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男はつらいよ おかえり 寅さん・・・・・評価額1600円
2020年01月05日 (日) | 編集 |
さよなら 寅さん。

昭和の日本映画を代表する国民的人情喜劇、「男はつらいよ」のシリーズ誕生50周年を記念する、まさかの最新作。
主演の渥美清はとうの昔に無くなっているので、吉岡秀隆演じる甥の満男の視点で、現在の出来事に絡めて過去の作品が回想される手法。
50年という歳月と、49本の過去作の存在があって、はじめて可能になった極めて特異な映画である。
吉岡秀隆と後藤久美子の懐かしいカップルの、焼け木杭が微妙にくすぶる物語を軸に、倍賞千恵子や前田吟らお馴染みの面々が再結集。
寅さんが記憶の彼方に去ってから四半世紀、はたして令和の時代に昭和のアイコンが語りかけてくる物語とは何か。
※核心部分に触れています。

脱サラし、小説家となった満男(吉岡秀隆)は、妻の七回忌のためにひとり娘のユリ(桜田ひより)と共に、柴又の実家を訪れる。
そこでは母のさくら(倍賞千恵子)と父の博(前田吟)が今も「くるまや」を守っていた。
法事の後、柴又の人たちと語らう中で、満男はふと楽しく喧しかった伯父の寅さん(渥美清)のことを思い出す。
日本中を旅していた寅さんとは長い間会えておらず、満男の心にはポッカリ穴が空いていた。
そんな時、書店で行われたサイン会で、満男は忘れ得ぬ初恋の人、泉(後藤久美子)と再会する。
ヨーロッパに渡り、今は国連機関で働く彼女を、満男は「会わせたい人がいる」と、小さな喫茶店に連れてゆく。
そこにいたのは、かつて寅さんと夫婦同然の生活を送っていたリリー(浅丘ルリ子)だった・・・


なんとも不思議な手触りの作品である。
半世紀分の過去作が地層の様に積み重なり、その上に構築されたアーカイブとしての映画。
あえて言えば、木下恵介トリビュートだった原恵一監督の「はじまりのみち」に成り立ちは近いが、作り手も演じ手も過去作と同じなので、よりインサイダー的な作りだ。
実はこのアプローチは、「男はつらいよ」シリーズでは二回目。
1995年に第48作の「寅次郎紅の花」が公開された翌年、渥美清が死去したため、誰もがシリーズは打ち止めだと思ったのだが、97年に49作目として「寅次郎ハイビスカスの花 特別篇」が公開された。
これは全国を飛び回るサラリーマンとなった満男の回想という形で、表題作を始めとしていくつかの作品をアーカイブした作品で、本作はいわば満男による「男はつらいよ」アーカイブ・シリーズの第二弾と言える。

本作で妻と死別し、シングルファーザーとしてひとり娘を育てている満男が、脱サラして小説家になってるのは、たぶんに「男はつらいよ」の影響を受けていそうな吉岡秀隆のもう一つの当たり役、「ALWAYS 三丁目の夕日」シリーズの茶川さんを連想させる。
また、ジャン・アレジと事実婚した演じ手の後藤久美子と同じく、満男の元カノの泉もフランス人と結婚して海外で暮らしていたり、俳優の人生キャリアもアーカイブに取り込みつつ、映画は再び満男視点で姿なき寅さんの影を追う。
このシリーズは時事ネタを大胆に取り込むことも特徴だったが、泉が国連高等弁務官事務所で難民支援の仕事をしているのも生っぽい。
共に人生経験を積み、親となった満男と泉を巡る現在のドラマに絡めるように、シチュエーションごとに引用される過去作のチョイスの絶妙なこと。
寅さんのキュートさに笑いながらも、渥美清とはとてつもない才能だったのだなと、今更ながら実感。
もちろん、彼の魅力を最大限に引き出した山田洋次も凄いのだが。

映画の世界では、寅さんはフラリと何処かへ行ったっきり。
妹のさくらは相変わらず彼が帰ってきた時のために、くるまやの二階を開けている。
だから誰も寅さんが死んだとは言わないけど、具体的に彼が何処で何をしているのかは言及されないし、何十年も帰って来ないのに、探そうともしていない。
ただ満男だけが、「こんな時、おじさんだったらどうしただろう?」と寅さんの幻影を追うのである。
どんなに求めても、寅さんはもう戻ってこない。
「おかえり 寅さん」というタイトルだが、これは50年目にして、寅さんにハッキリと「さよなら」を言うため、終わらせるために企画された作品ではないか。

映画版の前身となる、フジテレビのドラマ版「男はつらいよ」では、寅さんはハブに噛まれて死んでしまう。
山田洋次は、高度成長期の一億総サラリーマン化の時代にあって、自由奔放な寅さんのような生き方は、社会が許さないだろうと考えたという。
しかし、この残酷なラストには視聴者の抗議が殺到し、大衆は寅さにリアルさではなく憧れに近いファンタジーを求めていたことに気づいた山田洋次自らの手によって、映画でリブートされたのである。
結果として、映画版「男はつらいよ」は大人気となり、同一俳優で四半世紀にわたって続いた世界最長の映画シリーズとして、ギネスブックにも載った。
だがそれは、稀代の才能だった渥美清という俳優を、寅さんという美化された昭和のアイコンに閉じ込めるという結果となってしまった。
80年代以降、「男はつらいよ」シリーズ以外の渥美清の出演作は、ナレーションを除けばいくつかの山田洋次監督の作品の脇役が全てだ。
渥美清の葬儀で、山田洋次は「あと一作、あと一作」と思いながらも、最後まで寅さんから解放してあげられなかったことを、後悔していると語っている。

映画の終盤、再会した泉と共に過去へのうたかたの旅に出ていた満男が帰宅すると、娘のユリが「おかえり」と声をかける。
寅さんを知らないユリの世代にとっては、満男の心の中にある過去は、存在を実感できない虚構の世界
そして旅を終えた満男は、思い出の中の寅さんを主人公とした小説を書きはじめるのだ。
「寅次郎ハイビスカスの花 特別篇」を含む過去作で、明確な結末が示されなかったので、シリーズをずっと鑑賞していた多くの日本人の心の中で、寅さんの物語はなんとなく続いていた。
しかし本作で、小説の登場人物として寅さんを登場させることで、山田洋次はついに遠大な物語の幕を引く。
冒頭の桑田佳祐の寅さんコスプレをはじめ、この映画の全ては寅さんを主人公としたシリーズを、物語の中の物語、虚構の中の虚構へと封じ込めるためにある。
いわば本作は、過去22年の空白も含めた、渥美清=車寅次郎の物語の完結編にしてレクイエム。
創造主の山田洋次にとっては、物語を閉じることによって、渥美清を寅さんから解放することが、ストーリーテラーとしてのケジメだったのかも知れない。

客入りは半分くらいだったが、年配のお客さんたちから終映後に拍手が出てたのが印象的。
「スター・ウォーズ」でも初日だけなのに(笑
ちなみに、シリーズを一本も観てない友人によると、「知らないでも結構面白かった」そうだ。

今回は、東京23区内に唯一残る酒蔵、北区赤羽の地酒である小山酒造の「丸眞正宗 純米吟醸」をチョイス。
庶民の酒だけあって、辛口でさっぱりとした飽きのこない味わい。
適度な吟醸香と米の旨みも感じられ、とても飲みやすい。
赤羽のおでん屋、丸健水産はこの銘柄のワンカップを、おでん汁で割ったメニューでも有名。
おせちにも飽きてきたこの時期、確かにおでんなどのあったかいメニューと合わせるとぴったりだろう。

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