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ショートレビュー「幸福路のチー・・・・・評価額1650円」
2019年11月28日 (木) | 編集 |
本当の幸せはどこにある?

これはまことに愛すべき、小さな映画だ。
台湾出身で、今は結婚してアメリカに暮らすリン・スー・チーの元へ、祖母の死の知らせが入り、色々と人生行き詰っているチーは、久々に帰還した故郷で「幸せ」について考え始める。
監督・脚本はソン・シンイン。
長編アニメーション映画はこれが初めてなのだが、京都大学に留学したのちに米国に渡り、新聞記者や脚本家など様々な職種を経験し、日本での経験を綴った小説まで出しているという才人。
米国の大学に在学中、イラン出身のマルジャン・サトラピの半自伝的作品で、カンヌ映画祭審査員賞を獲得した「ベルセポリス」を鑑賞して本作のインスピレーションを得たという。
2013年に本作のもととなる13分の短編映画「幸福路上 ON HAPPINESS ROAD」を制作し、台北金馬影展のプロモーションコンペで大賞を受賞。
この時の賞金およそ300万円をもとに長編化を始めるも、政治的な背景が含まれることから資金がなかなか集まらず、4年もの歳月を費やして本作を完成させた。

映画は、大人になった現在のチーと、台北に実在する「幸福路」へ家族で引っ越してきてからの半生が、時に交錯しつつ並行して描かれる。
彼女が生まれたのは、1975年4月5日。
この日、大日本帝国の敗亡後、30年間に渡って台湾を支配した「中華民国」の蒋介石総統が死去。
本当の意味での台湾の戦後と共に、チーの人生が始まる。
少女の空想力たっぷり、変幻自在の手描きアニメーション表現が素晴らしい。
丁寧に表現されるキャラクターは、ちょっと「ちびまる子ちゃん」を思わせるノスタルジックでとっつき易いデザイン。
パステル画のようなポップな背景タッチとのマッチングもよく、ビジュアルからもファンタジックで暖かいムードが醸し出されている。

チーの幼少期から、現在に至る激動の時代には、様々なことが起こる。
ソン・シンイン監督の実際の誕生日は1974年なのだが、あえて蒋介石の死と合わせたことで、台湾現代史のクロニクルが、彼女の成長とシンクロしてゆくのが面白い。
幼いころ、金髪の少女チャン・ベティと友だちになった思い出、両親の期待をプレッシャーに挑んだ受験戦争。
大学に入ると学生運動にのめり込み、就職して記者となり、やがて人生に疲れ切って、移民していた従兄のウェンを頼り、アメリカへ。
そして長い歳月を経て帰ってきた故郷は、記憶の中にある街とは大きく変わっていた。
国の歴史というマクロは、ミクロの視点で見れば無数の個人史が密接に絡み合ったもので、国も街も人も変わらないものは一つもない。
現在から過去を俯瞰することで、「あの頃思い描いた、なりたい自分になれただろうか?」と、「今」の意味が問われる。

物語のアクセントになっているのが、随所に顔を出すスピリチュアルな要素。
チーの祖母は少数民族のアミ族で、呪術師でもある。
人生のメンターとして、死してなおチーが精神的な頼りにする祖母の存在が、台湾の持つ豊かな精神文化を伝えてくる。

どんなに一生懸命頑張っても人生は思い通りにはならず、誰でもチーのように思い悩んで過去を振り返ることがあるだろう。
そんな時に心の支えになるのが、たぶん「家」なんだと思う。
この場合の「家」は単なる実家というよりは、自分の根っこであり、幸せの記憶。
例えば「この世界の片隅に」の、呉の山間にある北條さんの家、「エセルとアーネスト」では、庭に洋梨の木が枝を広げるロンドンの家。
誰もが「帰りたい」と思える心の故郷だ。
葛藤を抱えて再び幸福路に立ったチーは、自らの幸せの記憶に背中を押される。
ソン・シンイン監督が、スクリーンの中のもう一人の自分と向き合った、リリカルな心象劇だ。

今回は台湾を代表するビール「台灣啤酒 金牌(台湾ビール 金牌)」をチョイス。
日本統治時代の、1919年に創業した高砂麦酒が前身の老舗。
同社の「經典( クラッシック)」が、高砂麦酒の製法を受け継ぎ、日本のビールに近い印象なのに対し、2003年に発売されたラガービールの「金牌」は、南国らしい軽い味わいだ。
 

内容とは関係ないけど、物語の中で象徴的に使われているビンロウ、昔なにも知らずに屋台で買って噛んでみたことがあるのだけど、むっちゃ苦かった。

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