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2019年12月29日 (日) | 編集 |
2010年代最後の年、映画を特徴付けたのは二つの「A」、即ちアメコミとアニメーションだった。
アメコミ映画では、集大成の「アベンジャーズ /エンドゲーム」を放ったマーベルはもちろん、昨年まではライバルに水を開けられていたDCも驚くべき傑作を連発。
もう一つの「A」に関しては日米という馴染みのアニメーション大国だけでなく、様々な国から手法的にも内容的にもバラエティに富んだ秀作が揃った。
年の最後に、「この世界の(さらにいくつもの)片隅に」という、ディケイドを代表する逸品が現れたのも印象深い。
一方で、多くの才能あるクリエイターが理不尽な暴力で攻撃された、京都アニメーションの放火殺人事件は、世界に衝撃を与える痛ましい記憶となってしまった。
改めて、犠牲者のご冥福と、心と体に傷を負われた方々の回復を祈りたい。
それでは、今年の「忘れられない映画たち」をブログでの紹介順に。
例によって、評価額の高さや作品の完成度は関係なく、あくまでも12月末の時点での“忘れられない度”が基準。
「バジュランギおじさんと、小さな迷子」パキスタンから来た小さな迷子を故郷へと帰すため、ハヌマーン神に誓いを立てたインド人のバジュランギおじさんが奮闘する。インドとパキスタン、二つの国の絡み合った憎しみの関係が、国境を越えてやってきた愛によって溶けてゆくプロセスは感動的だ。
「サスペリア」ルカ・グァダニーノ監督の最新作は、背徳感全開の挑戦的な怪作。伝説的な作品のリメイクという体裁をとりながら、20世紀のドイツ史をモチーフにした、驚くべき暗喩劇に仕上げている。ここで我々は、常に人間の罪と悲しみと共にあり、残酷で慈悲深き真の魔女の誕生譚を目撃するのである。
「バーニング 劇場版」巨匠イ・チャンドン監督が、村上春樹の「納屋を焼く」を映画化した作品。謎の青年ベンの言葉「時々ビニールハウスを燃やす」の意味とは。原作に忠実な95分のテレビドラマ版と、これを内包する148分の劇場版が存在するユニークなプロジェクト。見えてくるのは韓国現代社会のカリカチュアだ。
「アクアマン」一昨年の「ジャスティス・リーグ」でデビューした、海のヒーローの単体作。破天荒な内容とジェームズ・ワンの演出の相性が抜群で、ムチャクチャ楽しい娯楽大作に仕上がっている。神話の再構築である本作は、鉄板の安定感で調理され、刺激的なスパイスで味付けされた“ザ・貴種流離譚”。DCEUのベストだ。
「ファースト・マン」デミアン・チャゼルの新境地。人類を未知の世界へと導いた、アポロ11号のニール・アームストロング船長とは何者だったのか。アメリカの世紀の栄光の神話に、“英雄”として閉じ込められていたアームストロングを、心に深い悲しみを抱えた一人の父親、一人の夫、一人の人間として解き放った作品だ。
「あの日のオルガン」東京に空襲の脅威が迫る中、若い保母たちが多くの幼い子供たちを連れて農村に避難し、“疎開保育園”を開設したという実話ベースの物語。しかしそれでも、戦争の暴力は彼女たちを脅かしてゆく。「どこまで逃げても、戦争が追いかけてくる」恐ろしさが、実感を持って描かれている。
「スパイダーマン:スパイダーバース」長年にわたるディズニー・ピクサーの牙城を崩し、アカデミー長編アニメーション映画賞を受賞した傑作。並行宇宙から現れた個性豊かな五人のスパイダーマンの戦いは、まるでコミックが動き出したかのような奇抜なビジュアルで描かれ、驚くべき未見性を生み出している。
「グリーンブック」人種差別が公然のものだった50年代。危険な“デイープ・サウス”へのツアーに向かう天才黒人ピアニストと、彼の運転手として雇われたイタリア系の強面用心棒の、友情のグランドツーリングを描くロードムービー。最大公約数に訴求する普遍性と今の時代にも響くテーマ性は、アカデミー作品賞に相応しい。
「ブラック・クランズマン」白人至上主義団体のKKKを摘発するため、黒人刑事と白人刑事のコンビが実行した、まさかの潜入捜査を描く実話ベースの作品。ハリウッドの映画産業に対するメタ的な視点も含めて、スパイク・リーらしい熱い怒りを秘めた寓話。優等生的な「グリーンブック」のアンチテーゼとしても面白い。
「バイス」ブッシュ政権の副大統領として知られる、ディック・チェイニーの半生を描いた批判的ブラックコメディ。その日暮らしのダメ人間が、いかにして“影の大統領”と呼ばれるほどの権力者となり得たのか。まだ存命中の政財界の大物を、ここまで辛辣にこき下ろしちゃうのが、アメリカという国の面白いところだ。
「アベンジャーズ/エンドゲーム」マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)の12年間、22本目の総決算。ここには映画で描ける人間の感情のすべてがある。MCUは前日譚にあたる「キャプテン・マーベル」も本作の後日譚にあたる「スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム」も素晴らしい仕上がりだった。
「響け!ユーフォニアム〜誓いのフィナーレ〜」京都アニメーションの青春音楽群像劇、シリーズ完結編に相応しい見事な仕上がり。キャラクターと時系列を共有するスピンオフ「リズと青い鳥」との対比も面白い。7月に起こった恐ろしい事件では、本作のスタッフも多くが犠牲となってしまったが、この素晴らしい映画が彼らが生きた何よりの証だ。
「ゴジラ キング・オブ・モンスターズ」レジェゴジ第二弾は、大迫力の怪獣プロレス。ゴジラだけでなく、ギドラ、ラドン、モスラの東宝4大怪獣が登場し、惜しげも無く大バトルを展開する。怪獣の足元からの人間目線のショットは凄まじい迫力で、まったく生きた心地がせず、荒ぶる神たちにひれ伏して祈りたくなるほど。
「小さな恋のうた」沖縄出身の人気バンド、MONGOL800の代表作、「小さな恋のうた」をモチーフにした青春音楽映画。あえて沖縄的な要素を封印することで、米軍基地のある生活を普遍的な日常へと落とし込んだ。基地のフェンスをこえる歌声は、複雑な葛藤が折り重なる沖縄の未来に対する希望とオーバーラップする。
「海獣の子供」我々はどこから来て、どこへ向かっているのか。海洋の神秘の世界を舞台にした、五十嵐大介の同名傑作漫画のアニメーション映画化。少年少女の、リリカルな夏休みジュブナイルから始まる物語は、生と死が混じり合う海と陸の境界を超えて、地球の深層に隠されたこの宇宙の秘密を描き出す。
「トイ・ストーリー4」おもちゃとゴミの違いとは?前作までは、基本的におもちゃと持ち主の子どもの関係で物語が語られていたが、本作で問われるのはおもちゃ自身の生き方の問題。いわば人間社会の多様性を、いくつものおもちゃ生で比喩した作品で、劇中繰り返される「内なる声を聞け」という台詞が全てだ。
「天気の子」前作の大ヒットのプレッシャーもなんのその。作家性全開、やりたい放題の大怪作だ。少女にかわって少年が疾走する本作の展開は、時間巻き戻しという、ある意味究極の禁じ手を使った前作よりも強引。新海誠の作品世界では“アイ”に勝る価値のあるものは無く、そのためならどんなことでも許される。
「アルキメデスの大戦」戦艦大和はなんのために作られたのか。当時の軍備を大規模な公共事業として経済の視点から捉え、数字から読み解くと同時に、遠い未来までも視野に入れた、ある種の“日本論”となっている非常にユニークな作品だ。数式では定義しきれないのが、人間の歴史。大和建造の、本当の目的が語られる瞬間は、思わず背筋がゾーッ。
「存在のない子供たち」レバノンの貧民街に生まれ育った12歳の少年が、「勝手に僕を産んだ罪」で両親を訴える。両親は二級市民で、少年は教育も受けられず、自分の年齢すら知らない。社会のセーフティーネットから抜け落ちた、“インビジブル・ピープル”としての誕生は、はたして祝いなのか、それとも呪いなのか。
「エイス・グレード 世界でいちばんクールな私へ」ミドルスクールの最終学年、「エイス・グレード(8年生)」の卒業までの最後の2週間を描く瑞々しい青春映画。内向的でネット中毒気味の少女の、自分を知って欲しい、見て欲しいという承認欲求は空回り。娘が心配でたまらないお父さんとの、愛おしくもイタタな日常の物語。
「見えない目撃者」視力を失った元女性警察官が、猟奇殺人犯と対決する。韓国映画のリメイクだが、オリジナル韓国版も中国リメイク版も軽々と超え、ぶっちゃけはるかに面白い。クライマックスで拉致された少女を守るため、見えない目で犯人に立ちはだかる吉岡里帆は、ダーティーハリー並みのカッコ良さ。
「ジョーカー」DCを代表するスーパーヴィラン誕生譚。しかし、本作の世界にヒーローは登場せず、超格差社会の中で居場所を失った青年が、いかにして心を病んで世間そのものを憎悪する新たな人格“ジョーカー”となったのかを描く。社会格差の広がりは、昨今の映画を語る上での重要なキーワードだが、今年の世相に一番フィットした作品と言えるかも知れない。
「空の青さを知る人よ」痛くて切なくて優しい、超平和バスターズの三作目。幼い頃に親を亡くし、13歳年上の姉と暮らす高校生の主人公の元に、姉の元カレがなぜか13年前の姿で現れる。超自然的なシチュエーションを通し、三人はお互いの想いを知って成長してゆく。昭和世代としては、懐かしの「ガンダーラ」が重要なモチーフ曲になっているのが嬉しい。
「エセルとアーネスト ふたりの物語」レイモンド・ブリッグスが、最愛の両親のために作った、愛情たっぷりの“記憶の器”。1928年にはじまり、40年以上にわたる結婚生活が描かれる。時代は移り変わっても、二人の間にはゆったりとした時間が流れ、対照的に英国の社会は急速に変貌してゆく。個人史と社会史の、流れる速度の違いが面白い。
「IT/イット THE END “それ”が見えたら、終わり。」前作から27 年後、大人になったルーザーズたちが、再び現れたペニー・ワイズと対決する完結編。大人編ならではの、酸いも甘いも嚙み分けたビターなテイストも加わり、ギミック満載のホラーと見応えある人間ドラマがバランスした、再びの快作となった。
「アイリッシュマン」本来劇場用ではなく、NETFLIXオリジナル作品として作られた実に210分の大長編。マーティン・スコセッシにとっては、アメリカ現代史の裏側を描く、ある意味で集大成的な作品となった。必ずしも劇場向きの作品ではないと思うが、配信と割り切った作りが予想外の面白さに繋がっていることが、映画の新しい可能性を感じさせる。
「幸福路のチー」蒋介石が死んだ日に生まれ、台北の幸福路で育ったチーの“幸せ”を探す物語。幼い頃の思い出、必死の受験勉強、大学で学生運動にのめり込み、就職して記者となり、やがて人生に疲れ切ってアメリカへ。この作品も、戦後の台湾現代史のクロニクルが、主人公の個人史とシンクロしてゆくのがとても興味深い。
「ヒックとドラゴン 聖地への冒険」三部作、有終の美。似た者同士の落ちこぼれ少年とぼっちドラゴンは、お互いに影響し合って大人になり、恋の季節の到来とともに責任を伴う居場所を見つける。愛する存在を本当に守りたいと思った時、とるべきチョイスは何か。ヒックとトゥースレスの成長物語として、これ以上の物語のおとし方はないだろう。
「この世界の(さらにいくつもの)片隅に」10年代の最後に登場した、このディケイドのベスト・オブ・ベスト。オリジナルを内包しながら、40分以上伸びた尺の分、主人公のすずさんの内面はディープに掘り下げられ、彼女の目を通した“さらにいくつもの”世界の片隅に生きる人々の物語が紡がれる。もはやそのバリューはプライスレス。永久保存すべき国宝級の名作である。
以上29本。
今年は実話ベースの歴史ドラマに秀作が多く、第二次世界大戦末期にドイツで起こった事件を元にした「ちいさな独裁者」、関東大震災後に帝国を揺るがした恋人たちを描く「金子文子と朴烈」、アン女王時代の英国を舞台としたヨルゴス・ランティモスの大怪作「女王陛下のお気に入り」、記憶に新しいムンバイ同時多発テロを描いた「ホテル・ムンバイ」などが素晴らしかった。
実話ではないが、毛沢東時代への愛憎が入り混じる「芳華-Youth-」や、冷戦期のポーランドを舞台とした「COLD WAR あの歌、2つの心」も心に残る。
そして、年の瀬に83歳の巨匠ケン・ローチから届けられた「家族を想う時」は、「存在のない子供たち」や「ジョーカー」でもモチーフとなった格差の問題が、もはや汎世界的イシューであることを端的に示している。
何気に「IT/イット」以外のホラー映画も豊作で、色々ツッコミどころは多いものの、ジョーダン・ピールの「アス」は、格差をモチーフにしたユニークな作品だったし、「ハッピー・デス・デイ/ハッピー・デス・デイ 2U」二部作の色々振り切った主人公は、今年の私的ベストキャラクター(笑
それでは皆さま、良いお年を。
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アメコミ映画では、集大成の「アベンジャーズ /エンドゲーム」を放ったマーベルはもちろん、昨年まではライバルに水を開けられていたDCも驚くべき傑作を連発。
もう一つの「A」に関しては日米という馴染みのアニメーション大国だけでなく、様々な国から手法的にも内容的にもバラエティに富んだ秀作が揃った。
年の最後に、「この世界の(さらにいくつもの)片隅に」という、ディケイドを代表する逸品が現れたのも印象深い。
一方で、多くの才能あるクリエイターが理不尽な暴力で攻撃された、京都アニメーションの放火殺人事件は、世界に衝撃を与える痛ましい記憶となってしまった。
改めて、犠牲者のご冥福と、心と体に傷を負われた方々の回復を祈りたい。
それでは、今年の「忘れられない映画たち」をブログでの紹介順に。
例によって、評価額の高さや作品の完成度は関係なく、あくまでも12月末の時点での“忘れられない度”が基準。
「バジュランギおじさんと、小さな迷子」パキスタンから来た小さな迷子を故郷へと帰すため、ハヌマーン神に誓いを立てたインド人のバジュランギおじさんが奮闘する。インドとパキスタン、二つの国の絡み合った憎しみの関係が、国境を越えてやってきた愛によって溶けてゆくプロセスは感動的だ。
「サスペリア」ルカ・グァダニーノ監督の最新作は、背徳感全開の挑戦的な怪作。伝説的な作品のリメイクという体裁をとりながら、20世紀のドイツ史をモチーフにした、驚くべき暗喩劇に仕上げている。ここで我々は、常に人間の罪と悲しみと共にあり、残酷で慈悲深き真の魔女の誕生譚を目撃するのである。
「バーニング 劇場版」巨匠イ・チャンドン監督が、村上春樹の「納屋を焼く」を映画化した作品。謎の青年ベンの言葉「時々ビニールハウスを燃やす」の意味とは。原作に忠実な95分のテレビドラマ版と、これを内包する148分の劇場版が存在するユニークなプロジェクト。見えてくるのは韓国現代社会のカリカチュアだ。
「アクアマン」一昨年の「ジャスティス・リーグ」でデビューした、海のヒーローの単体作。破天荒な内容とジェームズ・ワンの演出の相性が抜群で、ムチャクチャ楽しい娯楽大作に仕上がっている。神話の再構築である本作は、鉄板の安定感で調理され、刺激的なスパイスで味付けされた“ザ・貴種流離譚”。DCEUのベストだ。
「ファースト・マン」デミアン・チャゼルの新境地。人類を未知の世界へと導いた、アポロ11号のニール・アームストロング船長とは何者だったのか。アメリカの世紀の栄光の神話に、“英雄”として閉じ込められていたアームストロングを、心に深い悲しみを抱えた一人の父親、一人の夫、一人の人間として解き放った作品だ。
「あの日のオルガン」東京に空襲の脅威が迫る中、若い保母たちが多くの幼い子供たちを連れて農村に避難し、“疎開保育園”を開設したという実話ベースの物語。しかしそれでも、戦争の暴力は彼女たちを脅かしてゆく。「どこまで逃げても、戦争が追いかけてくる」恐ろしさが、実感を持って描かれている。
「スパイダーマン:スパイダーバース」長年にわたるディズニー・ピクサーの牙城を崩し、アカデミー長編アニメーション映画賞を受賞した傑作。並行宇宙から現れた個性豊かな五人のスパイダーマンの戦いは、まるでコミックが動き出したかのような奇抜なビジュアルで描かれ、驚くべき未見性を生み出している。
「グリーンブック」人種差別が公然のものだった50年代。危険な“デイープ・サウス”へのツアーに向かう天才黒人ピアニストと、彼の運転手として雇われたイタリア系の強面用心棒の、友情のグランドツーリングを描くロードムービー。最大公約数に訴求する普遍性と今の時代にも響くテーマ性は、アカデミー作品賞に相応しい。
「ブラック・クランズマン」白人至上主義団体のKKKを摘発するため、黒人刑事と白人刑事のコンビが実行した、まさかの潜入捜査を描く実話ベースの作品。ハリウッドの映画産業に対するメタ的な視点も含めて、スパイク・リーらしい熱い怒りを秘めた寓話。優等生的な「グリーンブック」のアンチテーゼとしても面白い。
「バイス」ブッシュ政権の副大統領として知られる、ディック・チェイニーの半生を描いた批判的ブラックコメディ。その日暮らしのダメ人間が、いかにして“影の大統領”と呼ばれるほどの権力者となり得たのか。まだ存命中の政財界の大物を、ここまで辛辣にこき下ろしちゃうのが、アメリカという国の面白いところだ。
「アベンジャーズ/エンドゲーム」マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)の12年間、22本目の総決算。ここには映画で描ける人間の感情のすべてがある。MCUは前日譚にあたる「キャプテン・マーベル」も本作の後日譚にあたる「スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム」も素晴らしい仕上がりだった。
「響け!ユーフォニアム〜誓いのフィナーレ〜」京都アニメーションの青春音楽群像劇、シリーズ完結編に相応しい見事な仕上がり。キャラクターと時系列を共有するスピンオフ「リズと青い鳥」との対比も面白い。7月に起こった恐ろしい事件では、本作のスタッフも多くが犠牲となってしまったが、この素晴らしい映画が彼らが生きた何よりの証だ。
「ゴジラ キング・オブ・モンスターズ」レジェゴジ第二弾は、大迫力の怪獣プロレス。ゴジラだけでなく、ギドラ、ラドン、モスラの東宝4大怪獣が登場し、惜しげも無く大バトルを展開する。怪獣の足元からの人間目線のショットは凄まじい迫力で、まったく生きた心地がせず、荒ぶる神たちにひれ伏して祈りたくなるほど。
「小さな恋のうた」沖縄出身の人気バンド、MONGOL800の代表作、「小さな恋のうた」をモチーフにした青春音楽映画。あえて沖縄的な要素を封印することで、米軍基地のある生活を普遍的な日常へと落とし込んだ。基地のフェンスをこえる歌声は、複雑な葛藤が折り重なる沖縄の未来に対する希望とオーバーラップする。
「海獣の子供」我々はどこから来て、どこへ向かっているのか。海洋の神秘の世界を舞台にした、五十嵐大介の同名傑作漫画のアニメーション映画化。少年少女の、リリカルな夏休みジュブナイルから始まる物語は、生と死が混じり合う海と陸の境界を超えて、地球の深層に隠されたこの宇宙の秘密を描き出す。
「トイ・ストーリー4」おもちゃとゴミの違いとは?前作までは、基本的におもちゃと持ち主の子どもの関係で物語が語られていたが、本作で問われるのはおもちゃ自身の生き方の問題。いわば人間社会の多様性を、いくつものおもちゃ生で比喩した作品で、劇中繰り返される「内なる声を聞け」という台詞が全てだ。
「天気の子」前作の大ヒットのプレッシャーもなんのその。作家性全開、やりたい放題の大怪作だ。少女にかわって少年が疾走する本作の展開は、時間巻き戻しという、ある意味究極の禁じ手を使った前作よりも強引。新海誠の作品世界では“アイ”に勝る価値のあるものは無く、そのためならどんなことでも許される。
「アルキメデスの大戦」戦艦大和はなんのために作られたのか。当時の軍備を大規模な公共事業として経済の視点から捉え、数字から読み解くと同時に、遠い未来までも視野に入れた、ある種の“日本論”となっている非常にユニークな作品だ。数式では定義しきれないのが、人間の歴史。大和建造の、本当の目的が語られる瞬間は、思わず背筋がゾーッ。
「存在のない子供たち」レバノンの貧民街に生まれ育った12歳の少年が、「勝手に僕を産んだ罪」で両親を訴える。両親は二級市民で、少年は教育も受けられず、自分の年齢すら知らない。社会のセーフティーネットから抜け落ちた、“インビジブル・ピープル”としての誕生は、はたして祝いなのか、それとも呪いなのか。
「エイス・グレード 世界でいちばんクールな私へ」ミドルスクールの最終学年、「エイス・グレード(8年生)」の卒業までの最後の2週間を描く瑞々しい青春映画。内向的でネット中毒気味の少女の、自分を知って欲しい、見て欲しいという承認欲求は空回り。娘が心配でたまらないお父さんとの、愛おしくもイタタな日常の物語。
「見えない目撃者」視力を失った元女性警察官が、猟奇殺人犯と対決する。韓国映画のリメイクだが、オリジナル韓国版も中国リメイク版も軽々と超え、ぶっちゃけはるかに面白い。クライマックスで拉致された少女を守るため、見えない目で犯人に立ちはだかる吉岡里帆は、ダーティーハリー並みのカッコ良さ。
「ジョーカー」DCを代表するスーパーヴィラン誕生譚。しかし、本作の世界にヒーローは登場せず、超格差社会の中で居場所を失った青年が、いかにして心を病んで世間そのものを憎悪する新たな人格“ジョーカー”となったのかを描く。社会格差の広がりは、昨今の映画を語る上での重要なキーワードだが、今年の世相に一番フィットした作品と言えるかも知れない。
「空の青さを知る人よ」痛くて切なくて優しい、超平和バスターズの三作目。幼い頃に親を亡くし、13歳年上の姉と暮らす高校生の主人公の元に、姉の元カレがなぜか13年前の姿で現れる。超自然的なシチュエーションを通し、三人はお互いの想いを知って成長してゆく。昭和世代としては、懐かしの「ガンダーラ」が重要なモチーフ曲になっているのが嬉しい。
「エセルとアーネスト ふたりの物語」レイモンド・ブリッグスが、最愛の両親のために作った、愛情たっぷりの“記憶の器”。1928年にはじまり、40年以上にわたる結婚生活が描かれる。時代は移り変わっても、二人の間にはゆったりとした時間が流れ、対照的に英国の社会は急速に変貌してゆく。個人史と社会史の、流れる速度の違いが面白い。
「IT/イット THE END “それ”が見えたら、終わり。」前作から27 年後、大人になったルーザーズたちが、再び現れたペニー・ワイズと対決する完結編。大人編ならではの、酸いも甘いも嚙み分けたビターなテイストも加わり、ギミック満載のホラーと見応えある人間ドラマがバランスした、再びの快作となった。
「アイリッシュマン」本来劇場用ではなく、NETFLIXオリジナル作品として作られた実に210分の大長編。マーティン・スコセッシにとっては、アメリカ現代史の裏側を描く、ある意味で集大成的な作品となった。必ずしも劇場向きの作品ではないと思うが、配信と割り切った作りが予想外の面白さに繋がっていることが、映画の新しい可能性を感じさせる。
「幸福路のチー」蒋介石が死んだ日に生まれ、台北の幸福路で育ったチーの“幸せ”を探す物語。幼い頃の思い出、必死の受験勉強、大学で学生運動にのめり込み、就職して記者となり、やがて人生に疲れ切ってアメリカへ。この作品も、戦後の台湾現代史のクロニクルが、主人公の個人史とシンクロしてゆくのがとても興味深い。
「ヒックとドラゴン 聖地への冒険」三部作、有終の美。似た者同士の落ちこぼれ少年とぼっちドラゴンは、お互いに影響し合って大人になり、恋の季節の到来とともに責任を伴う居場所を見つける。愛する存在を本当に守りたいと思った時、とるべきチョイスは何か。ヒックとトゥースレスの成長物語として、これ以上の物語のおとし方はないだろう。
「この世界の(さらにいくつもの)片隅に」10年代の最後に登場した、このディケイドのベスト・オブ・ベスト。オリジナルを内包しながら、40分以上伸びた尺の分、主人公のすずさんの内面はディープに掘り下げられ、彼女の目を通した“さらにいくつもの”世界の片隅に生きる人々の物語が紡がれる。もはやそのバリューはプライスレス。永久保存すべき国宝級の名作である。
以上29本。
今年は実話ベースの歴史ドラマに秀作が多く、第二次世界大戦末期にドイツで起こった事件を元にした「ちいさな独裁者」、関東大震災後に帝国を揺るがした恋人たちを描く「金子文子と朴烈」、アン女王時代の英国を舞台としたヨルゴス・ランティモスの大怪作「女王陛下のお気に入り」、記憶に新しいムンバイ同時多発テロを描いた「ホテル・ムンバイ」などが素晴らしかった。
実話ではないが、毛沢東時代への愛憎が入り混じる「芳華-Youth-」や、冷戦期のポーランドを舞台とした「COLD WAR あの歌、2つの心」も心に残る。
そして、年の瀬に83歳の巨匠ケン・ローチから届けられた「家族を想う時」は、「存在のない子供たち」や「ジョーカー」でもモチーフとなった格差の問題が、もはや汎世界的イシューであることを端的に示している。
何気に「IT/イット」以外のホラー映画も豊作で、色々ツッコミどころは多いものの、ジョーダン・ピールの「アス」は、格差をモチーフにしたユニークな作品だったし、「ハッピー・デス・デイ/ハッピー・デス・デイ 2U」二部作の色々振り切った主人公は、今年の私的ベストキャラクター(笑
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