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斬、・・・・・評価額1700円
2018年12月04日 (火) | 編集 |
人を斬るとは、どういうことか。

殺戮の緑の海は、「野火」のフィリピンのジャングルから、19世紀の日本の森林へ。
250年にわたる太平の世が、終わりを告げようとしている幕末。
この国を支配する新旧の勢力が衝突する乱世を見て、戦いに馳せ参じようとしている、池松壮亮演じる若い浪人・都築杢之進の物語だ。
手練れだが、未だ人を斬ったことのない杢之進は、江戸近郊の農村に逗留中に、塚本晋也監督が自ら演じる無情な壮年の人斬り・澤村次郎左衛門と出会い、改めて刀を持って人を斬り殺すことの意味を突きつけられ葛藤する。
杢之進に想いを寄せる農家の娘・ゆうに蒼井優、杢之進から剣術を学び、自分も江戸行きを決意するゆうの弟・市助にオーディションで選抜された前田隆成。
彼らの前に立ちはだかる、無頼者たちの頭目を中村達也が演じる。
塚本作品らしく上映時間は80分と短めだが、その密度は驚くべきものだ。

風雲急を告げる時代。
貧窮して藩を離れた浪人・都築杢之進(池松壮亮)は、江戸近郊の農村に逗留し、世話になっている農家の娘・ゆう(蒼井優)と共に農作業に汗を流す傍ら、ゆうの弟の市助(前田隆成)に剣術指南をする毎日。
ある日、村の神社で果たし合いがあり、杢之進は壮年の剣士が相手の戦闘力を一撃で奪うのを目撃する。
澤村次郎左衛門(塚本晋也)と名乗ったその男は、杢之進の腕を見込んで、共に江戸へ向かい、そこから京都の動乱へ参戦しようと持ちかける。
もとより江戸行きを決意していた杢之進は快諾し、市助も同行することになるのだが、三人の出立が迫ったある日、平和だった村に無頼者たちの集団が流れてくる。
村人たちと無頼者たちの間に不穏な空気が流れる中、市助が無頼者たちと揉めて、大怪我を負わされる事件が起こってしまう・・・


これはある意味、戦いの結果としてのこの世の地獄を描いた「野火」の精神的続編、いや前編とも言える物語だ。
遠く、江戸から京都で起こっている、薩長連合を中心とした新政府軍と旧幕府軍の戦争は、最初ぼんやりとしたイメージで語られている。
杢之進と澤村は、とりあえず幕府側につくつもりのようだが、彼らの政治信条などが語られることはなく、鎌倉時代以来の御恩と奉公の主従関係に基づく、「いざ鎌倉(江戸)の時は、御公儀のもとに馳せ参じる」という武士の矜持以上の理由は見えない。
農民ながら杢之進に剣術を習い、共に戦いに行こうとする市助に至っては、誰と誰が戦っているのかも、何をイシューとした戦争なのかも知らないのだ。
元来兵士でありながら、250年もの間戦うことを禁じられていた侍にとっては、これは千載一遇のチャンスであり、そこに深い理由は不要なのである。
しかし身近に無頼者たちとの争いが起こると、”人が人を斬り殺すこと”は、急速にリアリティを持って、登場人物たちの人生を絡め取ってゆくのだ。

冒頭、一振りの刀が精錬されてゆく過程が映し出されるが、誰もが裸で生まれてくる無力な人間は、玉鋼でできた刀を手にすることで、そのものが強力な武器となる。
この人間と武器、生物と鉄の関係は、塚本晋也にとっては出世作となった「鉄男」以来、度々描いているモチーフだ。
実際、本作の構造には「鉄男」との類似点がある。
主人公の杢之進は、塚本晋也演じる人斬りの澤村と出会ったことで、彼の体現する非日常の世界へと向かうが、「鉄男」で田口トモロヲ演じる「男」を金属人間にするのも、やはり塚本晋也なのである。
「男」の運転する車に轢かれ、頭に鉄の棒が突き刺さってしまったことで、金属と肉体を融合させる謎の力を手に入れた塚本晋也演じる「ヤツ」は、復讐として「男」を金属人間に変えてしまう。
鉄の棒を刀に置き換えれば、そのまま本作の澤村と杢之進だ。
また「バレット・バレエ」の拳銃に惹かれてゆく男や、「東京フィスト」のボクシングにのめり込む主人公(演じるのは共に塚本晋也)にも、本作に流れるこの作家の一貫した世界観を感じ取ることができる。

一件温和そうに見えて、実は人斬り大好きサイコな剣の達人である澤村は、「野火」で描かれた緑の地獄を彷徨い、心も体もぶっ壊れてしまった日本軍兵士たちの延長線上にある。
もはや刀と一体化し、殺すために殺す人間兵器の姿は、一線を超えてしまった者の行き着く先だ。
澤村は杢之進に対して、侍として戦いを求めるなら覚悟を決めろ、お前も刀と一体化して自分と同質の存在となれと迫る。
杢之進はいざその時になって、初めて自分には人を殺める覚悟がなく、それを欲してもいないことに気づき、無頼者たちと真剣ではなく木の棒で戦おうとするのだ。
しかし、素人ならともかく、手練れ揃いの無頼者たち相手では、当たり前だが全く勝負にならず、結果的に無頼者たちは澤村の手によって斬殺され、杢之進はその場を逃げ出すしかないのだが、澤村は執拗に追ってくる。
もはや金属=刀との同化と殺戮こそが存在理由となっている人間兵器は、杢之進に自らを殺させることで、彼をも精神的に取り込もうとしているのである。
そして彼らを包み込むように存在しているのが、どこまでも深い緑の樹海。
悠久の歴史を見てきた、物言わぬ巨木の根元に這いつくばり、殺し合わねばならない人間たちが哀しい。

刀とは何か、人が刀と一体となった時に、何が起こるのかを描く本作の表現で、非常に特徴的なのが日本刀の音響効果だ。
杢之進が刀を握りしめたビジュアルが、フラッシュバック的に何度も出てくるのだが、斬り合うのではなく、ただ握っている時にも「ギリギリギリ」という金属が軋むような音が入り、それが命の淵に立つ登場人物の、張り詰めた緊張感をうまく表現している。
サウンド担当の北田雅也のツイートによると、「音響効果刀」なる効果音専用の特殊な刀を開発して使っているそうだが、これは新鮮で耳に新しい体験だった。

登場人物中で面白いのが蒼井優が演じるゆうで、単純な男たちと違ってころころと言うことが変わる、一番人間らしい矛盾したキャラクターだ。
気立てのいい村娘は、恋心を抱く杢之進に「戦場に行くな」と言っていたのに、無頼者たちに家族を殺されると、今度は一転して「仇を討て」と言う。
彼に惚れているのに、澤村が圧倒的な強さで無頼者たちをやっつけると、「あらやだ、こっちもちょっとイイわ」とばかりになびきそうになったりする。
移ろい気味で艶っぽい彼女の言動が、杢之進と澤村の運命を無意識に動かしてゆくのである。

明治維新から70年後、侍の末裔たちは刀を銃に持ち替えて、有無を言わさぬ強大な権力によって数百万の人間兵器となって、アジア各地に散っていった。
そして大陸の奥地で、太平洋のジャングルで、それぞれに地獄を彷徨うことになる。
塚本晋也は、戦後70年の節目の年に、「野火」を発表した動機を「日本が再び戦争に向かっているのではないかという懸念」だと語っている。
あれから3年、再びの自主制作体制で本作を作った理由もまた、「その懸念がずっと消えない」からだと言う。
幕末から70年、10年の戦争の時代を挟んで戦後70年。
今年2018年は、明治維新から150年目である。
二本の映画を作らせた作家の深い懸念は、いつの日か現実となってしまうのだろうか。
物語を通して独特の歴史観が見えてくる、作家性豊かな凄みのある力作である。

今回は華やいだ未来への願いを込めて、埼玉を代表する日本酒銘柄・南陽醸造の「花陽浴 純米大吟醸 越後五百万石 無濾過生原酒」をチョイス。
大吟醸ならではの芳醇な吟醸香、フルーティーな甘み、キレ、スッキリとしたのどごし、すべてが絶妙に調和する。
これだけバランスの良い日本酒もなかなかない。
おせちを肴に、正月に飲みたい一本だ。

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