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ブリグズビー・ベア・・・・・評価額1750円
2018年07月05日 (木) | 編集 |
彼が“世界”を教えてくれたから。

創作の夢と情熱の詰まった、愛すべき小品。
物心つく前に誘拐され、25年もの間地下のシェルターで育った青年、ジェームズ・ポープが主人公。

救出されて本当の親元へ帰るものの、外の世界を知らず、偽の両親以外の人間と接したことも無いのでコミュ力は限りなくゼロ。

新しい人生の展開に戸惑う彼の心の支えが、シェルターで唯一鑑賞を許されていた、ちょっと不気味な宇宙クマのブリグズビーが活躍する子供向け教育番組、「ブリグズビー・ベア」だ。
どうしてもブリグズビーの新作が観たいジェームズは、番組の続きを自分で映画として作って自主上映しようとする。
ジェームズにとって、ブリグズビーとは何者だったのか?なぜ彼は映画を作らねばならないのか?
ここに描かれるのは、人生の絶望と救済、現実と虚構に関するビターで美しく、詩的な寓話である。

ジェームズ(カイル・ムーニー)は、両親のテッド(マーク・ハミル)とエイプリル(ジェーン・アダムズ)と共に、外界から隔絶された砂漠の中のシェルターに、25年もの間暮らしている。
シェルターの外は汚染されていて、人間は防毒マスクなしで生きられないと教えられ、外界との唯一の接点は毎週どこからか送られてくる子供向け教育番組「ブリグズビー・ベア」のビデオテープ。
銀河を冒険するクマのブリグズビーに全てを教えられて育ったジェームズは、今では「ブリグズビー・ベア」の世界を研究し、チャットのフォーラムで発表するようになっていた。
ところがある日、突然シェルターに警察が突入し、彼を連れ去る。
警察署で面談したヴォーゲル刑事(グレッグ・キニア)は、ジェームズがずっと両親だと思っていたテッドとエイプリルは誘拐犯で、本当の両親は別にいると告げる。
「ブリグズビー・ベア」も、テッドが作っていた偽の番組だった。
戸惑いながら実の両親と妹のオーブリー(ライアン・シンプキンズ)が待つ家へと帰り、新しい生活を始めるジェームズだったが、「ブリグズビー・ベア」の無い生活をどうしても受け入れることができなかった・・・


監督のデイヴ・マッカリーと脚本・主演のカイル・ムーニー、共同脚本のケヴィン・コステロは、共にカリフォルニア州サンディエゴで育った幼馴染。
マッカリーとムーニーは、本作にもバンダー刑事役で出演しているベック・ベネットと、ニック・ラザフォードと共に2007年に映像制作ユニットGoodNeighborを結成し、GoodNeighborStuffのアカウントで数々の動画を投稿しているYouTuberだ。
どの動画も1分~5分程度と短いのだけど、センス抜群で可笑しくてたまらない。
ネットで人気を博すと、彼らは揃ってテレビの老舗コメディ番組「サタデー・ナイト・ライブ」に進出、そして動画投稿開始から10年目に本作を撮影し、見事な長編劇場用作品デビューを飾った。

誘拐され、長年監禁されていた被害者の帰還を描いた作品というと、ブリー・ラーソンがアカデミー主演女優賞に輝いた「ルーム ROOM」が記憶に新しい。
ラーソン演じる主人公は、17歳で誘拐されてから7年の間、犯人との間にできた息子と小さな部屋に閉じ込められている。
外の世界を知らない息子を不憫に思った彼女は、“世界”とはこの部屋のことで、テレビに映っているものは全てニセモノ、扉の外には宇宙空間が広がっていると嘘をついているのだが、救出された後はむしろ柔らか頭の子供の方が、新しい世界に素早く順応してゆくのが印象的だった。
母親は世間の好奇の目に晒され、“誘拐犯の子”でもある息子を受け入れない親との関係にも悩み、人生を取り戻すのに苦戦するのである。

本作の場合、物心つく前に誘拐されたジェームズの監禁期間は実に25年。
肉体的には立派な大人でも、なにしろ偽の両親のテッドとエイプリル以外の人間を全く知らない。
二人が周到にSFチョックな世界観を構築し、信じ込ませていたこともあり、現実は完全に未知のもの。
人間の人格は思春期に形作られるというが、ジェームズにとっての“世界”は、父だと思っていたテッドが、彼のために作っていた「ブリグズビー・ベア」から教えられたことが全てなのである。
突然シェルターから連れ出されて、本当の両親の元に戻されて、これが本当の世界だと言われても、ずっと虚構の中で育ったジェームズは実感が持てない。
心の拠り所だったブリグズビーはどこ?僕を救ってくれるあのスーパーヒーローは?

しかし、ある時彼はふと気づく。
「ブリグズビー・ベア」の新作がもう送られてこないのなら、自分で作ればいい
このアイディアを思いついて、ジェームズの生活は急激に変わってゆく。
もともと彼は、番組の内容を詳細に分析研究していて、ある種の評論的な視点をすでに持っていた。
さらに独学で映画の作り方を学び、未完の物語がどう続いてゆくのか、何を描くべきなのか、具体的な内容を導き出す。
最初は突然現れた兄に戸惑っていた妹のオーブリー、彼女の紹介で新しくできたギーグな友だちのスペンサー、事件を通して親しくなったヴォーゲル刑事らも、いつしかジェームズの強烈な創作への欲求に巻き込まれて、彼の共犯者となってゆく。
この制作過程の波乱万丈が、彼にとっては過去と向き合い、現実世界に適合するための“リハビリ”となるのである。
彼は現実を受け入れるために、虚構を今一度自らの手で作り出す必要があったのだ。


私はこの映画を観ていて、ジェームズのキャラクターに強い既視感を覚えた。
モジャモジャ頭に黒ぶち眼鏡、人とのコミュニケーションが苦手で創作を愛するこのキャラクターが、スピルバーグの「レディ・プレイヤー1」で、サブカル愛が溢れ出す究極のVRワールド、“オアシス”を創造した天才、ジェームズ・ハリデーに見えてきたのだ。
共通のファーストネームだけでなく、この映画でジェームズがやっていることは、規模は違えどハリデーと同じである。
コミュニケーション下手にとって、現実世界は生き難くて厳しいけれど、創作の世界があるから救われる。
現実と虚構は対立するものではなく、相互保管の関係にあって、現実が虚構を作り出すように、虚構が現実に影響を与えることもある。
ハリデーがオアシスを作ることで救い救われたように、突然虚構から現実に投げ込まれたジェームズは、「ブリグズビー・ベア」の新作を撮り、自ら演じることによって現実を生きてゆく力を得て、その過程で新しい人間関係をも作ってゆく。
実はスピルバーグは、GoodNeighborのファンで、以前から彼らとは交流があったとのこと。
もしかしたら、二人のジェームズが中身からルックスまで似ているのは、偶然ではないのかもしれない。

作り手のサブカルへの愛とオマージュを象徴するのが、誘拐犯のテッドにマーク・ハミルを起用していることだろう。
どこかで聞いたような“May our minds be stronger tomorrow.” の合言葉。
シェルターを抜けだしたジェームズが、入り口の上で防毒マスク越しに遠く地平線を見つめるシーンは、「新たなる希望」でタトゥイーンの二つの太陽を見つめるルーク・スカイウォーカーの姿にかぶるし、三人の暮らす地下シェルターの描写は叔父夫婦と暮らすルークの家を思わせる。
そういえばあの映画で彼らが住んでいたのは、チェニジアの伝統的な地下式住居を利用したロケセットだった。
「ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー」を首になったフィル・ロードとクリス・ミラーがプロデュースで参加しているのも不思議な縁か。
カイル・ムーニーによると、ブリグズビーのキャラクターはキリスト教の布教用に作られた子供向けキャラクターPrayer Bearからインスパイアされたそうだが、番組は70、80年代タッチのチープな「スター・ウォーズ」的な内容で、ジェームズが作る新作映画もあちこちそれっぽい。

ジェームズにとって、テッドとエイプリルはある意味で人生をメチャクチャにした悪しき存在だが、実際に彼という人間を形成したのも彼ら二人。
彼らの作品である「ブリグズビー・ベア」の続編を作るということは、25年間ジェームズを育てた二人を理解し、行為はともかくとして彼らの愛は偽物ではなかったことの証明ともなるのである。
物語のキーパーソンにして、かつて自分が演じた役柄の反転とも言える人物を、味わい深く演じるマーク・ハミルがこの映画に込められた精神性をグッと高める。
これは、あまりにも好きなものにのめり込み過ぎた主人公が、虚構を虚構として自らの手で作り上げることで、魂の救済を受ける物語。
虚構を愛し、モノ作りに取り憑かれた全ての人たちに、自分の創作の原点を思い出させてくれる、小さな宝石の様な傑作である。

今回はGoodNeighborの地元、サンディエゴのクラフトビール、ストーン・ブリューイングの「アロガント・バスタードエール」をチョイス。
“横柄な奴”という名の通り、非常に攻撃的でメリハリの効いた味わい。
幾つものフルーティな香りとフレーバーが口の中で暴れまわる。
ユニークな銘柄を次々と世に出しているストーンらしい作品だ。
サンディエゴのお店も素敵なので、訪れる機会があれば是非味わってほしい。

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