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菊とギロチン・・・・・評価額1750円
2018年07月18日 (水) | 編集 |
ただ、自由に生きたかった。

かつて実在していたアナーキスト集団「ギロチン社」と、ワケありの女たちが集う女相撲の一座を描く青春群像劇。
瀬々敬久監督が「ヘヴンズ ストーリー」同様のインディーズ体制で作り上げた、上映時間実に3時間9分という大長編だ。
関東大震災直後の不穏な時代を舞台とした物語は、閉塞感にあえぐ人々の生々しい感情を乗せて疾走する。
新人の力士・花菊を演じる木竜麻生をはじめ、韓英恵、東出昌大、寛一郎らが時代に翻弄される若者たちを熱演し、渋川清彦、大西信満、井浦新らベテランが脇を固める。
共同脚本は「サウダーヂ」の相澤虎之助。
まるで昭和のATG作品を観ているかの如く、圧倒的な熱量を持つ大怪作である。

大正時代の終わり。
関東大震災後の日本は、不況に見舞われ社会不安が高まる中で次第に軍部の力が強まり、自由で煌びやかな時代の気風は失われつつあった。
そんなある日、東京近郊の村に女相撲「玉岩興行」がやって来る。
この一座には、夫の暴力に耐えかね家出して入門した新人力士の花菊(木竜麻生)や、朝鮮出身の十勝川(韓英恵)ら、様々な過去を持つ訳ありの女力士たちが集まっていた。
同じ頃、中濱鐵(東出昌大)、古田大次郎(寛一郎)らアナーキスト集団ギロチン社の面々も、近くの漁師小屋に潜伏していた。
彼らは大杉栄(小木戸利光)たちが、震災のドサクサに紛れて甘粕正彦憲兵大尉に殺害された甘粕事件の報復テロに失敗し、官憲から追われていたのだ。
気晴らしに女相撲を見に出かけた中濱は、彼女たちのひたむきな相撲に心を打たれ、取材と称して花菊と十勝川に接触し、次第に打ち解けてゆくのだが・・・・


瀬々敬久監督は、公式ホームページで本作を企画した意図をこう綴っている。
『十代の頃、自主映画や当時登場したばかりの若い監督たちが世界を新しく変えていくのだと思い、映画を志した。僕自身が「ギロチン社」的だった。数十年経ち、そうはならなかった現実を前にもう一度「自主自立」「自由」という、お題目を立てて映画を作りたかった。』
なるほど、ギロチン社は実在した集団、女相撲そのものは実在だが映画に登場する一座はフィクション。
前者は作り手そのもの、彼らに力を与える後者は「自由」を象徴する創作という訳か。

物語は大正12年、女相撲の興行中に関東大震災が起こるところから始まる。
嫁いだ姉が乳飲み子を残して死に、やむなく姉の代わりに再婚させられた花菊は、粗野な夫の暴力に悩み、土俵で躍動する女力士たちを見て、「強くなりたい」と家出して入門する。
女相撲の存在は聞いたことがあったが、江戸時代から昭和30年代まで存続していたこと、なぜか山形にルーツをもつ団体が多かったのは知らなかった。
昭和30年代というと、プロレスブームの時代だが、女相撲の消滅と女子プロレスの勃興が重なるのは偶然なのだろうか。
本作の女相撲一座「玉岩興行」には、様々なバックグランドを持つ女たちが集う。
花菊と同じように夫から逃れて家出してきた小桜、朝鮮出身で元遊女の十勝川、沖縄出身の与那国や一座の親方の姪の勝虎。
女が自由に生きられない時代、出自を問わず、各地を巡る女相撲の一座は、ある種の駆け込み寺の様な役割を果たしていたのかもしれない。

一方、中濱鐵をはじめとするアナーキスト集団、ギロチン社の面々は、口では「革命」を叫んではいるものの、企業恫喝をしては金をせしめ、酒と女に使い果たす自堕落な日々を送っている。
大物アナーキストの大杉栄が甘粕正彦に殺害されると、一応報復を企てるものの、本人は逮捕されて塀の中なので、代わりにまだ高校生の弟を狙うという情けなさ。
さらに銀行からの資金強奪を狙って失敗、古田大次郎が誤って行員を刺殺してしまい、揃って逃亡者となってしまう。
彼らが潜伏し女相撲と出会う大正時代の船橋が、片田舎の漁村にしか見えないのが面白いが、当時の写真を見ると本当にあんな感じだから、現代のゴミゴミした風景しか知らないと新鮮だ。
理想はあるが行動が伴わないアナーキストの男たちは、地に足をつけ懸命に戦って生きている女相撲の力士たちと出会って変わってゆく。

物語の軸となるのは女相撲の花菊と十勝川、ギロチン社から中濱鐵と古田大次郎の四人。
だが、彼らが明確な主人公という訳ではなく、例えば朝鮮人を敵視する在郷軍人会だとか、勝虎と一座の行司を務める三治の恋だとか、花菊を取り戻しにくる夫の話だとか、様々な人物のサブプロットが複雑にからみあう。
3時間を超える上映時間に、凄まじい情報量が詰め込まれた物語は、教科書的な意味では構造と展開がかなり歪。
時系列がすっ飛ばされ、「えっ?そこ描かないの?」とか「あれはどうなったの?」的に落とされている部分、逆にそこだけ異様に密度の濃い部分があるのだが、これはおそらく狙いだろう。
人物描写をある程度表層にとどめ、言いたいことはとことん言う荒々しい作りが、より物語の生っぽさを強調し、リアリティを与えている。

震災の後は、キナ臭い時代が来る。
この映画の描き出す情景が、3.11後の右傾化する現在の日本の合わせ鏡なのは明らかだ。
女力士たちとギロチン社の青年たちが感じている閉塞は直接的には違うものだが、「自由に生きたい」という両者の渇望は共通。
しかし、正体のよく分からない、この国の“国体”なるものがそれを許さない。
「誰もが誰かに仕えてるのよ」とは「ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー」の名台詞だが、この映画の登場人物たちも同じ。
国体の頂点たる大正天皇、摂政の皇太子を含めて、この国に真に自由な人間はどこにもいない。

もっとも、その現状に対するスタンス、抗い方は異なる。
女に生まれたというだけで、男性優位社会で理不尽な仕打ちを受けてきた女たちは、「強くなりたい」と願い、自らの肉体を鍛え上げ、女相撲という居場所を守ろうとする。
一方、「社会を変革し、より良き世界に導きたい」と願うが、その術をしらない男たちは、風車に立ち向かうドン・キホーテの様にジタバタと暴れ、自滅してゆく。
女力士たちと男たちが、内面に沸々と煮えたぎるエネルギーを爆発させるように海岸で踊り狂う中盤のシーン、文字通りに権力とぶつかり合うラストの対比は本作の白眉と言える。

物語の中の立ち位置が、ある瞬間に入れ替わる工夫もいい。
特に、在郷軍人会のエピソードは極めて象徴的だ。
彼らは1918年から22年までの間、ロシア革命に干渉するためにシベリアに日本軍を展開させたものの、結局三千人以上と言われる甚大な犠牲者を出しただけで、何も得られなかったと評される“シベリア出兵”の帰還兵。
無意味な戦争に駆り出された挙句、今度は震災後のデマに踊らされて自警団として無実の朝鮮人を虐殺する。
一見すると残虐な抑圧者に見える彼らは、国体全体から見ると末端の捨て駒に過ぎない。
大西信満演じる在郷軍人会の指揮官は激しい反共・反朝鮮の思想を持ち、朝鮮出身の十勝川を捕えて拷問するのだが、それは自らのやってきたことの無意味と、罪悪感の哀しい裏返しなのである。

「菊とギロチン」は、女相撲の力士とアナーキストの青年たちの激しく刹那的青春を通して、現在の日本に“自由”を問う。
果たして今のこの国は、人々が性差や民族、思想や哲学の違いを超えて、本当の意味で自由に生きることが出来るのか。
もちろん、全体を見ればこの映画の時代からは大きく前進しただろうが、逆に硬直してしまっている部分もあるまいか。
奇しくも大相撲の時代錯誤な女人禁制が大きな批判を浴びた2018年に、この作品が生まれたのも面白い偶然。
ひとつだけ確実に言えるのは、ほぼ100年前の物語が、鋭い現在性を持って語りかけて来るという事実は、どう考えても憂うべきということだろう。

それにしても、今年は“怪作”としか形容できない邦画が異様に多い。
本作では永瀬正敏がナレーションを担当していることもあり、石井岳龍監督のアナーキー時代劇大怪作「パンク侍、斬られて候」とちょっと印象が被る。
この狂った熱量を持つ2本が同時期に公開されてるのも、よく考えると凄いことだ。
ちなみに3時間9分はの上映時間は全然長くはなく、むしろ魅力的な登場人物の物語を持っと観ていたかった。

今回は女相撲発祥の地と言われる山形から、寿虎屋酒造の「三百年の掟破り 純米大吟醸無濾過槽前原酒」をチョイス。
搾り出された酒に、一切何も手を加えないそのままの味わい。
奇妙な名の由来は、江戸時代の享保年間の創業以来、必ず火入れ殺菌してから出荷という300年間不変だった掟を破って作ったお酒だからだそう。
洋梨を思わせるフワリとした吟醸香と、微発泡のまろやかな口当たり。
ボディが強くて、それでいてスッキリしたキレもある。
やっぱ時には300年の家訓を破るくらいしないと、新しいものは生まれないな。
アナーキズム万歳!

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