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日日是好日・・・・・評価額1700円
2018年10月30日 (火) | 編集 |
雨音が心に染み入る。

エッセイストの森下典子が長年通っていた茶道教室での出来事を綴った、「日日是好日 『お茶』が教えてくれた15のしあわせ」を大森立嗣監督が映画化。
タイトルの「日日是好日(にちにちこれこうじつ)」は、教室に掲げられている書の言葉で、そのまま捉えれば「毎日がよき日」となるが、本当はどういう意味が込められているのか。
黒木華演じる主人公の典子は、まじめな性格だが特に人生の目標があるわけでもなく、なんとなく毎日を生きている大学生。
そんな彼女が、ひょんなことから茶道教室に通うこととなり、茶の湯の哲学を通してこの言葉に秘められたディープな意味を知る、四半世紀に渡る物語だ。
典子を、無限に広がる茶の湯の宇宙へと誘う武田先生を、つい先日死去した樹木希林が演じ、圧巻の存在感。

大学生の典子(黒木華)は、情熱をそそぐ何かを見つけたいと願っているが、学生時代は瞬く間に過ぎてゆく。
二十歳の春、母(郡山冬果)に勧められたこともあって、典子はいとこの美智子(多部美華子)と共に近所の武田先生(樹木希林)のもとで茶道を習うことに。
二人が憶えなければならないのは、お茶のたて方だけでなく、歩き方から道具の選び方、飲み方に至る膨大な作法。
「お茶はまず『形』から。先に『形』を作っておいて、その入れ物に後から『心』が入るものなのよ」と言う先生に、「それって形式主義では?」と反論しつつも、二人はなんとか茶の湯の世界に馴染んでゆく。
やがて卒業の季節を迎え、貿易商社に就職した美智子は教室をやめてしまったが、就職におちた典子は出版社でアルバイトをしながらお茶の稽古を続けている。
年齢を重ねる毎に、少しずつ茶の湯の世界の奥深さを理解してゆく典子だったが、同時に茶人としての限界も感じるようになっていた。
そんな時、典子の人生に大きな転機が訪れる・・・・


「お茶の作法なんて決まっているのだから、なんで皆何年も稽古を続けるのだろう?」
以前はこう思っていたのだが、実際に長年教室に通っている人に聞くとそう簡単ではないらしい。
劇中にも描かれている通り、季節によってどんどん作法が変わってゆくので、覚えなければならないことは膨大にある。
一つの作法をマスターしても次は違うことをするので、一年が巡ってくるころにはすっかり忘れて、結局毎年学び直しながら、完成度を高めていくしかないのだという。
流されるままに武田先生の教室に通い始めた典子も、最初のうちは作法を覚えるだけで精いっぱい。
もちろん教室の外では普段の生活もあるわけだが、何が特別なことが起こる訳でもなく、映画は茶の湯の二十四節気を巡ってゆく。

そして、毎年同じことを繰り返しているうちに典子は徐々に理解する。
茶道の世界では、なぜ「形」を重要視するのか。
稽古を始めて何年かたったある日、彼女は季節によって雨音が違うことに気づく。
さらに、お茶をたてる時のお湯の音は「とろとろ」、水の音は「きらきら」と水温の違いも聞き分けられるように。
良さが分からなかった茶室の掛け軸も、文字に動きを与えた遊び心ある「絵」として楽しめばよいのだと悟る。
同じことを忠実に繰り返しても、天気は違うし歳もとる。
厳格で変わらない茶の作法と相対化されることで、世界はどんどん移ろってゆく。

一人暮らしを始めた典子と、鶴見辰吾演じる父親との、印象的なやり取りがある。
娘の暮らす街へとやってきた彼は、久しぶりに娘と会いたいというのだが、典子は自分の都合を優先して断ってしまう。
「会おうと思えば何時でも会えるから」と思っている典子は、なかなか父親との時間を作ろうとしない。
そうこうしているうちに、彼は突然この世を去ってしまうのだ。

マーク・フォスター監督の「プーと大人になった僕」のラストで、クリストファー・ロビンとプーさんがこんな会話をする。
プーさん「What day is it?(今日はいつだっけ?)」
クリストファー 「It's today.(今日だよ)」
プーさん 「My favorite day.(僕の大好きな日だ)」

この映画も茶の湯に通じる侘び寂びの哲学を感じる作品なのだが、プーさんが感じている日々の幸せも、つまりは「日日是好日」と同じこと。
茶道を始める前は、なんとなく毎日を過ごしてきた典子は、長い時間を費やして遂にこの言葉の神髄に行き当たる。
たとえ同じような毎日の繰り返しだとしても、今日と同じ日は二度とやってこない。
毎日が一期一会だからこそ、この世界は素晴らしく、生きるに値する。

原作エッセイで描かれているのは70年代半ばからの四半世紀だが、映画の時間軸は現在を終点とする過去四半世紀。
現在の観客にとっては、より作品世界へ入りやすくなっただけでなく、バブル崩壊後の就職氷河期などが背景となり、主人公の閉塞感が強化された。
なかなか見えてこない茶の湯の神髄への旅を、フェリーニの「道」の理解に例えるのも面白い。
私もこの映画を中学生の時に初めて観て、いまひとつ面白さが分からなかったが、大人になって再び出会った時は、旅芸人の孤独と絶望に泣いた。
心を震わす芸術も、人生の道程の何時出会うかによって印象はまるで違ってくる。
この映画は典子の二十歳から四十五歳までを描いている訳だが、その間に彼女は就活に卒業、失恋、喪失などを経験して来ている。
それぞれのエピソードも、例えば大学生の観客と、四十代の観客ではだいぶ受け止め方が変わってくるはずだ。
お茶と人生というモチーフを通して、見えてくるのは世界の感じ方なのである。

そして、数百年継承されて来た茶の湯の歴史は、この作品において、日本映画の継承のメタファーとなった。
樹木希林という唯一無二の名優が亡くなったことは哀しいけど、演技派女優の系譜は、本作でも素晴らしい好演を見せる、黒木華や多部未華子に受け継がれてゆくだろう。
俳優たちの演技を、四季の移ろいの中でじっくりと見せ、大森立嗣監督作品としても、ベストな仕上がり。
しかし大杉漣と樹木希林がもう見られないなんて、ホント寂しいなあ。

今回は雅なる京都の地酒、木下酒造の「玉川山廃純米雄町無濾過生原酒」をチョイス。
2015年に公開された、ドキュメンタリー映画「カンパイ!世界が恋する日本酒」にも登場した英国人杜氏のフィリップ・パーカーが手掛けた酒。
オックスフォード大学出身で、英語教師として来日し日本酒に魅せられ、酒蔵に転職して南部杜氏の資格をとり、京都府京丹後市の木下酒造の杜氏となった。
濃厚な旨味と適度な酸味、日本酒らしさの詰まったフルボディ。
冷でも燗でも美味しくいただける懐の深さがあり、CPもすこぶる高い。
日本酒の世界も変わらないようで、少しずつ進化している。

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