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ショートレビュー「長いお別れ・・・・・評価額1650円」
2019年06月22日 (土) | 編集 |
父が本当に「帰りたかった」ところとは。

山崎努演じる、認知症にかかった父親と、家族との7年間に渡る「長いお別れ」の物語。
これは、高い評価を受けた中野量太監督の商業映画デビュー作、「湯を沸かすほどの熱い愛」の対となるような作品だ。
不治の病に冒され、余命僅かの肝っ玉母ちゃんが、ダメダメな家族を立ち直らせるあの映画は、いわば壊れかけの家族を、強火で一気に修復する短期決戦。
対してこちらは、弱火でトロトロと長時間かけて家族の形がメタモルフォーゼしてゆく。
原作は、認知症と診断された父を見送った体験を基にした、中島京子の同名小説で、中野量太と大野敏哉が脚色している。

ずっと夫を介護する妻の松原智恵子と、長女の竹内結子、次女の蒼井優。
三人の年齢も立場も違う女性の葛藤が、父の認知症を鏡にリアリティたっぷりに浮かび上がるという仕掛け。
長女の麻里は、研究者の夫と一人息子の崇と共に、遠くアメリカに暮らしている。
英語が不得手で、周囲とコミュニケーションを取れずに孤立しているのだが、家族でも一定の距離を置きたがる性格の夫は、そんな妻の悩みには無関心。
米国での生活に馴染めない彼女にとって、たとえ父の症状が進行していたとしても、たまに帰る実家だけが安心できる「家」なのである。
一方、次女の芙美は、料理好きが高じて起業を志すも、いつも何かが空回りして、夢にも恋愛にも失敗を繰り返す。
地理的には実家の近くに暮らしていても、彼女の心にはそう簡単には戻れない距離がある。

中野量太は、父の認知症が分かった2007年から2009年、3.11のあった20011年、2013年と、2年おきに丁寧に家族の姿を追ってゆく。
たまに親戚の子供に会ったりすると、急に大きくなっていてビックリすることがあるが、2年のブランクがあるからこそ、社会も家族も少しの変化がくっきり浮かび上がる。
3.11の後に、セシウムの雨を怖がったりするのも、「あー、そう言えばそんなこともあった」と思い出した。
2007年にはまだ軽度だった認知症も、2009年には友人の死が分からなくなり、2011年にはもはや言葉が出ず、無意識に万引きをする様になってしまう。
教師で漢字の達人だった父は、少しずつ、ゆっくりだが確実に壊れてゆき、そんな父の症状の悪化が図らずも娘たちを呼び戻す。

麻里は7年経っても英語が苦手(7年もいて?と思う人もいるだろうが、こういう人は現実に珍しくない)で、夫との関係は少しベターになるが、異国で成長する息子は、だんだんと知らない人になってゆく。
妻は気丈に夫を介護し続けるが自らも病を患い、芙美が介護を肩代わりするものの、そのハードさに母の父に対する深い愛情を改めて知る。
何度か描写されるグルリと円を描くカメラワークが、時の流れと、巡り巡って同じ所に戻ってくる家族の絆を象徴する。
竹内結子や蒼井優も好演だが、繊細な演技で徐々に変わってゆく父を表現した山崎努、愚直なくらいにストレートに家族を愛する妻を演じた松原智恵子が素晴らしい。
二人ともお茶目なところが、キャラクター造形のキモ。

父がずっと言い続ける、「帰りたい」という言葉の本当の意味するところに涙。
人には誰もが「帰りたい」時と場所があり、それはその人の辿ってきた人生によって異なるのだなあ。
もし自分が70歳で認知症になったとして、帰りたい場所はあるのだろうか。
そんなことを考えてしまって、独り者としてはちょっと悲しくなった。
努父さんは、幸せものだと思う。
圧倒的な熱量で一気に仕上がった前作の熱血家族とは対照的に、こちらは少し煮崩れしたりしているけれど、冷えても美味しい非常に味わい深い家族。
アメリカにいる崇と父とのパソコン越しの言葉によらない関係が、いい隠し味になっていた。

話は変わるが、現実の蒼井優の結婚会見が、映画の中でなかなか幸せになれない、次女の話の続きに思えてちょっとホッコリしたよ。
今回は山ちゃんに敬意を評して、山形は亀の井酒造の「くどき上手 純米吟醸」をチョイス。
淡麗で、すっきりとした辛さと上品な甘さを両方感じるバランスの良さ。
フワリとした吟醸香が心地よく、食欲が刺激される。
口説く時にはベストチョイスなお酒だ。

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