザ・シー」に通じるものがある。
“土地”が重要な要素で、タイトルに地名が入ってるのも同じ。
人生で失ったものは決して元には戻らないけれど、何か引っかかっているのなら、たとえ不毛な行動であっても、前を向くために全力で抗い、迷うしかないのだ。
自らの滑稽さと愚かさの自覚が、燻っていた怒りの火を静かに消し、一筋の光を感じさせるラストも秀逸。

悲劇と喜劇の境界で、人間の心の不可思議さを描いた、未見性に満ちた傑作である。

ミズーリ州のある中西部は、アメリカでもっともBBQとバーボンの美味いところ。
なにしろこの州には、バーボンという名の町まである。
今回は1856年にミズーリ州ウェルトンで創業した「マコミーック スペシャル・リザーブ」をチョイス。
今ではコーン・ウィスキーの方が有名な会社だが、ケンタッキー産とは異なる独特の香りとコクは味わい深い。
ロックで飲むのがおすすめ。
バーボンの語源は、独立戦争時に支援してくれたフランスのブルボン王家の名を、ケンタッキー州の郡名として残したもので、バーボン発祥の地はこちら。
ミズーリ州のバーボンは、逆にバーボンウィスキーにちなんで名づけられたというから、どんだけ酒好きな町なのだろう。

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