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グリーンブック・・・・・評価額1750円
2019年03月07日 (木) | 編集 |
友情のグランドツーリング。

1960年代、カーネギー・ホールに住む天才黒人ピアニストのドクター・シャーリーと、彼の運転手として雇われたイタリア系の強面用心棒、トニー・バレロンガのロードムービー。
人種差別と暴力が渦巻く“ディープ・サウス”へのツアーの旅は波乱万丈。
最初の頃お互いに偏見を抱いていた二人は、やがて固い絆で結ばれた生涯の友となってゆく。
いい意味でハリウッド映画の理想を体現する本作は、アカデミー賞で作品賞、助演男優賞、脚本賞の三冠獲得も納得の出来の良さ。
共同脚本を務めるニック・バレロンガは、名前で分かる通り後に俳優としても活躍するトニー・バレロンガの息子で、彼が父親から聞かされていた昔話がベース。
ハードな内容を魅力的キャラクターとユーモアで包み、誰にでも咀嚼しやすく届けるスタイルはフランス映画の「最強のふたり」にもよく似ている。
しかし、弟のボビーと組んで、おバカなコメディ映画で一世を風靡したピーター・ファレリーが、オスカーをかっさらう日が来るとは。
多分20年前の本人に伝えても信じないだろうな(笑
※核心部分に触れています。
 
1962年。
ニューヨークのナイトクラブで用心棒をしているトニー・“リップ”・バレロンガ(ヴィゴ・モーテンセン)は、職場の改装期間中、著名な黒人ピアニストのドクター・“ドン”・シャーリー(マハーシャラ・アリ)のツアー運転手の仕事に就くことになる。
ドンは幾つもの学位を持ち、ホワイトハウスでも演奏した天才。
カーネギー・ホールに豪華な部屋を持ち、王の様に暮らしている。
しかし、なぜかツアーの目的地は、黒人差別を合法化したジム・クロウ法が施行されている南部諸州だという。
もともと黒人への偏見を持っていたリップだったが、ドンの実際の演奏を見て感動。
少しずつ彼へのリスペクトを持つ様になるのだが、旅の途中にドンに対するあまりにも理不尽な扱いを経験し、彼自身も変わり始める。
そんなある夜、リップの元に警察から電話がかかってきて、彼が駆けつけると、そこには手錠を嵌められたドンの姿があった・・・

タイトルの「グリーンブック」とは、60年代当時に発行されていた、黒人市民が南部諸州を旅行するためのガイドブックのこと。
これには黒人の泊まれるホテルなどの情報が詳しく載っていて、二人はグリーンブックを頼りになれない“ディープ・サウス”を彷徨う。

20世紀を代表するジャズ歌手、ビリー・ホリディの不朽の名作群の中に「奇妙な果実」がある。
この曲は、リンチされ木から吊るされた黒人の死体の写真を見て、大きな衝撃を受けたユダヤ人のエイベル・ミーアポルによって作曲され、のちにホリディが歌唱し代表曲の一つとなった。
ミーアポルのインスパイアの元となった二人の黒人青年、トーマス・シップとエイブラハム・スミスが白人の群衆に殺されたのは、1930年のインディアナ州マリオンでのこと。
インディアナ州は南北戦争では北軍の側で、地理的にも「南部」ではない。
にも関わらず事件は起き、二人を殺した白人は誰一人として起訴されなかった。

北部ですらこれなのだから、南部の状況は言わずもがな。
公民権法が成立する以前、人種隔離を目的とするジム・クロウ法が制定されていた南部諸州では黒人たちは実質法の正義の対象外に置かれた。
50年代から公民権運動が盛り上がると、反発する白人の側の暴力も激化し、多くの活動家が白人至上主義者に殺害されたが、「血の日曜日」事件などに代表される警察による暴力も多発。
オフィシャルにもアンオフィシャルにも、様々な差別と暴力がまかり通っていた時代であり、南部は黒人が自由に安全に移動できる土地ではなかった。
アラン・パーカー監督が「ミシシッピ・バーニング」として映画化した、公民権運動の活動家三人が、警察官を含む白人至上主義者たちによって殺害された事件が起こったのは、本作の2年後のことなのだ。

イタリア系で粗野だが気のいいリップと、あまりにも天才過ぎるが故孤高の存在となってしまい、自分の殻に閉じこもるドン。
全てが対照的な二人は、最初お互いがアンチテーゼとなり対抗する関係。
リップとドンの南部ツアーは、実際には一年半の長きに渡ったそうだが、映画では二ヶ月間の出来事にまとめられている。
映画の冒頭、ナイトクラブで暴れた客を鉄拳制裁したリップは、同時に客の帽子を店がなくしたフリをして、あとから見つけたと言って恩を売る。
腕っぷしが強く、ちょいセコイが世知辛い社会を生き抜く処世術も身につけているという、彼の人となりを端的に描き出すオープニング。
そんなリップも、家に出入りする黒人の作業員が使ったコップを、そのままゴミ箱に捨てる程度には偏見を持っているのだ。

一方、ドンはといえば、音楽の殿堂カーネギー・ホールに自分専用の住居を持ち、世界各国の調度品に囲まれて生活していて、客を迎える時は“王座”から謁見を受ける。
9歳で母を亡くした後、ソ連に渡りレニングラード音楽院で学び、帰国後はシカゴ大学で心理学の学位をとり、心理学者として働いていた時期もあるという。
当時の合衆国の黒人市民の置かれていた状況を考えると、まさに天才ゆえに特別な人生を歩んだ男。
しかも、彼には映画の中盤に明かされる、絶対に周りには知られたくない秘密がある。

ここまで観て、私はドンのキャラクターに、昨年大ヒットした「ボヘミアン・ラプソディ」に描かれたフレディ・マーキュリーに似たものを感じた。
共に音楽の天才で、同性愛者。
フレディはインド系ゾロアスター教徒として、英国植民地だったアフリカ、ザンジバルで生まれたにも関わらず、自らの出自を嫌い英国人“フレディ・マーキュリー”として生きるという、自己同一性の混乱を抱えていた。
ドンもまた、ジャマイカ移民の子としてアメリカで生まれながら、同胞の文化や生活をほとんど知らずに育ち、白人の中に入れば当然黒人扱い、かといって黒人の中でも馴染めず、「自分は一体何者なのか?」という問いに常に葛藤している。
彼がわざわざ危険で儲からない南部に足を踏み入れるのも、自分のアイデンティティに向き合うためなのだ。

かように異なる境遇で生きてきたリップとドンだが、大雑把な性格のリップに引っ張られる様にしてドンも次第に心を開いてゆき、いつしか絶妙なハーモニーを奏で始める。
北部の著名人であるドンの音楽には喝采するが、ステージを降りると偏見をむき出しにする白人たちを見て、リップは差別する心の醜さを思い知る。
そしてドンもまた、自らの心のうちを全て吐露できる友を得て、内面の武装を解いて、内向きの感情を外に向けて開いてゆく。
秋からクリスマスまでの長い旅を通して、雇い主と運転手の関係はいつしか友情へと変わり、リップはドンに対する寛容と理解を、ドンはリップに信頼と勇気を得て、共により良き人間へと成長してゆくのである。
リップが黒人の置かれた状況に割と素直に同情するのは、遅れてきた移民であり、アメリカの支配層であるゲルマン系プロテスタントからは、常に下に見られるイタリア系という出自も影響しているのかもしれない。

本作がアカデミー賞の作品賞を受賞したことに対しては、批判もある様だが、私はやはり今年のラインナップの中で作品賞に相応しかったのは本作だと思う。
とんがった所はないが、嫌味もクセもなく、最大公約数に訴求する普遍性と今の時代にも響くテーマ性
優等生っぷりが物足りないということも言えるだろうが、作品賞って学校の卒業式でいえば学年の総代挨拶みたいなもので、やはり優等生が一番相応しいのではなかろうか。
ピーター・ファレリーの作家性の変化も、ユーモアのセンスはそのままに、キャラクターの丁寧な掘り下げなど、これはパワーダウンではなく映画作家としての円熟と受け止めたい。
ヴィゴ・モーテンセンと、実質的には主人公で助演ではなく主演男優賞でもいいんじゃないかと思ったマーハシャラ・アリのコンビには、誰もがどっぷり感情移入したはず。
だからこそ、雪の中家路を急ぐ二人がパトカーに止められるシーンで、「北部に帰ってきた」ことに気づき、我々もまた二人と共に安堵した訳で。
全てが“クリスマスの奇跡”に帰結するエンディングを含めて、これぞハリウッド映画だ。

映画の中で、ドンがしばしば深酒するのも、内的な葛藤ゆえなんだろうけど、彼は一日一本の「カティサーク」を所望するので、今回はこれをチョイス。
1923年にロンドンのワイン商ベリー・ブラザーズ&ラッドが発売したブレンデッド・スコッチ・ウィスキーで、カティーサークの名は19世紀に活躍した高速帆船から取られている。
元々アメリカ市場向けに作られた商品で、比較的ライト&スムーズな味わいが特徴。
飲みやすいので、結構いけてしまうのだが、流石に一日一本は飲み過ぎ。

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