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バトル・オブ・ザ・セクシーズ・・・・・評価額1700円
2018年07月14日 (土) | 編集 |
絶対に負けられない戦いがある。

今から45年前、全世界の注目を集めたテニスの試合があった。
前年に四大大会三冠を獲得した女子テニスのトップ選手ビリー・ジーン・キングと、元男子チャンピオンのボビー・リッグスの性差を超えた戦いだ。
あらゆる分野で男女の格差が今よりも遥かに大きく、社会の寛容性も低かった時代。
男女同権運動の賛同者だったビリーは、なんとかテニス界の男女格差をなくそうと尽力しているのだが、ウーマンリブへ反発する男たちの不満に目を付けたボビーが、“男性至上主義のブタ”を自称して挑戦状を叩きつけたのだ。
当時ビリーは選手として全盛期の29歳、対するボビーは55歳。
いくら年齢差があるとは言え、元男子トップのパワーとスピードにビリーは対抗できるのか。
男女のプライドを賭けた戦いの顛末をもとに、「スラムドッグ$ミリオネア」で知られるサイモン・ビューフォイが脚本を執筆、「リトル・ミス・サンシャイン」のジョナサン・デイトンとヴァレリー・ハリス夫妻が監督を務める。 

1972年、女子テニスのトップ選手ビリー・ジーン・キング(エマ・ストーン)は、遂にキャリア・グランドスラムを達成。
しかし、当時の女子選手の賞金は男子に比べ極端に低く、ビリーたちの抗議にも男子主導のテニス協会は聞く耳を持たず、格差は広がり続けていた。
60年代から始まった男女同権運動の賛同者だったキングは、改革に背を向ける男子ツアーと袂を分かち、仲間の女子選手たちと女子テニス協会を設立する。
翌73年、彼女たちの活躍を見た往年の男子トップ選手ボビー・リッグス(スティーブ・カレル)は、一攫千金を画策し「男子の優位を証明するため」と称し、ビリーへの挑戦を表明。
ビリーは拒否するが、代わりにこの年絶好調だったマーガレット・コート(ジャシカ・マクナミー)と対戦し圧勝する。
業を煮やしたビリーは挑戦を受け入れ、男女の戦いは“Battle of the Sexes”と銘打たれ、全米の注目を集め大いに盛り上がる。
そして1973年9月20日、ヒューストン・アストロドーム。
3万人の観衆と、9000万人のテレビ視聴者が見守る中で、決戦の火蓋が切られた・・・


とても趣深い、良質の映画である。

ウーマンリブの女性が、男性至上主義者をやっつける話かと思いきや、ことはそう単純ではない。

ここに描かれているのは、単に一つの試合ではなく、従来の価値観が覆り時代が動く瞬間だ。


この映画のビリー・ジーン・キングは、同時に二つのものと戦っている。

一つは、プロテニス・プレイヤーとして男子との格差
男が主導するテニス協会のツアーでは、女子の賞金は男子のわずか1/8に過ぎない。
観客動員数やチケットの売り上げに、それほど大きな差はないのにだ。
いくら働きかけても、一向に改善しようとしないテニス協会に対して、ビリーと仲間たちは自ら女子テニス協会(WTA)を設立し、たった1ドルで契約する覚悟を見せる。
タバコ銘柄のヴァージニア・スリムが冠スポンサーとなり、ツアーの賞金もテニス協会が提示した1500ドルから7000ドルと一気に増えたものの、生まれたばかりの女子テニス協会はまだまだ不安定。
彼女らは男性優位社会の厳しい偏見に、立ち向かっていかねばならないのだ。

そんな時に、既婚者だったビリーは、運命を変えるファムファタールと出会ってしまう。
アンドレア・ライズボローが演じる美容師のマリリン・バーネットに、初めて髪をセットしてもらうシーンのなんとも艶っぽいこと。
保守的なメソジストの家庭に育ったビリー自身も、同性愛には葛藤がある。
女子テニス協会の顔である彼女が女性と浮気していることが公になれば、スキャンダル化は免れない。
ビリーは、ありのままに人を愛するというもう一つの戦いにも、人知れず身を投じてゆくことになるのだ。
彼女の夫のラリー・キングが、出来すぎなくらい良い人で、ちょっと可哀そうではあったが、恋する心は止められない。
感情の振れ幅が大きいビリーの恋の情景も、本作が描き出す重要な要素となっている。

一方、対戦相手のボビー・リッグスも大きな問題を抱えている。
40年代を代表する名選手だったが、過度のギャンブル依存のせいで金銭的にも困窮し、裕福な名家の出身である妻のプリシラから別れを切り出されている。
妻の尻に敷かれているくらいだから、“男性至上主義のブタ”は世間の注目を集めるためのパフォーマンス。
テニス界でもシニアの大会では大した金は稼げない。
崖っぷちに追い込まれたボビーは、ビリーとの試合に人生の起死回生を賭けているのである。
まあ性格に問題はあるものの、同じおっさんとしては、中年の悲哀を絵に描いたようなボビーに感情移入せざるを得なかった。

いくら往年の名選手と言えど、娘みたいな年齢の、今まさに全盛期を迎えてる選手とあれだけ戦えるんだから、正直それだけでも大したものだと思う。

この映画の作り手は、それぞれに葛藤を抱えたビリーとボビーの対立を軸に、その時代の空気を丁寧に描写する。
ボビーの問題が多分に自ら招いたものであるのに対し、ビリーの葛藤は男性優位社会を変えようとする女であること、同性を愛することに根ざしたもので、社会の不寛容が要因ゆえにより深刻。
宣伝では“性の戦い”を前面に出してたが、それはほんの表層に過ぎない。
“Battle of the Sexes”は大いに盛り上がり、その後の女子テニスの興行が盛り上がる切っ掛けにもなったが、イベントは所詮一過性。
本作のように、その裏側で起こっていたこと、当事者たちが何を抱え、何を考え、何のために戦ったのかじっくりと見せてくれる劇映画は、この種の歴史的イベントの意味を未来から考える際に、大きな広がりと深みを感じさせてくれる。
だからこそ肝心の試合は当時のTV放送と同じ定点カメラのみで、過剰に劇的な演出は控えられている。
もちろん脚色された劇映画である以上、そのまま事実ではないのだが、ある視点を与えてくれるだけでもこの種の映画の存在する意味があるだろう。
実際に映画の企画が始まったのは、♯MeTooのムーブメントよりも前だが、これはやはり時代に呼ばれた作品。
良い意味で予測を裏切られる深みのあるドラマで、人物の感情の機微が丁寧に紡がれ、鑑賞後の余韻が実に爽やか。

ビリーの周りにいる多くのキャラクターも、それぞれの想いを胸にこの時代を生きた人々だが、中でもで面白いのが、アラン・カミングが演じるテッド・ティンリングという人物だ。
彼自身も元テニス選手にして、女子テニス協会の衣装デザイナー兼リエゾン・オフィサー。
映画の中では、それまで白一色だった選手のユニフォームに色の革命を起こすのだが、ゲイであることを隠しておらず、だからこそこの時代にLGBTとして生きることの辛さも熟知していて、陰ながらビリーの新しい恋を応援している。
物語の終盤、彼がビリーにかけるある言葉は、この映画のテーマと直結し、観る者の心を打つ。

ちなみにこの人、映画の中では印象的な脇役という以上ではないのだが、ちょっと興味をもってプロフィールを調べてみると、もの凄くユニークな人生を送っている。
1920年代にはウィンブルドンに出場したテニス選手で、第二次世界大戦中は英国情報部のスパイとして活動、戦後はデザイナーに転身し大成功し、晩年はテニス界を題材とした本も書いていたというマルチタレント。
この人を主人公にした映画を作っても面白そうだ。


ビリー・ジーン・キングvsボビー・リッグスから19年後の1992年、“Battle of the Sexes”の第3ラウンドとして当時35歳のマルチナ・ナブラチロワvs40歳のジミー・コナーズ戦が行われ、コナーズが7-5、6-2で勝っている。
もっとも、この時はすでに女子テニスは十分に発展を遂げていて、ナブラチロワもビリーもバイセクシャルであることをカミングアウトした後。
当然、試合の雰囲気や両者が背負うものも、ビリーの時代とはだいぶ違っていた様だが、だからと言って格差や不寛容が無くなったわけでは決してない。
はたして、♯MeTooの時代に“Battle of the Sexes”第4ラウンドが行われることはあるのだろうか。

今回は、ビリーたちの平等の夢にかけて、カクテルの「ドリーム」をチョイス。
ブランデー40ml、オレンジ・キュラソー20ml、ぺルノ1dashを、氷と共にシェイクしてグラスに注ぐ。
コクのある甘味のブランデーとオレンジの風味が組み合わさり、ぺルノが両方を引き立てる。
思わず心が華やぐ甘口のカクテルだが、度数はかなり高いので油断していると本当の夢に誘われてしまう。

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