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ショートレビュー「レ・ミゼラブル・・・・・評価額1700円」
2020年03月10日 (火) | 編集 |
21世紀の“哀れな人々”の物語。

なんだか物凄い熱量の映画を観た。
舞台はパリにほど近いバンリュー(郊外)の街、モンフェルメイユ。
本作と同タイトル、ヴィクトル・ユゴーの名作「レ・ミゼラブル」の舞台となり、今ではアフリカ大陸からの移民・難民が集う低所得層の街に、ダミアン・ボナール演じる警察官ステファンが赴任してくる。
バンリューの移民社会を描いた物語は、今ではフランス映画の一ジャンルと言っても良いのではないだろうか。
例えば、移民の子供たちがホロコーストの学習を通して、多様性と寛容を学んでゆく「奇跡の教室~受け継ぐ者たちへ~」や、本作と同じような公営団地を舞台とし、カンヌ国際映画祭でパルム・ドールを受けた「ディーパンの戦い」など、移民をモチーフに多種多様な映画が作られている。
本作は新参者であるステファンが経験する、最初の24時間を描くサスペンスフルな物語。
アフリカ、マリからの移民の子として実際にモンフェルメイユで育ったラジ・リ監督が、2016年に発表した同名の短編映画を元に、長編化した作品だ。

映画は2018年にロシアで開催されたサッカーのワールドカップで、クロアチアを破って二度目の優勝を遂げたフランス社会の熱狂で始まる。
この時のフランス代表は、アフリカからの移民や移民二世の活躍が目立ったことから、アメリカのコメディアン、トレバー・ノアが「優勝したのはアフリカ」と発言し、大西洋を挟んだ大論争になったことは記憶に新しい。
折しも、2015年のパリ同時多発テロ、2016年のニースのトラック暴走テロなど、移民が起こした大規模なテロ事件が社会に大きな傷を残して間もない時期。
ワールドカップの優勝から始まる物語は、栄光の裏側にある社会の分断を描き出し、改めてフランスのアイデンティティを問いかける。

この街を知らないステファンは、そのまま観客の目となる役割だ。
猥雑な露天市場を仕切る自称“市長”の男に、ドラッグディーラーを束ねるギャングのボス、前科者のケバブ屋にして宗教指導者の男、果てはサーカスの興行にやって来たロマまで、複雑に利害関係が入り乱れる。
そしてユゴーの時代と同じく、警察は恐怖と抑圧によって、カオスの街に群れる無法者たちを押さえ込もうとするのである。
外から来たステファンにとっては、警察すら法を守らないクレイジーな日常は衝撃だ。
しかも街を支配する大人たちは、貧困による閉塞を利用しお山の大将としてプチ権力を誇示すばかり。

そんな時、事件は起こる。
ジャン・ヴァルジャンは、貧困に耐えかね一本のパンを盗んだことで獄に繋がれるが、こちらではサーカス団のライオンの子を、街の悪ガキが悪戯心で誘拐。
最初は小さな事件、しかしその顛末は次第に大人たちの利害関係を揺さぶり、街は一触即発の状態となってゆき、警察までもがライオン探しに右往左往することになる。
そして、大人たちの無責任な事なかれ主義による閉塞の固定化が、この世界に絶望する子供たちの心に文字通り火をつけてしまい、彼らによる“革命”へと繋がってゆく。

主人公のステファンは、基本的に常識人で良い人なのだが、常識が通用しない世界で彼の持つ正義感や倫理観は無力だ。
ここには悪役も善玉もいない。未来も希望もない。
ユゴーが19世紀初頭を舞台に描いた格差と社会分断の悲劇は、形を変えて依然として繰り返されている。
全ての登場人物は、なす術なく出口のない袋小路へと追い込まれてゆくのである。
徹底的なリアリズムで描かれる、現在の“レ・ミゼラブル(哀れな人々)”の物語はインパクト絶大。
大胆なタイトルも、見事な本歌取りを観ると納得するしかない。
モンフェルメイユという象徴的な街を舞台に、この世界で今何が起こっているのかを実感することが出来る大変な力作である。

今回は圧倒的な熱量を秘めた映画だったので、燃え盛る「ボイラー・メイカー」をチョイス。
適量のビールを入れたグラスの中に、ショットグラスに注いだバーボンを落として完成。
米国のボイラー工場の労働者が、手っ取り早く酔っ払うために、ビールにバーボンを入れたのが発祥とされる。
ビール+蒸留酒という悪酔い必至なカクテルは世界中にあり、バーボンを韓国焼酎に変えると韓国の「爆弾酒」となる。
まあこの世の中、酔ってた方が幸せなことも多いけど。

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