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バジュランギおじさんと、小さな迷子・・・・・評価額1750円
2019年01月22日 (火) | 編集 |
愛が国境を越えてゆく。

願い事が叶うと噂の、インドにあるイスラム教の聖廟にお参りに来て、母親とはぐれてしまったパキスタンの女の子シャヒーダー。
生まれつき声を出せない彼女を保護したのは、インドの神話の中でも最強の戦士として知られるハヌマーン神を熱烈に信仰するパワン、あだ名もハヌマーンの別名である“バジュランギ”おじさん。
神に誓いを立てた経験な信者ゆえに、馬鹿正直で嘘がつけないパワンは、シャヒーダーをムンニ(お嬢ちゃん)と呼び、彼女の親を探してインドから国境を越えパキスタンへと、危険な冒険の旅に出る。
主人公のパワンをプロデューサーでもあるサルマン・カーンが演じ、迷子のシャヒーダー役にはオーディションで選ばれたハルシャーリー・マルホートラ。
「きっと、うまくいく」のカリーナ・カプール、ナワーズッディーン・シッディーキーらが脇を固める。
監督・脚本は「タイガー〜伝説のスパイ〜」のカービル・カーン。
これは全てが対照的な二人の、無私の愛に溢れた物語。

パキスタンの小さな村に住む6歳のシャヒーダー(ハルシャーリー・マルホートラ)は、声を出すことが出来ない。
このままでは学校にも行けないので、村の長老の勧めでインドにあるイスラム教の聖廟に、母親とお参りに行くことにする。
ところが、帰り道に迷子になったシャヒーダーは、たったで一人インドに取り残されてしまう。
そんな彼女と出会ったのが、クルクシェートラのハヌマーン祭りで情熱的なダンスを踊っていたパワン(サルマン・カーン)。
シャーヒーダーが迷子であることを知ると、これもハヌマーンの思し召しと考えたパワンは、彼女の親が見つかるまで保護することに。
しかしある時、てっきりヒンズー教のバラモン階級の娘だと思い込んでいたシャヒーダーが、パキスタンから来たイスラム教徒であることを知って動揺。
折しもインドとパキスタンの関係が悪化し、彼女を合法的に故郷に送る算段はことごとく頓挫してしまう。
フィアンセのラスィカー(カリーナ・カプール)から背中を押されたパワンは、シャヒーダーを連れて、パキスタンに密入国することを決意するのだが・・・・


インドを舞台に“迷子”を描いた作品といえば、実話ベースの「LION/ライオン 〜25年目のただいま〜」が記憶に新しい。
5歳の時に電車を乗り違え、迷子になってしまったサルー少年が、遠くオーストラリアに養子に出され、25年後にGoogle Earthを駆使し遂に故郷を探し当てる物語。
日本の約9倍の広大な国土に、ヒンディー語やベンガル語、ウルドゥー語など無数の言語が使われている多民族国家のインドでは、同じ国の中でも地域が違えば言葉は通じず、身元を照会する社会インフラも未発達のため、幼い子供にとっては自分が何者でどこから来たのかを伝えるだけでも難しい。
サルー少年の場合は、列車が着いた先が別の言語圏だったために、十分な意思疎通が出来なかった。

本作はフィクションだが、迷子の身元探しの条件はさらに悪い。
何しろ、シャヒーダーは喋れないのである。
しかも6歳児ゆえ、読み書きもまだ習っていないので、自分の名前や住んでいた町の名を伝えることも出来ない。
彼女がインド人だと思い込んでいるパワンは、とりあえずインドの主要な町の名前を片っ端から言ってみるのだが、当然シャヒーダーは首をかしげるばかり。
だがある時、偶然モスクの前に立ち止まった時、彼女がいつもやっているように自然にモスクに入り祈るのを見て、初めて彼女がパキスタン人だと知る。
映画の前半1時間は、パワンのそれまでの人生の軌跡と、情報が全く無い少女の正体が分かるまで。
後半1時間半は彼女をパキスタンの親元へ返すための、波乱万丈の壮大なロードムービー

単に宗教と国籍が違うというだけではない。
インドとパキスタンは、過去三度も戦火を交え、2001年にはパキスタンのイスラム過激派がインド国会を襲撃した事件を巡る対立から、核戦争ギリギリまでいった不倶戴天の敵国同士
それにシャヒーダーは、アジアのスイスと呼ばれるほど風光明媚な土地ながら、両国の戦争の舞台となり、現在も係争中のカシミールから来たのだ。
ハヌマーンを熱烈に信仰するパワンにとっても、シャヒーダーがパキスタン人のイスラム教徒だったことは心中穏やかではない。
彼自身は過激派とは距離を置いているようだが、武の神でもあるハヌマーンは、パキスタンを敵視するヒンズー至上主義者にとっても象徴的な存在。
劇中でも駐インドのパキスタン大使館が暴徒化したデモ隊に襲われ、閉鎖されてしまう描写があるが、民族義勇団(RSS)に代表されるヒンズー至上主義勢力の尖兵となっている過激派組織、バジュラング・ダルのシンボルは、名前からも分かるようにハヌマーンなのである。
ハヌマーン信仰には、愛と暴力が背中合わせで存在しているのが現実なのだ。
一見ぼーっとしたのび太系ながら、パワンがやるときはやる武闘派だったりするのも、あだ名だけでなく、彼自身もハヌマーンの二面性を併せ持つ人間だからだろう。

しかし、彼は基本的には愛の人であり、彼の中では無私の愛=寛容が暴力=不寛容を圧倒する。
「必ずシャヒーダーを親元に帰す」と、ハヌマーンへ誓いを立て、パキスタンに密入国すると、武闘派の顔は影を潜め、ひたすら愚直に彼女の親を探し続ける。
ここから、パワンが嘘をつけなかったことで、彼をインドのスパイと勘違いして追跡するパキスタンの治安機関と、彼の真意を知って取材ついでに手伝いを買って出るナワーズッディーン・シッディーキー演じるジャーナリストのナワーブが登場。
シャヒーダーの故郷を探しながらの逃避行はスリリングで、コミックリリーフとしてのナワーブの存在も効いており、彼の体現するメディアの功罪の描写もテーマを掘り下げる。
この旅を通じて、モスクに寝泊まりさせてもらったり、一般のパキスタン人たちと触れ合うことによって、パワンの意識も急速に変わってゆく。
もはや彼は国や宗教の軛を逃れ、一人の人間として無私の愛という行動原理に突き動かされている。
「ラーマーヤナ」で、ハヌマーンが最高神ヴィシュヌの権現であるラーマを助けたように、無垢なる存在であるシャヒーダーに献身することで、ごく平凡な男だったパワンは、人間の内面に眠っている神性を覚醒させ、自らが尊い存在となってゆくのだ。
インドとパキスタンの絡み合った憎しみの関係が、国境を越えてやってきた愛によって溶けてゆくプロセスは、ぶっちゃけ出来過ぎではあるのだけど、極上のストーリー・テリングのカタルシスを味わえる。

そしてパワンの尽力で親元にたどり着いたシャヒーダーが、両国の民衆が見守る中、ついに生まれて初めて声を出す時、彼女はなんと言ったのか!
一方で慈愛の、一方でヘイトの象徴に祭り上げられ、どちらにも転ぶ可能性があるハヌマーンをフィーチャーしながら、映画はここでボロボロになったパワンの姿に、より上位の存在を投影する。
危険を顧みず、無私の愛で自分を助けてくれたバジュランギおじさんは、彼女にとってもはや単なる人間を超えたスーパーヒーロー。
なるほど、一神教のイスラムに呼応するのはこれしかあるまい。
神は常に、人の中にいるのである。

おなじみミュージカルから、ジャッキー・チェンばりのアクションまでサービス精神満点。
159分の長尺も、あっという間に過ぎてゆく。
そして、小さな迷子を演じたハルシャーリー・マルホートラちゃんの天使っぷりったら!
本国では2015年公開と少し前の作品だが、劇場で観られて良かった。
少女とおじさんの逃避行、インド版「LOGAN ローガン」は溢れんばかりの愛に満ちた傑作だ!

今回は、インドを代表するビール「キングフィッシャー プレミアム」をチョイス。
インドのシリコンバレーとしても知られるバンガロールに本拠を置く、ユナイテッド・ブルワリーズの看板銘柄で、日本のインドレストランでも定番中の定番。
スッキリした喉越しと、適度なコク、強目の炭酸が特徴で、南国ビールらしいライトなテイスト。
とりあえずインド料理なら、スパイスたっぷりのベジタリアン料理でも、シャヒーダーが大好きな肉料理でもなんでも合う。

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