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小さな恋のうた・・・・・評価額1700円
2019年06月06日 (木) | 編集 |
うた声が、国境を越えてゆく。

沖縄出身の人気バンド、モンパチことMONGOL800の代表作、「小さな恋のうた」をモチーフにした、青春音楽映画。
才能溢れる沖縄の高校生バンドの物語。
オリジナル楽曲を作り、プロからも声がかかるほどの実力を持つ彼らに、ある日突然悲劇が襲う。
一度は消滅したバンドが、残された音楽に背中を押され、再び歩き始める物語は青春映画の王道中の王道。
しかし、これはただキラキラした青春の輝きを描くだけの映画ではない。

本作の白眉は、同じ島の中に日本とアメリカ、二つの国がある沖縄の特殊な環境を生かし切った、鋭い社会性にある。
バンドメンバーに、佐野勇斗、森永悠希、山田杏奈、眞栄田郷敦、鈴木仁。
米軍基地のフェンスの向こうにいる“友だち”をトミコ クレアが演じる。
第81回アカデミー短編アニメーション映画賞に輝いた「つみきのいえ」の平田研也が脚本、橋本光二郎が監督を務め、キャリアベストの仕上がりとなった。
※映画の前半にちょっとした仕掛けがあるので、観る前は読まないことをお勧めします。

沖縄の小さな町の高校では、あるバンドが人気を集めていた。
ボーカルの真栄城亮多(佐野勇斗)とギターの譜久村慎司(眞栄田郷敦)、ドラムの池原航太郎(森永悠希)、ベースの新里大輝(鈴木仁)。
カバーではなく、オリジナル楽曲で学生たちを熱狂させる彼らの実力は、東京の音楽レーベルの耳にもとまり、プロデビューが決まる。
ところが、喜びもつかの間。
バンドの作曲を手がけていた慎司が轢き逃げ事故に遭い、突然他界してしまう。
加害車両が米軍基地所属のYナンバーだったという証言が出るも、捜査も遅々として進まず、バンドは解散状態に。
そんなある日、慎司の妹の舞(山田杏奈)が兄のパソコンから未完成楽曲を見つけ、亮多たちにバンドの再結成を持ちかける。
大輝が既に他のバンドに加入してしまったことから、ギタリストとして舞が加わったスリーピースバンドとして再始動。
彼らには、慎司の最後の曲をどうしても届けたい人がいた。
それは、米軍基地のフェンスの向こうにいる、ひとりの少女・・・


もう30年以上前になるだろうか、沖縄を初めて訪れた時、強いインパクトを受けた風景がある。
道路をバイクで走っていると、突然右側の視界が開けた。
そこは沖縄の米軍基地で、基地に勤務する軍人の家族が住む住宅地だったのだ。
道の左側はマッチ箱のような建物が密集する日本なのだが、右側は広々とした芝生の庭を持つ大きな家が余裕をもって建てられていて、まるでハリウッド映画に出てくるアメリカのサバーブ。
小さな島の中に、フェンス一枚を隔てて、全く異なる国の風景が同居していた。
那覇の国際通りの映画館も、当時の日本本土で見られた様な絵看板ではなく、アメリカの映画館でおなじみの文字をはめ込むタイプで、戦後30年近くアメリカの施政下にあり、日本復帰後もアメリカ軍施設が集中する状況を実感した。

本作が描くのは、本土とは違う現実の中を生きる沖縄の若者たちの物語であり、青春音楽映画としては相当な異色作である。
しかし、モチーフとなった歌を作ったモンパチは沖縄のバンドだが、主要な役を演じる若い俳優たちに沖縄出身者はいない。
沖縄を舞台とした映画ではおなじみの、琉球語にルーツを持つ独特の方言もほとんど話されない。
それどころか、遠浅の澄んだ海も、どこまでも青い空も、歴史を伝えるグスクなどの史跡、沖縄料理などのローカル要素が全くフィーチャーされないのはなぜか。
それは本土の観客にとって、こういった沖縄ならではの風景が「浮足立った非日常」を感じさせてしまうからだろう。
南国のシーパラダイス、それは確かに沖縄の一面で、観客が求めるものではあるのだが、本作の作り手たちは、あくまでも映画的な現実感に拘った。
だからこそ、一見すると日本中のどこにでもありそうな高校生たちの青春は、誰もがリアリティを感じられるもので、唯一の違いがあまりにも大きな基地の存在なのだ。

沖縄の基地問題を語るとき、陥りがちな賛成反対の単純な善悪二元論は避けられている。
成功目前だった若者たちの音楽活動は、慎司が轢き逃げ事件で亡くなったことで霧散する。
目撃された車が基地所属を意味するYナンバーだったことから、沖縄県警の捜査はなかなか進まず、事件に憤った人々の反基地プロテストも始まる。
一方で、亡くなった慎司は基地に住むアメリカ人の少女リサと、恋と言うにはピュア過ぎる、フェンス越しの交流を深めていっていたことも明らかになる。
慎司を殺したかもしれない者がいるのも基地、慎司の大切な人がいるもの基地。
大人たちのおかれている状況も、基本的には同じ。
慎司の父親は基地で仕事をしていて、息子を殺した犯人がいるかもしれない職場で働き続けることに葛藤している。
亮多の母親は米兵向けのバーを経営しているが、何か事件が起こるたびに基地の軍人たちに外出禁止令が出て、店は閑古鳥がないてしまう。
基地によって傷つけられる人も、基地によって生活している人もいる。

この映画が秀逸なのは、視線をフェンスの向こうの基地に暮らす、米国の人々にも向けていることだ。
沖縄の基地問題を扱った作品は多いが、単純なアイコンとなりがちな軍人ではなく、その家族にフォーカスした作品は初めて観たかもしれない。
当たり前だが、米軍基地の敷地内に住んでいるのは軍人だけではなく、ごく普通の人々も暮らしていることは、忘れられがち。
リサの父親はオスプレイのパイロットであり、彼女は沖縄の人々の米軍への反発も知っているし、何よりも彼女自身も慎司を失った被害者だ。
同世代の沖縄の若者と仲良くなりたくても、基地にプロテストする沖縄の人々とのもめごとを避けるために、フェンスのこちら側に来ることもできないでいる。
立場は違えど、否応なしに基地とともに生き、分断と共生を内面に抱えた人々がここには描かれているのだ。
轢き逃げ犯が実際に基地の人間だったのか、結局はっきりしないのも、白黒で割り切れない現実を反映する。

そして、一度は消滅したバンドが、再生するためのエネルギーとなるのも、フェンスで隔てられたリサに、慎司が伝えられなかった想いを改めて届けたいという願い。
それはそのまま、歴史的に複雑な葛藤が折り重なる、沖縄の未来に対する希望とオーバーラップする。

表題曲の「小さな恋のうた」はじめ、「DON'T WORRY BE HAPPY」「あなたに」「SAYONARA DOLL」などモンパチの名曲の歌詞が物語に気持ちいいくらいピタリとはまり、若者たちが歌い上げるピュアな友情と仄かな恋の想いは、軽々と国境のフェンスを越えてゆく。
基地の問題は色々あるけれど、物理的な分断は心できっと超えられる。
理想主義ではあるが、これぞ青春の煌めき。
本土で本作を観る若者にこそ、何かを感じてほしいというのが、本作の真の願いだろう。
「ちはやふる」チームの佐野勇斗と森永悠希、兄の遺志を受け継ぐ山田杏奈ら、若手キャストの大健闘が光る。
音楽映画としても聴き応え、カタルシスも十分で、必見の快作だ。

今回は、「サザン・スパークル」をチョイス。
サザンカンフォート30ml、パイナップル・ジュース45ml、レモン・ジュース10mlをシェイクし、氷を入れたグラスに注ぐ。
最後にジンジャー・エールを適量満たして完成。
サザンカンフォートのピーチ、パイナップル、レモンの三種のフルーツがハーモニーを作り出し、ジンジャーがすっきりとまとめ上げる。
まるで本作の高校生バンドのような瑞々しさだ。

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