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2018年05月27日 (日) | 編集 |
映画じゃけん、何してもええんじゃ!
いやー、これは面白い。
広島県の架空の都市・呉原を舞台に、東映が昭和の実録映画にディープなセルフオマージュを捧げたパワフルな犯罪映画。
北海道警の悪徳刑事を描いたピカレスク大河ドラマの傑作、「日本で一番悪い奴ら」の監督・白石和彌、脚本・池上純哉のコンビが、柚月裕子の同名小説を映画化。
暴対スペシャリストにして汚職刑事、狐のように狡猾で手負いの一匹狼のように恐ろしいダーティーヒーローを、役所広司が怪演。
彼とバディを組むことで、警察官として何をすべきなのか、大きな葛藤を抱えることになる若い刑事を松坂桃李が演じる。
嘗て東映が標榜した“不良性感度”全開、いい意味で昭和の猥雑さを感じさせる娯楽映画だ。
天皇の病状が悪化し、一つの時代が終わりつつある昭和63年。
所轄の呉原東署捜査二課に配属された日岡秀一(松坂桃李)は、暴力団との癒着が噂されるベテラン刑事の大上章吾(役所広司)と、サラ金の呉原金融の社員の失踪事件を担当することになる。
折しも呉原では、地元の尾谷組と広島の五十子会傘下で新たに進出して来た加古村組の関係が悪化。
尾谷組の組長が服役中の間に、加古村組が縄張りを奪い取ろうと動き、尾谷組との間でいつ抗争が始まってもおかしくない状況だった。
呉原金融は五十子会のフロント企業で、失踪が内紛絡みの殺人事件だと睨んだ大上は、手段を択ばない捜査で証拠を見つけ、加古村の動きを封じようとする。
広島大卒のエリートコースを歩んできた日岡は、時として法すら無視する大上の捜査方法に反発しつつも、抗争を止めるために協力してゆくのだが・・・
冒頭、養豚場で展開する容赦ないバイオレンスシーンから、いきなり度肝を抜かれる。
豚の糞と血にまみれ、人を人とも思わぬ男たちの外道っぷり。
「R15+」のレイティングとは言え、インディーズならまだしも、今時の邦画メジャーの作品でここまで凄惨な描写は珍しい。
昭和は64年の1月7日に終わり、その3年後には暴力団対策法が成立し、全国のヤクザ組織の活動には大きなブレーキがかけられることになる。
つまりこれは昭和ヤクザがそれらしい姿であった、最後の時代の物語なのだ。
さすがに手ブレする手持ちカメラは真似なかったが、冒頭のアナログ時代の三角マークから眉間に皺をよせた厳つい顔の男たち、外連味たっぷりの特徴的なナレーションやテロップ、音楽の使い方に至るまでいつか観た映画的記憶が満載。
「仁義なき戦い」シリーズ、「県警対組織暴力」、「実録 私設銀座警察」、「仁義の墓場」などなど、心に焼き付いた幾つもの名シーンが蘇る。
これは昭和のプログラム・ピクチュアをモチーフとした、昭和世代なら観るだけでノスタルジックなカタルシスを感じられる、いわば実録版「レディ・プレイヤー1 」なのである。
しかし、昭和世代のおっさんの映画マーケットなどたかが知れている。
この映画が秀逸なのは、単にラッピングの再現だけで満足することなく、物語の裏側に県警本部vs所轄警察署vs地元ヤクザvsよそ者ヤクザという、四つ巴の凝ったコンゲームが仕組まれており、互いに騙し合い、出しぬこうとする展開の面白さでも十分に魅せること。
呉をモデルとした架空の都市・呉原市は、地元の組織・尾谷組が伝統的に仕切ってきたが、組長は服役中で、その隙を突いて広島市に本拠を置く巨大組織・五十子会傘下の加古村組が進出を加速し、尾谷組のシマを奪いにかかる。
小競り合いが続く中、ついに尾谷組のチンピラが殺される事件が起こり、全面戦争がいつ起こってもおかしくない、一触即発の状況が続く。
役所広司演じる大上は、尾谷組とはズブズブの癒着関係が公然の秘密となっている。
彼は失踪した呉原金融の社員が、何らかの理由で加古村組のリンチに合い殺されたと見立て、殺人事件として立件することで加古村の動きを封じ、戦争を阻止しようとしているのだ。
大上は、ヤクザの撲滅は不可能でナンセンスと考えていて、彼のファーストプライオリティーはヤクザを警察のコントロール下に置くこと。
そのためには、賄賂も取るし、便宜を図ることもあるし、暴力で屈服させることもある。
必要とあれば自らも法を犯す。
一方、彼とコンビを組むことになるのが、松坂桃李演じるエリート、日岡秀一だ。
彼は、単なる新任の所轄刑事ではなく、何かと不正の噂のある大上を密かに捜査するために、県警本部の監察官によって送り込まれたスパイでもある。
本作の主人公は、まだ人間としても警察官としても未熟で未完成な日岡で、常識人である彼の視点で話が進むので観やすい。
日岡と大上はバディであり、マスターとパドワンでもあり、ソーとロキの様な腹に一物ある関係でもあるのだが、物語が始まった時点で、日岡の目には裏社会と警察とが絡み合う、巨大な利害構造のほんの一部しか見えておらず、警察官は基本的に法を忠実に執行すれば良いと思っている。
彼にとって大上は、ヤクザ同士の対立を利用して私腹を肥やす悪徳刑事であり、倒すべき悪漢なのである。
しかし、事件の全貌を知るにつれて、粗野な仮面に隠された大上の真意、合法・違法の線引きでは割り切れないこの世界の闇、清濁併せ呑む覚悟を決めたものだけが、行使できる“正義”もあることを理解してゆく。
野獣同士が噛み合うのは構わない。
問題は、野獣が人間の手を噛まないようにすることであり、そのために必要なのは、自らが半身だけ野獣の一員となり、知恵を使って人知れず闇の世界を操る力を持つこと。
これは、一人の若い刑事がこの世界の真実を知って成長してゆく寓話であると同時に、必要悪としての「孤狼の血」の継承の物語なのである。
「シャブ極道」「渇き」に連なる破天荒なキャラクターを、重厚に演じる役所広司が素晴らしい。
最近「彼女がその名を知らない鳥たち」や、ロマンポルノもびっくりの珍作「娼年」などで、分かりやすいイケメン俳優からの脱却を図る松坂桃李も、大ベテランとがっぷり四つに組む好演を見せる。
石橋蓮司のクズっぷり、伊達男な江口洋介、案外いい人のピエール瀧ら、暴力の世界に生きる男たちが印象強いが、訳ありのクラブママの真木よう子や、日岡と恋仲になる薬剤師を演じる阿部純子など、出番は多くないものの、女性キャラクターもなかなかに魅力的だ。
「東映は、心にモンモンを背負ってる」映画業界の人々は、愛着を込めて東映をこう表現する。
昭和が終わる一年前を描く本作が、平成が終わる一年前に作られたのは、企画としての明確な意味があると思う。
フィクションの娯楽映画にも、過度なコンプライアンスを求める風潮が蔓延し、事なかれ主義に流されがちな時代にあって、白石和彌は昭和の劇薬を巧みに換骨奪胎し、次の時代に向けて不良性感度の復活を宣言した。
本作のベースの部分に、昭和の実録映画群に対する強いノスタルジーがあることは確かだが、それ以外も様々な要素をバランスよく組み合わせて配置した、間口は広くて懐の深いとても良く出来た快作娯楽映画である。
日岡秀一を描くシリーズ第2作、「凶犬の眼」の映画化も決定したそうで、楽しみに待ちたい。
今回は、呉原こと呉市のお隣、東広島市に本拠を置く広島を代表する銘柄、賀茂鶴酒造の「賀茂鶴 上等酒」をチョイス。
比較的リーズナブルな本醸造酒だが、特に燗で飲むのに適したおっさん向けの酒になっている。
昭和のアウトローを気取って、場末の飲み屋などで、海の幸を肴にして一杯やりたい。
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いやー、これは面白い。
広島県の架空の都市・呉原を舞台に、東映が昭和の実録映画にディープなセルフオマージュを捧げたパワフルな犯罪映画。
北海道警の悪徳刑事を描いたピカレスク大河ドラマの傑作、「日本で一番悪い奴ら」の監督・白石和彌、脚本・池上純哉のコンビが、柚月裕子の同名小説を映画化。
暴対スペシャリストにして汚職刑事、狐のように狡猾で手負いの一匹狼のように恐ろしいダーティーヒーローを、役所広司が怪演。
彼とバディを組むことで、警察官として何をすべきなのか、大きな葛藤を抱えることになる若い刑事を松坂桃李が演じる。
嘗て東映が標榜した“不良性感度”全開、いい意味で昭和の猥雑さを感じさせる娯楽映画だ。
天皇の病状が悪化し、一つの時代が終わりつつある昭和63年。
所轄の呉原東署捜査二課に配属された日岡秀一(松坂桃李)は、暴力団との癒着が噂されるベテラン刑事の大上章吾(役所広司)と、サラ金の呉原金融の社員の失踪事件を担当することになる。
折しも呉原では、地元の尾谷組と広島の五十子会傘下で新たに進出して来た加古村組の関係が悪化。
尾谷組の組長が服役中の間に、加古村組が縄張りを奪い取ろうと動き、尾谷組との間でいつ抗争が始まってもおかしくない状況だった。
呉原金融は五十子会のフロント企業で、失踪が内紛絡みの殺人事件だと睨んだ大上は、手段を択ばない捜査で証拠を見つけ、加古村の動きを封じようとする。
広島大卒のエリートコースを歩んできた日岡は、時として法すら無視する大上の捜査方法に反発しつつも、抗争を止めるために協力してゆくのだが・・・
冒頭、養豚場で展開する容赦ないバイオレンスシーンから、いきなり度肝を抜かれる。
豚の糞と血にまみれ、人を人とも思わぬ男たちの外道っぷり。
「R15+」のレイティングとは言え、インディーズならまだしも、今時の邦画メジャーの作品でここまで凄惨な描写は珍しい。
昭和は64年の1月7日に終わり、その3年後には暴力団対策法が成立し、全国のヤクザ組織の活動には大きなブレーキがかけられることになる。
つまりこれは昭和ヤクザがそれらしい姿であった、最後の時代の物語なのだ。
さすがに手ブレする手持ちカメラは真似なかったが、冒頭のアナログ時代の三角マークから眉間に皺をよせた厳つい顔の男たち、外連味たっぷりの特徴的なナレーションやテロップ、音楽の使い方に至るまでいつか観た映画的記憶が満載。
「仁義なき戦い」シリーズ、「県警対組織暴力」、「実録 私設銀座警察」、「仁義の墓場」などなど、心に焼き付いた幾つもの名シーンが蘇る。
これは昭和のプログラム・ピクチュアをモチーフとした、昭和世代なら観るだけでノスタルジックなカタルシスを感じられる、いわば実録版「レディ・プレイヤー1 」なのである。
しかし、昭和世代のおっさんの映画マーケットなどたかが知れている。
この映画が秀逸なのは、単にラッピングの再現だけで満足することなく、物語の裏側に県警本部vs所轄警察署vs地元ヤクザvsよそ者ヤクザという、四つ巴の凝ったコンゲームが仕組まれており、互いに騙し合い、出しぬこうとする展開の面白さでも十分に魅せること。
呉をモデルとした架空の都市・呉原市は、地元の組織・尾谷組が伝統的に仕切ってきたが、組長は服役中で、その隙を突いて広島市に本拠を置く巨大組織・五十子会傘下の加古村組が進出を加速し、尾谷組のシマを奪いにかかる。
小競り合いが続く中、ついに尾谷組のチンピラが殺される事件が起こり、全面戦争がいつ起こってもおかしくない、一触即発の状況が続く。
役所広司演じる大上は、尾谷組とはズブズブの癒着関係が公然の秘密となっている。
彼は失踪した呉原金融の社員が、何らかの理由で加古村組のリンチに合い殺されたと見立て、殺人事件として立件することで加古村の動きを封じ、戦争を阻止しようとしているのだ。
大上は、ヤクザの撲滅は不可能でナンセンスと考えていて、彼のファーストプライオリティーはヤクザを警察のコントロール下に置くこと。
そのためには、賄賂も取るし、便宜を図ることもあるし、暴力で屈服させることもある。
必要とあれば自らも法を犯す。
一方、彼とコンビを組むことになるのが、松坂桃李演じるエリート、日岡秀一だ。
彼は、単なる新任の所轄刑事ではなく、何かと不正の噂のある大上を密かに捜査するために、県警本部の監察官によって送り込まれたスパイでもある。
本作の主人公は、まだ人間としても警察官としても未熟で未完成な日岡で、常識人である彼の視点で話が進むので観やすい。
日岡と大上はバディであり、マスターとパドワンでもあり、ソーとロキの様な腹に一物ある関係でもあるのだが、物語が始まった時点で、日岡の目には裏社会と警察とが絡み合う、巨大な利害構造のほんの一部しか見えておらず、警察官は基本的に法を忠実に執行すれば良いと思っている。
彼にとって大上は、ヤクザ同士の対立を利用して私腹を肥やす悪徳刑事であり、倒すべき悪漢なのである。
しかし、事件の全貌を知るにつれて、粗野な仮面に隠された大上の真意、合法・違法の線引きでは割り切れないこの世界の闇、清濁併せ呑む覚悟を決めたものだけが、行使できる“正義”もあることを理解してゆく。
野獣同士が噛み合うのは構わない。
問題は、野獣が人間の手を噛まないようにすることであり、そのために必要なのは、自らが半身だけ野獣の一員となり、知恵を使って人知れず闇の世界を操る力を持つこと。
これは、一人の若い刑事がこの世界の真実を知って成長してゆく寓話であると同時に、必要悪としての「孤狼の血」の継承の物語なのである。
「シャブ極道」「渇き」に連なる破天荒なキャラクターを、重厚に演じる役所広司が素晴らしい。
最近「彼女がその名を知らない鳥たち」や、ロマンポルノもびっくりの珍作「娼年」などで、分かりやすいイケメン俳優からの脱却を図る松坂桃李も、大ベテランとがっぷり四つに組む好演を見せる。
石橋蓮司のクズっぷり、伊達男な江口洋介、案外いい人のピエール瀧ら、暴力の世界に生きる男たちが印象強いが、訳ありのクラブママの真木よう子や、日岡と恋仲になる薬剤師を演じる阿部純子など、出番は多くないものの、女性キャラクターもなかなかに魅力的だ。
「東映は、心にモンモンを背負ってる」映画業界の人々は、愛着を込めて東映をこう表現する。
昭和が終わる一年前を描く本作が、平成が終わる一年前に作られたのは、企画としての明確な意味があると思う。
フィクションの娯楽映画にも、過度なコンプライアンスを求める風潮が蔓延し、事なかれ主義に流されがちな時代にあって、白石和彌は昭和の劇薬を巧みに換骨奪胎し、次の時代に向けて不良性感度の復活を宣言した。
本作のベースの部分に、昭和の実録映画群に対する強いノスタルジーがあることは確かだが、それ以外も様々な要素をバランスよく組み合わせて配置した、間口は広くて懐の深いとても良く出来た快作娯楽映画である。
日岡秀一を描くシリーズ第2作、「凶犬の眼」の映画化も決定したそうで、楽しみに待ちたい。
今回は、呉原こと呉市のお隣、東広島市に本拠を置く広島を代表する銘柄、賀茂鶴酒造の「賀茂鶴 上等酒」をチョイス。
比較的リーズナブルな本醸造酒だが、特に燗で飲むのに適したおっさん向けの酒になっている。
昭和のアウトローを気取って、場末の飲み屋などで、海の幸を肴にして一杯やりたい。

![]() 賀茂鶴 上等酒 1.8L清酒 1800ml |
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