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mellow・・・・・評価額1600円/his・・・・・評価額1650円
2020年02月09日 (日) | 編集 |
いくつもの、恋と愛のカタチ。

今宵はこのところ絶好調の、今泉力哉監督作品のダブルレビュー。
どちらもシンプルな英単語がタイトルになっているが、その装いは全く異なる。
まず自身のオリジナル脚本の「mellow」は、端的に言えば「おっさんずラブ」で腐女子のアイドルとなった田中圭が、全世代の女性たちにモテまくる話だ。
彼が演じるのは、お洒落なお花屋さん“mellow”を経営する夏目誠一。
名前の通り誠実な人柄で、顧客の信頼も厚く、商店から個人宅までお花を届けて堅実な商売をしている。
誠一自身は狂言回し的な役柄で、彼の背景を含め、人となりはほとんど描かれておらず、特に葛藤も抱えていない。

映画は、誠一に対する秘めたる想いを抱えた、三人の女性とのエピソードを紡いでゆく。
定期的にmellowの花を届けてもらっている、年上の富裕層の人妻、青木麻里子。
同じ商店街にある美容院の娘で、思春期真っ只中の中学三年生、浅井宏美。
そして誠一とは長年に渡る付き合いがあるらしい、親から受け継いだラーメン店を切り盛りする古川木帆。
ともさかりえ、志田 彩良、岡崎紗絵が好演する、ミドルエイジからティーンまで、世代の違う彼女らは、なぜかイマイチつかみ所の無い誠一に惚れてしまっているのである。

三人と誠一とのエピソードが、恋愛映画のジャンル違いになっているのが面白い。
麻里子が夫の目の前で、誠一に想いを告白するシーンは、完全にナンセンスコメディ。
最初は妻の恋愛に理解があるフリをして、自分は身を引くようなことを言っている夫が、だんだんと激昂してくる辺りは、その場にいる全員の意識とテンションのズレが不条理な可笑しさを作り出していて爆笑モノ。
一方、中学校では女子からモテているボーイッシュな宏美の初恋は、決して報われないのはもちろんなのだけど、それゆえに愛おしい。
誠一は生真面目なだけに、子供に手を出すような真似はせず、宏美もそれを分かっていて、ストレートに気持ちをぶつける切なくて爽やかな青春ストーリーになっている。

麻里子と宏美の恋が初めから望みの薄い、終わりの見えているもので、共に物語の中で告白し決着がつくのに対し、世代の近い木帆との関係はベクトルが異なる。
この二人、付き合いの長すぎる友人同士で、お互いにリスペクトしているし好きなんだけど、友情が恋に育つチャンスを逃してしまった様子。
少女漫画などによくある、友達以上恋人未満の煮え切らない関係のパターンで、くっ付きそうでくっ付かないがゆえに、観ている方は応援しつつもちょっとイライラ。
全体の軸となるエピソードなのだが、結末を安易に型にはめずに、適度にお膳立てして観客の想像力を刺激するのがセンス良し。

三者三様の恋の情景も面白いのだけど、彼女らの想いをソフトに受け止めて、しっかりと返してあげる誠一のキャラクター造形がいい。
「ラストレター」の福山雅治もそうだけど、こういう受けの度量の大きい役者は需要が多いのだろう。
そんな凄い二枚目という訳じゃないけど、 人によってカタチの違う恋心にも、柔軟にフィットしてくれそうで、モテる設定にも説得力がある。
おっさんじゃなくても、惚れてしまいそうだ。

二本目の「his」は、一度は別れたものの、焼け木杭に火がついたゲイのカップルの物語。
こちらは放送作家としても知られるアサダアツシの脚本で、昨年放送された同名のテレビドラマの続編にあたる作品。
しかし物語としては独立しているので、単体で観ても全く問題ない。
宮沢氷魚演じる井川迅と、藤原季節演じる日比野渚は、十代の頃に江ノ島で出会い付き合い始めるが、やがて別れが訪れる。
それから13年後、今は岐阜県の白河町に一人で暮らす迅のもとへ、突然幼い娘を連れた渚が訪ねてくる。
一度は女性と結婚して子供も生まれ、“主夫”として暮らしてきたものの、迅のことが忘れられずに、妻にゲイであることをカミングアウト。
離婚を覚悟し、娘と共に転がり込んで来たのだ。

物語の前半は、別れた時のわだかまりを抱え、最初はぎこちなかった三人が少しずつ家族になってゆくプロセス。
後半は、新しい家族のカタチを問う、元妻との親権裁判のゆくえ。
いつも思うのだけど、これだけ離婚が増えてるんだから、日本もそろそろ共同親権制度を導入すればいいのに。
裁判劇の部分は、ちょっと「チョコレートドーナツ」を思わせるのだが、現在の日本では育てるのがゲイのカップルかどうかよりも、育てられる環境にあるかどうかの方が問題にされるというのは興味深かった。
日本社会での性的マイノリティの認識というのは、確かに欧米社会とはまたちょっと違った尺度があるのかもしれない。

それはともかく、この映画もキャラクター造形が非常に丁寧で、語り口にクセがなくて端正。
最初の別れの痛みを今も引きずる迅と渚は、性的マイノリティとしての生きずらさも抱えて、自分の居場所、帰るべき場所を探し続けている。
そして二人だけではなく、愛した夫に裏切られ、子供まで取られそうになっている渚の妻の玲奈や、迅に報われない恋をする松本穂香演じる白河町役場の職員、それぞれの男性に絡む女性サイドの苦悩にもフォーカスしていることが、この映画をとても味わい深く、完成度の高い作品としている。
葛藤を抱えているのは迅と渚だけではなく、玲奈の成長までもきっちりと描き切るのである。
宮沢氷魚と藤原季節も素晴らしいが、特に玲奈を演じた松本若菜は、精神的に追い詰められた妻であり母親である女性の内面を巧みに表現し、強く印象に残る。

「mellow」が田中圭を器に、まだ始まってすらない恋する心を戯画化した物語だとしたら、「his」はその先にあるディープで残酷な愛の物語だ。
法廷と日常、かつて家族だった者たちと、新しく家族になろうとしている者たちのドラマは、充分に見応えがある。
正直、日本の田舎があそこまで性的マイノリティに対して寛容かどうかは疑問だが、映画的希望と思えばこれはこれでありだろう。
そして本作も、登場人物がそれぞれの立場で葛藤をぶつけ合い、結末を適度にお膳立てしつつも、最後まで行かずに観客の心で完成させる楽しみを残してくれる。

今泉力哉は、恋愛映画に必要なセンス・オブ・ワンダーの様なものを持っているのではないか。
去年の「愛がなんだ」から「アイネクライネナハトムジーク」「mellow」「his」と四作連続で異なる恋と愛を描き、その全てで水準を大きく超えてくるのだから見事だ。
そもそも人が人を想う気持ちなんて、定まったカタチのない漠然としたものだから、100人の人がいたら、100通りの物語がある。
何とも文章化しにくいのだが、変幻自在のスタイルに見えつつ、どの作品にも共通する明確な作家性を感じさせるのはユニーク。
男も女も、役者たちがとても魅力的に撮られているのも印象的だ。
今年の5月公開予定の「街の上で」を含めて、すでに決定済みの待機作が6本あるというのだから、この勢いは当分続きそう。

今回はダブルレビューなので、「蓬莱」銘柄で有名な岐阜県の渡辺酒造店の「W (だぶりゅー) 山田錦45 純米無濾過生原酒」をチョイス。
2014年からラインナップに加わった、濃厚、芳醇でパワフルなボディを持つ一本。
食欲が増進されるので、肉類との相性もよく、食中酒として楽しみたい。
渡辺酒造店は「日本で一番笑顔溢れる蔵」を自称していて、「W」は「渡辺酒造店」「笑い」「世界(world)に羽ばたく」の意味だとか。

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